魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝

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4章 呪われた竜

2月16日 晴れ

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ウィルブローズ様が家を出て、今日で3日目。予定通りなら、明日の朝に帰ってくるはず。
今はこっちに向かってる最中かしら。

4日前、いきなり軍部から呼び出しがあったのよね。てっきり、戦争が始まったんだ! と思ったわ。
だからウィルブローズ様が出発する時、「今から魔力を溜めておいて、敵を一掃するんですか」って聞いたの。

でも、ウィルブローズ様は「いいえ」って首を振ってた。
「移動しながら魔力を溜めるのは難しいんです。今回は、それほど多くの魔力は必要ありませんし。向こうに着いてから溜め始めるくらいでちょうどいい」だって。

それからハヤブサに変身して、あっという間に空の彼方へ飛んでった。

こう言ったらなんだけど……戦場へ行くにしてはちょっと適当じゃない? ちゃんと敵に勝てたのかな。
だんだん心配になってきてミュトスに話したら、ため息ついて呆れられた。

「ウィルブローズ様が言ってただろ。今回は、そんなに魔力はいらないって。隣国の異教徒との小競り合いだからな。若いやつらが頭に血を上らせて、うちにケンカを売ってきただけ。よくあることさ。それを全滅でもさせてみろ。大規模な紛争に発展しちまう」

それなら敵をおどかして、追い払うくらいしかできないかしら。
一体、何になったんだろう。見た目が怖いものとか? すぐに変身できるものなら、そこまで大がかりじゃないよね。
虎かなあ。それとも大蛇? 獅子とか大砲にもなれそう。
あとは悪魔……って、実在しない生き物は無理か。

それにしても、結婚してひと月半くらい経つけど、あいかわらず私の出番はなさそう。レリアス家の人たちは「あなたが魔術師の妻としてふさわしいかどうか」なんて言ってたけど、正直、今の暮らしって三食昼寝つきのお気楽生活なのよね。

魔術師の地位は特殊だから、貴族同士でやるような社交はあんまり必要ないし。
領地の管理は今のところ、お義父さんとアートハル様がなさってるから、私たちが町や村を治めることもなく。
お屋敷の維持はみんながやってくれて……というか、やろうとしたら止められる。

私の仕事、なーんにもない! 最近はウィルブローズ様がいないと、退屈ここに極まれりって感じ。
ヒマでヒマでヒマすぎて、孤児院で小さい子の相手ばっかりしてた。

あ、今日は違ったっけ。奉仕活動の一環で孤児院に来てくれた、人形劇団のお芝居を見てた。
それにしてもお見事だったわ。何体もの糸繰り人形を一人で操って。一糸乱れず舞い踊るってやつね。
「このままずっと見ていられそう」って、ぼんやり呟いたら、ペンドラ先生が「出戻るつもりじゃないだろうね?」って冷や汗かいて聞いてきた。
我ながら、冗談に聞こえないぐらい通いつめてるもんなあ。

そんなこんなで、毎日楽は楽なんだけど、やりがいがないのよ、やりがいが!
どーん! と大事件でも起こらないかしら。

いや、あんまり大きくても困るわね。中事件……ううん、小事件くらい起きないかな。ウィルブローズ様がちょこっと敵に手間取って、私がちょこっと助けるとか。
まあ、何もないだろうけど。

とにかく、明日は数日ぶりにウィルブローズ様に会えるんだ!
帰ってきたら頬っぺたにキスでもしてみようかな。この前、モーガンの家へ遊びに行った時にも「一つ屋根の下で暮らしてる円満夫婦が、いまだにキスすらしてないなんてあり得ない」って言われちゃったし。

今日の嬉しかったことは、あの変な色のドロドロを飲まなくて済んだこと。レリアス本家から帰って以来、やたらと「飲んでください! お願いします!」ってウィルブローズ様に迫られて参ったわ。

味はそこまでまずくはないけど、なんとなく嫌なのよね、あれ。
一気飲みしたあとはすっきりするし、禁断症状も出ないから、アブナイものじゃないんだろうけど。本当、なんなのかしら?
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