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王太子選定の儀・迷宮の試練
91 湖宇、完全脱落
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「湖宇殿下が……」
「一票⁉︎」
蒼玉の勝利を称える声が、一転して驚愕のざわめきに変わる。
「ということは、つまり……!」
神官たちの間に期待の波が広がっていく。
宰相が、最後の結果を発表する。
「第三王子雪晴殿下の票数、三!」
しん……と、謁見の間が静まり返る。一拍置いて、神官たちがドッと喜びを爆発させた。
「やった、やったぞ!」
「雪晴殿下が蒼玉殿下に並んだ!」
「誰が雪晴殿下に票を入れたんだ⁉︎ ……あ」
最後の一声で、再び静けさが戻ってくる。謁見の間に、じわじわと緊張がにじむ。
滝森が蒼玉に投票したのは、間違いないだろう。彼は今、目を丸くして、動揺を鎮めるように胸をさすっている。
では、誰が雪晴に投票したのか。考えられるのは二人。
無数の視線が、謁見の間最奥にある壇の上へ移る。
玉座に腰掛けた国王は、色を失い、王妃を凝視している。
玉座のそばに立つ王妃は、残念そうに口を尖らせて、壇上から見下ろしている。水奈の隣に立つ雪晴を。
(もしかして、王妃様が、雪晴殿下に投票を……?)
水奈の体が、興奮と困惑に震え出す。なぜ、という問いが頭の中を駆けめぐる。
雪晴もどうすればいいかわからないらしく、すがるように水奈の手を握ってきた。
「あらまあ、残念。雪晴王子、蒼玉王子と引き分けちゃったのね」
人々の視線など意にも介さず、王妃はため息をついた。が、すぐにニコニコと頬を緩める。
「まあいいわ。湖宇ちゃんが王様にならなくて済むんだから。これで安心ね」
「──母上っ!」
悲鳴のような声が、沈黙を裂いた。王妃を見つめていた視線が、一斉に湖宇に集まる。
「まさか……まさか、その能なしに票をいれたのですか⁉︎」
「ええ、そうよ?」
きょとんとする王妃に、湖宇はますます目を見開く。
「なぜですかっ! なぜそいつに……! ぼ、僕は、あなたや父上のために王を目指していたんですよ! なのに、なぜ……!」
「だって、王様って大変そうなんだもの。湖宇ちゃんにそんな役目を負わせるなんて、かわいそう」
「か、かわいそう?」
湖宇だけでなく、全員の目が点になる。
「あのね、湖宇ちゃん。陛下が王子様だった頃はね、とてもお元気だったのよ。だけど、即位なさってからはすぐに落ち込んだり、疲れやすくなっちゃったの。今も、ほら……見てちょうだい」
王妃は、痛ましげに国王を見た。
口を半開きにして、浅い呼吸をくり返す国王は、死人のような顔色で宙を見つめている。
呆然自失の国王へ、王妃は「あなた、すぐ部屋に戻って休みましょうね」と気遣わしげに声をかけた。
自身の行動が国王の心を叩き潰したとは、微塵も考えていないらしい。
「ね、湖宇ちゃん。きっと王様って、とても大変なのよ。だけど湖宇ちゃんが『王様になりたい』って言うから、止めるのを我慢してたの。でも……」
王妃は頬に手を当て、困ったように話を続ける。
「この間、雪晴王子の侍女を処刑した時からよ。陛下がすっかりやつれてしまわれて……やっぱり王様というのは辛いお役目なんだわって、怖くなっちゃったの」
「……水奈は処刑されていませんが」
