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37 もう頑張らないで
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ユウマくんの声は、何かをこらえるように震えている。
「頑張れるし、頑張る。だから、気をつかわなくていいよ」
なでるのをやめろ、という言い方じゃない。
心がゆるんで、せき止めていたものがあふれ出してしまう。だからもう、やさしくしないで。
そういう切羽詰まった口調だった。
ななめうしろから見るユウマくんの耳は、触れたらはじけそうなほど赤くなっている。
少し頭を傾けると、ユウマくんの顔が3分の1くらい見えた。唇が、噛みしめられて白くなっている。涙のしずくが、瞳にしがみついて揺れている。
私の視線に気づいたらしいユウマくんは、ふいっと顔を背けた。
友だちの前で泣きたくない。その気持ちはわかる。私だって、もしも美咲の前で大泣きしたなら、恥ずかしくてしばらく目を合わせられないと思う。
ユウマくんの意地を守るなら、さっさとここを出るべきだ。「美咲と一緒に遊ぶ」といううそも、いつお母さんにバレるかわからないし。
(そうだよ、早く帰らなくちゃ)
そう思うのに、ユウマくんの背中から手を離せなかった。そして、言わずにいられなかった。これ以上、ユウマくんがつらい思いをするのはいやだったから。
「ユウマくん、そんなこと言わないで。今まで、ずっと1人で頑張ってきたんでしょ? もう頑張らなくていいよ。もう、充分だよ」
ご飯もちゃんと食べてね、でないとそのうち倒れちゃう──と、続くはずだった私の声は、のどの奥へ引っこんでしまった。
突然、ユウマくんが床へ突っ伏したのだ。
「ユウマくんっ⁉︎」
まさか、本当に倒れてしまうなんて。助け起こそうとして細い肩をつかんだ時、ヒィーッと笛のような音が、ユウマくんの体から鳴った。
その体が痙攣したかと思うと、続けざまに、号泣が爆発した。
耳をつんざく泣き声が、わあわあと部屋いっぱいに反響する。どうすればいいのか、と途方に暮れて座りこんでいると、また壁が叩かれた。
──ドンドンドンッ!
回数だけじゃなく、音の大きさも増している。音に込められたいら立ちも。
まずい。相当怒っているんだ。そのうち、隣の人がここへ怒鳴りこんでくるかもしれない。
「ユウマくん、ちょっと静かにしたほうが……」
おそるおそる声をかけると、ユウマくんは土下座のままで手を伸ばして、タクマくんが使っていた掛け布団を自分のほうへたぐり寄せた。
そして、その掛け布団を、なんと口に詰めてしまった。
「え? え? ど、どうしたの?」
一体、何がしたいんだろう。たしかに声は小さくなったけれど。
困惑を誰かと共有したくて、私はタクマくんを見た。だけど、敷き布団の上で体育座りをするタクマくんは、くぐもった声を上げ続けるユウマくんを、静かに見つめるだけだ。
「あ、あのさ、タクマくん。ユウマくん、大丈夫かな?」
「何が?」
きょとんと聞き返されて、私の困惑はますます深まってしまった。
「何がって……ユウマくん、息できてるかな、とか思わない? 窒息しそうだし、止めたほうがいいよね?」
オロオロしながら尋ねると、タクマくんは平然と首を振った。
「大丈夫だよ。にいちゃん、いつもやってるから」
「頑張れるし、頑張る。だから、気をつかわなくていいよ」
なでるのをやめろ、という言い方じゃない。
心がゆるんで、せき止めていたものがあふれ出してしまう。だからもう、やさしくしないで。
そういう切羽詰まった口調だった。
ななめうしろから見るユウマくんの耳は、触れたらはじけそうなほど赤くなっている。
少し頭を傾けると、ユウマくんの顔が3分の1くらい見えた。唇が、噛みしめられて白くなっている。涙のしずくが、瞳にしがみついて揺れている。
私の視線に気づいたらしいユウマくんは、ふいっと顔を背けた。
友だちの前で泣きたくない。その気持ちはわかる。私だって、もしも美咲の前で大泣きしたなら、恥ずかしくてしばらく目を合わせられないと思う。
ユウマくんの意地を守るなら、さっさとここを出るべきだ。「美咲と一緒に遊ぶ」といううそも、いつお母さんにバレるかわからないし。
(そうだよ、早く帰らなくちゃ)
そう思うのに、ユウマくんの背中から手を離せなかった。そして、言わずにいられなかった。これ以上、ユウマくんがつらい思いをするのはいやだったから。
「ユウマくん、そんなこと言わないで。今まで、ずっと1人で頑張ってきたんでしょ? もう頑張らなくていいよ。もう、充分だよ」
ご飯もちゃんと食べてね、でないとそのうち倒れちゃう──と、続くはずだった私の声は、のどの奥へ引っこんでしまった。
突然、ユウマくんが床へ突っ伏したのだ。
「ユウマくんっ⁉︎」
まさか、本当に倒れてしまうなんて。助け起こそうとして細い肩をつかんだ時、ヒィーッと笛のような音が、ユウマくんの体から鳴った。
その体が痙攣したかと思うと、続けざまに、号泣が爆発した。
耳をつんざく泣き声が、わあわあと部屋いっぱいに反響する。どうすればいいのか、と途方に暮れて座りこんでいると、また壁が叩かれた。
──ドンドンドンッ!
回数だけじゃなく、音の大きさも増している。音に込められたいら立ちも。
まずい。相当怒っているんだ。そのうち、隣の人がここへ怒鳴りこんでくるかもしれない。
「ユウマくん、ちょっと静かにしたほうが……」
おそるおそる声をかけると、ユウマくんは土下座のままで手を伸ばして、タクマくんが使っていた掛け布団を自分のほうへたぐり寄せた。
そして、その掛け布団を、なんと口に詰めてしまった。
「え? え? ど、どうしたの?」
一体、何がしたいんだろう。たしかに声は小さくなったけれど。
困惑を誰かと共有したくて、私はタクマくんを見た。だけど、敷き布団の上で体育座りをするタクマくんは、くぐもった声を上げ続けるユウマくんを、静かに見つめるだけだ。
「あ、あのさ、タクマくん。ユウマくん、大丈夫かな?」
「何が?」
きょとんと聞き返されて、私の困惑はますます深まってしまった。
「何がって……ユウマくん、息できてるかな、とか思わない? 窒息しそうだし、止めたほうがいいよね?」
オロオロしながら尋ねると、タクマくんは平然と首を振った。
「大丈夫だよ。にいちゃん、いつもやってるから」
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