魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝

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番外編 ふたりの子どもは横着者

3月27日 晴れ

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まったく、どうしてこんな日にまで、日記を書かなきゃいけないのかな。
元々面倒くさいことが、さらに輪をかけて面倒くさいよ。

朝起きたら、食堂へ駆け込んできて「おはようございます!」。そのお返しが、熱烈なキス。

手を繋ぎながら朝ごはんを食べて、それから書庫で一緒に読書。やっぱり手は繋いだまま。
こっちは宿題してるのに、勘弁してほしいよ。
おまけに机の向かいで、こそこそヒソヒソ。

「そろそろ、ちょっと離れませんか」
「明日は王城へ行かないといけないから、今日はずっと、君に触れていたいんです」

そんな会話、こっちは聞きたくないんだって。
本を読むか喋るか、どっちかにしてほしい。せめて、もうちょっと離れたところでやってくれないかな。

おやつの時間は、お互い「あーん」って食べさせ合ってたっけ。
どんなに気まずい思いをしたことか。せっかくのアップルパイが台無しだよ。
途中から心底嫌になって、ふたりに背中を向けたから、ゆっくり味わえたけど。

そのあとは街へ出かけるって言うから、やれやれ……と思ったら「家族みんなで行こう」なんて、余計な提案してくれちゃって。
当然、ふたりともぴったりくっついた状態。物理的に離れたのは、お手洗いに行く時だけだったよ。

夕食の間も言わずもがな。というか、一番いちゃいちゃしてたんじゃない?
じーっと見つめ合ってさ、「明日が来なければいいのに……」。耳元でささやかれた方は、顔を赤らめてた。
王城へ行くって言っても、夕方には帰ってくるんでしょ。いつも思うけど、バカじゃないの?

……誰の行動を書いてるのかって?
決まってるだろ。父さんと母さんだよ!

毎日毎日、飽きもせず。夫婦ってこんなものかと思ってたけど、従姉妹のヴィアネリアに話したら、「それはちょっと……」って困ってた。

ふたりとも、おかしいって。ヴィアは優しいから控えめに言ってくれるけど、ちょっとどころじゃないってば。
なのに、どうしてふたりの子どもは、こんなにまともに育ったんだろう? まったく、不思議で仕方ないよね。

あーあ。今日は学校も休みで、何の予定もなかったから、ゲロ甘夫婦の観察日記を書くしかなかったよ。クモの観察をしてた方が、まだ有意義だったかもしれない。

明日は学校があるし、リフレッシュしてこよう。……できるといいけど。

今日の嬉しかったことは、ミュトスのアップルパイを食べられたこと。
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