雪晴がボソッと言ったが、水奈以外には聞こえていないようだ。全員、王妃の言葉に気を取られて、周りを意識する余裕がないらしい。
「だから雪晴王子に投票したの。湖宇ちゃんを悲しませるかしらって心配してたんだけど……問題なさそうでよかったわ」
「問題が、ない……? 母上、どういうことです……?」
「だって、さっき言ってたじゃない?」
王妃は、花が咲くようにふわりと笑った。
「湖宇ちゃんが王様になりたかったのは、私たちのためだったのよね? それなら、本当は王様になりたくなかったってことよね。気付いてあげられなくて、ごめんなさい」
「いや、あの、母上……」
「これからは椿ちゃんと一緒に、お城の近くで自然いっぱいの領地を治めながら、のんびり過ごしなさい。椿ちゃん、湖宇ちゃんのことよろしくね」
王妃は、湖宇の隣に立つ椿に笑いかけた。椿はぎょっと目を剥き、しかし腕組みをして何やら思案し始める。
「えっとぉ、でもぉ……私は王妃に……うーん……ま、いっかぁ。湖宇殿下には着物とか香とか色々もらったしぃ。お城の近くなら、危ないこととかなさそうだし~」
「椿ちゃん、どうかした?」
「いえいえ~、なんでもありませぇん。湖宇殿下とのんびり過ごしますぅ」
椿の答えに、王妃は満足そうに「うふふ」と笑った。それから彼女は、魂の抜けた国王の手を引き、謁見の間を出ていった。
「陛下、お疲れなのかと思ってたけど……もしかして、安心して気が抜けちゃったのかしら? そうよね、湖宇ちゃんが王様にならずに済むって決まったんだから」
と、一人で納得しながら。
あとを託された宰相は、ほかの貴族や神官同様、唖然としていたが、なんとか気を取り直し、声を張り上げた。
「では……蒼玉殿下と雪晴殿下の票が同数ゆえ、慣例に従い、もう一度投票をおこなう! 判定人は、お二方の真剣による御前試合を観戦し、投票対象を決めること!」
(剣の試合⁉︎)
まるで予期していなかった言葉に、水奈と雪晴は息をのんだ。
雪晴が、蒼玉と戦う。真剣を使い、一対一で。剣を振ったことすらないというのに。
水奈と雪晴が言葉を失っている間に、話はどんどん進んでいく。
試合の日は明日の会議で決める、と宰相が締めくくったところで、貴族たちが「やれやれ」と出口に向かって歩き始めた。
「これは、蒼玉殿下の勝ちで決まりだな」
そんな声が聞こえて、水奈は喉をふさがれたような心地になった。
水奈と雪晴は、迷宮の試練という一つの壁を越えた。しかし次の壁は、より高くそそり立っている。
(剣の試合だなんて。どうやって雪晴殿下をお支えしたらいいの……)
水奈は黙ってうなだれ、泥で汚れた足袋と草履を見つめた。そうしていると、雪晴が肩を叩いてきた。
「水奈、顔を上げて」
雪晴の声は、思いのほか明るかった。水奈は驚いて視線を上げ、さらに驚いた。
目の前に、なんと樹が立っている。
「雪晴殿下、水奈殿。私にも協力させてください」
「協力? お前が、私に?」
雪晴が、信じられないと言いたげに聞き返す。
「はい。湖宇殿下の護衛兵仲間が、背中を押してくれまして。先程、王妃殿下に許しをいただいて参りました。雪晴殿下の護衛を務める許可を」
「……!」
雪晴と水奈は、揃って口を開けた。が、その口からは「えっ」とも「本当に?」とも出てこなかった。
水奈は、おそらく雪晴も、まさかという思いで胸がいっぱいになっていた。
二人の顔はよほど間が抜けていたのか、樹はブルブルと震え出し、ついに吹き出した。
