無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

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幕間―別視点【四人ピックアップ】

俺の主は無茶を言う(後編)

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 学園最終学年の最下位クラスに入り、生徒に挨拶をしたのだが皆驚きもせず、またかと慣れた様子だった。

 兎に角このクラスは不思議なクラスだった。
 表面上一人を居ないものとして扱っている反面、驚く程繊細に気を使っていた。

 リディアーヌ・エイヴァリーズ公爵令嬢。
 まるで大きな人形の様な彼女はちょこちょこと動き、思わず手を差し伸べてしまいそうな少女だった。

「よく放置出来るものだな」

 誰にともなく呟いた言葉に、通りすがりの生徒がボソリと返した。

「彼女の為」

 俺が不思議がってると、他の男子生徒が補足してくれた。

「彼女、将来の王太子妃の姉だからさ、俺達とは違うんだ」

 このクラスは全員が余程の事がない限り平民になる、親が貴族なだけの継承権が低い者達だ。
 その後、彼は教室の入口を確認して小声で言った。

「俺達が下手に関わると困るのは多分彼女。よく彼女の確認なのか見に来る奴らがいる。彼女が一人だとほくそ笑んで、周りに人がいると睨んでるからすぐに分かるよ」

 他の生徒も話に加わってきた。

「余り食べさせて貰ってないんじゃないかな?」
「その割に、血色いいんだよな。悪けりゃこっそり差し入れ位したんだけど」
「それはポーションの作用だな」

 慣れていないと分からないが、彼女からはポーションの匂いがしている。

「ポーションにそんな効果ないよ?先生」
「通常の物とは違って、かなり特殊なポーションがあるんだ」

 帝国で美容にいいとかなりの話題になり、貴婦人達が群れて奪い合い凄い高値にまで高騰したポーション。
 製作者は身の危険を感じたとかで、ローデが保護していた。
 魔道具を量産出来ればいいが、餞別に貰った物で自作ではないと言っていたのは王国から来た魔術師だったか。

「へー、いつも知らない香水つけてるなと思ってたらポーション臭だったんだ」
「俺は将来の兵士になる予定だからさ。特殊な物なら覚えて損はないな」

 そんな雑談ついでに王太子や彼女の妹の事を聞くが、知っている噂ばかりだった。

 またいつもざわついている授業が、一斉に静かになる瞬間がある。
 彼女がうとうとと船を漕ぎ始めた時だ。
 せめてゆっくり眠らせてやろうとしたのか、短時間だが教室が静まり返った。

 そんな不思議なクラスで半月程過ごした時、それが起こった。
 学園長から「リディアーヌ・エイヴァリーズが登園次第学園長室に連れて来い」と指示された。

「リディアーヌ嬢は来ているか?」

 既に登園している生徒達に聞いた。
 俺は多分この時かなり怒りと焦りがぜになっていたと思う。

 まだ学園に潜入して半月だ、ろくな成果を上げていない。

「先生、怖い顔してるぜ。この時期だと試験の事じゃないかな」
「あー、替え玉ね」

 意外な事実がここで判明した。

「俺らバカだからさ、筆記試験なんて余り書かないんだよ」
「でもさ、彼女からはずっとペンを走らす音が聞こえる訳だ」
「ずっとクラス一緒なんだよ。バレないと思う方がどうかしてるよな」
「俺らみたいなのが騒いでも信ぴょう性ないしさ、困らすだけなんだよな」
「抗議した先生は辞めていったしな」

 そんな話の最中に、彼女が部屋に入ってきた。
 俺はこの時怒りも焦りもとけないまま、かなり強ばった顔をしていただろう。

 学園長の話は馬鹿らしく嫌らしい暴言は呆れる物だった。
 淡々と表情も変えず長時間聞いていた彼女に、学園長室を出る際、思わず謝ってしまう位酷い物だった。

 第一演習場での出来事は後悔していない。

 ただ学園を去る際に、さりげなく彼女に近付こうとしていた他の生徒を邪魔していた、俺の生徒達は気になった。


 国外追放は自国民なら半月、職のあった他国民なら一月の猶予がある。
 魔術的に発令されたこれらは、国境の検問での手続きか他国引渡しの手続きがなければ、以後の生活に支障をきたす。

 俺は今回の報告をローデに送った。
 返ってきた返事は「一月後の使節団派遣で合流、そこで引き取り手続きをする。その後令嬢を連れ帰国」だった。

 王国の学園が退学になった彼女なら、我が帝国の学園で学びなおせばいい。
 ローデなら上手くやってくれるだろう。
 手紙も渡したし、彼女から接触してくるかもしれない。

 それまでは、この国の変化を調査していよう。

 王太子があれ程愚かだとは思わなかった。
 王太子の婚約者が、行き当たりばったりの考えなしだとは思わなかった。

 だがこの時、それを上回り両親が短慮な痴れ者だったとは思いもしなかった。



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