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第二章:旅立

第26話:後援

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 クリスも転生者の端くれな訳で、それなりの知識をそれなりに有している。

 錬金術もそうだ。

 前世で手にした知識と、此方側での知識。

 だから余計に解らない。

「あの、確か錬金術師って一子相伝と云いますか……基本的に師匠一人に弟子が一人の体制の筈です」

「一子相伝は違うだろう。まあ、知ってるよ。出逢った錬金術師のカリンカから聞いたんでね」

「錬金術師? え、知り合いが居るのですか? しかも名前からして女の子!」

 そっちが驚く理由なのかとユートは思うが、取り敢えず首肯をしておく。

「こないだ、行商が村に来た時に魔導薬や魔導具を売る為に来ていたんだよ」

「何でも御師匠様の命令だったらしいよ」

 ユートの言葉を引き継ぐ形でシーナが説明した。

「成程、それで錬金術師の徒弟制度をその錬金術師の方に聞いたのですか」

「そういう事」

「で、女の子ですよね? 名前がカリンカさんって、カリンだけなら男の子としても通じます。カリンカなら女の子ですよ?」

 ジト目なクリスにユートはお手上げしつつ頷く。

 服装はホットパンツやらノースリーブなシャツを着ており、髪の毛はボブカットにされた赤毛で頭頂にはアホ毛が一本、瞳は灰色で端から見てボーイッシュな感じだし、一人称が『ボク』だから或いは勘違いされる事もあるかもだったが、整った顔立ちだしちゃんと視れば確かに可愛らしい女の子だと解る。

 何より年齢的に未成熟ではあるものの、それでも仄かな胸の部位の盛り上がりが女の子だと示した。

 薄着だから判る程度でしかないけど。

 サイズは七〇くらいか? 判る辺りユートは無駄に魔眼を使っていた。

 一四歳らしいからサイズとしては妥当だろう。

「確かに可愛いかったよ、僕より三歳ばかり年上だったけど、僕は他より背丈が高いから普通に並ぶとね」

「ああ、確かに……」

 ユートは同年代の他者と比べ、若干? 背丈が高いから女の子辺りと並んだら普通にユートが年上に見えてしまう。

 カリンカくらいの年齢で日本人男子、平均身長だと約一五六センチくらい。

 ユートは一一歳の今現在で一六二センチ、日本人ではないカリンカだけど小柄なのか、一四八センチだから一四センチと背丈の差が可成りあった。

 だからちょっと年上なだけで、しかも可愛い系な顔をしたカリンカはお姉さんとは思えない訳だ。

「さて、となりますと……後ろ楯というのは錬金術をユートさんが扱えるという事に関係ありますよね」

 シーナが頷き口を開く。

「下手に周りに知られると貴族に拉致されてしまいかねないし、錬金術師からは暗殺されかねないから」

「王族の庇護が欲しいと? 確かにちょっと大きな、というか大き過ぎる案件ではありますね」

 数百……否、下手をすれば千年もの蟠りがある。

 王候貴族と錬金術師との間には。

「それで、私に何かメリットはありますか?」

「……」

 メリットの提示は当たり前に求められると考えて、シーナは黙って袋を差し出して渡す。

「これは?」

 中を見るべくクリスが袋を開くと、中には色とりどりの石みたいな物。

「って、魔核マナ・コアじゃないですか!?」

 緋、翠、蒼、玄、という四大属性を思わせる色をした魔核が、それなりに大きな袋の中にぎっしりと詰まっていたのだ。

 中には金や銀などレアな色の魔核も混じる。

「確かにユートさんが一万ものオークの大進撃の際、相当な数を屠ったのは聞きましたが、そこまでの数もの魔核がドロップをしていたのですか?」

 本来、魔核のドロップは余りしないとされるのが、この世界の謂わば常識であるが故に驚きを隠せないでいるクリス。

 事実としてアーメット村を襲わんとしたオークは、その殆んどが魔核をドロップしていない。

 一万の中でも僅か数体、それが魔核をドロップしたオークの数だった。

 魔核は種類が少ない魔導の道具、光魔灯のエネルギー源としても使われる。

 光魔灯は錬金術師に頭を下げて造って貰ったという闇を照らす光、その輝きを維持するのに魔核は不可欠な代物だ。

 魔核が精霊石と違って、電池に等しいとされるのは容量の小さな消耗品であるから。

 勿論、精霊石とて内包をするエネルギーを使い切れば終わりだが、その容量は魔核とでべらぼうに違う。

 桁違いと云って良い。

 魔核がMPにして一〇〇としたら、精霊石の場合は一〇〇〇〇くらいか?