が、彼はすぐさま、ごまかすよう咳払いをする。
「ゴホン! 失礼いたしました。そういうわけですので、御前試合に向けて、私がみっちり訓練いたします。殿下、覚悟なさってくださいね」
「えっ……いや、あの……本当なのか?」
「みっちり訓練することですか? ええ、それはもうお覚悟を」
「違うよ! 樹が私の護衛をすることだ。本当に、王妃殿下がご許可を? いや、その前に陛下は? 湖宇兄上は?」
雪晴は狼狽しながら、樹を質問攻めにする。樹は困ったように、そしてどことなく嬉しそうに笑って答えた。
「王妃殿下は、『一緒にいたい人と一緒にいるのが一番だ』と。陛下はお話できる状態ではなく、湖宇殿下もあの通りですから……」
水奈と雪晴は、樹が示す方を見た。
うつろな目をした湖宇が、フラフラと歩いている。椿に支えられながら、謁見の間を出るところだった。
生ける死体、という表現がぴったりである。
「……一生あのままでいてくれたら、害がなくて安心なんだけどな」
「で、殿下。それはちょっと」
誰か聞いていなかったかと、水奈はあたりを見回した。そこで気付いた。
水奈と雪晴と樹を、神官たちが取り囲んでいる。
その中にはタカの姿もある。
「雪晴殿下、私たちも支援いたします!」
「必要なものがあれば、すぐお申し付けください!」
水奈は雪晴とともに、再びぽかんと立ち尽くした。
棒立ちの体に、感動がじんわりと広がっていく。
(一人きりでおられた殿下が、たったの数ヶ月で、こんなにたくさんの方に慕われるなんて)
水奈は雪晴を見上げ、微笑んだ。
「雪晴殿下は善き王になるでしょうね」
雪晴は、驚いたように眉を上げた。それから水奈に笑い返し、「なれるとしたら水奈のおかげだ」と答えた。
*
その翌朝──王妃のもとへ、判定人の一人が訪れた。王妃は驚きながらも、脇息にひじを置き、ゆったりとした態度で彼を迎えた。
「滝森殿、昨日はご苦労様でした。私にご用?」
判定人の一人──滝森は、王妃の前で正座をし、畳に手をつき、頭を下げ た。
「はい。王妃殿下に、お話をうかがいたく存じます」
「あら。何の話をすればいいかしら?」
「はい……湖宇殿下にご投票なさらなかった理由は、謁見の間でお話しくださいましたね。ここでは、なぜ蒼玉殿下ではなく雪晴殿下に投票なさったのか、その理由をお聞かせください」
「一票⁉︎」
蒼玉の勝利を称える声が、一転して驚愕のざわめきに変わる。
「ということは、つまり……!」
神官たちの間に期待の波が広がっていく。
宰相が、最後の結果を発表する。
「第三王子雪晴殿下の票数、三!」
しん……と、謁見の間が静まり返る。一拍置いて、神官たちがドッと喜びを爆発させた。
「やった、やったぞ!」
「雪晴殿下が蒼玉殿下に並んだ!」
「誰が雪晴殿下に票を入れたんだ⁉︎ ……あ」
最後の一声で、再び静けさが戻ってくる。謁見の間に、じわじわと緊張がにじむ。
滝森が蒼玉に投票したのは、間違いないだろう。彼は今、目を丸くして、動揺を鎮めるように胸をさすっている。
では、誰が雪晴に投票したのか。考えられるのは二人。
無数の視線が、謁見の間最奥にある壇の上へ移る。
玉座に腰掛けた国王は、色を失い、王妃を凝視している。
玉座のそばに立つ王妃は、残念そうに口を尖らせて、壇上から見下ろしている。水奈の隣に立つ雪晴を。
(もしかして、王妃様が、雪晴殿下に投票を……?)
