魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝

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1章 会えない夫

1月8日 曇り

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ああ……もう、わけわかんない。
 
今日は、朝起きてすぐに廊下の張りこみを始めた。曲がり角の陰からトイレ前をじーっと監視して、ミュトスが出てきたところをふん捕まえてやったわ。
「ウィルブローズ様は今、クモなんでしょ⁉︎ 」って聞いたら、「ウィルブローズ様はここしばらく、クモになってないよ」って笑われちゃった。「お前、クモと結婚したかったのかい?」だって。
何よ、私は死ぬほどクモが嫌いだって知ってるのに。首根っこつかんでやった時は、チィチィ泣き叫んでたくせに!

じゃあ、何に変身してるのかしら。ほかの虫? でも、ハエとかミミズとかネズミとか、思いつく限りミュトスに聞いてみたけど、ずーっとお腹を抱えてゲラゲラ笑ってたわ。

仕方ないからミュトスを解放して、怪しい生き物がいないか、あちこち探し回ってみた。階段の裏とか、花壇の中まで。でも、それっぽいものは見つからなかった……。
ウィルブローズ様は、家のすぐ近くにいるはず。屋敷の中にいる時もあるかもしれない。
なのに、これだけ探しても会えないってことは、人間の姿じゃないと思うのよね。しかも、そんなに大きな生き物じゃないと思う。

それにしても、やっぱり視線を感じるなあ。ウィルブローズ様、この部屋の中にいたりして。
なんて、そんなわけないか。隠れられる場所なんて、ベッドくらいしか……。

まさか、ベッドのダニ⁉︎ 寝てる間にウィルブローズ様、潰しちゃう!

……いやいや、そんなわけないよね。でも寝る前に一応、「ウィルブローズ様、逃げてください」って声をかけとかなきゃ。

それはそうと、明日はどうしよう。またマリさんに話を聞いてみようかな。家にいてくれるといいんだけど。いなかったら、庭の草むしりでもさせてもらおうかしら。

今日の嬉しかったことは、お屋敷の外壁が、すべすべしてて気持ちよかったこと。
そういえば古いお家のはずだけど、ツタもコケもカビも、なーんにもなかったわね。壁はちょっと黄色っぽくて、雲間からお日さまが差すとキラキラ光って。
赤紫の屋根だって、全然くすんでない。けっこう雨に打たれてるはずなのに。
マリさんの掃除技術、すごすぎるわ……。
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