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第一章:天醒

第16話:急展

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 ソレイユとのある意味で『初めまして』な再会や、セリナとの奴隷契約に+してカリンカとのパトロン的な契約。

 順当に増える仲間?

 怒涛なまでの一週間は、シーナも巻き込んで過ぎ去っていった。

 そして行商がアーメットの村を出る日、それは即ち本来は違う領地の領主の娘たるソレイユと、錬金術師として行商に参加していたカリンカとの一時的な別れを意味している。

 ユートが自らお金を出して買ったセリナは兎も角、ソレイユとカリンカの二人は流石にこれ以上の滞在は出来ない。

 サリュートがソレイユをアウローラ領の邸にまで送る手筈なのは変わらずで、カリンカも次の村か街かは兎も角として、行商に加わって魔導具を売る算段だ。

 因みに、折角の一週間を無駄にはしなかったのは、実の処だとお互い様というやつであり、カリンカの方もユートから学ぶべき知識は大いに有ったし、何より森には魔物が出てくるけど獲られる素材も多かった。

 採取して調合してそれを売ってお金を獲ている。

 勿論、それは見習いとはいえカリンカ本人が作製したアイテムな為、お小遣いに加える事が錬金術の師匠からも許されていた。

 こんな寒村でも人が動けば不慮の事故もあったし、森へ狩りに出る狩人が魔物相手に怪我をする事だってある訳で、普通に銀貨で買えるポーション類はそれなりに売れている。

 薬師が作る薬草汁の煮詰め物は、それなりに効く薬として売れてはいるけど、やはり魔導薬に比べてみれば微々たる回復効果。

 銅貨で買えるのと、僅かな怪我なら充分に使えるのとが相俟って、需要が無くなる訳ではないから薬師が仕事を失いはしないのが、せめてもの救いか。

 また、カリンカにとって一番の収穫となったのが、新たなる魔導具の造り方を知れた事。

 元々、カリンカは戦闘用にしか造られていなかった魔導具や魔導薬に疑問を持っており、出来れば生活に役立つ魔導具などは造れないものかと、師匠から師事されたり手伝いをしたりする中で研究をしていた。

 錬金術師が存在を現して千年は経つが、この数百年は新しい魔導具も魔導薬も開発されず、同じ物が多少の改良を受ける程度でしかない為、技術的な膠着状態に陥ってしまっている。

 回復薬ポーションの効果がHP一二パーセント回復だったものが、改良をして一二.一パーセントになった処で雀の涙。

 師匠の研究も新しいモノをという事だが、どうにも上手くはいっていない。

 其処に病を癒す魔導薬、正確には辛い病の時に飲めば症状を緩和出来るだろうポーションで、病によっては効かない処か悪化もするけど、正しく飲めば楽になれるのは間違いないとか。

