18 / 46
神の使いのお使い
しおりを挟む
それから一週間後、手紙が届いた。
小さな子狐が持ってきたそれは神使会からだった。
手紙の内容は、きり宛てに神使会・入会のお誘いと、私宛にご訪問のお伺いだった。
とりあえず子狐をモフり回し、いなり寿司を食べさせて帰してやった。
こちらはいつでもヒマだ。
『日程は神使会のみなさんのご都合に合わせておいでください』という伝言をきりに直接伝えに行かせることにした。
「きり、神使会のお誘いはおまえの好きにしていいんだよ。
でもね、きりと対等に付き合える知り合いとか、色々な繋がりができるかもしれないから悪い話じゃないと思う。
私はオススメするな」
「そうですか。こちらも忙しいので、神使会でなにか仕事とか増えるのが心配なんですけど」
「大丈夫よ。そのときは私も手伝うからね。外の世界と繋がれるのはいいことだよ」
そう言ってきりを送り出したが、出発は夕方だったのでとても不安だった。
「それでは街に行ってきます!」
人姿のきりが元気よく社を出て行った。
街の稲荷は住宅街に呑み込まれていて、少し入り組んだ場所にある。
地図を読めないきりには、曲がり角何個目を右、左とラリーのコマ図のようなものを私が作ってやった。
コマ図を読みながらのため、今回は人の姿なのだ。今風の若い娘のね。
少し後からしずかに狛犬が出て行ったのを見届けて、私と山神様はお茶を飲みながら待つことにした。
「山神様、あの、教えてください」
「なんじゃ?」
「私、以前山神様から神威を譲り受けましたよね。それで正五位上になったと」
譲り受け方法を思い出して私は顔が紅潮した。
「うむ。わしの神階より上になったのじゃ。おぬしのポテンシャルじゃの」
「そんなのがあるかはわかりませんけれど。
神階が上がるとなにかできることが増えたりするのですか?」
「無論じゃ。今回の提携話もその効果じゃろう」
「そうなんですか? どうして」
「わしが持っていた六つの神威、憑依、豊穣、提携、吸収、解呪、変化は継承されておるはずじゃ」
「ちょっ、もう一度言ってください」
「憑依、豊乳、提携、吸収、解呪、変化じゃ。提携の神威はおぬしの神威が上がったことで、範囲が広がり周りが気づいたのじゃろう」
ぐぬぬ、山神、わざと間違えたな。
「ただ、吸収の神威も強い力を持っておる。あのキツネ程度であれば末社に加えることも可能であったろう」
「相手を子会社化するみたいな力なんですね」
「うむ。しかし、稲荷はウカ様の社じゃ。手を出すことは己の首を絞める」
「ウカノミタマの神様って豊穣の神でやさしくて美人なイメージしかないですけどねぇ」
「美人じゃぞ。母性もあり神々にはモテモテという噂じゃな。しかし、あの女神はとてつもなく強い。
天孫族侵攻後に生まれた神じゃが、父親がブトー様なのじゃ」
「ブトー様って強いってことですか?」
「ブトー様は最高神ヒルメの弟じゃ。ヒルメとそりが合わずに高天原を下った。
そして国津神と交わり、ブトー様の子らは国津神に味方しておる」
「ヒルメ様って、私を神にしてくれた神様だけど、最高神?
その話、物語で聞いたことあるんだけど。
ヒルメ様は最高神アマテラス様で、ブトー様が弟ってことは、スサノオノミコト!
どーしよ、私、アマテラス様にとんでもない事をガクブル。
それにしても神話の神様ってまだいるんですね」
神様の名前は沢山ある。日本神話の最高神、天照大神の別名といったら覚えられないほど多い。
その中のひとつにヒルメという名前があったようだ。
素戔嗚尊もそうだ。
あの神は豊葦原に下った後、色々な場所に行って正体を隠し、子作りをしたおかげで伝わっている名前がたくさんある。
私が知っている変な名前代表は蘇民将来の伝説に残る武塔神だ。
蘇民将来さんちに泊めてもらった浮浪者のような武塔神は、お礼に茅の輪を入り口に付けた。
そして泊めてくれなかった村人を皆殺しにした。
正体はスサノオだったという狂気の神話が印象深い。
目印が無いと恩人すら分からなくなってしまう二面性も怖い。
「神は永遠じゃからな。この国は神の体により造られておる。
そこで生まれた氏子は神の子じゃ。それがいる限り神は消えはせん」
山神様から伝えられた真実に私は愕然としていた。
神様なんて比喩みたいなものじゃなかったのか?
そりゃ、私が死んだのにこうしていられるのは神様のおかげだけど。
どこかの神が私を神様にしてくれたのだろうと、すんなり信じたのは物語の転生モノを知っていたからであって、いくらなんでも有名すぎる日本神話の神々に出会うとは。
私はお茶を一気に飲み干して心を落ち着かせた。
「神様の世界やばいです」
「そうじゃな。とくに天孫族はわしの連れ合いを討った出雲族すら支配した。
やつらの力は計り知れないが、神威はどちらの神にも共通しておる。
神階もそうじゃ。おぬしが賜った正五位上は並の天津神より位が上じゃ」
「ということは、私に神階が追い越された天津神の恨みを買ってそうですよね」
「そんなことは気にするな。神階は高天原からのお墨付きじゃ」
なんとなく神の世界が分かってきた。
ある程度の社員(氏子)が増えると株式会社化して合併や併合を繰り返し、大企業になっていくようなものなのではないか。
私の心に会社員時代のもやっとしたものを感じた。
もちろん人間社会に神を当てはめるのは違うかもしれないけれどね。
小さな子狐が持ってきたそれは神使会からだった。
手紙の内容は、きり宛てに神使会・入会のお誘いと、私宛にご訪問のお伺いだった。
とりあえず子狐をモフり回し、いなり寿司を食べさせて帰してやった。
こちらはいつでもヒマだ。
『日程は神使会のみなさんのご都合に合わせておいでください』という伝言をきりに直接伝えに行かせることにした。
「きり、神使会のお誘いはおまえの好きにしていいんだよ。
でもね、きりと対等に付き合える知り合いとか、色々な繋がりができるかもしれないから悪い話じゃないと思う。
私はオススメするな」
「そうですか。こちらも忙しいので、神使会でなにか仕事とか増えるのが心配なんですけど」
「大丈夫よ。そのときは私も手伝うからね。外の世界と繋がれるのはいいことだよ」
そう言ってきりを送り出したが、出発は夕方だったのでとても不安だった。
「それでは街に行ってきます!」
人姿のきりが元気よく社を出て行った。
街の稲荷は住宅街に呑み込まれていて、少し入り組んだ場所にある。
地図を読めないきりには、曲がり角何個目を右、左とラリーのコマ図のようなものを私が作ってやった。
コマ図を読みながらのため、今回は人の姿なのだ。今風の若い娘のね。
少し後からしずかに狛犬が出て行ったのを見届けて、私と山神様はお茶を飲みながら待つことにした。
「山神様、あの、教えてください」
「なんじゃ?」
「私、以前山神様から神威を譲り受けましたよね。それで正五位上になったと」
譲り受け方法を思い出して私は顔が紅潮した。
「うむ。わしの神階より上になったのじゃ。おぬしのポテンシャルじゃの」
「そんなのがあるかはわかりませんけれど。
神階が上がるとなにかできることが増えたりするのですか?」
「無論じゃ。今回の提携話もその効果じゃろう」
「そうなんですか? どうして」
「わしが持っていた六つの神威、憑依、豊穣、提携、吸収、解呪、変化は継承されておるはずじゃ」
「ちょっ、もう一度言ってください」
「憑依、豊乳、提携、吸収、解呪、変化じゃ。提携の神威はおぬしの神威が上がったことで、範囲が広がり周りが気づいたのじゃろう」
ぐぬぬ、山神、わざと間違えたな。
「ただ、吸収の神威も強い力を持っておる。あのキツネ程度であれば末社に加えることも可能であったろう」
「相手を子会社化するみたいな力なんですね」
「うむ。しかし、稲荷はウカ様の社じゃ。手を出すことは己の首を絞める」
「ウカノミタマの神様って豊穣の神でやさしくて美人なイメージしかないですけどねぇ」
「美人じゃぞ。母性もあり神々にはモテモテという噂じゃな。しかし、あの女神はとてつもなく強い。
天孫族侵攻後に生まれた神じゃが、父親がブトー様なのじゃ」
「ブトー様って強いってことですか?」
「ブトー様は最高神ヒルメの弟じゃ。ヒルメとそりが合わずに高天原を下った。
そして国津神と交わり、ブトー様の子らは国津神に味方しておる」
「ヒルメ様って、私を神にしてくれた神様だけど、最高神?
その話、物語で聞いたことあるんだけど。
ヒルメ様は最高神アマテラス様で、ブトー様が弟ってことは、スサノオノミコト!
どーしよ、私、アマテラス様にとんでもない事をガクブル。
それにしても神話の神様ってまだいるんですね」
神様の名前は沢山ある。日本神話の最高神、天照大神の別名といったら覚えられないほど多い。
その中のひとつにヒルメという名前があったようだ。
素戔嗚尊もそうだ。
あの神は豊葦原に下った後、色々な場所に行って正体を隠し、子作りをしたおかげで伝わっている名前がたくさんある。
私が知っている変な名前代表は蘇民将来の伝説に残る武塔神だ。
蘇民将来さんちに泊めてもらった浮浪者のような武塔神は、お礼に茅の輪を入り口に付けた。
そして泊めてくれなかった村人を皆殺しにした。
正体はスサノオだったという狂気の神話が印象深い。
目印が無いと恩人すら分からなくなってしまう二面性も怖い。
「神は永遠じゃからな。この国は神の体により造られておる。
そこで生まれた氏子は神の子じゃ。それがいる限り神は消えはせん」
山神様から伝えられた真実に私は愕然としていた。
神様なんて比喩みたいなものじゃなかったのか?
そりゃ、私が死んだのにこうしていられるのは神様のおかげだけど。
どこかの神が私を神様にしてくれたのだろうと、すんなり信じたのは物語の転生モノを知っていたからであって、いくらなんでも有名すぎる日本神話の神々に出会うとは。
私はお茶を一気に飲み干して心を落ち着かせた。
「神様の世界やばいです」
「そうじゃな。とくに天孫族はわしの連れ合いを討った出雲族すら支配した。
やつらの力は計り知れないが、神威はどちらの神にも共通しておる。
神階もそうじゃ。おぬしが賜った正五位上は並の天津神より位が上じゃ」
「ということは、私に神階が追い越された天津神の恨みを買ってそうですよね」
「そんなことは気にするな。神階は高天原からのお墨付きじゃ」
なんとなく神の世界が分かってきた。
ある程度の社員(氏子)が増えると株式会社化して合併や併合を繰り返し、大企業になっていくようなものなのではないか。
私の心に会社員時代のもやっとしたものを感じた。
もちろん人間社会に神を当てはめるのは違うかもしれないけれどね。
122
お気に入りに追加
373
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。

トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。
白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。
*外部サイトにも掲載しています。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる