23 / 42
幕間―別視点【四人ピックアップ】
俺の主は無茶を言う(後編)
しおりを挟む
学園最終学年の最下位クラスに入り、生徒に挨拶をしたのだが皆驚きもせず、またかと慣れた様子だった。
兎に角このクラスは不思議なクラスだった。
表面上一人を居ないものとして扱っている反面、驚く程繊細に気を使っていた。
リディアーヌ・エイヴァリーズ公爵令嬢。
まるで大きな人形の様な彼女はちょこちょこと動き、思わず手を差し伸べてしまいそうな少女だった。
「よく放置出来るものだな」
誰にともなく呟いた言葉に、通りすがりの生徒がボソリと返した。
「彼女の為」
俺が不思議がってると、他の男子生徒が補足してくれた。
「彼女、将来の王太子妃の姉だからさ、俺達とは違うんだ」
このクラスは全員が余程の事がない限り平民になる、親が貴族なだけの継承権が低い者達だ。
その後、彼は教室の入口を確認して小声で言った。
「俺達が下手に関わると困るのは多分彼女。よく彼女の確認なのか見に来る奴らがいる。彼女が一人だとほくそ笑んで、周りに人がいると睨んでるからすぐに分かるよ」
他の生徒も話に加わってきた。
「余り食べさせて貰ってないんじゃないかな?」
「その割に、血色いいんだよな。悪けりゃこっそり差し入れ位したんだけど」
「それはポーションの作用だな」
慣れていないと分からないが、彼女からはポーションの匂いがしている。
「ポーションにそんな効果ないよ?先生」
「通常の物とは違って、かなり特殊なポーションがあるんだ」
帝国で美容にいいとかなりの話題になり、貴婦人達が群れて奪い合い凄い高値にまで高騰したポーション。
製作者は身の危険を感じたとかで、ローデが保護していた。
魔道具を量産出来ればいいが、餞別に貰った物で自作ではないと言っていたのは王国から来た魔術師だったか。
「へー、いつも知らない香水つけてるなと思ってたらポーション臭だったんだ」
「俺は将来の兵士になる予定だからさ。特殊な物なら覚えて損はないな」
そんな雑談ついでに王太子や彼女の妹の事を聞くが、知っている噂ばかりだった。
またいつもざわついている授業が、一斉に静かになる瞬間がある。
彼女がうとうとと船を漕ぎ始めた時だ。
せめてゆっくり眠らせてやろうとしたのか、短時間だが教室が静まり返った。
そんな不思議なクラスで半月程過ごした時、それが起こった。
学園長から「リディアーヌ・エイヴァリーズが登園次第学園長室に連れて来い」と指示された。
「リディアーヌ嬢は来ているか?」
既に登園している生徒達に聞いた。
俺は多分この時かなり怒りと焦りが綯い交ぜになっていたと思う。
まだ学園に潜入して半月だ、ろくな成果を上げていない。
「先生、怖い顔してるぜ。この時期だと試験の事じゃないかな」
「あー、替え玉ね」
意外な事実がここで判明した。
「俺らバカだからさ、筆記試験なんて余り書かないんだよ」
「でもさ、彼女からはずっとペンを走らす音が聞こえる訳だ」
「ずっとクラス一緒なんだよ。バレないと思う方がどうかしてるよな」
「俺らみたいなのが騒いでも信ぴょう性ないしさ、困らすだけなんだよな」
「抗議した先生は辞めていったしな」
そんな話の最中に、彼女が部屋に入ってきた。
俺はこの時怒りも焦りもとけないまま、かなり強ばった顔をしていただろう。
学園長の話は馬鹿らしく嫌らしい暴言は呆れる物だった。
淡々と表情も変えず長時間聞いていた彼女に、学園長室を出る際、思わず謝ってしまう位酷い物だった。
第一演習場での出来事は後悔していない。
ただ学園を去る際に、さりげなく彼女に近付こうとしていた他の生徒を邪魔していた、俺の生徒達は気になった。
国外追放は自国民なら半月、職のあった他国民なら一月の猶予がある。
魔術的に発令されたこれらは、国境の検問での手続きか他国引渡しの手続きがなければ、以後の生活に支障をきたす。
俺は今回の報告をローデに送った。
返ってきた返事は「一月後の使節団派遣で合流、そこで引き取り手続きをする。その後令嬢を連れ帰国」だった。
王国の学園が退学になった彼女なら、我が帝国の学園で学びなおせばいい。
ローデなら上手くやってくれるだろう。
手紙も渡したし、彼女から接触してくるかもしれない。
それまでは、この国の変化を調査していよう。
王太子があれ程愚かだとは思わなかった。
王太子の婚約者が、行き当たりばったりの考えなしだとは思わなかった。
だがこの時、それを上回り両親が短慮な痴れ者だったとは思いもしなかった。
兎に角このクラスは不思議なクラスだった。
表面上一人を居ないものとして扱っている反面、驚く程繊細に気を使っていた。
リディアーヌ・エイヴァリーズ公爵令嬢。
まるで大きな人形の様な彼女はちょこちょこと動き、思わず手を差し伸べてしまいそうな少女だった。
「よく放置出来るものだな」
誰にともなく呟いた言葉に、通りすがりの生徒がボソリと返した。
「彼女の為」
俺が不思議がってると、他の男子生徒が補足してくれた。
「彼女、将来の王太子妃の姉だからさ、俺達とは違うんだ」
このクラスは全員が余程の事がない限り平民になる、親が貴族なだけの継承権が低い者達だ。
その後、彼は教室の入口を確認して小声で言った。
「俺達が下手に関わると困るのは多分彼女。よく彼女の確認なのか見に来る奴らがいる。彼女が一人だとほくそ笑んで、周りに人がいると睨んでるからすぐに分かるよ」
他の生徒も話に加わってきた。
「余り食べさせて貰ってないんじゃないかな?」
「その割に、血色いいんだよな。悪けりゃこっそり差し入れ位したんだけど」
「それはポーションの作用だな」
慣れていないと分からないが、彼女からはポーションの匂いがしている。
「ポーションにそんな効果ないよ?先生」
「通常の物とは違って、かなり特殊なポーションがあるんだ」
帝国で美容にいいとかなりの話題になり、貴婦人達が群れて奪い合い凄い高値にまで高騰したポーション。
製作者は身の危険を感じたとかで、ローデが保護していた。
魔道具を量産出来ればいいが、餞別に貰った物で自作ではないと言っていたのは王国から来た魔術師だったか。
「へー、いつも知らない香水つけてるなと思ってたらポーション臭だったんだ」
「俺は将来の兵士になる予定だからさ。特殊な物なら覚えて損はないな」
そんな雑談ついでに王太子や彼女の妹の事を聞くが、知っている噂ばかりだった。
またいつもざわついている授業が、一斉に静かになる瞬間がある。
彼女がうとうとと船を漕ぎ始めた時だ。
せめてゆっくり眠らせてやろうとしたのか、短時間だが教室が静まり返った。
そんな不思議なクラスで半月程過ごした時、それが起こった。
学園長から「リディアーヌ・エイヴァリーズが登園次第学園長室に連れて来い」と指示された。
「リディアーヌ嬢は来ているか?」
既に登園している生徒達に聞いた。
俺は多分この時かなり怒りと焦りが綯い交ぜになっていたと思う。
まだ学園に潜入して半月だ、ろくな成果を上げていない。
「先生、怖い顔してるぜ。この時期だと試験の事じゃないかな」
「あー、替え玉ね」
意外な事実がここで判明した。
「俺らバカだからさ、筆記試験なんて余り書かないんだよ」
「でもさ、彼女からはずっとペンを走らす音が聞こえる訳だ」
「ずっとクラス一緒なんだよ。バレないと思う方がどうかしてるよな」
「俺らみたいなのが騒いでも信ぴょう性ないしさ、困らすだけなんだよな」
「抗議した先生は辞めていったしな」
そんな話の最中に、彼女が部屋に入ってきた。
俺はこの時怒りも焦りもとけないまま、かなり強ばった顔をしていただろう。
学園長の話は馬鹿らしく嫌らしい暴言は呆れる物だった。
淡々と表情も変えず長時間聞いていた彼女に、学園長室を出る際、思わず謝ってしまう位酷い物だった。
第一演習場での出来事は後悔していない。
ただ学園を去る際に、さりげなく彼女に近付こうとしていた他の生徒を邪魔していた、俺の生徒達は気になった。
国外追放は自国民なら半月、職のあった他国民なら一月の猶予がある。
魔術的に発令されたこれらは、国境の検問での手続きか他国引渡しの手続きがなければ、以後の生活に支障をきたす。
俺は今回の報告をローデに送った。
返ってきた返事は「一月後の使節団派遣で合流、そこで引き取り手続きをする。その後令嬢を連れ帰国」だった。
王国の学園が退学になった彼女なら、我が帝国の学園で学びなおせばいい。
ローデなら上手くやってくれるだろう。
手紙も渡したし、彼女から接触してくるかもしれない。
それまでは、この国の変化を調査していよう。
王太子があれ程愚かだとは思わなかった。
王太子の婚約者が、行き当たりばったりの考えなしだとは思わなかった。
だがこの時、それを上回り両親が短慮な痴れ者だったとは思いもしなかった。
78
お気に入りに追加
8,473
あなたにおすすめの小説

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる