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5章 身のうちの悪魔
3月12日 曇り
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今日は《心臓》を探すために、うちへ帰ってきた。
その前にまた、ひと悶着というかいちゃもんというか……ティガーン様が発端で。
「お前の荷物を見せろ!」
お城から出た私を見るなり、いきなりよ。目が点になったわ。
カバンを奪われそうになったから、びっくりして抱きかかえたら、付き添ってくれてたジェフローラ様が、慌てて止めに入ってくださった。
それで、ティガーン様を落ち着かせて話を聞いたら、私がいない間にうちを調べてたみたいなの。ウィルブローズ様の《心臓》を探す目的で。
私の部屋が怪しい、と思ったらしいから、ほかの魔術師様たちと一緒に。
……下着とか置きっぱなしにしてなかったかしら。
それはともかく、丸一日を費やしたのに、何も見つからなかったんだって。
だから、私がお城へ来る時、カバンにウィルブローズ様の《心臓》を詰め込んだのかもって考えたみたい。
で、荷物を開けてジェフローラ様と漁ってみたけど……やっぱり何もない。
そりゃそうでしょ。変わったものがあれば、すぐに言うわよ。
まあ、昨日の私ならどうだったかわからないけど……。
それからようやく解放されて、うちへ帰ったの。悪魔はもういないって保証されたから、今のところは一応、自由の身。
屋敷は外から兵士さんに見張られてるけどね。再び悪魔が取り憑かないとは限らないからって。
ただ、事情は限られた人しか知らないから、「なんでこんなに兵士が?」って、クロップさんがおどおどしてたわ。両肩にねずみとフクロウ、手に糸繰り人形を乗っけて。
昨日は昨日で、魔術師様たちがいきなり屋敷を漁りに来て。今日は今日で、私の頭が極端にさっぱりしてて。
クロップさん、ついに混乱したんだろうなあ。青ざめた顔で、かわいそうなぐらいプルプル震えてた。
だから、つい「ごめんなさい、私のせいなの」って言っちゃった。
そうしたら、全部説明しなきゃいけなくなった。私の中に悪魔がいたこととか、ウィルブローズ様がいなくなった原因とか、全部。
クロップさんたち、じーっと聞いてた。話し終わって、何を言われるのかと思ってたら、「俺たち、ニニ様以外の方を奥様なんて呼びたくねえです」。
本当にもう、泣かせないでほしいわ。実際は泣く前に、ねずみとフクロウが「うん、うん」ってうなずいてたのが可愛くて笑っちゃったんだけど。
人形もうなずいたように見えたけど……気のせいかな。
それで、気は重かったけど、《心臓》を探したの。自分の部屋を隅から隅まで捜索した。もうティガーン様たちが探したあとだけど、念のため。
クロップさんに頼んで、クローゼットとか机とかを動かしてもらって、裏側に変なものが落ちてないか確かめてた。日が傾くまで、ずーっと。
さすがに疲れたから休憩して、そうしたら、もしかして、たぶんだけど……。
ウィルブローズ様の《心臓》を、見つけたかもしれない。
部屋に何かが落ちてた、とかじゃないの。休憩がてら、今までに書いた日記を眺めてた。
その中に変なものがあったのよ。何も書いてない、真っ白なページ。
飛ばして書いちゃったのかな? とも思ったけど、そのページだけ、ほかより明らかに白かった。不自然なくらい。
夕日に当てると、金紛を吹きつけたみたいにキラキラ光ったわ。
ひょっとして、ウィルブローズ様の《心臓》が変身してるのかも? って思った。
それで、そのページを引っ張ってみたものの……取れないのよね。頑張ったらいけるかもしれないけど、破れるのが怖くて力を入れられない。
こうなったら綴じ糸をほどいて、日記をバラバラにするしかない。そんなことしたら、元に戻すのは難しくなるけど……。
それはいいのよ。名残惜しいけどね。
それより、目を覚ましたウィルブローズ様が、私を見て何を言うのか……考えるだけで、苦しくて苦しくてたまらない。
どんな顔するんだろう。私と結婚したこと、「魔がさした」って思うのかな。
だけど、それでもいい。ウィルブローズ様にまた会いたい。冷たくされてもいいから、ここを追い出されてもいいから、目を覚ましてほしい。
よし! って決心して、さっきジェフローラ様とアートハル様に伝えたの。《心臓》らしきものを見つけたこと。
そうしたら、明日の朝、すぐにこの屋敷へ向かうって。
もし、日記のページが《心臓》だって確定したら、そのまま私を馬車に乗せてお城へ行くみたい。悪魔の件があるから、お偉いさんたちはあんまり私を呼びたくないみたいだけど。
でも、《心臓》にかけられた呪いを解くには、私が必要なんだもの。
あ、そうだ。日記と一緒に銀細工の髪飾りも持って行かなくちゃ。
今日嬉しかったことは、ウィルブローズ様の《心臓》を見つけたかもしれないこと……かな。嬉しいというか、怖いというか。
うう、緊張してきたわ。明日、ウィルブローズ様が目を覚ますんだもの。
まだわからないけどね。ただ、アートハル様たちの口ぶりだと、ほぼ間違いないみたい。
……ああ、もったいないなあ。まだ半分しか書いてないのに。
もしかしたら、今日までしか日記を書けないかもしれないのに。だって、糸をほどいてバラバラにしないといけないんだから。
ほかに書くことないかな……ダメだ、眠すぎて頭が回らないや。いっそ、明日の朝も何か書いちゃおうかしら。
その前にまた、ひと悶着というかいちゃもんというか……ティガーン様が発端で。
「お前の荷物を見せろ!」
お城から出た私を見るなり、いきなりよ。目が点になったわ。
カバンを奪われそうになったから、びっくりして抱きかかえたら、付き添ってくれてたジェフローラ様が、慌てて止めに入ってくださった。
それで、ティガーン様を落ち着かせて話を聞いたら、私がいない間にうちを調べてたみたいなの。ウィルブローズ様の《心臓》を探す目的で。
私の部屋が怪しい、と思ったらしいから、ほかの魔術師様たちと一緒に。
……下着とか置きっぱなしにしてなかったかしら。
それはともかく、丸一日を費やしたのに、何も見つからなかったんだって。
だから、私がお城へ来る時、カバンにウィルブローズ様の《心臓》を詰め込んだのかもって考えたみたい。
で、荷物を開けてジェフローラ様と漁ってみたけど……やっぱり何もない。
そりゃそうでしょ。変わったものがあれば、すぐに言うわよ。
まあ、昨日の私ならどうだったかわからないけど……。
それからようやく解放されて、うちへ帰ったの。悪魔はもういないって保証されたから、今のところは一応、自由の身。
屋敷は外から兵士さんに見張られてるけどね。再び悪魔が取り憑かないとは限らないからって。
ただ、事情は限られた人しか知らないから、「なんでこんなに兵士が?」って、クロップさんがおどおどしてたわ。両肩にねずみとフクロウ、手に糸繰り人形を乗っけて。
昨日は昨日で、魔術師様たちがいきなり屋敷を漁りに来て。今日は今日で、私の頭が極端にさっぱりしてて。
クロップさん、ついに混乱したんだろうなあ。青ざめた顔で、かわいそうなぐらいプルプル震えてた。
だから、つい「ごめんなさい、私のせいなの」って言っちゃった。
そうしたら、全部説明しなきゃいけなくなった。私の中に悪魔がいたこととか、ウィルブローズ様がいなくなった原因とか、全部。
クロップさんたち、じーっと聞いてた。話し終わって、何を言われるのかと思ってたら、「俺たち、ニニ様以外の方を奥様なんて呼びたくねえです」。
本当にもう、泣かせないでほしいわ。実際は泣く前に、ねずみとフクロウが「うん、うん」ってうなずいてたのが可愛くて笑っちゃったんだけど。
人形もうなずいたように見えたけど……気のせいかな。
それで、気は重かったけど、《心臓》を探したの。自分の部屋を隅から隅まで捜索した。もうティガーン様たちが探したあとだけど、念のため。
クロップさんに頼んで、クローゼットとか机とかを動かしてもらって、裏側に変なものが落ちてないか確かめてた。日が傾くまで、ずーっと。
さすがに疲れたから休憩して、そうしたら、もしかして、たぶんだけど……。
ウィルブローズ様の《心臓》を、見つけたかもしれない。
部屋に何かが落ちてた、とかじゃないの。休憩がてら、今までに書いた日記を眺めてた。
その中に変なものがあったのよ。何も書いてない、真っ白なページ。
飛ばして書いちゃったのかな? とも思ったけど、そのページだけ、ほかより明らかに白かった。不自然なくらい。
夕日に当てると、金紛を吹きつけたみたいにキラキラ光ったわ。
ひょっとして、ウィルブローズ様の《心臓》が変身してるのかも? って思った。
それで、そのページを引っ張ってみたものの……取れないのよね。頑張ったらいけるかもしれないけど、破れるのが怖くて力を入れられない。
こうなったら綴じ糸をほどいて、日記をバラバラにするしかない。そんなことしたら、元に戻すのは難しくなるけど……。
それはいいのよ。名残惜しいけどね。
それより、目を覚ましたウィルブローズ様が、私を見て何を言うのか……考えるだけで、苦しくて苦しくてたまらない。
どんな顔するんだろう。私と結婚したこと、「魔がさした」って思うのかな。
だけど、それでもいい。ウィルブローズ様にまた会いたい。冷たくされてもいいから、ここを追い出されてもいいから、目を覚ましてほしい。
よし! って決心して、さっきジェフローラ様とアートハル様に伝えたの。《心臓》らしきものを見つけたこと。
そうしたら、明日の朝、すぐにこの屋敷へ向かうって。
もし、日記のページが《心臓》だって確定したら、そのまま私を馬車に乗せてお城へ行くみたい。悪魔の件があるから、お偉いさんたちはあんまり私を呼びたくないみたいだけど。
でも、《心臓》にかけられた呪いを解くには、私が必要なんだもの。
あ、そうだ。日記と一緒に銀細工の髪飾りも持って行かなくちゃ。
今日嬉しかったことは、ウィルブローズ様の《心臓》を見つけたかもしれないこと……かな。嬉しいというか、怖いというか。
うう、緊張してきたわ。明日、ウィルブローズ様が目を覚ますんだもの。
まだわからないけどね。ただ、アートハル様たちの口ぶりだと、ほぼ間違いないみたい。
……ああ、もったいないなあ。まだ半分しか書いてないのに。
もしかしたら、今日までしか日記を書けないかもしれないのに。だって、糸をほどいてバラバラにしないといけないんだから。
ほかに書くことないかな……ダメだ、眠すぎて頭が回らないや。いっそ、明日の朝も何か書いちゃおうかしら。
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