 効果は抜群だ。

 ユートが森に在った薬草の効能を、【叡智瞳】スキルによって読み取りそれをポーションの素材として、調合をした魔導薬ポーションだったから。

 【叡智瞳ウィズダム・アイ】――ユートは当初だとそれを『流れを視る眼』と考えていた。

 実際に魔力や氣の流れを視れたそれの解釈上は間違ってはいないのだろうが、レベルアップによる機能拡張を舐めていたと言わざるを得ない。

 魔導具を造り続けていた結果、レベルが上がっていた【叡智瞳】は薬草などを視れば薬効も理解出来た。

 この侭なら本当に事象やら死線も読めるのでは? などと思えてしまう高性能である。

 とはいえ、現時点で云えば便利な魔眼という感想しか出てこなかった。


「いや~、最初はどうなるかと思ったけどボク的には悪くない一週間だったな」

 御満悦なカリンカ。

 収支という意味で云えば確かにプラスとなった為、笑いが止まらない状況なのであろう。

 元々、カリンカは師匠の下で修業をしながら錬金術の在り方に疑問を持っていたからか、どうしても昔ながらのあれやこれやに納得がいっていない。

 実は師匠も同じらしく、カリンカの師匠とは若手の錬金術師、三十路にも達していないのだとユートは聞かされている。

 つまり、カリンカと年齢も十歳くらいしか離れてはいないのだと。

 普通なら師弟関係を結ぶとなると、大概はそれなりに年齢が過ぎた者が師匠となるから、最低限で二十歳は離れているものだが……とはカリンカの言葉だ。

「多少、行動や言動に制限は付いたけど……ボクとしては君と会えたのはラッキーだったよ」

 ボクっ娘の笑顔がとても眩しかったり。

「まあ、そう言って貰えるのは嬉しいよ」

 制限した側だとはいえ、ユートもカリンカという手に錬金術師という職を持つ同世代と知り合えたのは、やはり悪くない話である。

「そうだ、カリンカにも渡しておこうか」

「? これは……」

「魔導伝話機。僕や父さんやシータ姉にも渡してある遠くからでも会話が可能な魔導具だよ」

 本当に急いだから何とか自分とサリュートと爺さんとソレイユの分を確保し、更にもう一台を今朝になって完成させたユートはソレをカリンカに渡す。

 この一週間で造りまくったからか、流石に手際も良くなっていて間に合った。

「これ……」

 カパッと開いてみれば、確かにユートが持っていた魔導伝話機で、カリンカは瞳をキラキラさせながらも見つめている。

「い、良いの?」

「折角、カリンカと知り合ったんだからちょっと繋がりを深めたくて頑張った。だからシーナのはもう少しだけ待って欲しい」

「ん、判ってるよ」

 離れるカリンカを優先したのは当然と、シーナとしても納得をしていた。

 リアルな年齢だったなら我侭を言ったかもだけど、こう見えてシーナは前世での年齢がプラスされた精神な訳で、こんな時に空気を読まない謂わばKYな行動に出たりはしない。

 一応は、今の年齢に精神が引かれているにしても、それが即ち丸っきり子供みたいな我侭を言う理由にもならないのだから。

 何より、シーナは考えているのだ──『そも自分にユートへ我侭を言う資格は無い』のだと。

 シーナの前世は当然ながら地球人、そして今現在の姿や建立をした神社紛いな教会から判るであろうが、那由多神社の宮司の娘にして巫女さんをしていた。

 ユートが聞いたシーナの前世の名前は那由多椎名。

 代々、神社を預かる家に生まれたが故に神社の名前が苗字となっている。

 そして『とある出来事』を切っ掛けに飛び込み自殺を図り、ユートに助けられ──様としていたらしいが諸共に死亡した。

 それをアーシエルから教えられ、全部を思い出した時に憎まれ口を叩いた事も後悔してしまう。

『余計な事を』

 死にたかったのに助けようとするなんて……というのは自分の理屈であって、周囲には関係が無い。

 自分の理屈が周囲に関係が無いのと同じで。

 だから多分、不可能だと思うから『身体を求められる』以外でなら、シーナはユートに全部従う心算だ。

 身体を求められたとしてシーナは応えられない。

 恐らくは全力で抵抗するだけだろうし、そんな面倒な自分を相手にしなくてもユートなら選り取り見取りの選び放題の筈。

 何故ならユートは……

「あ、そうだ!」

「どうした?」

「君が造る魔具マジックアイテムだけど」

「うん?」

 急に思い出したと謂わんばかりのカリンカだけど、ユートも彼女の話に耳を確り傾ける。

「昔から造られている種類を魔導具、薬品類を魔導薬と呼んでいるよね?」

「そうだな」

「君のはそれらと毛色がちがうし、これからは魔導器って呼んだらどうかな?」

「魔導……器?」

「そ、魔導器」

 少し考える素振りで顎に指を添え、ニヤリと口角を吊り上げるユート。

「悪くはないね」

「でしょ?」

 この日、魔導具と魔導薬に続く第三のマジックアイテム種として魔導器の名前が誕生するのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 行商隊を見送った後は、恒例の修業に精を出す。

 ユートの修業は鍛えるより寧ろ、力を落とさない為の維持を主目的とする。

 レベルの概念が存在するから理解も出来るだろう、能力値の向上とは基本的に魔物狩りや動物狩りなどで経験値のアップを行って、レベルを引き上げる事によって成されていた。

 とはいえ、レベルアップして『力が3上がった』とか『素早さが2上がった』なんて訳にはいかない。

 レベルアップとは器たる肉体の許容量の向上。

 つまり、そこから鍛えたりまた魔物を狩ったりして能力を上げるのである。

 器の向上から限界を迎えると、次のレベルまで能力は殆んど上がらない。

 全く上がらない訳ではなかったが、限界値になるまでより明らかに遅くなる。

 だから器の向上の為にも更なる戦いが必須だった。

 ユートの現在のレベルはソレイユに魔導具で調べて貰った結果、既に16にまで上がっているらしいが、現状では能力値の向上を余り感じないから、ユートも次のレベルを目指して戦わなければならない。

