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5章 身のうちの悪魔
3月6日 曇り
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どうしよう、大変なことになっちゃった!
ウィルブローズ様があんな状態になるなんて……ああもう、いっぺんに色んなことがありすぎて、全然まとまらないわ!
どう書けばいいのかな。とにかく順を追っていこう。
どこから異変があったんだっけ……そうだ、まずは今朝よ。
目が覚めたらウィルブローズ様がいなかった。昨日の夜は、隣のベッドで寝てたはずなのに。
先に部屋を出たのかな、と思ったけど、食堂にもいないし、自分の部屋にも戻ってない。
ラウルさんたちに聞いて回ったけど、誰も行方は知らなかった。いきなりウィルブローズ様が消えて、みんなも困ってたわ。
あの時からもう、クロップさん以外は、いつもよりぼんやりしてたっけ。この前の、呪い騒動の時みたいに。
どうしようもなくて、ひとまずジェフローラ様とアートハル様に連絡してみた。ウィルブローズ様が、軍部とかご実家に行ってないか。
そうしたら、二人とも「知らない」。
あとから聞いた話によると、とんでもない大騒ぎになってたらしいわ。特に軍の上層部。
一般の兵士さんには知らせなかったみたい。
それはそうよね。ウィルブローズ様は、戦争における最後の切り札だもん。どっちが本人がわからなくなったっていうだけでも、詳しい説明は伏せてたんだから。
それが行方不明だなんて聞かされたら、きっとみんな慌てふためいて、収拾がつかなくなっちゃう。
それで、まずはアートハル様がうちに来てくれた。「ジェフローラ様やお義父様たちは?」って聞いたら、みんな、隣国との会談に出席してるらしい……。
そんなことしてる場合じゃないでしょ! と思ったけど、アートハル様いわく、「弟の不在を隣国に知られれば、これを好機と攻め込んでくるかもしれません」。
そういえば隣の国の人たち、悪魔を利用してウィルブローズ様を殺そうとしてたんだっけ……。
なんでもないフリをする必要があるのね。
なるほどって納得したところで、アートハル様に、今までの経緯をざっくり話したの。ウィルブローズ様が帰ってから、姿が見えなくなるまでのこと。
そうしたら、すっごく怖い顔をされた。怖いというより真剣な顔かな。ほんの一瞬だったけど。
……うーん、やっぱり気のせいかも。そのあとはいつも通り、穏やかな感じだったし。
とにかく、私の話を聞いたアートハル様は、何やら考え込んでた。それから、ふっと顔を上げて言ったの。
「弟が屋敷を出たことに、誰も気づかなかったのなら、ウィルブローズはまだ家の中にいるでしょう」
「もしかすると変身しているのかもしれません」
何に変身したのか考えてたら、「弟が最後にいた場所はどこですか」って聞かれた。
それで、まあ、うん、ちょっと恥ずかしかったけど、私の部屋だって答えた。そうしたら、「部屋に見慣れないものがありませんか」。
すぐに2階へ上がって、自分の部屋をあちこち探してみたわ。
思いのほか、早く見つかった。書き物机に立てかけてあったの。先端に紫の宝石がついた、金の杖。
だけど、「元に戻ってください!」って、フルネーム付きで呼んでも紙に書いても、反応なし。杖のまま。
まさか悪魔の呪い⁉︎ と思ったら、アートハル様が杖を手に取って、しばらく眺めて……「元に戻るための魔力が切れているようです」って言った。
こうなったら、こっちから魔力を入れてあげないとダメみたい。
魔力を入れる方法の中で、一番手っ取り早いのを、アートハル様が教えてくれたわ。
使い魔にかかってる魔術を解けばいいんだって。そうすれば、その分の魔力がウィルブローズ様に戻るらしい。
「だけど使い魔が何匹いるやら」ってアートハル様は困ってた。
だけど、私は大体予想がついた。なんたって一緒に住んでるんだもの!
たぶん、あの3人だろうなと思って、みんなを集めて聞いてみたら、やっぱりそう。
ラウルさん、マリさん、ミュトス。魔術を解いていいか聞いたら、3人とも、ぼけっとしながらうなずいてくれた。
もう元に戻りかけてるんだけど、完全に解けるまでには数日かかるらしいの。
そんなに待てないわ。杖のままじゃ、水も飲めない。放っておいたらウィルブローズ様が……ダメダメ、縁起でもない!
アートハル様は「使い魔本人が、主人から魔術の解き方を教わるんです」って言ってた。だから、どうすればいいか、みんなに尋ねたの。
そうしたら……口を揃えて「知りません」。
アートハル様がぎょっとしてたわ。そのあと、「ウィルブローズのやつ……」とかぶつぶつ言い出した。
どういうことかっていうと、ウィルブローズ様は自分の魔力が切れるなんて、まったく想定してなかったみたい。「だから、使い魔に魔術の解き方を教えていなかったのかも」だって。
そんなの教えてたら、敵に知られていいように使われる場合もあるそうだから、仕方ないのかもしれないけど……。
とにかく、3人の魔術は私たちが解かなくちゃいけない。その方法を調べるのに、今日は一日かかっちゃった。
アートハル様と一緒に、ウィルブローズ様の部屋をひっかき回して探したわ。
でも、もう夜だからさすがに一旦休もうってことになった。
頭がぼんやりしてたら、上手くいくものもいかなくなるしね。
というわけで、今日はさっさと寝て、明日は早起きして捜索再開よ!
あ、そうだ。あとは嬉しかったこと。
アートハル様から聞いたんだけど、ウィルブローズ様のご両親は、私をすごく信頼してくださってるみたい。
明日、ご両親が軍の人と一緒に、応援に来てくださるらしいんだけど、「ニニさんなら、私たちが着く前に解決しているかもしれない」って仰ってたんだって。
アートハル様も、「使い魔たちが魔術の解き方を知っていれば、そうなっていたでしょうね」って言ってくれた。
期待を裏切らないように頑張らなきゃ!
だけど、ウィルブローズ様の部屋に入った時、アートハル様がまた怖い顔をしてたなあ。なんなんだろう?
そういえば……そもそも、どうしてウィルブローズ様の魔力が切れたのかしら? なんで杖に変身したのかも、謎のままだわ。
ウィルブローズ様があんな状態になるなんて……ああもう、いっぺんに色んなことがありすぎて、全然まとまらないわ!
どう書けばいいのかな。とにかく順を追っていこう。
どこから異変があったんだっけ……そうだ、まずは今朝よ。
目が覚めたらウィルブローズ様がいなかった。昨日の夜は、隣のベッドで寝てたはずなのに。
先に部屋を出たのかな、と思ったけど、食堂にもいないし、自分の部屋にも戻ってない。
ラウルさんたちに聞いて回ったけど、誰も行方は知らなかった。いきなりウィルブローズ様が消えて、みんなも困ってたわ。
あの時からもう、クロップさん以外は、いつもよりぼんやりしてたっけ。この前の、呪い騒動の時みたいに。
どうしようもなくて、ひとまずジェフローラ様とアートハル様に連絡してみた。ウィルブローズ様が、軍部とかご実家に行ってないか。
そうしたら、二人とも「知らない」。
あとから聞いた話によると、とんでもない大騒ぎになってたらしいわ。特に軍の上層部。
一般の兵士さんには知らせなかったみたい。
それはそうよね。ウィルブローズ様は、戦争における最後の切り札だもん。どっちが本人がわからなくなったっていうだけでも、詳しい説明は伏せてたんだから。
それが行方不明だなんて聞かされたら、きっとみんな慌てふためいて、収拾がつかなくなっちゃう。
それで、まずはアートハル様がうちに来てくれた。「ジェフローラ様やお義父様たちは?」って聞いたら、みんな、隣国との会談に出席してるらしい……。
そんなことしてる場合じゃないでしょ! と思ったけど、アートハル様いわく、「弟の不在を隣国に知られれば、これを好機と攻め込んでくるかもしれません」。
そういえば隣の国の人たち、悪魔を利用してウィルブローズ様を殺そうとしてたんだっけ……。
なんでもないフリをする必要があるのね。
なるほどって納得したところで、アートハル様に、今までの経緯をざっくり話したの。ウィルブローズ様が帰ってから、姿が見えなくなるまでのこと。
そうしたら、すっごく怖い顔をされた。怖いというより真剣な顔かな。ほんの一瞬だったけど。
