35 / 75
34 夢の少年⑤
しおりを挟む
「アレン?」
声をかけると、毛布の小山がぴくりと動いた。けれど、いつもの青い瞳はなかなか出てこない。
「アレン、どうしたの? アレン?」
しゃがみ込んで、毛布の上から彼の頭をなでる。何度か名前を呼ぶと、ようやく返事があった。
「……アリス、怒ってない?」
「え?」
毛布の下から、ぼそぼそと呟きが漏れてくる。
「この前、ひどいことしちゃったから。もう来ないかと思った」
「そんな……そんなこと。ひどいのは私よ。アレンは辛い目にあったのに、無理に話を聞こうとしてごめんね」
謝ると、おそるおそる……というふうに毛布が持ち上がって、アレンが顔を覗かせた。
「おれもごめん。それで、あの……オスカーの話、しようか?」
「ううん」
私は首を振った。
「もう、オスカーの話はいいの。一緒に遊ぼう。何をする? 絵本を読んでもいいし、かくれんぼ……は、ちょっと難しいけどがんばるわ」
力こぶを作るように拳を握ってみせると、アレンはぴょんと背筋を伸ばした。そして、星を散りばめたように目をキラキラさせて、私を見上げた。
「じ!」
「……じ?」
何のことやら、ぽかんとする私に、アレンはまた叫んだ。
「アリス、字を教えて! おれ、気付いたんだよ。字を覚えたら、アリスがいない間も絵本を読めるって」
「あ……」
アレンがそう望むようになるのはもっともだ。
彼にとって私は、いつ来るかわからない旅人みたいなもの。それなら、私に絵本を読ませるよりも、字を学んで、自分で本を読む方がいいに決まっている。
それに、大人になった時、字が読めないと苦労するだろう。将来的にアレンのためになる。
「じゃあ、一緒に勉強しようか」
「やった!」
アレンは毛布をかぶったまま、ウサギの子みたいに飛び跳ねて、私の周りをくるくる回った。
「ちょ、ちょっとアレン! 危ないよ」
「だって嬉しいんだもん!」
「もう……ふふっ」
私は転びそうになりながら、アレンにつられて笑ってしまった。
「アレン、落ち着いて。早く始めましょう。私、またすぐに行かなくちゃいけないの」
「あ、うん!」
私が床に絵本を広げると、アレンはちょこんと隣にしゃがんだ。
紙やペンがないので、絵本を指しながらの授業だ。アレンは1つ教えるたび、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
(こんなに喜んでくれるなら、字だけじゃなくて、ほかの勉強も教えたいな。計算とか歴史とか……あっ)
私の頭に、ある考えがひらめいた。その突拍子のなさに、自分で愕然としてしまった。
声をかけると、毛布の小山がぴくりと動いた。けれど、いつもの青い瞳はなかなか出てこない。
「アレン、どうしたの? アレン?」
しゃがみ込んで、毛布の上から彼の頭をなでる。何度か名前を呼ぶと、ようやく返事があった。
「……アリス、怒ってない?」
「え?」
毛布の下から、ぼそぼそと呟きが漏れてくる。
「この前、ひどいことしちゃったから。もう来ないかと思った」
「そんな……そんなこと。ひどいのは私よ。アレンは辛い目にあったのに、無理に話を聞こうとしてごめんね」
謝ると、おそるおそる……というふうに毛布が持ち上がって、アレンが顔を覗かせた。
「おれもごめん。それで、あの……オスカーの話、しようか?」
「ううん」
私は首を振った。
「もう、オスカーの話はいいの。一緒に遊ぼう。何をする? 絵本を読んでもいいし、かくれんぼ……は、ちょっと難しいけどがんばるわ」
力こぶを作るように拳を握ってみせると、アレンはぴょんと背筋を伸ばした。そして、星を散りばめたように目をキラキラさせて、私を見上げた。
「じ!」
「……じ?」
何のことやら、ぽかんとする私に、アレンはまた叫んだ。
「アリス、字を教えて! おれ、気付いたんだよ。字を覚えたら、アリスがいない間も絵本を読めるって」
「あ……」
アレンがそう望むようになるのはもっともだ。
彼にとって私は、いつ来るかわからない旅人みたいなもの。それなら、私に絵本を読ませるよりも、字を学んで、自分で本を読む方がいいに決まっている。
それに、大人になった時、字が読めないと苦労するだろう。将来的にアレンのためになる。
「じゃあ、一緒に勉強しようか」
「やった!」
アレンは毛布をかぶったまま、ウサギの子みたいに飛び跳ねて、私の周りをくるくる回った。
「ちょ、ちょっとアレン! 危ないよ」
「だって嬉しいんだもん!」
「もう……ふふっ」
私は転びそうになりながら、アレンにつられて笑ってしまった。
「アレン、落ち着いて。早く始めましょう。私、またすぐに行かなくちゃいけないの」
「あ、うん!」
私が床に絵本を広げると、アレンはちょこんと隣にしゃがんだ。
紙やペンがないので、絵本を指しながらの授業だ。アレンは1つ教えるたび、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
(こんなに喜んでくれるなら、字だけじゃなくて、ほかの勉強も教えたいな。計算とか歴史とか……あっ)
私の頭に、ある考えがひらめいた。その突拍子のなさに、自分で愕然としてしまった。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
後悔だけでしたらどうぞご自由に
風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。
それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。
本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。
悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ?
帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。
※R15は保険です。
※小説家になろうさんでも公開しています。
※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる