友だちは君の声だけ

山河 枝

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33 1つ目の用事

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「用事って……?」
 
 ユウマくんは、うしろへ1歩さがった。不安そうに眉をひそめて、首を傾けている。そうすると、長めの黒髪が細い肩に乗った。

「1つ目はね、謝りたかったの。昨日、『ユウマくんの家に行く』って言ったのに、行けなくてゴメン」
「それは……ううん。ぼくもゴメン」

 どうしてユウマくんが謝るんだろう。今度は私が首をかしげると、ユウマくんはますます背中を丸めて言った。

「メイさんに、うそを教えちゃった」
「うそ?」
「もう知ってるかもしれないけど……ぼく、電話で、『アパートはカムギ駅の近くだ』って言ったでしょ。でも本当は、ナカムギ駅だったんだ。メイさんが電話を切ったあと、心配になって確かめに行ったら、間違いに気づいて……」

 それから慌てて私に知らせようとしたけれど、電話をかけてもかけても出なかった──そう言ってユウマくんはうなだれた。

「本当にゴメンね、メイさん。普段、電車に乗ることがないからうっかりしちゃって……」
「そ、そんな……私こそ、電話をかけてくれたのに、出なくてゴメンね」

 昨日、「どうせケンカになる」と決めつけずに電話に出ていたら、もっと早くここへ来ることができたのだ。しかも、何度も知らせようとしてくれたのに、無視したなんて。
 申し訳なくて、ぺこぺこと頭を下げると、ユウマくんはあたふたと手を振った。

「違うよ! はじめから、ぼくが駅の名前を確認すればよかったんだ。メイさん、道に迷ったんじゃない?」
「……ううん、大丈夫だった」

 ちょっと考えてから、うそをついた。
 4時間もさまよった、と言ったら、ユウマくんはショックで泣き出してしまいそうだ。今でさえ、心配そうに眉を下げて、両手を握りしめているのに。
 それに、4年生にもなって迷子になるなんて、恥ずかしい。

 だけどすぐに、うそをつくんじゃなかった、と焦る羽目になった。

「じゃあ、どうして昨日、ぼくの家へ来なかったの?」
「えっ。えっと……えーっと……」

 つぶやきながら頭をひねって、新しいうそを考えたけれど、どうにもごまかせそうにない。諦めて、少しだけ本当のことを白状した。

「実は……黙って家を出たんだけど、途中でお父さんとお母さんに見つかって、連れ戻されちゃったんだ」
「そ、そうだったんだ。なのに、わざわざ今日も来てくれたんだね」
「それは……ユウマくんに、言わなきゃいけないことがあるから」
「ぼくに?」

 さあ、用事の2つ目だ。昨日、連れ戻されてから起きたことを言わなくちゃ。
 言わなくちゃいけないのだけれど……ユウマくんの顔を見ていられなくて、私はうつむいて口を開いた。

「お父さんたちに、『どこへ行くつもりだったのか』とか、『何をするつもりだったのか』とか、いろいろ聞かれて……私、ユウマくんのこと、しゃべっちゃった」
「え……な、何て言ってた?」
「『ジソウに伝えよう』って。それで、お父さんが……ジソウっていうところに電話した」

 かたく目をつむり、Tシャツの裾をぎゅうっとつかんだ。ユウマくんの反応が怖かった。
 少しして、頭の上から、ユウマくんの困ったような声が降ってきた。
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