水奈の体が、興奮と困惑に震え出す。なぜ、という問いが頭の中を駆けめぐる。
雪晴もどうすればいいかわからないらしく、すがるように水奈の手を握ってきた。
「あらまあ、残念。雪晴王子、蒼玉王子と引き分けちゃったのね」
人々の視線など意にも介さず、王妃はため息をついた。が、すぐにニコニコと頬を緩める。
「まあいいわ。湖宇ちゃんが王様にならなくて済むんだから。これで安心ね」
「──母上っ!」
悲鳴のような声が、沈黙を裂いた。王妃を見つめていた視線が、一斉に湖宇に集まる。
「まさか……まさか、その能なしに票をいれたのですか⁉︎」
「ええ、そうよ?」
きょとんとする王妃に、湖宇はますます目を見開く。
「なぜですかっ! なぜそいつに……! ぼ、僕は、あなたや父上のために王を目指していたんですよ! なのに、なぜ……!」
「だって、王様って大変そうなんだもの。湖宇ちゃんにそんな役目を負わせるなんて、かわいそう」
「か、かわいそう?」
湖宇だけでなく、全員の目が点になる。
「あのね、湖宇ちゃん。陛下が王子様だった頃はね、とてもお元気だったのよ。だけど、即位なさってからはすぐに落ち込んだり、疲れやすくなっちゃったの。今も、ほら……見てちょうだい」
王妃は、痛ましげに国王を見た。
口を半開きにして、浅い呼吸をくり返す国王は、死人のような顔色で宙を見つめている。
呆然自失の国王へ、王妃は「あなた、すぐ部屋に戻って休みましょうね」と気遣わしげに声をかけた。
自身の行動が国王の心を叩き潰したとは、微塵も考えていないらしい。
「ね、湖宇ちゃん。きっと王様って、とても大変なのよ。だけど湖宇ちゃんが『王様になりたい』って言うから、止めるのを我慢してたの。でも……」
王妃は頬に手を当て、困ったように話を続ける。
「この間、雪晴王子の侍女を処刑した時からよ。陛下がすっかりやつれてしまわれて……やっぱり王様というのは辛いお役目なんだわって、怖くなっちゃったの」
「……水奈は処刑されていませんが」
雪晴がボソッと言ったが、水奈以外には聞こえていないようだ。全員、王妃の言葉に気を取られて、周りを意識する余裕がないらしい。
「だから雪晴王子に投票したの。湖宇ちゃんを悲しませるかしらって心配してたんだけど……問題なさそうでよかったわ」
「問題が、ない……? 母上、どういうことです……?」
「だって、さっき言ってたじゃない?」
王妃は、花が咲くようにふわりと笑った。
「湖宇ちゃんが王様になりたかったのは、私たちのためだったのよね? それなら、本当は王様になりたくなかったってことよね。気付いてあげられなくて、ごめんなさい」
「いや、あの、母上……」
「これからは椿ちゃんと一緒に、お城の近くで自然いっぱいの領地を治めながら、のんびり過ごしなさい。椿ちゃん、湖宇ちゃんのことよろしくね」
王妃は、湖宇の隣に立つ椿に笑いかけた。椿はぎょっと目を剥き、しかし腕組みをして何やら思案し始める。
「えっとぉ、でもぉ……私は王妃に……うーん……ま、いっかぁ。湖宇殿下には着物とか香とか色々もらったしぃ。お城の近くなら、危ないこととかなさそうだし~」
「椿ちゃん、どうかした?」
「いえいえ~、なんでもありませぇん。湖宇殿下とのんびり過ごしますぅ」
椿の答えに、王妃は満足そうに「うふふ」と笑った。それから彼女は、魂の抜けた国王の手を引き、謁見の間を出ていった。
「陛下、お疲れなのかと思ってたけど……もしかして、安心して気が抜けちゃったのかしら? そうよね、湖宇ちゃんが王様にならずに済むって決まったんだから」
と、一人で納得しながら。
あとを託された宰相は、ほかの貴族や神官同様、唖然としていたが、なんとか気を取り直し、声を張り上げた。
「では……蒼玉殿下と雪晴殿下の票が同数ゆえ、慣例に従い、もう一度投票をおこなう! 判定人は、お二方の真剣による御前試合を観戦し、投票対象を決めること!」
(剣の試合⁉︎)
まるで予期していなかった言葉に、水奈と雪晴は息をのんだ。
