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第一章:天醒
第20話:風刃
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その刃は片刃。
反りを持つ片刃の剣とは即ち刀。
芸術的とも云える美しい刃紋、日本刀と呼ばれている武器が人殺しの道具でありながら、まるで芸術品の如く扱われる理由は、正にこの刃の美しさと鍔や柄の拵えにあると云えた。
ユートは魅せられるその美しさに、だけどそれだけでは決して無い。
「こ、これは!?」
手にした刀と佩いた鞘にも驚いたが、疲れていた筈の身体が何故か回復をしているこの能力だ。
《はう、手加減して~》
「???」
頭から聴こえてくるのはシーナの声。
「シー、ナ……?」
《私は今、ユートと一つになっているの》
「ハァ?」
《間違っても手にしている刀が私じゃないよ》
それは良い情報だ。
若し折れてもシーナが傷付く訳ではないから。
《私が一つになる事で私の体力がユートに渡るの》
「疲労が消えたのはそれでなのか!」
《序でに、天醒したら閃姫のスキルが扱える。重複をしたらランクが加算される事になるの》
「それって、僕の【弓術】とシーナの【弓術】が?」
《ユートのはランク1で、私がランク2。加算されてランクは3になっている》
「マジか……」
ランクなんて簡単に上がるものではなく、一時的にとはいえランクが上がるのは可成り美味しい特典。
何よりも、ユートの造る魔導器──インストール・カードはユートが使えるだろうスキルや魔法を籠められるという代物。
本来は持たないスキルも閃姫と天醒した時の限定でインストール・カードを造れるし、一度でも造ってしまえば自分にインストールして量産が可能だ。
それは現在の世界を揺るがしかねない程に、危険な代物となったかも知れないとユートは思った。
「話は後だ。兎に角今は……はっ!」
斬っ!
オークファイターを叩き斬った。
「奴らを斃す!」
《了解!》
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
戦いながら聞いた説明で判った事。
閃姫のスキルを出力。
閃姫の体力を消費しての体力や傷の快復。
身体能力のレベル+10程度のブースト。
但し、その能力の上がり具合は契約されている武器により変化するらしい。
シーナの場合は素早さと精神力が高いとか。
また嘗ての装者の真姫の時とは異なって、閃姫はヒト種のどの種族からも顕れると云う。
真姫は全てが霊人族だったらしく、妖人族や鉱人族や翼人族などの地球では“亜人”と呼ばれている他種族からは出てない。
或いはそれが失敗だったのかも……とは、シーナがアーシエルから聞いた話。
故に閃姫には他の種族からも出ているのだとか。
“失敗”の意味は解らなかったが、ともあれ閃姫は装者が揮って初めて意味を成す武姫の中で、【真姫】を除けば最高峰であるらしい。
ユートはその太刀を揮う度にそれを自覚する。
先程まで使っていた剣がまるで玩具みたいな。
レベルブーストの効果だけではなく、やはり武具の能力そのものが高い証拠、オークの脂ぎってる体躯をあっさりと斬り裂けた。
これで実はまだ発展途上というのだから驚く。
(とはいえ、噛み合ってはいないよね……)
刀なのは純粋に嬉しい。
ユートが修めたのは刀舞──【緒方逸真流宗家刀舞術】だからだ。
だけど閃姫たるシーナのスキルは【弓術】と【射撃術】であり、そもそも近接戦闘の刀と本人のスキルで相性が悪い。
まあ、渡したのはユート本人だから文句を言っても
仕方がないけど。
一応、一通りの舞技は修めているのだが、やっぱり刀が一番慣れている。
若しもシーナの武器が弓だったなら、それはそれで【緒方逸真流坂城派弓術】を使っただけ。
正確には坂城家の弓術を修めていないから、単純に【緒方逸真流弓術】だ。
ユートの実家の戦闘術は武器を選ばないし、基本的には一通りの武器を扱える様に鍛える。
だが、やはり人間が鍛えるには時間が足りないし、況してや極めるともなればどうしたって八方美人的に武器を使っては……となる訳で、宗家と分家で各々が主に使う武器を定めた。
例えば狼摩家であれば、【緒方逸真流狼摩派鉄扇術】だったし、坂城家であれば【緒方逸真流坂城派弓術】となる。
尚、ユートは狼摩家へと出入りをして狼摩白夜からその鉄扇術を習ってたが、技を盗むとか技術的な事は考えてなかった。
本人すら気付いていないとある思惑からである。
閑話休題。
「大分、オークも減ったみたいだけど」
《それでもまだ尽きない》
体力の消耗は相対的にだがシーナが肩代わりしてくれるから、息を上げずに戦えているユートだったが、数が数なだけに終わりというものが見えない。
それにシーナも無限には供給が出来ないし、終わりが見えないと精神的な疲労が蓄積してしまう。
一応、まだ青年団は戦えているのだが、いずれ根を上げてリタイアする。
故にボス格を早めに見付け出し、潰して群を解散に追い込まないといけない。
ユートはオークソルジャーを斬り伏せながら目を凝らして、周囲を観察しボスやそれに連なると思われる幹部級を捜す。
【統率】スキル持ちさえ居なくなれば、烏合の衆と成り果ててオークも逃げ出す筈だから。
「? おかしいな」
《どうかした?》
「身体の調子が少し良くなっているんだ」
《良い事じゃない?》
「そうだけど……なっ!」
斬っ!
新たに此方まで上がってきたらしきオークメイジ、それの首を叩き落としながら応える。
(上がってる。力も逸さも何もかもが……)
活力を閃姫から得ているとはいえ、やはり疲労感というものは付き纏うものだが、それや閃姫との天醒で得られる一時的なレベルブーストを差し引いても、明らかに身体能力が向上している様だ。
《レベルアップしたんじゃないの?》
「……へ?」
レベルアップ。
ゲームのRPGであるのならばお馴染み。
「ああ、そういう事か!」
シーナからレベルアップしたと告げられ、ソコへと思い至ったユートは戦闘中でさえなければ、手をポンと打ったかも知れないくらいに納得した。
RPGのゲームならば、大概が経験値の上昇やレベルアップなどの計算は戦闘終了後に成される訳だが、SRPGやMMO系などであれば、戦闘行為の一回に付き経験値の合算が行われるし、一定以上の経験値を得たらレベルアップも当然ながら成される。
リアルなら後から計算をされるなど有り得ない為、レベルアップシステムなら普通に経験値が加算され、こうしてレベルが上がってしまうという訳だ。
とはいっても、経験値というか経験点は実際にそれ程には大きくないし、上がる能力も自覚が出来る程のものが1レベルで得られる訳でもない。
こうしてユートが自覚を出来たのは、僅かな時間でレベルが幾らかの上昇をした結果という事だ。
経験点そのものは然程に大きくなくとも、数百にも及ぶ数を屠れば余程の高いレベルでなければ確かに、数レベルアップをしていてもおかしくはなかった。
《多分、20くらいにはなってるんじゃない?》
「それは……また随分と上がったもんだな」
計ってみなければ判らないにせよ、感覚的にはそのくらいなのだろう。
「とはいっても、私の武器を使っている間は経験点も十分の一くらいに減るし、こっからレベルアップってのは無理だと思う」
「な、何ぃ!?」
「閃姫に限らず武姫を纏った場合の経験は十分の一、だから流石に今はもう上がらないよ」
「……やっぱりソコまでの上手い話は無いか」
上がっていたのは飽く迄もシーナの契約武器を纏うまでの間、纏ってから戦った分に関しては正に雀の涙くらいなものだ。
それにレベルは20を越えた辺りから所謂、必須な経験点が割り増しになって上がり難い傾向にある。
つまり、本格的な冒険者ではないユートがレベルを上げるのは、だいたいこの辺りが壁……物理的な限界という事だ。
とはいっても、十分の一という事なら十匹を斃せば一匹分の経験値。
数だけは居るのだから、上手く斃していけば或いはもう一回くらい、レベルがアップするかも知れない。
どうでも良い事を考えながら、シーナの契約武器を揮ってはオークを斬る。
最早、何千匹になるかも判らないくらいに斬った。
今までは気付かなかったけど、レベルアップをしたと聞かされて気付く。
確かな恩恵。
ゲームと同じでレベルが上がれば能力値も底上げされる為、一つ上がっただけでは感じ難いにしても気付いたら三つ以上も上がっていたのだ。
充分に判る。
糅てて加えて、閃姫との天醒によるレベルブーストのお陰もあり、今のユートのレベルは仮初めながらも事実上30以上にまで達している。
しかもユートは独自にも鍛えていた──といっても僅かな期間だが──為に、普通のレベル30より多少ながらステイタスが高い。
……様な気がする?
