友だちは君の声だけ

山河 枝

文字の大きさ
上 下
18 / 47

18 ユウマくんの家は

しおりを挟む
 近いね、と言いかけた私は、ピタリと息を止めた。
 ユウマくんの言葉を、胸のうちでくり返す。口にも出して、確認する。

「ムツバスーパー……?」
『ん?』
「今、ムツバスーパーって言った?」
『うん』
「え……え? うそ、本当に? 本当に、家から走って5分?」
『う、うん。信号に捕まったら、もっとかかるかもしれないけど』

 ユウマくんの家の近くに、ムツバスーパーがある。熱いお湯みたいなものが、ジリジリと背骨を這い上がってくる。
 だけど、私が知っている場所と同じだろうか? 同じ名前の、別のスーパーかもしれない。

「ユウマくん。あの、あのさ、ムツバスーパーって……茶色い建物?」
『え? うん。よく知ってるね』

 まさか、本当に──予感で、汗ばんだ手が震える。ケータイを落とさないよう、ぎゅっと握って、つぶれそうなほど耳へ押しつける。

「ねえ、スーパーの前に、大きな駐車場がある? お店の人のエプロンはオレンジ? 近くに猫がいっぱいいる?」

 息せききって、まくし立てる。その合間にユウマくんは、「え」とか「あの」しか言わない。
 それもそうだ。電話の相手が、切れ目なくしゃべっているんだから、口を挟めるわけがない。

 わかっていても、興奮の沸騰が抑えられない。

「どう? ユウマくんの家の近くにあるスーパーって、そのムツバスーパー?」
『そ、そうだけど……メイさん、なんでそんなこと知ってるの』

 ユウマくんも、私と同じことに気づいたらしい。質問というより、確認するように尋ねてきた。

 電話越しに、踏み切りの音が聞こえてくる。駅のアナウンスと、ムツバスーパーの近くで聞いた、楽しげな発着音も。

 私はベッドを飛び降りて、窓辺に駆け寄った。震える指で鍵を外して、ガラッと窓を開ける。
 ムツバスーパーがあるほうへ首をつきだして、必死に目をこらす。

(あそこに、ユウマくんがいるの?)

 近い。なんて近いんだろう。つながれるのは、声だけだと思っていたのに。ずっとずっと遠くにいる、外国の人みたいな気がしていたのに。ユウマくんが、こんなに近くに住んでいたなんて。

(ユウマくんのアパートは、ムツバスーパーまで走って5分)

 それなら、ここから自転車で行けるかもしれない。ユウマくんを、手伝ってあげられるかもしれない……!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

湖の民

影燈
児童書・童話
 沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。  そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。  優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。  だがそんなある日。  里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。  母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

泣き虫な君を、主人公に任命します!

成木沢ヨウ
児童書・童話
『演技でピンチを乗り越えろ!!』  小学六年生の川井仁太は、声優になるという夢がある。しかし父からは、父のような優秀な医者になれと言われていて、夢を打ち明けられないでいた。  そんな中いじめっ子の野田が、隣のクラスの須藤をいじめているところを見てしまう。すると謎の男女二人組が現れて、須藤を助けた。その二人組は学内小劇団ボルドの『宮風ソウヤ』『星みこと』と名乗り、同じ学校の同級生だった。  ひょんなことからボルドに誘われる仁太。最初は断った仁太だが、学芸会で声優を目指す役を演じれば、役を通じて父に宣言することができると言われ、夢を宣言する勇気をつけるためにも、ボルドに参加する決意をする。  演技を駆使して、さまざまな困難を乗り越える仁太たち。  葛藤しながらも、懸命に夢を追う少年たちの物語。

霊能者、はじめます!

島崎 紗都子
児童書・童話
小学六年生の神埜菜月(こうのなつき)は、ひょんなことから同じクラスで学校一のイケメン鴻巣翔流(こうのすかける)が、霊が視えて祓えて成仏させることができる霊能者だと知る。 最初は冷たい性格の翔流を嫌う菜月であったが、少しずつ翔流の優しさを知り次第に親しくなっていく。だが、翔流と親しくなった途端、菜月の周りで不可思議なことが起こるように。さらに翔流の能力の影響を受け菜月も視える体質に…!

ホスト科のお世話係になりました

西羽咲 花月
児童書・童話
中2の愛美は突如先生からお世話係を任命される 金魚かな? それともうさぎ? だけど連れてこられた先にいたのは4人の男子生徒たちだった……!? ホスト科のお世話係になりました!

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

めぐりあい

児童書・童話
名も無き草が天国に入る物語。 (著作権は全て放棄します)

処理中です...