雪晴が、蒼玉と戦う。真剣を使い、一対一で。剣を振ったことすらないというのに。
水奈と雪晴が言葉を失っている間に、話はどんどん進んでいく。
試合の日は明日の会議で決める、と宰相が締めくくったところで、貴族たちが「やれやれ」と出口に向かって歩き始めた。
「これは、蒼玉殿下の勝ちで決まりだな」
そんな声が聞こえて、水奈は喉をふさがれたような心地になった。
水奈と雪晴は、迷宮の試練という一つの壁を越えた。しかし次の壁は、より高くそそり立っている。
(剣の試合だなんて。どうやって雪晴殿下をお支えしたらいいの……)
水奈は黙ってうなだれ、泥で汚れた足袋と草履を見つめた。そうしていると、雪晴が肩を叩いてきた。
「水奈、顔を上げて」
雪晴の声は、思いのほか明るかった。水奈は驚いて視線を上げ、さらに驚いた。
目の前に、なんと樹が立っている。
「雪晴殿下、水奈殿。私にも協力させてください」
「協力? お前が、私に?」
雪晴が、信じられないと言いたげに聞き返す。
「はい。湖宇殿下の護衛兵仲間が、背中を押してくれまして。先程、王妃殿下に許しをいただいて参りました。雪晴殿下の護衛を務める許可を」
「……!」
雪晴と水奈は、揃って口を開けた。が、その口からは「えっ」とも「本当に?」とも出てこなかった。
水奈は、おそらく雪晴も、まさかという思いで胸がいっぱいになっていた。
二人の顔はよほど間が抜けていたのか、樹はブルブルと震え出し、ついに吹き出した。
が、彼はすぐさま、ごまかすよう咳払いをする。
「ゴホン! 失礼いたしました。そういうわけですので、御前試合に向けて、私がみっちり訓練いたします。殿下、覚悟なさってくださいね」
「えっ……いや、あの……本当なのか?」
「みっちり訓練することですか? ええ、それはもうお覚悟を」
「違うよ! 樹が私の護衛をすることだ。本当に、王妃殿下がご許可を? いや、その前に陛下は? 湖宇兄上は?」
雪晴は狼狽しながら、樹を質問攻めにする。樹は困ったように、そしてどことなく嬉しそうに笑って答えた。
「王妃殿下は、『一緒にいたい人と一緒にいるのが一番だ』と。陛下はお話できる状態ではなく、湖宇殿下もあの通りですから……」
水奈と雪晴は、樹が示す方を見た。
うつろな目をした湖宇が、フラフラと歩いている。椿に支えられながら、謁見の間を出るところだった。
生ける死体、という表現がぴったりである。
「……一生あのままでいてくれたら、害がなくて安心なんだけどな」
「で、殿下。それはちょっと」
誰か聞いていなかったかと、水奈はあたりを見回した。そこで気付いた。
水奈と雪晴と樹を、神官たちが取り囲んでいる。
その中にはタカの姿もある。
「雪晴殿下、私たちも支援いたします!」
「必要なものがあれば、すぐお申し付けください!」
水奈は雪晴とともに、再びぽかんと立ち尽くした。
棒立ちの体に、感動がじんわりと広がっていく。
(一人きりでおられた殿下が、たったの数ヶ月で、こんなにたくさんの方に慕われるなんて)
水奈は雪晴を見上げ、微笑んだ。
「雪晴殿下は善き王になるでしょうね」
雪晴は、驚いたように眉を上げた。それから水奈に笑い返し、「なれるとしたら水奈のおかげだ」と答えた。
*
その翌朝──王妃のもとへ、判定人の一人が訪れた。王妃は驚きながらも、脇息にひじを置き、ゆったりとした態度で彼を迎えた。
「滝森殿、昨日はご苦労様でした。私にご用?」
判定人の一人──滝森は、王妃の前で正座をし、畳に手をつき、頭を下げ た。
「はい。王妃殿下に、お話をうかがいたく存じます」
「あら。何の話をすればいいかしら?」
「はい……湖宇殿下にご投票なさらなかった理由は、謁見の間でお話しくださいましたね。ここでは、なぜ蒼玉殿下ではなく雪晴殿下に投票なさったのか、その理由をお聞かせください」
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