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神社の引き継ぎ
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私ときりは、満天の星の下に浮かんでいた。先ほど映像で見せられた神社の真上だ。
「おおーっ高いっ! なんだこれ、夢じゃ無い? 落ちちゃうー! って、だんだん降りているのか」
徐々に視線が低くなり、神社の屋根を通り抜け、社殿の中へ降り立った。
薄暗く埃くさいその場所は、まるで体育館の地下にあった物置部屋のように色々な道具が置かれていた。
「真っ暗なのに見えるね。うわー、きたない、これ神社ってレベルじゃないよねぇ」
「すまんのぅ、村人達の倉庫になっているのじゃ」
無人だと思っていた社殿の奥から突然話し掛けられた。
「ああっ、すみませんすみません。あれ」
その場所には埃が積もり、厚く積もった埃が白い絨毯のように見える祭壇があった。
そんな場所に腰掛けた人物。
真っ白い髪、同じく白く長いあごひげの好々爺であった。
「話は聞いておる、ようやく後任が来てくれたか。
異動願の木簡を送ってから千五百年待ったぞ」
おじいさんが着ている真っ白な狩衣はまったく汚れていない。
(肌感覚で分かる。うん、間違いない。これはもう夢の中じゃない)
「は、はじめまして。佐藤ゆかりと申します。
このたび神社を預からせていただくことになりました」
「まぁまぁ、堅くならんでもよい。そして夢でもないぞ。
儂は山の神と呼ばれておる。話はヒルメ様より聞いておるよ。
災難じゃったなぁ、鳥居に当たって。
ぶっ、鳥居で人死にとは、ぶっはははは、ありえんってわはははは」
山の神と名乗る神は腹を抱え、祭壇を叩きながら大爆笑している。
「まぁ、実感はないのですけれど、死んでしまったらしいです」
「あぁ愉快。こんな不祥事始めて聞いたわ。驚くやらおかしいやら。
人心から信仰が薄くなりつつある下界において、天津神の社が罪も無い人間を死なすなど絶対に、あってはならない不祥事じゃからのう」
「しかし、千五百年も待っていたって、そんなに高天原って入れないところなんですか?」
なにせ自分は高天原に住んで良いといわれたばかりだ。
「儂は国津神じゃからの。天津神の連中からしたら敗戦国の神じゃ。
とはいえ、儂は高天原との併合は賛成派だったのじゃ。
元々のご神体は後ろにある御山でな、それを鎮めるために出雲から異動させられて、そのままずっとこの仕事を任されておった。
天津神の世になっても同じ仕事を続けるよう言われてな。
きっと忘れられていたんじゃろ」
「はぁ、なるほど」
(神様になって神社を貰ったときはちょっと驚いたけど、本社の勤務の天津神から見たら国津神の仕事なんて誰と交代しても問題無い雑用レベルって事じゃないのかなぁ)
「そのとおりじゃて」
「あ、思ってたこと読めたりします?」
私の思考に返事をされたことで、驚いたが、相手は神様だ。
「どうやって詣でる人間の言葉を聞き分けていると思っとるんじゃ。
神々は人の祈りや思考を読み取れる」
「神様同士でもですか?」
「いや、それは神威によって遮断出来る。おぬしはまだじゃな」
「そうですよね。神様同士で心が読めたら戦争になりかねませんもんね」
「そうでもないがの。まぁ、社の引き継ぎが済めば、おぬしも最低限の神威が身につく」
夢見の神威はもっているはずだが、神威というものは技と力の両方の意味をもっているようだ。
夢見という技、神として持っている力を総じて神威と言うのが正しいのだろう。
「さあて、早速じゃが御山へ行くぞ」
「御山って、ここの裏山ですか?」
「うむ。引き継ぎじゃ。神使は猫か。おまえはここに残りなさい。
それでは佐藤ゆかり殿、儂について参られよ」
山の神の身体がふわりと浮き上がり、祭壇の奥を通り抜けてゆく。
