41 / 42
国境へ
16 水晶
しおりを挟む 後ろから、複数の声と足音が聞こえて来る。
それらの声を聞いて、私の体はビクリと震えた。
聞き覚えのある声が混じっていたからだ。
王太子の護衛をしていた騎士の声に、似ていると思った。
それと同時に、今の時期に王太子から離れないだろうと『似ているだけ』だと期待する気持ちが湧く。
後ろを振り向いて確認したい衝動に駆られるが、不審な動きをした方が目立つから出来ない。
せめて、フードでも被って顔を隠せていれば良かったのに。
馭者席に座る際にフードを被っていると、不審がられ兵に停められる。
馬車の操作上、事故に繋がる為の禁止事項とされているからだ。
騎士と門番の責任者と思しき男の会話が耳に入って来た。
「泊まる宿屋もないですし、ここの人達は通してしまっても良いのではないですか?」
「我が国の不手際を他国に押し付けるのか!」
騎士が、責任者らしい男を怒鳴りつけている。
騎士が何かを話す度に、私の身は縮まった。
「いえ、オーリア国入ってすぐのバダンリーク領では、話はついているんです。こちらの交換札を見せる事によってお互いが対応出来る様になっているんですよ」
「では、今対応しても変わらんな」
「ですから時間が掛かりすぎるんですよ。それに、そんなに急ぐ事ですか?」
説明をしている責任者らしい男も騎士も、どちらも苛立ちを隠せない様だ。
「何?俺の指示に従えないのか!」
「いえね、早馬じゃないんですから王都からここ迄来るには、日にちがかかると思うのですがね。そのお嬢様は馬術や馬車操作が優秀だったのですが?」
「そんな事はない」
「では、魔術が得意でフライで飛んで来れるとか?でも、その場合は馬車は捨てる事になりますが」
「魔力などないも等しい娘だ。大体フライなどの高度な魔術は、王宮魔術師長や副師長位の力がないと無理だろう」
「それでは、身体強化が長けているとか交渉術が秀でてよい馭者を雇ったとかですか?」
「ふん!あれは何をやっても無能だと聞いている」
「では、安心ではないですか。無能がこんな短期間でここ迄来ませんよ…………本当にここ迄来ているのなら、それは有能だと思いますがね」
大きく会話が響くなか、私はとても驚いていた。
しかし、そんな気持ちなど騎士の一言で消え失せた。
「これは平民が使うには、随分と立派ではないのか?」
私の後ろから、そんな声が聞こえた。
「そうですかね?何処にでもある、二頭馬車だと思いますがね」
「勿論俺達には貧相な馬車だが……しかし、見かけた事がある様な気がするんだがな」
「汎用性の高い物は、似るものだと思いますがね」
「まぁ、取っ手はどう見ても安物だが。おい、この窓のカーテンを開け顔を見せろ」
無造作に馬車を叩く騎士に、責任者らしい男が小さく呟いている。
「またですかい?一体何度目になるやら……」
「何かあったのでしょうか?私達は急いでオーリア国に向かわなければならないのですが」
カーテンを開ける音と同時に、そんなレニーの声が聞こえた。
私は人が見ても、一目瞭然に震えていたのだろう。
手網を通して分かったのか、馬達が不安そうにこちらを振り返える。
そっと落ち着く様に、アビィが手を重ねて震えを止めてくれた。
騎士達が横を通り過ぎる際は、自然と息を止めてしまった。
その際、騎士に従っている責任者らしい男の手には、しっかりと水晶が収まった箱を捧げ持っていた。
この国境門では、丁度門の中程に水晶で確認をする部屋を設けている。
今から、そこに設置しに行くのだろう。
そう思っていた時、騎士と責任者らしい男はまた言い合いを始めた。
その際、騎士が男を押した様に見えた。
「え?」
ニヤリといやらしく笑った見覚えのある騎士の顔と、驚いた責任者らしい男の顔が、妙に目に焼き付いた。
こちらに倒れてきた男は、必死に水晶を守ろうとしたのだろう。
しかし宙に浮いた水晶は、地の力に従い放物線を描き私の膝にポトリと落ちた。
それらの声を聞いて、私の体はビクリと震えた。
