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稲荷神社から手を付けよう
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新しい神職として宮司の息子が働き始めて数日、父親からの引き継ぎも終わり、思ったより忙しい白蛇山神社の仕事は一通りこなしてくれていた。
かわいい系のイケメン、葉介の作務衣姿を目的にした女性客、特に年配の方が増えた気がする。
私と言えば、神の力が人々の発展にも寄与するにはどうしたらよいのか、ヒマな時には一応がんばって考えるようにしていた。
「きりちゃん、最近ウカ様のところはどんな感じ?」
巫女姿で一生懸命人々の願い事を書き留めているきりに声を掛ける。
「稲荷の両隣にあった商店さんが再開したんです。
宮司さんが稲荷の社務所として場所を借りる形にしてるんですって。
あまり売れていないみたいですけど、お守りも販売しているみたいですよ」
「そうよねぇ、そのくらいしかできないか。
稲荷の周りに住んでいる人たちはどう思っているのかな」
元々シャッター商店街の寂れた場所だ。年配の方々が支えるしか無い社なのだ。
「宮司さんが稲荷神社の事を一軒一軒回って説明してきたらしいです。
ウカ様はすごく喜んでました。そのおかげで商店街に住んでる人たちは近くを通るたびにお参りしてくれるそうです」
商店街のお膝元にある商売繁盛の稲荷神社なのだから、もっと前から大事にすれば良かったのにとは思うが。
既に五十年前からウカ様が社から出張に出ていたのだ。
商店街が凋落を始めた時期と一致している。
祭神が戻った今、商店街も少しは景気がよくなるかもしれないが、今の時代なかなか元の活気は戻らないだろう。
やはり、稲荷神社には追加のてこ入れが必要だ。
拝殿に敷かれた座布団に葉介ときりが座っている。
私を含めた三人でのミーティングだ。
今日は神界部屋は使わない。あちらはやすらぎの場だ。
「あの、ゆかりさん、気軽に神様が出てきちゃってよろしいのですかね?
で、この猫は?」
「葉介くん! あなたはわたしの後輩だよ。
猫だけどずっと前からゆかりさんの神使やってるんだから。
それと、わたしはきりって言う名前だから『きり先輩』って呼んでよね」
きりは猫の姿のままじっと葉介を睨んで話している。
(この子、センパイ風吹かしてる、かわいいったら)
「きりは私の神使だからあなたのセンパイってこと、らしいのでよろしくね」
「ゆかりさぁん、わたしはちゃんと先輩ですってばー」
「その話はおいといて、葉介君は知らないと思うので経緯を説明するね」
「はい? なんのお話でしょう」
私は葉介にウカ様が戻っていること、葉介の祖父が街の稲荷の敷地を売ってしまい、稲荷の神域が狭められていることを話した。
「そんなことがあったんですか、バチあたりなことを」
「いやいや、それは仕方の無いことだと思うよ。
神社の収入って氏子の寄付ぐらいでしょ、普通はどこも身を削って守っているらしいものね」
「そうだとしても神社の敷地を売るなど……。
まぁ、僕には責められないですね」
街に実家がある葉介は、稲荷の存在は知っていただろうが、祖父の代に神社を切り売りしてしまった事は葉介の父の代までしか詳しいいきさつは伝わっていないと思う。
代々神職の家系と聞いているが、葉介を社会に出したのは父親の功績だ。
これからの神社経営は、人の社会、経済と関わりを持たないなんて無理だ。
それも、神の形骸化にほかならないのだが。
葉介の上司と言える私としては、社会経験を積んだ中途採用の彼を利用しない手は無い。
「葉介君、あなたは広告代理店で働いていたと宮司さんから聞いてるわ。
あの稲荷を宣伝する良い方法は無い?」
「そういうことですか。業界のことはおおよそ理解したつもりです。
少しはツテがあります。
以前の会社にいた先輩で記事を集めている人が居たから聞いてみますよ」
「うん。お願い。地方の稲荷が熱い! みたいな記事でよろしく」
「そんな子供向け雑誌のコピーみたいなのじゃありませんけど。
午後にいくつか当たってみます」
結果はすぐに出た。
「ゆかりさん、ちょうど鄙びた神社の話が欲しいっていう事で、来週取材に来てくれるそうですよ」
「はやっ! すごいねぇ、有能だね、たいしたもんだ」
「ちょっとはやすぎじゃないんですか、大丈夫ですかそれ」
巫女姿のきりがなんとなく嫉妬の炎を揺らしている。
「今回の記事が使えるようであれば、空の旅っていう航空会社の機内紙に載せられそうです。」
「えええ、すごいじゃない、葉介君の広告代理店ってタウン誌かなんかの広告営業とかじゃなかったの?」
「あ、実は」
なんと彼がいた会社は、オリンピックの広告も取り扱う、国内最大手の広告代理店だった。
「なんでそんな凄い会社辞めてんのよ!」
「色々大変なんですって。
それに、僕は神職に就くのが宿命っていうか、この世界にしか居られないんですよ。
あの会社みたいに妖怪が潜んでいるような場所、怖くて」
葉介には、業界の怪物、政治家の思惑が渦巻くような場所は魑魅魍魎がたくさん視えていたのだろうと想像がつく。
「来週来てくれるんだよね。稲荷の売りってなんかあるかな」
「えっ、ゆかりさん、稲荷になにかあるから記事にしてほしいんじゃないんですか?