いずれにせよ所詮は付け焼き刃に過ぎず、誤差範囲でしかない数値だろうから当てにはしない。
ユートの前世。
緒方優斗にも幾つか格言みたいなものを頭に行動をしており、それを真理と思ってそれなりに動いた。
一つは『情報は力也』、情報化社会では寧ろ当然であり、ユートもMMORPGをする時は先ず情報を探ってから行動した。
一つは『未知こそが真の敵也』で、やはりMMORPGをプレイする時に未知のダンジョンや未知のボスと遭遇したら、慎重に動いて情報収集に努めたもの。
一つは『僅かな時間で身に付くのは根拠の無い自信と付け焼き刃』だ。
偶に道場に来て木刀を振る警官とか居るのだけど、何故か一時間ばかり素振りをしたら清々しい笑顔を浮かべていたから、さぞや強いのかと思ったら余りに弱くて拍子抜けした。
警官らは、十歳は年下な子供にやられて信じられないといった顔だし。
結局、彼らは素振りをして稽古をしたという満足感だけで、本当に強かった訳ではないらしい。
その自身の持つ格言に従えば、前世の記憶を持っているとはいえど、修業期間は三ヶ月すら経たない程度であり、ゴブリンやその他の魔物を相手に肉体的にはレベルアップしていても、結局は付け焼き刃でしかないという事。
それはこの大量のオークと戦って理解した。
(全部を殺し尽くすのなんて不可能だ。万が一にでもキングとかプリンスとかならどうしようもないけど、それでも取るのは大将首! 狙うしかないな!)
だから捜す。
奴らの中に潜む悪意の源たる【統率】スキル持ち。
どれだけ時間を掛けたのだろうか? どれだけ数を捜したのだろうか?
漸く見付けた。
(オークジェネラル!)
二匹のオークガーディアンに護られたジェネラル、謂わば将軍というやつだ。
ラッキーとは言えない。
確かに【統率】スキル持ちとしては、ユートが知り得る限りで最弱だろうが、それでも最低レベル30。
レベル30以上というのは30から上という意味、即ち40であれ30以上にカテゴライズされる。
魔物でもレベルが20を越えれば上がり難いとされるが、更に進化してロードになるのがレベル50だと考えると、ジェネラルだと最大限でレベル49という事になる訳だ。
オークガーディアンだとレベル25くらい。
尤も、ジェネラルに進化するのは無役のオーク。
つまり他の職持ちは決して進化は出来ない。
(どっちにせよ、殺らないとアーメット村はオークの牧場と化すな)
男は殺されて餌になり、女は性欲を満たす肉人形と孕ます母胎。
どちらも最低最悪。
《ユート、風を》
「風?」
《体力とか精神力を持ってかれるから、今まで言ってなかったんだけど。これの呼び名は【風刃の太刀】。ある程度だけど風を操る力が有るんだ》
「成程……ね」
調子に乗って使っていたら詰み、だから今の今までは隠していたらしい。
念じてみた。
(風巻け!)
刃に竜巻が宿る。
確かに面白くて調子に乗ってしまいそうだ。
「征ぃぃっけぇぇぇっ!」
突きと共に放たれた竜巻がガーディアンと諸共に、ジェネラルを吹っ飛ばす事に成功した。
だが、ガーディアンだけは肉片化したものの……
「生きてる!」
オークジェネラルは未だに健在だった。
レベルだけは近い……かも知れないが、実際の実力はジェネラルが上という事なのか、或いは単純にアレのレベルが40越えという事なのか?
いずれにせよ、さっきの竜巻はオークガーディアンのみならず、他のオークも吹き飛ばしてくれており、今や遠巻きにはオーク共が居ても、ジェネラルに加勢しようとはしてない。
「さあ……僕の舞いを一手馳走しようか!」
ユートは駆けた。
レベルが如何に高かろうとも、あの食う寝る犯るしか能が無いオーク、果たしてどれだけ戦術を修めているのかは完全な未知数。
とはいえ、戦略を理解するかの如く用兵をしてきたのを見るに、少なくと見積もっても将軍の名に違わぬ頭はあるのだろう。
個人の武勇までは窺い知れないのだが……
反りを持つ片刃の剣とは即ち刀。
芸術的とも云える美しい刃紋、日本刀と呼ばれている武器が人殺しの道具でありながら、まるで芸術品の如く扱われる理由は、正にこの刃の美しさと鍔や柄の拵えにあると云えた。
ユートは魅せられるその美しさに、だけどそれだけでは決して無い。
「こ、これは!?」
手にした刀と佩いた鞘にも驚いたが、疲れていた筈の身体が何故か回復をしているこの能力だ。
《はう、手加減して~》
「???」
頭から聴こえてくるのはシーナの声。
「シー、ナ……?」
《私は今、ユートと一つになっているの》
「ハァ?」
《間違っても手にしている刀が私じゃないよ》
それは良い情報だ。
若し折れてもシーナが傷付く訳ではないから。
《私が一つになる事で私の体力がユートに渡るの》
「疲労が消えたのはそれでなのか!」
《序でに、天醒したら閃姫のスキルが扱える。重複をしたらランクが加算される事になるの》
「それって、僕の【弓術】とシーナの【弓術】が?」
《ユートのはランク1で、私がランク2。加算されてランクは3になっている》
「マジか……」
ランクなんて簡単に上がるものではなく、一時的にとはいえランクが上がるのは可成り美味しい特典。
何よりも、ユートの造る魔導器──インストール・カードはユートが使えるだろうスキルや魔法を籠められるという代物。
本来は持たないスキルも閃姫と天醒した時の限定でインストール・カードを造れるし、一度でも造ってしまえば自分にインストールして量産が可能だ。
それは現在の世界を揺るがしかねない程に、危険な代物となったかも知れないとユートは思った。
「話は後だ。兎に角今は……はっ!」
斬っ!
オークファイターを叩き斬った。
「奴らを斃す!」
《了解!》
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
戦いながら聞いた説明で判った事。
閃姫のスキルを出力。
閃姫の体力を消費しての体力や傷の快復。
身体能力のレベル+10程度のブースト。
但し、その能力の上がり具合は契約されている武器により変化するらしい。
シーナの場合は素早さと精神力が高いとか。
また嘗ての装者の真姫の時とは異なって、閃姫はヒト種のどの種族からも顕れると云う。
真姫は全てが霊人族だったらしく、妖人族や鉱人族や翼人族などの地球では“亜人”と呼ばれている他種族からは出てない。
或いはそれが失敗だったのかも……とは、シーナがアーシエルから聞いた話。
故に閃姫には他の種族からも出ているのだとか。
“失敗”の意味は解らなかったが、ともあれ閃姫は装者が揮って初めて意味を成す武姫の中で、【真姫】を除けば最高峰であるらしい。
ユートはその太刀を揮う度にそれを自覚する。
先程まで使っていた剣がまるで玩具みたいな。
レベルブーストの効果だけではなく、やはり武具の能力そのものが高い証拠、オークの脂ぎってる体躯をあっさりと斬り裂けた。
これで実はまだ発展途上というのだから驚く。
(とはいえ、噛み合ってはいないよね……)
刀なのは純粋に嬉しい。
ユートが修めたのは刀舞──【緒方逸真流宗家刀舞術】だからだ。
だけど閃姫たるシーナのスキルは【弓術】と【射撃術】であり、そもそも近接戦闘の刀と本人のスキルで相性が悪い。
まあ、渡したのはユート本人だから文句を言っても
仕方がないけど。
一応、一通りの舞技は修めているのだが、やっぱり刀が一番慣れている。
若しもシーナの武器が弓だったなら、それはそれで【緒方逸真流坂城派弓術】を使っただけ。
正確には坂城家の弓術を修めていないから、単純に【緒方逸真流弓術】だ。
ユートの実家の戦闘術は武器を選ばないし、基本的には一通りの武器を扱える様に鍛える。
だが、やはり人間が鍛えるには時間が足りないし、況してや極めるともなればどうしたって八方美人的に武器を使っては……となる訳で、宗家と分家で各々が主に使う武器を定めた。
例えば狼摩家であれば、【緒方逸真流狼摩派鉄扇術】だったし、坂城家であれば【緒方逸真流坂城派弓術】となる。
尚、ユートは狼摩家へと出入りをして狼摩白夜からその鉄扇術を習ってたが、技を盗むとか技術的な事は考えてなかった。
本人すら気付いていないとある思惑からである。
閑話休題。
「大分、オークも減ったみたいだけど」
《それでもまだ尽きない》
体力の消耗は相対的にだがシーナが肩代わりしてくれるから、息を上げずに戦えているユートだったが、数が数なだけに終わりというものが見えない。
それにシーナも無限には供給が出来ないし、終わりが見えないと精神的な疲労が蓄積してしまう。
一応、まだ青年団は戦えているのだが、いずれ根を上げてリタイアする。
故にボス格を早めに見付け出し、潰して群を解散に追い込まないといけない。
ユートはオークソルジャーを斬り伏せながら目を凝らして、周囲を観察しボスやそれに連なると思われる幹部級を捜す。
【統率】スキル持ちさえ居なくなれば、烏合の衆と成り果ててオークも逃げ出す筈だから。
「? おかしいな」
《どうかした?》
「身体の調子が少し良くなっているんだ」
《良い事じゃない?》
「そうだけど……なっ!」
斬っ!