聞き覚えのある声が混じっていたからだ。
王太子の護衛をしていた騎士の声に、似ていると思った。
それと同時に、今の時期に王太子から離れないだろうと『似ているだけ』だと期待する気持ちが湧く。
後ろを振り向いて確認したい衝動に駆られるが、不審な動きをした方が目立つから出来ない。
せめて、フードでも被って顔を隠せていれば良かったのに。
馭者席に座る際にフードを被っていると、不審がられ兵に停められる。
馬車の操作上、事故に繋がる為の禁止事項とされているからだ。
騎士と門番の責任者と思しき男の会話が耳に入って来た。
「泊まる宿屋もないですし、ここの人達は通してしまっても良いのではないですか?」
「我が国の不手際を他国に押し付けるのか!」
騎士が、責任者らしい男を怒鳴りつけている。
騎士が何かを話す度に、私の身は縮まった。
「いえ、オーリア国入ってすぐのバダンリーク領では、話はついているんです。こちらの交換札を見せる事によってお互いが対応出来る様になっているんですよ」
「では、今対応しても変わらんな」
「ですから時間が掛かりすぎるんですよ。それに、そんなに急ぐ事ですか?」
説明をしている責任者らしい男も騎士も、どちらも苛立ちを隠せない様だ。
「何?俺の指示に従えないのか!」
「いえね、早馬じゃないんですから王都からここ迄来るには、日にちがかかると思うのですがね。そのお嬢様は馬術や馬車操作が優秀だったのですが?」
「そんな事はない」
「では、魔術が得意でフライで飛んで来れるとか?でも、その場合は馬車は捨てる事になりますが」
「魔力などないも等しい娘だ。大体フライなどの高度な魔術は、王宮魔術師長や副師長位の力がないと無理だろう」
「それでは、身体強化が長けているとか交渉術が秀でてよい馭者を雇ったとかですか?」
「ふん!あれは何をやっても無能だと聞いている」
「では、安心ではないですか。無能がこんな短期間でここ迄来ませんよ…………本当にここ迄来ているのなら、それは有能だと思いますがね」
大きく会話が響くなか、私はとても驚いていた。
しかし、そんな気持ちなど騎士の一言で消え失せた。
「これは平民が使うには、随分と立派ではないのか?」
私の後ろから、そんな声が聞こえた。
「そうですかね?何処にでもある、二頭馬車だと思いますがね」
「勿論俺達には貧相な馬車だが……しかし、見かけた事がある様な気がするんだがな」
「汎用性の高い物は、似るものだと思いますがね」
「まぁ、取っ手はどう見ても安物だが。おい、この窓のカーテンを開け顔を見せろ」
無造作に馬車を叩く騎士に、責任者らしい男が小さく呟いている。
「またですかい?一体何度目になるやら……」
「何かあったのでしょうか?私達は急いでオーリア国に向かわなければならないのですが」
カーテンを開ける音と同時に、そんなレニーの声が聞こえた。
私は人が見ても、一目瞭然に震えていたのだろう。
手網を通して分かったのか、馬達が不安そうにこちらを振り返える。
そっと落ち着く様に、アビィが手を重ねて震えを止めてくれた。
騎士達が横を通り過ぎる際は、自然と息を止めてしまった。
その際、騎士に従っている責任者らしい男の手には、しっかりと水晶が収まった箱を捧げ持っていた。
この国境門では、丁度門の中程に水晶で確認をする部屋を設けている。
今から、そこに設置しに行くのだろう。
そう思っていた時、騎士と責任者らしい男はまた言い合いを始めた。
その際、騎士が男を押した様に見えた。
「え?」
ニヤリといやらしく笑った見覚えのある騎士の顔と、驚いた責任者らしい男の顔が、妙に目に焼き付いた。
こちらに倒れてきた男は、必死に水晶を守ろうとしたのだろう。
しかし宙に浮いた水晶は、地の力に従い放物線を描き私の膝にポトリと落ちた。
85
お気に入りに追加
8,473
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる