無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

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国境へ

7 さて、どうしたものか(前編)

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―――アルマー商会頭アルメル視点、ブノーとの語らい



 私はいつもの定宿コトリ亭の、護衛隊長ブノーがいる部屋にやって来た。

「あの子は?」
「はしゃいで疲れたのだろうな。ベッドに入ったらすぐに寝入った」
「そうか……」

 ブノーは私の入室に、一瞬こちらを見ただけですぐに剣の手入れを黙々としている。
 使ってもいない剣を熱心に手入れするのは、何かを思案している時のコイツの癖だ。

 私はベッドで手入れしているブノーの前に椅子を置き、話を始めた。

「……で、どうだったブノー。お前の見解を聞きたい」

 少し黙り込んだ後、おもむろに剣を鞘に戻し膝に置いた。
 重い沈黙が部屋を覆う。

「リディ……彼女は上位貴族かそれに準じた教育を受けた者だな」

 ボソッと低く呟く声が、私に現実を突きつける。

「根拠は?」
「まず、手を繋いだ時だ」

 あぁ、食堂で散々からかわれた、爆笑もののあれね。
 私が何を思ったのか分かっているだろうに、ブノーは淡々と語った。

「リディは無造作に手を繋いだが、無意識だろうな。指先まで綺麗に揃えた手の出し方。見本の様な背丈の差がある、男性に対してのパートナーの務め方。あれは幼い頃から徹底的に淑女として、体の芯で覚えているのだろう」

 リディの前を向く姿勢は綺麗だが、俯く姿勢は平民に近い。
 どこかアンバランスに見える彼女を、元騎士であったブノーが仔細に根拠を上げていった。

「それなら、貴族女性は全員ではないのか?」
「違うな。余裕のない男爵や子爵なんて、学園に入る少し前に急ごしらえで教師を付ける位だ。最も貴族の中で過ごすのだから、自然と身についている部分はあるがな。あれはそういう域を超えている」

 上位貴族を身近に見ていなければ、分からない事だろう。
 私が考え込んでいる間も、ブノーはリディへの見解を続ける。

「足の出し方。支えた腕への体重の乗せ方。物の取り方。ただ二点を除いた全ての仕草が、上位貴族として教育されたと思わせる物だった」

 私は顔を上げたブノーと、視線を合わせた。

「アルメルもそこが気になって、俺に頼んだのだろ?あれは逆に不自然過ぎて目立つからな」

 私はコクリと頷いた。
 そう、リディのある部分だけ印象が変わるのだ。

「食事部分と俯いた時の姿勢……だよな」
「あぁ、それらだけ別物だな。前を向いたリディは見事に淑女たらんとしているからな。お茶会、晩餐会は社交の舞台だ。あれでは社交界に出たら格好の攻撃材料になる。他が秀逸な分余計に目立つぞ」

 食事の時もそうだが、俯いたリディは自信無く体を縮ませ、とても貴族には見えなかった。
 何を考えて教育されたんだか、何だか腹立たしいな。

「アルメル、お前の見解はどうだったんだ」

 ブノーが私に振ってきた。

「私は、世間知らずの箱入り娘だな。一人娘で籠の鳥状態か放置されていて、人との触れ合いが少ない。子爵辺りの令嬢か親が貴族出身の娘。色々と食べさせて見たが、まずこの辺りの下町の食べ物は全て初見のようだった」

 一つ一つ目を輝かせて、味を確かめていた。

「ただ、それだと説明がつかないんだよな。馭者席で自分で馬車を操縦していたんだろ?そんな令嬢がやるだろうか?」
「いざとなったらやるだろうな」

「しかしだ、それなら馬の状態がおかしい。毛並みが綺麗で、手入れも行き届き懐いている。老いただけの元はかなり良い馬だ。馬丁にでも扱いを教わっていたか、馬に馴染む家なら騎士の家だが、もっとガサツだろう?」

「……まあな」

 ブノーも知り合いを思い出したのか、同意した。
 余程の病弱ならいざ知らず、準貴族である騎士の子は平民と馴染む。
 だが、王族護衛を務める様な家の出なら可能性もあると思い確認を頼んだ。

「それでブノーに確かめてもらったんだが、まさかその上をいくなんてな……」

 髪をぐしゃりと握り、歯切れ悪く言葉を繋ぐ。

「多分アルメル、お前の想像は合っているだろうな」
「……リディアーヌ・エイヴァリーズ公爵令嬢、か?」
「そうだな」

 私達には荷が重い、大物貴族の令嬢しか思い当たる者はいなかった。




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