魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝

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4章 呪われた竜

2月20日 雨

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うう、今日こそ解決すると思ったのに……。

朝、まだ暗いうちから生物管理室の前で待ちかまえて、鍵が開くと同時に中へ飛び込んだ。それから竜のところへ走ったけど……もう大パニックよ。

一方は、火傷はあるけど矢傷はない。
一方は、火傷はないけど矢傷はある。

ああ、わけわかんない! どういうこと?
どっちもあるのがウィルブローズ様だと思ったのに。

頭を抱えて悩んだけど、ふと思い立ったの。もしかしたら、護衛兵さんたちの証言を聞き間違えたのかもしれない。
だから、もう一回兵舎へ行ってみた。

昨日と同じように、話を聞いて回ってたら……チャーリーさんのところにいたのよ。ティガーンのおっさんが。
えらく怒ってたわ。「いいから言うことを聞け」だとかなんとか、すごい剣幕で詰め寄ってた。

そのうち、私が立ち聞きしてることに2人が気付いちゃった。ティガーンのおっさんは、舌打ちしてどこかへ行ったわ。
今のうちだ! と思って、チャーリーさんに「昨日の話をもう一度聞かせて」って話しかけた。そうしたら、「よく覚えてない」とかゴニョゴニョ言って逃げていっちゃった。
ほかの3人は、昨日と同じ話をしてくれたのに。

変だと思って、ジェフローラ様に「軍の中に怪しい人がいるかも」って相談したの。そうしたら「実は内通者を探してるのよ」だって! 

この間の戦闘中、敵の動きがおかしかったらしいの。
ウィルブローズ様を配置する場所を決めた途端、そこにいきなり敵兵が集まってきて……輿こしに乗った敵魔術師も。

「矢が飛び交う中で、魔力を溜めながら移動するなんて、無謀にも程がある」って仰ってた。
そんなことしたら集中が途切れて、せっかく溜めた魔力が無駄になる危険もあったのに。
「こっちの作戦を知らなければ、あり得ないことだわ」だって……。

内通者って、まさかティガーン? チャーリーさんを脅して、証言できないように口止めしてたの? 
怪しすぎるけど、ちょうどティガーンがこっちを見てたから、ジェフローラ様には言えなかった。はっきりした証拠もないし。

でも、それこそ私の出番ね。兵舎でガンガン話を聞けるもの。
昨日も今日も聞き込みをしたけど、ちょっと困った顔をされるくらいで、ウィルブローズ様がピンチだ、なんて誰一人考えもしなかったみたい。
しがない庶民だって、たまには役に立つんだから!

そうだ、チャーリーさんにも話を聞かなくちゃ。でも、私一人で行ったらまた逃げられるかな……。
ジェフローラ様について来てもらおうかしら。兵士さんたちには、「私が案内をお願いしたんです」とか言って。

今日の嬉しかったことは、イヴさんが励ましてくれたこと。思うようにいかなくてへこんでたら、「今日も聞き込みお疲れさまです。ですが、急がば回れと言いますから、慌てずのんびりいきましょう」って声をかけてくれた。

あの人、唯一の癒しだわ。兵士さんたちは詳しい事情を知らないから、一緒に心配してもらえないし。
だけど本当にのんびりしてちゃ駄目よね。よし、明日もイヴさんの笑顔を糧に頑張ろう!
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