……うーん、やっぱり気のせいかも。そのあとはいつも通り、穏やかな感じだったし。
とにかく、私の話を聞いたアートハル様は、何やら考え込んでた。それから、ふっと顔を上げて言ったの。
「弟が屋敷を出たことに、誰も気づかなかったのなら、ウィルブローズはまだ家の中にいるでしょう」
「もしかすると変身しているのかもしれません」
何に変身したのか考えてたら、「弟が最後にいた場所はどこですか」って聞かれた。
それで、まあ、うん、ちょっと恥ずかしかったけど、私の部屋だって答えた。そうしたら、「部屋に見慣れないものがありませんか」。
すぐに2階へ上がって、自分の部屋をあちこち探してみたわ。
思いのほか、早く見つかった。書き物机に立てかけてあったの。先端に紫の宝石がついた、金の杖。
だけど、「元に戻ってください!」って、フルネーム付きで呼んでも紙に書いても、反応なし。杖のまま。
まさか悪魔の呪い⁉︎ と思ったら、アートハル様が杖を手に取って、しばらく眺めて……「元に戻るための魔力が切れているようです」って言った。
こうなったら、こっちから魔力を入れてあげないとダメみたい。
魔力を入れる方法の中で、一番手っ取り早いのを、アートハル様が教えてくれたわ。
使い魔にかかってる魔術を解けばいいんだって。そうすれば、その分の魔力がウィルブローズ様に戻るらしい。
「だけど使い魔が何匹いるやら」ってアートハル様は困ってた。
だけど、私は大体予想がついた。なんたって一緒に住んでるんだもの!
たぶん、あの3人だろうなと思って、みんなを集めて聞いてみたら、やっぱりそう。
ラウルさん、マリさん、ミュトス。魔術を解いていいか聞いたら、3人とも、ぼけっとしながらうなずいてくれた。
もう元に戻りかけてるんだけど、完全に解けるまでには数日かかるらしいの。
そんなに待てないわ。杖のままじゃ、水も飲めない。放っておいたらウィルブローズ様が……ダメダメ、縁起でもない!
アートハル様は「使い魔本人が、主人から魔術の解き方を教わるんです」って言ってた。だから、どうすればいいか、みんなに尋ねたの。
そうしたら……口を揃えて「知りません」。
アートハル様がぎょっとしてたわ。そのあと、「ウィルブローズのやつ……」とかぶつぶつ言い出した。
どういうことかっていうと、ウィルブローズ様は自分の魔力が切れるなんて、まったく想定してなかったみたい。「だから、使い魔に魔術の解き方を教えていなかったのかも」だって。
そんなの教えてたら、敵に知られていいように使われる場合もあるそうだから、仕方ないのかもしれないけど……。
とにかく、3人の魔術は私たちが解かなくちゃいけない。その方法を調べるのに、今日は一日かかっちゃった。
アートハル様と一緒に、ウィルブローズ様の部屋をひっかき回して探したわ。
でも、もう夜だからさすがに一旦休もうってことになった。
頭がぼんやりしてたら、上手くいくものもいかなくなるしね。
というわけで、今日はさっさと寝て、明日は早起きして捜索再開よ!
あ、そうだ。あとは嬉しかったこと。
アートハル様から聞いたんだけど、ウィルブローズ様のご両親は、私をすごく信頼してくださってるみたい。
明日、ご両親が軍の人と一緒に、応援に来てくださるらしいんだけど、「ニニさんなら、私たちが着く前に解決しているかもしれない」って仰ってたんだって。
アートハル様も、「使い魔たちが魔術の解き方を知っていれば、そうなっていたでしょうね」って言ってくれた。
期待を裏切らないように頑張らなきゃ!
だけど、ウィルブローズ様の部屋に入った時、アートハル様がまた怖い顔をしてたなあ。なんなんだろう?
そういえば……そもそも、どうしてウィルブローズ様の魔力が切れたのかしら? なんで杖に変身したのかも、謎のままだわ。
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