建物がかなり古いとか、彫刻を左甚五郎が掘ったとか」
「ぐ、そうか、売りが無いとダメか」
「当たり前ですよ! 僕も昔のことだからうろ覚えですけど、あの稲荷、けっこう寂れてましたよね」
私達はまた難問に突き当たってしまった。
私がいきあたりばったりだったせいだ、うん。
かわいい系のイケメン、葉介の作務衣姿を目的にした女性客、特に年配の方が増えた気がする。
私と言えば、神の力が人々の発展にも寄与するにはどうしたらよいのか、ヒマな時には一応がんばって考えるようにしていた。
「きりちゃん、最近ウカ様のところはどんな感じ?」
巫女姿で一生懸命人々の願い事を書き留めているきりに声を掛ける。
「稲荷の両隣にあった商店さんが再開したんです。
宮司さんが稲荷の社務所として場所を借りる形にしてるんですって。
あまり売れていないみたいですけど、お守りも販売しているみたいですよ」
「そうよねぇ、そのくらいしかできないか。
稲荷の周りに住んでいる人たちはどう思っているのかな」
元々シャッター商店街の寂れた場所だ。年配の方々が支えるしか無い社なのだ。
「宮司さんが稲荷神社の事を一軒一軒回って説明してきたらしいです。
ウカ様はすごく喜んでました。そのおかげで商店街に住んでる人たちは近くを通るたびにお参りしてくれるそうです」
商店街のお膝元にある商売繁盛の稲荷神社なのだから、もっと前から大事にすれば良かったのにとは思うが。
既に五十年前からウカ様が社から出張に出ていたのだ。
商店街が凋落を始めた時期と一致している。
祭神が戻った今、商店街も少しは景気がよくなるかもしれないが、今の時代なかなか元の活気は戻らないだろう。
やはり、稲荷神社には追加のてこ入れが必要だ。
拝殿に敷かれた座布団に葉介ときりが座っている。
私を含めた三人でのミーティングだ。
今日は神界部屋は使わない。あちらはやすらぎの場だ。
「あの、ゆかりさん、気軽に神様が出てきちゃってよろしいのですかね?
で、この猫は?」
「葉介くん! あなたはわたしの後輩だよ。
猫だけどずっと前からゆかりさんの神使やってるんだから。
それと、わたしはきりって言う名前だから『きり先輩』って呼んでよね」
きりは猫の姿のままじっと葉介を睨んで話している。
(この子、センパイ風吹かしてる、かわいいったら)
「きりは私の神使だからあなたのセンパイってこと、らしいのでよろしくね」
「ゆかりさぁん、わたしはちゃんと先輩ですってばー」
「その話はおいといて、葉介君は知らないと思うので経緯を説明するね」
「はい? なんのお話でしょう」
私は葉介にウカ様が戻っていること、葉介の祖父が街の稲荷の敷地を売ってしまい、稲荷の神域が狭められていることを話した。
「そんなことがあったんですか、バチあたりなことを」
「いやいや、それは仕方の無いことだと思うよ。
神社の収入って氏子の寄付ぐらいでしょ、普通はどこも身を削って守っているらしいものね」
「そうだとしても神社の敷地を売るなど……。
まぁ、僕には責められないですね」
街に実家がある葉介は、稲荷の存在は知っていただろうが、祖父の代に神社を切り売りしてしまった事は葉介の父の代までしか詳しいいきさつは伝わっていないと思う。
代々神職の家系と聞いているが、葉介を社会に出したのは父親の功績だ。
これからの神社経営は、人の社会、経済と関わりを持たないなんて無理だ。
それも、神の形骸化にほかならないのだが。
葉介の上司と言える私としては、社会経験を積んだ中途採用の彼を利用しない手は無い。
「葉介君、あなたは広告代理店で働いていたと宮司さんから聞いてるわ。
あの稲荷を宣伝する良い方法は無い?」
「そういうことですか。業界のことはおおよそ理解したつもりです。
少しはツテがあります。
以前の会社にいた先輩で記事を集めている人が居たから聞いてみますよ」
「うん。お願い。地方の稲荷が熱い! みたいな記事でよろしく」
「そんな子供向け雑誌のコピーみたいなのじゃありませんけど。
午後にいくつか当たってみます」
結果はすぐに出た。
「ゆかりさん、ちょうど鄙びた神社の話が欲しいっていう事で、来週取材に来てくれるそうですよ」
「はやっ! すごいねぇ、有能だね、たいしたもんだ」
「ちょっとはやすぎじゃないんですか、大丈夫ですかそれ」
巫女姿のきりがなんとなく嫉妬の炎を揺らしている。
「今回の記事が使えるようであれば、空の旅っていう航空会社の機内紙に載せられそうです。」
「えええ、すごいじゃない、葉介君の広告代理店ってタウン誌かなんかの広告営業とかじゃなかったの?」
「あ、実は」
なんと彼がいた会社は、オリンピックの広告も取り扱う、国内最大手の広告代理店だった。
「なんでそんな凄い会社辞めてんのよ!」
「色々大変なんですって。
それに、僕は神職に就くのが宿命っていうか、この世界にしか居られないんですよ。
あの会社みたいに妖怪が潜んでいるような場所、怖くて」
葉介には、業界の怪物、政治家の思惑が渦巻くような場所は魑魅魍魎がたくさん視えていたのだろうと想像がつく。
「来週来てくれるんだよね。稲荷の売りってなんかあるかな」
「えっ、ゆかりさん、稲荷になにかあるから記事にしてほしいんじゃないんですか?
建物がかなり古いとか、彫刻を左甚五郎が掘ったとか」
「ぐ、そうか、売りが無いとダメか」
「当たり前ですよ! 僕も昔のことだからうろ覚えですけど、あの稲荷、けっこう寂れてましたよね」
私達はまた難問に突き当たってしまった。
私がいきあたりばったりだったせいだ、うん。
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