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神様ってなんなんだ?
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「こ、これは……二十万、父さん、これ本当に振り込まれたんですか? 凄いな、あの稲荷神社がたった三ヶ月で。こんな大金、神社の収入じゃありませんよ!」
稲荷神社の帳簿に通帳の金額を転記していた葉介は通帳を持った手を震わせた。
「ライブ配信を神社でやるなんて、と思っていた時期が父にもあった。しかも神……、まぁ、これぞ神の恩恵。素晴らしい話では無いか」
「父さん、開き直りましたね」
そんな遣り取りが宮司親子の間であったと白蛇山神社に出勤してきた葉介から聞いた。
彼はウカ様より預かった手土産を持ってきた。なんと買おうと思っていた日本酒、まんさくの花の大吟醸、最高ランクだった。
「すっごーい! これが広告収入ってやつですね。やったー」
きりはどこで聞いたのか広告収入などという言葉を知っていた。
「ゆかりさんがわたしを撮影してお金儲けするって言ってた時期があるじゃないですか」
葉介がギョッとして私を見ている。
「まさか、いかがわしい撮影を……」
「んなわけあるかぃ! 人聞きの悪い。かわいいきりたんの姿を全世界に配信してみんな喜ぶ、私も儲かって喜ぶ。そーゆービジネスモデルだから!」
「あぁ、モフモフ動画のことでしたか。びっくりしました」
稲荷神社の参拝者を増やして収入を安定させる事ができたので一段落だ。
これから先はあの二人なら上手くやっていけると思う。今度は自分の課題を考えなきゃ。
「私ができる人と神との関係性作りかぁ。うーん、思いつかないなぁ」
神界部屋のソファーにあぐらをかいてうんうん唸っていると、きりが冷たい麦茶をいれてくれた。
「このあいだウカ様のライブ配信が成功してたじゃ無いですか。うちでもやってみてはいかがですか?」
「私が神で-すって? 無名の神がそんなのやったらそれこそ新興宗教だよ」
「山神様はやってますけどね。うわばみ姉さんの酒呑み配信って」
「えっえー、恐ろしい適応能力。今度見てみよっと。
じゃなくて私が言いたいのは配信でもなんでもいいけど、信者を増やすことが神様の仕事じゃないでしょって」
信仰を集める事が神と人の関係性が高まった理想郷なのだろうか?
私はそれを違うと感じている。
盲目的な新興宗教のイメージがあるためだ。しかし高天原の神は信者を増やすことが目的の可能性はあるかもしれない。
今の時代に神を押し出したって良いことなど無いと思う。
「うん、元OLには難しいわ。葉介君にも聞いてみよう。明日は月初だからちょうどミーティングだしね」
夜になって葉介が拝殿に現れた。扉を開いて中へ入ると直接神界部屋だ。
「きたきた! 買ってきてくれた? ごめんねぇお金はお賽銭から会議費とかなんかの名目で仕訳してね」
「焼き鳥盛り合わせと缶チューハイが会議費ですか。そうですか」
「まぁまぁまぁ、軽く呑んで食べて、ざっくばらんに思ったことを話して欲しいわけよ」
きりはコンビニ袋の中身を手早くテーブルに配置している。コップは四つだ。
「すごく美味しそう、葉介君、これ、わたしの分もあるよね」
「ちゃんときり先輩の分も買ってきましたよ。一人五本ずつですからね」
「良い後輩だよ、えらいぞ葉介君っ!」
きりたん先輩、嬉しそうである。
そこへ悠々と山神が現れる。今夜は赤いジャージ姿だ。以前私が着ていたのを見て真似したら気に入ったらしい。
「おお、美味そうじゃ。鶏じゃな、わしの好物なんじゃ」
「山神様、一人五本ずつだそうですよ」
きりがすかさずけん制する。
「はいはい、きり先輩のはお皿に分けておきますからゆっくり食べてくださいね」
「わーい」
葉介は若いのに気が利く子だ。きり先輩にプライドはあるのだろうか。
「あー、それでは皆さん、適当につまんで呑んでください。今宵、葉介君をこの部屋に招いたのは、神職の考えが聞きたかったからなのです。忌憚のない意見を聞かせてくれたまえ」
「はい。して、その内容は?」
「大きく言えば人と神との共存共栄の可否、小さい事だと私はなにをしたらいいの?」
「ざっくりしてますね」
「うむ。葉介君、早速だけど神道とかの事を教えてくれない?」
「ちゃんと説明したら何年もかかりますが、私が思っている神道のわかりやすい部分だけ話しますと、神道は世界三大宗教とまったく違うところがあります。教えや開祖が無いんです」
「あー、たしかに」
「古事記や日本書紀の神話だけが日本の神話を記述したものと言われていますが、あの話、聖書みたいに経典にしたら駄目ですよね」
「神様の失敗談は教えといえば教えかもしれないけどね」
「次に神道でおこなう所作は何をしているかというと、神の怒りに触れないように神に近づく作法です」
「作法ね。茶道みたいなものかな」
「そうですね。古来、日本の神は近づくと危険なものでした。そのため神を祀り、捧げ物をして荒ぶる事の無いよう鎮める人達が伝えてきたものです」
「そうじゃな。人なんぞ、我らの領域に生えた雑草のようなモノじゃ。邪魔と思えば喰ってたわ」
「うーん、ひどい。雑草ならほっといてやればよかったじゃないですか。
神道はそういった祀りごとをしてきたわけだけど、今まで人は神様にお願い事をして叶えて貰って益々お供え物をしていたんでしょ」
「神様へお願い事をする慣習が始まったのは仏教の神様と日本の神様が混ざった頃からでしょうね。仏教の救いを神に求めるように日本神話の神様にもお願いごとをしてしまうのではと」
「なるほど」
「平安初期の話ですから真偽はわかりませんが、神仏習合で、神とご先祖様はいつもどこかで見ている存在だという考え方が日本人の思想になったのだと思っています」
生活の端々に神や先祖の存在を感じ、畏れ、見えないものに恥じない人生を過ごすことが昔の人の暮らし方だったと思う。いまの人々はそれを忘れかけている。
神仏習合で古い神々は名を忘れられ、畏れも薄まり、祀られなくなっていった。
そして力を失い、消えた神も数多くいたのだろう。
それでも地域で守り、語り継がれた神も居る。
神話に記されることも無い無名の神は人々の恐怖と畏れの記憶と共に細々と祀られ続けた。
それは災害の跡であり、滾滾と湧く泉であり、大自然が作り出した造形だ。
パワースポットも静かな大木があるかと思えば、荒々しい火山もそれだ。
「神を自然現象にたとえるならば、神職は原始的な事をやっている事になります。が、現に神が居ることを知った今は、畏れ、讃えて、人々が神の怒りに触れないように神社で祀り、管理するのが神職の仕事なのだと感じます。
管理なんて恐れ多い言葉ですが」
「あのさ神が自然現象に対する畏れだとしたら、神様って善悪の概念が無いんじゃない?」
「そうですね、うーん」
葉介は腕を組んで考え込んだ。
「ゆかりよ、善悪の概念は人が造ったものじゃな。たしかにそんなこと考えたことも無かったわ」
「それなのかな。ヒルメ様が人間を神にして知りたかった事」
私の中にぼんやりと天照大神の思惑が浮かびかかっている。
「ゆかりさん、神社ってたくさんの人がお願いに来ますけど、その人が悪い人だったらゆかりさんはそれを叶えますか」
きりが何の気なしに言ったそれはまさしく私が気になった本質だ。
「ゆかりなら人を殺して欲しいと頼まれてもその願いは叶えないであろうな。じゃがわしらはその地に在るだけじゃ。元より人の願いなんぞ聞かぬ」
「それは山神様だからでしょ~」
人の話なんかどうでも良さそうな山神だ、そりゃ聞かないよと笑って聞いていたが、山神は笑っていなかった。
「なぜ我らが人の願いを叶える必要がある?」
本当に不思議そうな顔をして山神は言ったのだ。
「それか! 神様の力はパワースポットなんだ。人の願いも呪いも善悪なんか関係なく元から聞いてなんかいない。想いのベクトルを強化するだけなんだよ! ね? 山神様、そうなんでしょう?」
「うむ。そう作用するだろうな。善悪の願いなど区別されぬ。想いの強さで願望は叶えられる方向に進むだろう」
私は山神という生き物? が私達と違う価値観に居るものだと改めて気づいてしまった。
地球人と宇宙人ほどの違いだ。
「ゆかりさん、山神様のおっしゃるとおりです。神様はお願い事を頼む相手じゃありません。神への祝詞は願い事なんかじゃないんです。
神社に詣でるのは、神を讃え、人が善く生きていられることのお礼を伝えるためなんです」
「神道は神を利用しようって気はないんだね」
「祝詞に頼み事を乗せることはします。神の力でベクトル強化されて効果が発生するのだと思います。神にちゃんと言葉を伝えられる神官もいるとは聞いてますけど利用ではありません」
葉介君の言うことは正しいと思う。では神様って何者なのだろう。
人と神の共通点は、言語、家族、食文化、知識の価値といったところだろうか。
では人間と違うものはなんだろうかと考えた。
宗教観は無さそうだ。
文化の核となる芸術や表現は理解していると思う。
共同体としての道徳はあるのだろうか。
他の神や弟でも平気で殺してしまう神話を信じるなら、価値観は絶対違う。
パワースポットに住まないと力が弱くなってしまう?