私は後を追って壁を通り抜けた。
山の神のあとを稜線に沿ってすーっと登る。
山と言っても小山の部類に入るサイズだ。
標高二百メートル程度の綺麗な円錐型をしていた。
そして二人は頂上にたどりついた。
「今時はここらが頭だな。おーい、山神よ。挨拶にきたぞ」
山頂には菱形の巨岩が横たわっているだけだった。しかし、突然その岩が起き上がった。
「なんじゃ山の神、久しいな。挨拶じゃと? どうした」
腹に響くような太い声。
起き上がった大岩には金色をした爬虫類の瞳が開いていた。
頭が姿を現すと、続けて太く長い胴体が山体すべてに巻かれているのが見えてきた。
巨大な物が怖いというフォビア(恐怖症)ではない私だが、生きている超巨大な蛇と対峙していることに戦慄した。
しかし、その蛇体は真っ白で艶やかで美しい。
「おぬしとは長い付き合いじゃったがな、こたびの神事異動で儂は高天原に住むこととなった。
ついてはこの佐藤ゆかり殿が山の神となる。
二柱の神々におきまして幾久しくご繁栄をお祈り申し上げ奉る」
「おっ、神らしい口上を申したのも久しぶりじゃな。
この佐藤ゆかりとやらはわらわを鎮められるのか?」
「まぁ、儂の後任に選ばれたのじゃ、和魂も和魂、見るからに温和な神じゃて。
お手柔らかに頼んだぞ」
(この巨大な白蛇が本当のご神体ってことなのか。
この神を鎮めるのが仕事!? 無理だってこんなのー)
巨大な白蛇の瞳が私に向けられている。
しかし、彼らの気心知れた話しぶりから、そんなに怖い存在では無いように思えた。
「私は佐藤ゆかりと申します。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「おおぉ、まともそうな奴じゃ。高天原の連中とは違うようじゃ。
ならよろしい。
山の神とは長い付き合いで楽しく過ごせたが、おぬしも当然酒は呑めるんじゃろ?
送別会と歓迎会じゃ! 酒は社にあるんか? 呑もう呑もう」
「かなり昔のじゃが二本だけあったかのぅ、それじゃ社に行くんべぇ」
山の神センパイに群馬弁が出た。どうやらこれがいつものノリのようだ。
「おおーっ高いっ! なんだこれ、夢じゃ無い? 落ちちゃうー! って、だんだん降りているのか」
徐々に視線が低くなり、神社の屋根を通り抜け、社殿の中へ降り立った。
薄暗く埃くさいその場所は、まるで体育館の地下にあった物置部屋のように色々な道具が置かれていた。
「真っ暗なのに見えるね。うわー、きたない、これ神社ってレベルじゃないよねぇ」
「すまんのぅ、村人達の倉庫になっているのじゃ」
無人だと思っていた社殿の奥から突然話し掛けられた。
「ああっ、すみませんすみません。あれ」
その場所には埃が積もり、厚く積もった埃が白い絨毯のように見える祭壇があった。
そんな場所に腰掛けた人物。
真っ白い髪、同じく白く長いあごひげの好々爺であった。
「話は聞いておる、ようやく後任が来てくれたか。
異動願の木簡を送ってから千五百年待ったぞ」
おじいさんが着ている真っ白な狩衣はまったく汚れていない。
(肌感覚で分かる。うん、間違いない。これはもう夢の中じゃない)
「は、はじめまして。佐藤ゆかりと申します。
このたび神社を預からせていただくことになりました」
「まぁまぁ、堅くならんでもよい。そして夢でもないぞ。
儂は山の神と呼ばれておる。話はヒルメ様より聞いておるよ。
災難じゃったなぁ、鳥居に当たって。
ぶっ、鳥居で人死にとは、ぶっはははは、ありえんってわはははは」
山の神と名乗る神は腹を抱え、祭壇を叩きながら大爆笑している。
「まぁ、実感はないのですけれど、死んでしまったらしいです」
「あぁ愉快。こんな不祥事始めて聞いたわ。驚くやらおかしいやら。
人心から信仰が薄くなりつつある下界において、天津神の社が罪も無い人間を死なすなど絶対に、あってはならない不祥事じゃからのう」
