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18 ユウマくんの家は
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近いね、と言いかけた私は、ピタリと息を止めた。
ユウマくんの言葉を、胸のうちでくり返す。口にも出して、確認する。
「ムツバスーパー……?」
『ん?』
「今、ムツバスーパーって言った?」
『うん』
「え……え? うそ、本当に? 本当に、家から走って5分?」
『う、うん。信号に捕まったら、もっとかかるかもしれないけど』
ユウマくんの家の近くに、ムツバスーパーがある。熱いお湯みたいなものが、ジリジリと背骨を這い上がってくる。
だけど、私が知っている場所と同じだろうか? 同じ名前の、別のスーパーかもしれない。
「ユウマくん。あの、あのさ、ムツバスーパーって……茶色い建物?」
『え? うん。よく知ってるね』
まさか、本当に──予感で、汗ばんだ手が震える。ケータイを落とさないよう、ぎゅっと握って、つぶれそうなほど耳へ押しつける。
「ねえ、スーパーの前に、大きな駐車場がある? お店の人のエプロンはオレンジ? 近くに猫がいっぱいいる?」
息せききって、まくし立てる。その合間にユウマくんは、「え」とか「あの」しか言わない。
それもそうだ。電話の相手が、切れ目なくしゃべっているんだから、口を挟めるわけがない。
わかっていても、興奮の沸騰が抑えられない。
「どう? ユウマくんの家の近くにあるスーパーって、そのムツバスーパー?」
『そ、そうだけど……メイさん、なんでそんなこと知ってるの』
ユウマくんも、私と同じことに気づいたらしい。質問というより、確認するように尋ねてきた。
電話越しに、踏み切りの音が聞こえてくる。駅のアナウンスと、ムツバスーパーの近くで聞いた、楽しげな発着音も。
私はベッドを飛び降りて、窓辺に駆け寄った。震える指で鍵を外して、ガラッと窓を開ける。
ムツバスーパーがあるほうへ首をつきだして、必死に目をこらす。
(あそこに、ユウマくんがいるの?)
近い。なんて近いんだろう。つながれるのは、声だけだと思っていたのに。ずっとずっと遠くにいる、外国の人みたいな気がしていたのに。ユウマくんが、こんなに近くに住んでいたなんて。
(ユウマくんのアパートは、ムツバスーパーまで走って5分)
それなら、ここから自転車で行けるかもしれない。ユウマくんを、手伝ってあげられるかもしれない……!
ユウマくんの言葉を、胸のうちでくり返す。口にも出して、確認する。
「ムツバスーパー……?」
『ん?』
「今、ムツバスーパーって言った?」
『うん』
「え……え? うそ、本当に? 本当に、家から走って5分?」
『う、うん。信号に捕まったら、もっとかかるかもしれないけど』
ユウマくんの家の近くに、ムツバスーパーがある。熱いお湯みたいなものが、ジリジリと背骨を這い上がってくる。
だけど、私が知っている場所と同じだろうか? 同じ名前の、別のスーパーかもしれない。
「ユウマくん。あの、あのさ、ムツバスーパーって……茶色い建物?」
『え? うん。よく知ってるね』
まさか、本当に──予感で、汗ばんだ手が震える。ケータイを落とさないよう、ぎゅっと握って、つぶれそうなほど耳へ押しつける。
「ねえ、スーパーの前に、大きな駐車場がある? お店の人のエプロンはオレンジ? 近くに猫がいっぱいいる?」
息せききって、まくし立てる。その合間にユウマくんは、「え」とか「あの」しか言わない。
それもそうだ。電話の相手が、切れ目なくしゃべっているんだから、口を挟めるわけがない。
わかっていても、興奮の沸騰が抑えられない。
「どう? ユウマくんの家の近くにあるスーパーって、そのムツバスーパー?」
『そ、そうだけど……メイさん、なんでそんなこと知ってるの』
ユウマくんも、私と同じことに気づいたらしい。質問というより、確認するように尋ねてきた。
電話越しに、踏み切りの音が聞こえてくる。駅のアナウンスと、ムツバスーパーの近くで聞いた、楽しげな発着音も。
私はベッドを飛び降りて、窓辺に駆け寄った。震える指で鍵を外して、ガラッと窓を開ける。
ムツバスーパーがあるほうへ首をつきだして、必死に目をこらす。
(あそこに、ユウマくんがいるの?)
近い。なんて近いんだろう。つながれるのは、声だけだと思っていたのに。ずっとずっと遠くにいる、外国の人みたいな気がしていたのに。ユウマくんが、こんなに近くに住んでいたなんて。
(ユウマくんのアパートは、ムツバスーパーまで走って5分)
それなら、ここから自転車で行けるかもしれない。ユウマくんを、手伝ってあげられるかもしれない……!
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