 凡そ百倍とも云われて、貴重な代物が精霊石。

 ユートはそれを造り出せる訳で、当然ながらそんな事が後ろ楯も無く知られたら危険である。

 拉致されて『精霊石製造まっすぃーん』にされてしまう事だろう。

「僕は魔核を魔物から取り出せるんだ」

「……は?」

 ユートの告白に間抜けた声を出してしまう。

「始めから意図して出来ると思った訳じゃないけど、何と無く可能なんじゃないかって直感? それで物は試しと……ね」

「や、やり方は? 私達にも可能ですか? それともスキルか何か?」

「……どうかな? スキル【氣功術】と関係があるにはあるけど」

「【氣功術】? 氣……ですか? 魔力ではなく?」

「別におかしくもない力だろうに。地球でも魔法だとか魔術だとか云われる中、氣功ってのも確かに云われていたじゃないか?」

「ですが……」

「だいたい、単純にレベルだけでオーク一万なんて挑めやしない。僕は【氣功術】スキルもある程度は使って戦っていたんだ」

「氣力による強化? 確かに魔力による身体強化みたいに、氣で強化は漫画なんかでお馴染みですが……」

 寧ろ定番。

 特殊なエネルギーをその身に纏わせ、肉体的な強化を施すというのはやり方の是非こそあるかもだけど、正に基本中の基本。

「とはいえ、まだレベルも低いから大した事も出来ないんだけど。魔力でも可能か調べたら無理だった」

「魔力では無理で氣力なら可能……と? どんな理屈ですかそれは!」

 どうやらヴィオーラには氣巧の概念が無いらしく、クリスは可成りエキサイトをしていた。

「ちょっと調べてみたよ。どうも氣力と魔力は相反する性質があるみたいでね、互いに触れ合わせてみたらスパークするんだ」

「スパーク?」

「こんな感じだよ」

 ユートは右人差し指へと氣力、左人差し指には魔力を纏わせると近付けた。

 互いの指先が軽く触れ合う瞬間、バチッ! という漏電でもしたかの様な軽快な音と共に輝きが発して、氣力も魔力もその侭消えて無くなっていた。

「これは……」

 氣の概念が無かったからには初めて視た現象だし、クリスとしては何とも言い難い様だ。

「本来、スキル構成ってのは余人に話すべきじゃないんだろうけど……」

「まさか、教えてくれるんですか?」

「クリスのを教えてくれるなら、それも吝かじゃないって事だよ」

「……私のスキル構成を教えるのが対価ですか」

 やや考えて頷く。

「判りました」

 とはいえ、詳しく調べるには設備が必須となる。

 簡易的な魔導具で調べられるのはレベルくらい。

 つまり、この場で証すだろうスキル構成はお互いの信用に基づいたもの。

「僕は――【気功術】、【刀舞】、【弓術】、【射撃術】、【錬成】【叡智瞳】が今現在のスキルだよ」

「お、多いですね……」

 大概は一つ有れば良く、二つや三つ有れば歓喜するもので、四つなんて埒外とすら思われる中で六つだ。

 下手にスキルが公開性であれば、神童とか呼ばれていたかも知れない。

 昔は公開が普通だった。

 然しながらスキル偏重の気風、スキルの有る無しや数やスキル性能による悲喜が人生すら左右をするし、更には冒険者のスキル構成が明るみになってしまい、能力がバレバレな状況なのは危険だという事。

 また、スキルの中に人が危険だと思うモノも在り、成長前に排除とか考えられる事もあった。

 そんな風潮から優れている人間=勝れている=選れていると増長を招いたり、逆にそんな人間を成長する前に出る杭扱いしたり。

 とはいえ、スキルは生まれ付いて持つものの後付けも可能という事実もあり、スキル偏重を遥か昔にある国の女王が止めさせた。

 そう、そもそもユートのスキルとて元々は三つ。

 【刀舞】は修業と前世の記憶から発現、【射撃術】と【弓術】はスキルストーンによるものだ。

 しかも【錬成】スキルと【叡智瞳】スキル、これは特典ギフトに位置しているし、【氣功術】もユートが前世で【緒方逸真流錬術】を修得していたからで、緒方優斗の魂を持たなければ生まれ付き持ったスキルなど皆無だった。

 スキル公開制だった昔、その時代から無能の烙印を押されていた筈。

「【叡智瞳】……魔眼という訳ですか?」

「まぁね」

 魔眼持ちは珍しくはあっても皆無でなく、スキルが公開されていない今現在は判らないが……

(ひょっとして、魔眼持ちは全員が【○○瞳】というスキルを?)

 クリスはユートのスキルからそんな風に考えた。

「私のスキルは――【魔導】と【魔闘】と【練魔】と【魔極】ですね」

「見事に魔法関連ばかり」

「まあ、そうです」

 【魔導】スキルは従姉も持っていた事を鑑みれば、魔法を扱う者には比較的に発現し易いらしい。

「えっと、私も明かさないといけない流れ?」

「いえ、シーナさんは別に明かさなくても……」

 そっと手を挙げながら訊いてきたシーナに、クリスは苦笑いをしながら言う。

「それにしても見事です。スキルといい、魔核をコンスタントに獲る技術も! 確かに王家が後ろ楯となるに相応しいでしょうね」

「なら?」

「はい。我が父上にこの事を持ち掛けましょう」

 シーナの問い掛けに頷くクリスは、後ろ楯となるだけのメリットを見出だしたらしい。


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