「しかし、千五百年も待っていたって、そんなに高天原って入れないところなんですか?」
なにせ自分は高天原に住んで良いといわれたばかりだ。
「儂は国津神じゃからの。天津神の連中からしたら敗戦国の神じゃ。
とはいえ、儂は高天原との併合は賛成派だったのじゃ。
元々のご神体は後ろにある御山でな、それを鎮めるために出雲から異動させられて、そのままずっとこの仕事を任されておった。
天津神の世になっても同じ仕事を続けるよう言われてな。
きっと忘れられていたんじゃろ」
「はぁ、なるほど」
(神様になって神社を貰ったときはちょっと驚いたけど、本社の勤務の天津神から見たら国津神の仕事なんて誰と交代しても問題無い雑用レベルって事じゃないのかなぁ)
「そのとおりじゃて」
「あ、思ってたこと読めたりします?」
私の思考に返事をされたことで、驚いたが、相手は神様だ。
「どうやって詣でる人間の言葉を聞き分けていると思っとるんじゃ。
神々は人の祈りや思考を読み取れる」
「神様同士でもですか?」
「いや、それは神威によって遮断出来る。おぬしはまだじゃな」
「そうですよね。神様同士で心が読めたら戦争になりかねませんもんね」
「そうでもないがの。まぁ、社の引き継ぎが済めば、おぬしも最低限の神威が身につく」
夢見の神威はもっているはずだが、神威というものは技と力の両方の意味をもっているようだ。
夢見という技、神として持っている力を総じて神威と言うのが正しいのだろう。
「さあて、早速じゃが御山へ行くぞ」
「御山って、ここの裏山ですか?」
「うむ。引き継ぎじゃ。神使は猫か。おまえはここに残りなさい。
それでは佐藤ゆかり殿、儂について参られよ」
山の神の身体がふわりと浮き上がり、祭壇の奥を通り抜けてゆく。
私は後を追って壁を通り抜けた。
山の神のあとを稜線に沿ってすーっと登る。
山と言っても小山の部類に入るサイズだ。
標高二百メートル程度の綺麗な円錐型をしていた。
そして二人は頂上にたどりついた。
「今時はここらが頭だな。おーい、山神よ。挨拶にきたぞ」
山頂には菱形の巨岩が横たわっているだけだった。しかし、突然その岩が起き上がった。
「なんじゃ山の神、久しいな。挨拶じゃと? どうした」
腹に響くような太い声。
起き上がった大岩には金色をした爬虫類の瞳が開いていた。
頭が姿を現すと、続けて太く長い胴体が山体すべてに巻かれているのが見えてきた。
巨大な物が怖いというフォビア(恐怖症)ではない私だが、生きている超巨大な蛇と対峙していることに戦慄した。
しかし、その蛇体は真っ白で艶やかで美しい。
「おぬしとは長い付き合いじゃったがな、こたびの神事異動で儂は高天原に住むこととなった。
ついてはこの佐藤ゆかり殿が山の神となる。
二柱の神々におきまして幾久しくご繁栄をお祈り申し上げ奉る」
「おっ、神らしい口上を申したのも久しぶりじゃな。
この佐藤ゆかりとやらはわらわを鎮められるのか?」
「まぁ、儂の後任に選ばれたのじゃ、和魂も和魂、見るからに温和な神じゃて。
お手柔らかに頼んだぞ」
(この巨大な白蛇が本当のご神体ってことなのか。
この神を鎮めるのが仕事!? 無理だってこんなのー)
巨大な白蛇の瞳が私に向けられている。
しかし、彼らの気心知れた話しぶりから、そんなに怖い存在では無いように思えた。
「私は佐藤ゆかりと申します。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「おおぉ、まともそうな奴じゃ。高天原の連中とは違うようじゃ。
ならよろしい。
山の神とは長い付き合いで楽しく過ごせたが、おぬしも当然酒は呑めるんじゃろ?
送別会と歓迎会じゃ! 酒は社にあるんか? 呑もう呑もう」
「かなり昔のじゃが二本だけあったかのぅ、それじゃ社に行くんべぇ」
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