「なんか考えてたら、神様って宇宙人と変わらない気がしてきたよ。山神様が宇宙人だって言われたらすんなり信じられるね。私は……、人間の価値観で神様をやればいいのかな」
「わたしはゆかりさんのままでいいと思います」
きりが私の手を握ってくる。
「おぬしなりの振る舞いを続けておれば良いのじゃ。善悪を判断をするも良し、荒神として人を遠ざけるも良し、高天原と剣を交えるも良し」
「最後のはちょっと」
「地上の神を統一し、高天原と一戦交えて最高神の座を狙ったって良いのじゃぞ。わしは消えたくないからやらんが」
「宇宙人か……。僕の今まで知っていたことがなんというか、はっきり理解できた感じがします。都会には神も、神の末裔も実在してましたよ」
葉介が何を見てきて理解したのか、ちょっとヤバそうなので聞かないが。
人間が神の仕事をしたらどうなるか、ヒルメ様にもわからなかったから私を神にしたのだ。
それは神が理解出来ない道徳や善悪を人の神がどのように扱うのかを知りたかったのかもしれない。
「あーっ、善悪の判断なんて、個人で違うんだから裁判官を神にしたほうがよかったんじゃないのー」
「神にも善悪の区別ぐらいつくわ。わしに逆らう者はすべて悪じゃ」
山神は神のステレオタイプなのだろうな。
すなわち神は自分勝手なのだ。
私と葉介は山神の言葉ですべてを理解して顔を見合わせてため息をついた。
「わたしはゆかりさんが善でゆかりさんを悲しませる人は悪だと思います!」
「きりたん! おまえはずーっと私の味方にいておくれー。好き好きー」
“白蛇山大神、叙位、従四位下を与える”
「なんでよー!」
稲荷神社の帳簿に通帳の金額を転記していた葉介は通帳を持った手を震わせた。
「ライブ配信を神社でやるなんて、と思っていた時期が父にもあった。しかも神……、まぁ、これぞ神の恩恵。素晴らしい話では無いか」
「父さん、開き直りましたね」
そんな遣り取りが宮司親子の間であったと白蛇山神社に出勤してきた葉介から聞いた。
彼はウカ様より預かった手土産を持ってきた。なんと買おうと思っていた日本酒、まんさくの花の大吟醸、最高ランクだった。
「すっごーい! これが広告収入ってやつですね。やったー」
きりはどこで聞いたのか広告収入などという言葉を知っていた。
「ゆかりさんがわたしを撮影してお金儲けするって言ってた時期があるじゃないですか」
葉介がギョッとして私を見ている。
「まさか、いかがわしい撮影を……」
「んなわけあるかぃ! 人聞きの悪い。かわいいきりたんの姿を全世界に配信してみんな喜ぶ、私も儲かって喜ぶ。そーゆービジネスモデルだから!」
「あぁ、モフモフ動画のことでしたか。びっくりしました」
稲荷神社の参拝者を増やして収入を安定させる事ができたので一段落だ。
これから先はあの二人なら上手くやっていけると思う。今度は自分の課題を考えなきゃ。
「私ができる人と神との関係性作りかぁ。うーん、思いつかないなぁ」
神界部屋のソファーにあぐらをかいてうんうん唸っていると、きりが冷たい麦茶をいれてくれた。
「このあいだウカ様のライブ配信が成功してたじゃ無いですか。うちでもやってみてはいかがですか?」
「私が神で-すって? 無名の神がそんなのやったらそれこそ新興宗教だよ」
「山神様はやってますけどね。うわばみ姉さんの酒呑み配信って」
「えっえー、恐ろしい適応能力。今度見てみよっと。
じゃなくて私が言いたいのは配信でもなんでもいいけど、信者を増やすことが神様の仕事じゃないでしょって」
信仰を集める事が神と人の関係性が高まった理想郷なのだろうか?
私はそれを違うと感じている。
盲目的な新興宗教のイメージがあるためだ。しかし高天原の神は信者を増やすことが目的の可能性はあるかもしれない。
今の時代に神を押し出したって良いことなど無いと思う。
「うん、元OLには難しいわ。葉介君にも聞いてみよう。明日は月初だからちょうどミーティングだしね」
夜になって葉介が拝殿に現れた。扉を開いて中へ入ると直接神界部屋だ。
「きたきた! 買ってきてくれた? ごめんねぇお金はお賽銭から会議費とかなんかの名目で仕訳してね」
「焼き鳥盛り合わせと缶チューハイが会議費ですか。そうですか」
「まぁまぁまぁ、軽く呑んで食べて、ざっくばらんに思ったことを話して欲しいわけよ」
きりはコンビニ袋の中身を手早くテーブルに配置している。コップは四つだ。
「すごく美味しそう、葉介君、これ、わたしの分もあるよね」
「ちゃんときり先輩の分も買ってきましたよ。一人五本ずつですからね」
「良い後輩だよ、えらいぞ葉介君っ!」
きりたん先輩、嬉しそうである。
そこへ悠々と山神が現れる。今夜は赤いジャージ姿だ。以前私が着ていたのを見て真似したら気に入ったらしい。
「おお、美味そうじゃ。鶏じゃな、わしの好物なんじゃ」
「山神様、一人五本ずつだそうですよ」
きりがすかさずけん制する。
「はいはい、きり先輩のはお皿に分けておきますからゆっくり食べてくださいね」
「わーい」
葉介は若いのに気が利く子だ。きり先輩にプライドはあるのだろうか。
「あー、それでは皆さん、適当につまんで呑んでください。今宵、葉介君をこの部屋に招いたのは、神職の考えが聞きたかったからなのです。忌憚のない意見を聞かせてくれたまえ」
「はい。して、その内容は?」
「大きく言えば人と神との共存共栄の可否、小さい事だと私はなにをしたらいいの?」
「ざっくりしてますね」
「うむ。葉介君、早速だけど神道とかの事を教えてくれない?」
「ちゃんと説明したら何年もかかりますが、私が思っている神道のわかりやすい部分だけ話しますと、神道は世界三大宗教とまったく違うところがあります。教えや開祖が無いんです」
「あー、たしかに」
「古事記や日本書紀の神話だけが日本の神話を記述したものと言われていますが、あの話、聖書みたいに経典にしたら駄目ですよね」
「神様の失敗談は教えといえば教えかもしれないけどね」
「次に神道でおこなう所作は何をしているかというと、神の怒りに触れないように神に近づく作法です」
「作法ね。茶道みたいなものかな」
「そうですね。古来、日本の神は近づくと危険なものでした。そのため神を祀り、捧げ物をして荒ぶる事の無いよう鎮める人達が伝えてきたものです」
「そうじゃな。人なんぞ、我らの領域に生えた雑草のようなモノじゃ。邪魔と思えば喰ってたわ」
「うーん、ひどい。雑草ならほっといてやればよかったじゃないですか。
神道はそういった祀りごとをしてきたわけだけど、今まで人は神様にお願い事をして叶えて貰って益々お供え物をしていたんでしょ」
「神様へお願い事をする慣習が始まったのは仏教の神様と日本の神様が混ざった頃からでしょうね。仏教の救いを神に求めるように日本神話の神様にもお願いごとをしてしまうのではと」
「なるほど」
「平安初期の話ですから真偽はわかりませんが、神仏習合で、神とご先祖様はいつもどこかで見ている存在だという考え方が日本人の思想になったのだと思っています」
生活の端々に神や先祖の存在を感じ、畏れ、見えないものに恥じない人生を過ごすことが昔の人の暮らし方だったと思う。いまの人々はそれを忘れかけている。
神仏習合で古い神々は名を忘れられ、畏れも薄まり、祀られなくなっていった。
そして力を失い、消えた神も数多くいたのだろう。
それでも地域で守り、語り継がれた神も居る。
神話に記されることも無い無名の神は人々の恐怖と畏れの記憶と共に細々と祀られ続けた。
それは災害の跡であり、滾滾と湧く泉であり、大自然が作り出した造形だ。
パワースポットも静かな大木があるかと思えば、荒々しい火山もそれだ。
「神を自然現象にたとえるならば、神職は原始的な事をやっている事になります。が、現に神が居ることを知った今は、畏れ、讃えて、人々が神の怒りに触れないように神社で祀り、管理するのが神職の仕事なのだと感じます。
管理なんて恐れ多い言葉ですが」
「あのさ神が自然現象に対する畏れだとしたら、神様って善悪の概念が無いんじゃない?」
「そうですね、うーん」
葉介は腕を組んで考え込んだ。
「ゆかりよ、善悪の概念は人が造ったものじゃな。たしかにそんなこと考えたことも無かったわ」
「それなのかな。ヒルメ様が人間を神にして知りたかった事」
私の中にぼんやりと天照大神の思惑が浮かびかかっている。
「ゆかりさん、神社ってたくさんの人がお願いに来ますけど、その人が悪い人だったらゆかりさんはそれを叶えますか」
きりが何の気なしに言ったそれはまさしく私が気になった本質だ。
「ゆかりなら人を殺して欲しいと頼まれてもその願いは叶えないであろうな。じゃがわしらはその地に在るだけじゃ。元より人の願いなんぞ聞かぬ」
「それは山神様だからでしょ~」
人の話なんかどうでも良さそうな山神だ、そりゃ聞かないよと笑って聞いていたが、山神は笑っていなかった。
「なぜ我らが人の願いを叶える必要がある?」
本当に不思議そうな顔をして山神は言ったのだ。
「それか! 神様の力はパワースポットなんだ。人の願いも呪いも善悪なんか関係なく元から聞いてなんかいない。想いのベクトルを強化するだけなんだよ! ね? 山神様、そうなんでしょう?」
「うむ。そう作用するだろうな。善悪の願いなど区別されぬ。想いの強さで願望は叶えられる方向に進むだろう」
私は山神という生き物? が私達と違う価値観に居るものだと改めて気づいてしまった。
地球人と宇宙人ほどの違いだ。
「ゆかりさん、山神様のおっしゃるとおりです。神様はお願い事を頼む相手じゃありません。神への祝詞は願い事なんかじゃないんです。
神社に詣でるのは、神を讃え、人が善く生きていられることのお礼を伝えるためなんです」
「神道は神を利用しようって気はないんだね」
「祝詞に頼み事を乗せることはします。神の力でベクトル強化されて効果が発生するのだと思います。神にちゃんと言葉を伝えられる神官もいるとは聞いてますけど利用ではありません」
葉介君の言うことは正しいと思う。では神様って何者なのだろう。
人と神の共通点は、言語、家族、食文化、知識の価値といったところだろうか。
では人間と違うものはなんだろうかと考えた。
宗教観は無さそうだ。
文化の核となる芸術や表現は理解していると思う。
共同体としての道徳はあるのだろうか。
他の神や弟でも平気で殺してしまう神話を信じるなら、価値観は絶対違う。
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「なんか考えてたら、神様って宇宙人と変わらない気がしてきたよ。山神様が宇宙人だって言われたらすんなり信じられるね。私は……、人間の価値観で神様をやればいいのかな」
「わたしはゆかりさんのままでいいと思います」
きりが私の手を握ってくる。
「おぬしなりの振る舞いを続けておれば良いのじゃ。善悪を判断をするも良し、荒神として人を遠ざけるも良し、高天原と剣を交えるも良し」
「最後のはちょっと」
「地上の神を統一し、高天原と一戦交えて最高神の座を狙ったって良いのじゃぞ。わしは消えたくないからやらんが」
「宇宙人か……。僕の今まで知っていたことがなんというか、はっきり理解できた感じがします。都会には神も、神の末裔も実在してましたよ」
葉介が何を見てきて理解したのか、ちょっとヤバそうなので聞かないが。
人間が神の仕事をしたらどうなるか、ヒルメ様にもわからなかったから私を神にしたのだ。
それは神が理解出来ない道徳や善悪を人の神がどのように扱うのかを知りたかったのかもしれない。
「あーっ、善悪の判断なんて、個人で違うんだから裁判官を神にしたほうがよかったんじゃないのー」
「神にも善悪の区別ぐらいつくわ。わしに逆らう者はすべて悪じゃ」
山神は神のステレオタイプなのだろうな。
すなわち神は自分勝手なのだ。
私と葉介は山神の言葉ですべてを理解して顔を見合わせてため息をついた。
「わたしはゆかりさんが善でゆかりさんを悲しませる人は悪だと思います!」
「きりたん! おまえはずーっと私の味方にいておくれー。好き好きー」
“白蛇山大神、叙位、従四位下を与える”
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