新たに此方まで上がってきたらしきオークメイジ、それの首を叩き落としながら応える。
(上がってる。力も逸さも何もかもが……)
活力を閃姫から得ているとはいえ、やはり疲労感というものは付き纏うものだが、それや閃姫との天醒で得られる一時的なレベルブーストを差し引いても、明らかに身体能力が向上している様だ。
《レベルアップしたんじゃないの?》
「……へ?」
レベルアップ。
ゲームのRPGであるのならばお馴染み。
「ああ、そういう事か!」
シーナからレベルアップしたと告げられ、ソコへと思い至ったユートは戦闘中でさえなければ、手をポンと打ったかも知れないくらいに納得した。
RPGのゲームならば、大概が経験値の上昇やレベルアップなどの計算は戦闘終了後に成される訳だが、SRPGやMMO系などであれば、戦闘行為の一回に付き経験値の合算が行われるし、一定以上の経験値を得たらレベルアップも当然ながら成される。
リアルなら後から計算をされるなど有り得ない為、レベルアップシステムなら普通に経験値が加算され、こうしてレベルが上がってしまうという訳だ。
とはいっても、経験値というか経験点は実際にそれ程には大きくないし、上がる能力も自覚が出来る程のものが1レベルで得られる訳でもない。
こうしてユートが自覚を出来たのは、僅かな時間でレベルが幾らかの上昇をした結果という事だ。
経験点そのものは然程に大きくなくとも、数百にも及ぶ数を屠れば余程の高いレベルでなければ確かに、数レベルアップをしていてもおかしくはなかった。
《多分、20くらいにはなってるんじゃない?》
「それは……また随分と上がったもんだな」
計ってみなければ判らないにせよ、感覚的にはそのくらいなのだろう。
「とはいっても、私の武器を使っている間は経験点も十分の一くらいに減るし、こっからレベルアップってのは無理だと思う」
「な、何ぃ!?」
「閃姫に限らず武姫を纏った場合の経験は十分の一、だから流石に今はもう上がらないよ」
「……やっぱりソコまでの上手い話は無いか」
上がっていたのは飽く迄もシーナの契約武器を纏うまでの間、纏ってから戦った分に関しては正に雀の涙くらいなものだ。
それにレベルは20を越えた辺りから所謂、必須な経験点が割り増しになって上がり難い傾向にある。
つまり、本格的な冒険者ではないユートがレベルを上げるのは、だいたいこの辺りが壁……物理的な限界という事だ。
とはいっても、十分の一という事なら十匹を斃せば一匹分の経験値。
数だけは居るのだから、上手く斃していけば或いはもう一回くらい、レベルがアップするかも知れない。
どうでも良い事を考えながら、シーナの契約武器を揮ってはオークを斬る。
最早、何千匹になるかも判らないくらいに斬った。
今までは気付かなかったけど、レベルアップをしたと聞かされて気付く。
確かな恩恵。
ゲームと同じでレベルが上がれば能力値も底上げされる為、一つ上がっただけでは感じ難いにしても気付いたら三つ以上も上がっていたのだ。
充分に判る。
糅てて加えて、閃姫との天醒によるレベルブーストのお陰もあり、今のユートのレベルは仮初めながらも事実上30以上にまで達している。
しかもユートは独自にも鍛えていた──といっても僅かな期間だが──為に、普通のレベル30より多少ながらステイタスが高い。
……様な気がする?
