魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝

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3章 飛ばされた部屋

2月6日 曇り

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今日は、お義兄さんから色々話を聞いた。質問を紙に書いておいたから、知りたいことは全部わかった。

まず、ここはレリアス家にゆかりある場所で間違いないと思う。
私が「口で説明されただけじゃ信用できません」って疑ってたら、お義兄さんが封蝋印を持ってきたの。
手に取って、捺す部分を見てみたわ。うちの屋敷にあるのと同じ紋章だった。

あの人が、本当にウィルブローズ様のお兄さんかどうかは……顔を見たら一目瞭然よね。
悪いやつが魔術で変身してるのかも、とも考えたけど、だとしたらやっぱりレリアス家の人ってことになる。ジェフローラ様が、「得意な魔術は家によって違うのよ」って仰ってたし。

で、次は私の部屋について。
本当は、魔術の失敗で飛ばされたんじゃないらしいわ。ウィルブローズ様のお父様が、わざわざ本家に呼び寄せたんだって。
どうしてかというと、私が息子にふさわしい女性なのか知りたかったらしい……それを聞いて、ついキレちゃった。

「それならこんな回りくどいことしないで、普通に会いに来ればいいじゃないですか!」って怒鳴った。
だってあんまりじゃない? 顔を見るために、部屋ごと人を誘拐するなんて。モーガンに言ったら、絶対冗談だと思われるわ。

そうしたら、お義兄さんは苦笑いして「ウィルブローズが会わせてくれなかったので」。

よくよく話を聞いて、ぎょっとしたわ。
なんとウィルブローズ様は、家出同然でこの家を出て以来、ご家族に連絡したことが一度もないらしいの。結婚したことすら報告しなかったみたい。

ところが、国王陛下からご実家に祝電が送られてきて、結婚が発覚。それから再三、ご両親は「結婚相手に会わせなさい」ってウィルブローズ様へ催促したのに、なしのつぶて。

しびれを切らしたご両親が、「このまま無視し続けるつもりなら、相手の女性を連れ去るぞ!」って手紙で脅した。がっつり魔力を溜めた状態で。
それってたぶん、数日前に届いた手紙かな。ウィルブローズ様がオロオロしてたやつ。

だけどそのあと、ウィルブローズ様は、私の部屋の周りに結界を張ってしまった。
私を守ろうとして焦ったんだろうけど、それが今回の騒動のもと。

ご両親の堪忍袋は、ついに大爆発。怒りに任せて結界ごと私を誘拐した。
……魔術師の親子げんかって、規模が大きすぎるわ。

それで、あとは……そうそう、お義兄さんへの最後の質問は、「どうしてウィルブローズ様に変身してたんですか」。
本人が言うには、私がお金目当てで結婚したかどうかを確かめたかったらしいの。
そういえば、耳飾りがどうとかアトリエがどうとか言ってたっけ。
その点に関しては、私が全然なびかないから大丈夫って安心したみたい。

まったく、無茶苦茶してくれて! でも、ウィルブローズ様に家族のことを聞かなかった私も悪かったわ。
だから、「お互い様で済ませましょう。もう目的は果たしたんだから、家へ帰してください」って頼んだら……「それはできない」って言うのよ!

レリアス家の人たちが確かめたいことは二つ。
一つは、私がお金目当てで結婚したかどうか。もう一つは、お義父さんが仰ったっていう「息子にふさわしい女性かどうか」。

お義兄さん、真剣な顔で言ったわ。

「魔術師は大きな力を扱う。その力を狙う存在は少なくない。恨みを持つ者もいるでしょう。そうした者たちが弟を害する時、あなたは支えになれますか。僕と両親にニニさんの力を示してください。言葉だけでなく行動で」

そんなこと、急に言われても困るわよ!
文句を言ったけどどうしようもなかった。お義兄さんは、「ウィルブローズの妻を部屋から出さないように」って、ご両親に命じられたらしいから。

第一、力を示すってどうしたらいいの? お義兄さんに聞いたら、「この状況を自力で打破してみせてください」。
無茶ぶりにも程があるわ、魔術どころか手品もできないのに!

そのあとは「また明日来ます」って、お義兄さんが部屋から出て行ったから、枕を壁に投げて八つ当たりするしかなかったわ。

そうだ! 大事なことを書きそびれてた。
ウィルブローズ様のご両親は、どっちも各所から引っ張りだこの魔術師なんだって。だから、本当の本当に忙しいみたい。
そのせいで、今まで私に会いに来れなかったらしいんだけど、三日後の晩にお二人が帰ってくる。その翌朝、つまり四日目の朝に、私と会いたいって……。

冗談じゃないわ、そんなの絶対に嫌! 義両親との初顔合わせが、自分一人だけなんて気まずすぎるじゃない。しかも結婚したあとに!

明日、どうしよう……とにかく情報を集めるしかないか。
お義兄さん、また来るって言ってたわね。質問攻めしてたら、重要なことを喋ってくれるかも。

今日の嬉しかったことは、ウィルブローズ様が元気だってわかったこと。お義兄さんに聞いたら、「病気も怪我もしていないようですが……」だって。
でも……していないようです、なんなのかしら。ちょっと気になるなあ。
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