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34 夢の少年⑤

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「アレン?」

 声をかけると、毛布の小山がぴくりと動いた。けれど、いつもの青い瞳はなかなか出てこない。

「アレン、どうしたの? アレン?」

 しゃがみ込んで、毛布の上から彼の頭をなでる。何度か名前を呼ぶと、ようやく返事があった。

「……アリス、怒ってない?」
「え?」

 毛布の下から、ぼそぼそと呟きが漏れてくる。

「この前、ひどいことしちゃったから。もう来ないかと思った」
「そんな……そんなこと。ひどいのは私よ。アレンは辛い目にあったのに、無理に話を聞こうとしてごめんね」

 謝ると、おそるおそる……というふうに毛布が持ち上がって、アレンが顔を覗かせた。

「おれもごめん。それで、あの……オスカーの話、しようか?」
「ううん」

 私は首を振った。

「もう、オスカーの話はいいの。一緒に遊ぼう。何をする? 絵本を読んでもいいし、かくれんぼ……は、ちょっと難しいけどがんばるわ」

 力こぶを作るように拳を握ってみせると、アレンはぴょんと背筋を伸ばした。そして、星を散りばめたように目をキラキラさせて、私を見上げた。

「じ!」
「……じ?」

 何のことやら、ぽかんとする私に、アレンはまた叫んだ。
 
「アリス、字を教えて! おれ、気付いたんだよ。字を覚えたら、アリスがいない間も絵本を読めるって」
「あ……」

 アレンがそう望むようになるのはもっともだ。
 彼にとって私は、いつ来るかわからない旅人みたいなもの。それなら、私に絵本を読ませるよりも、字を学んで、自分で本を読む方がいいに決まっている。

 それに、大人になった時、字が読めないと苦労するだろう。将来的にアレンのためになる。

「じゃあ、一緒に勉強しようか」
「やった!」

 アレンは毛布をかぶったまま、ウサギの子みたいに飛び跳ねて、私の周りをくるくる回った。

「ちょ、ちょっとアレン! 危ないよ」
「だって嬉しいんだもん!」
「もう……ふふっ」

 私は転びそうになりながら、アレンにつられて笑ってしまった。

「アレン、落ち着いて。早く始めましょう。私、またすぐに行かなくちゃいけないの」
「あ、うん!」

 私が床に絵本を広げると、アレンはちょこんと隣にしゃがんだ。
 紙やペンがないので、絵本を指しながらの授業だ。アレンは1つ教えるたび、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。

(こんなに喜んでくれるなら、字だけじゃなくて、ほかの勉強も教えたいな。計算とか歴史とか……あっ)

 私の頭に、ある考えがひらめいた。その突拍子のなさに、自分で愕然としてしまった。
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