「君とは契りを結ばない」と言った夫は、悲しい秘密を持っていた

山河 枝

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40 2度目のなぞなぞ

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「ひえっ」

 エリックと名乗った男性が、恐怖に顔を引きつらせる。私は、後ずさりそうになるのを必死でこらえた。

 オスカーは、私の腕をつかんだまま、鼻梁びりょうにまでしわを寄せ、エリックさんを睨みつけている。怒りの熱量に、首筋がチリチリとひりつく。

「な、なんだよ、オスカー。お前、嫁さんが嫌いなんだろ。彼女がほかの男と何をしようが、別にいいじゃないか」
「嫌いだなんて言ってない」
「でも、早く帰れって……」
「お前みたいなやつに目をつけられないよう、さっさと帰らせようとしただけだ」

 そう言うと、オスカーはうしろを振り向いた。

「おい、ナンシー」
「はいっ!」

 祈るような格好でオロオロしていたナンシーは、ピンと背筋を伸ばした。

「どうしてアリスを連れてきた? 早く家へ戻らせろ」
「……申し訳ございません。ですが、奥様とお話しするお時間くらい、取れますでしょう?」
「取れるわけないだろう。もう、船に乗らないといけないんだ」

 オスカーが言うと、エリックさんの隣にいる中年男性が、「何言ってる」とおかしそうに笑った。

「あと1時間はあるって、さっき言ったばっかりじゃないか。1分で済むと言ってるんだから、ちょっとぐらい話を聞いてやれよ」

 オスカーは顔をしかめ、舌打ちした。昨日の話題を蒸し返されるのかと思っているのかもしれない。
 頭をかきながら、「ああ」だの「くそ」だのとぼやいて、それから諦めたように私を見た。

「アリス、聞くよ。話って?」
「あ……あなたに、質問があるんです」

 いざ、その時が来ると緊張してしまう。強く両手を握り合わせて、私はあの質問──というより、なぞなぞを口にした。

「自分のものなのに、持っていることになかなか気付けなくて、1人で捨てることが難しいもの……なんだと思いますか?」

 ナンシーや周りの男性たちは、困惑した様子で顔を見合わせている。
 オスカーも、困ったように眉をひそめて、けれど何かを思い出そうとしているのか、目をあちこちへ動かした。

 もう、忘れてしまったのだろうか。それとも、アレンとオスカーが同一人物だなんて、やっぱり私の勘違いなのか。

 最後にもう一押し、してみよう。私はそっとささやいた。

「タンスじゃないですよ。自分じゃ気付けないものが、答えだから」
「……あっ!」

 オスカーが叫んだ。こぼれ落ちそうなほど目を見開き、口に当てた手は、驚愕に震えている。
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