いずれにせよ所詮は付け焼き刃に過ぎず、誤差範囲でしかない数値だろうから当てにはしない。
ユートの前世。
緒方優斗にも幾つか格言みたいなものを頭に行動をしており、それを真理と思ってそれなりに動いた。
一つは『情報は力也』、情報化社会では寧ろ当然であり、ユートもMMORPGをする時は先ず情報を探ってから行動した。
一つは『未知こそが真の敵也』で、やはりMMORPGをプレイする時に未知のダンジョンや未知のボスと遭遇したら、慎重に動いて情報収集に努めたもの。
一つは『僅かな時間で身に付くのは根拠の無い自信と付け焼き刃』だ。
偶に道場に来て木刀を振る警官とか居るのだけど、何故か一時間ばかり素振りをしたら清々しい笑顔を浮かべていたから、さぞや強いのかと思ったら余りに弱くて拍子抜けした。
警官らは、十歳は年下な子供にやられて信じられないといった顔だし。
結局、彼らは素振りをして稽古をしたという満足感だけで、本当に強かった訳ではないらしい。
その自身の持つ格言に従えば、前世の記憶を持っているとはいえど、修業期間は三ヶ月すら経たない程度であり、ゴブリンやその他の魔物を相手に肉体的にはレベルアップしていても、結局は付け焼き刃でしかないという事。
それはこの大量のオークと戦って理解した。
(全部を殺し尽くすのなんて不可能だ。万が一にでもキングとかプリンスとかならどうしようもないけど、それでも取るのは大将首! 狙うしかないな!)
だから捜す。
奴らの中に潜む悪意の源たる【統率】スキル持ち。
どれだけ時間を掛けたのだろうか? どれだけ数を捜したのだろうか?
漸く見付けた。
(オークジェネラル!)
二匹のオークガーディアンに護られたジェネラル、謂わば将軍というやつだ。
ラッキーとは言えない。
確かに【統率】スキル持ちとしては、ユートが知り得る限りで最弱だろうが、それでも最低レベル30。
レベル30以上というのは30から上という意味、即ち40であれ30以上にカテゴライズされる。
魔物でもレベルが20を越えれば上がり難いとされるが、更に進化してロードになるのがレベル50だと考えると、ジェネラルだと最大限でレベル49という事になる訳だ。
オークガーディアンだとレベル25くらい。
尤も、ジェネラルに進化するのは無役のオーク。
つまり他の職持ちは決して進化は出来ない。
(どっちにせよ、殺らないとアーメット村はオークの牧場と化すな)
男は殺されて餌になり、女は性欲を満たす肉人形と孕ます母胎。
どちらも最低最悪。
《ユート、風を》
「風?」
《体力とか精神力を持ってかれるから、今まで言ってなかったんだけど。これの呼び名は【風刃の太刀】。ある程度だけど風を操る力が有るんだ》
「成程……ね」
調子に乗って使っていたら詰み、だから今の今までは隠していたらしい。
念じてみた。
(風巻け!)
刃に竜巻が宿る。
確かに面白くて調子に乗ってしまいそうだ。
「征ぃぃっけぇぇぇっ!」
突きと共に放たれた竜巻がガーディアンと諸共に、ジェネラルを吹っ飛ばす事に成功した。
だが、ガーディアンだけは肉片化したものの……
「生きてる!」
オークジェネラルは未だに健在だった。
レベルだけは近い……かも知れないが、実際の実力はジェネラルが上という事なのか、或いは単純にアレのレベルが40越えという事なのか?
いずれにせよ、さっきの竜巻はオークガーディアンのみならず、他のオークも吹き飛ばしてくれており、今や遠巻きにはオーク共が居ても、ジェネラルに加勢しようとはしてない。
「さあ……僕の舞いを一手馳走しようか!」
ユートは駆けた。
レベルが如何に高かろうとも、あの食う寝る犯るしか能が無いオーク、果たしてどれだけ戦術を修めているのかは完全な未知数。
とはいえ、戦略を理解するかの如く用兵をしてきたのを見るに、少なくと見積もっても将軍の名に違わぬ頭はあるのだろう。
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