 だから修業後には森に出掛け、魔物狩りをする予定となっていた。

 それにまたゴブリンが増えていたし。

 魔素から魔物連中が湧出ポップをするからには、幾らそれを全滅させようとも再湧出リポップする。

 オマケにゴブリンだとかオークの類いは、ヒト種族の胎を使って増殖も可能としているから厄介だ。

 だから、ゴブリンが湧出する村の近くの森に村人は間引きをする人員を出し、魔物狩りをして村が襲われない様にしていた。

 所謂、自警団である。

 とはいえ、サリュートがAランク冒険者となって、勲爵士の爵位を王都で国王より与えられてから後は、基本的にアーメット村へと住み始めたサリュートが、森での間引きをしていた。

 そして現在ではユートも間引き担当だ。

 だけど間引きは義務ではなかったし、森は広いから魔物を狩りながら廻るとなれば、どうしたって何日も掛かってしまう。

 故にこそ、こないだの様に妖人族エルフ娘が捕まったみたいな出来事も稀に起きていた。

 寧ろ、妖人族が捕まっていたから村に被害が出なかったのだろう。

 間引きをしても軽く食事と酒が配給される程度で、別に給金が出ている訳でもなかったし、ユートからしたら精々が外で昼飯を食える程度の話。

 それにしたって家で食べた方が、美味しいご飯にありつけるというものだ。

 まあ、塩スープに肉が入っている程度だけど。

 つまり実質的なメリットは無かったりする、村から与えられるという意味でのメリットは。

 美味しいのはやはり森で獲られる素材や魔物の討伐証明部位、これらを手にして売れば小遣いと呼ぶには些か高額なお金が手に入るのだから。

 尤も、魔物の討伐証明部位を換金出来るのは冒険者たるサリュートだけだし、ユートは彼に頼んで王都に行った際には換金をして貰っていた。

「やれやれ、ゴブリンだけでなくコボルトまでが」

 基本的には魔素というのは濃度や密度や純度が一定に世界を廻り、消耗される事が無いし増える事も無いとされている。

 それ故にか魔物が魔素から湧出をする場合、場所によって変わる事はあっても一定の土地で大きくへんかしたりしないとされた。

 アーメット村の近くの森には、本来だとコボルトの湧出は有り得ないのだ。

 そもそもアーメット村の近辺は、ゲームで云うなら理想的な【始まりの地】というやつで、ハッキリ云って森の深部に入り込まなければ大した魔物は出ない。

 森の浅い位置は村の外に湧出する魔物と変化がないのだし、簡単な薬草などや木の実が手に入る生命線とも云えるだろう。

 にも拘らず、浅い位置にゴブリンは疎か本来ならば湧出しないコボルト種が出てきた。

「何かが起きてるのかね」

 シーナから魔王が出現したらしいと聞いていたが、どうやらそれだけではなさそうだ。

 まあ、有り難くコボルトの討伐証明部位や素材を手に入れておく。

 行き成り斃せないレベルの魔物が出た訳ではないのだから、ユートからすればボーナスエネミーである。

 とはいえ、素材は毛皮を剥ぎ取るくらいだが……

 魔素から湧出した魔物は死んで暫くすると魔素へと還るけど、何故か剥ぎ取った素材や討伐証明部位などは消えない。

 勿論、剥ぎ取らなければ一緒に消えてしまう。

「無役のコボルトか」

 人型の魔物はヒト種族と同じく役を持つ。

 職とかクラスとか呼ばれる訳だが、謂わば剣士とか弓兵とかがそれだ。

 無役とはつまり何ら職業を持たないニート……ではないが、コボルトであれば簡単な短剣を、ゴブリンであるなら棍棒を手にしただけの存在である。

 他にもリザードマンとかオークとか、人型を執った魔物は何種類か居た。

 嫌なのはインセクトマンと呼ばれる存在で、種類が豊富に居てしかも厄介なのが謂わばG型インセクトマンであると云う。

 しかもこんなのに限ってゴブリンやオークみたく、ヒト種族を使って増えるというタイプだったりする。

 まあ、本の知識からだからそもそもどうやって生殖行為に及ぶのか、ユートには想像も付かないのだが、判っているのは小さなG型インセクトマンがワラワラと女性のアソコから涌き出るという悪夢みたいな話、その一回目の悍しさに精神な異常を来して壊れるとされていた。

 因みに、産まれてくる際の大きさは実際のGと同じくらいであり、三日間程度で成虫にまでは育つ上に、一度の生殖により約五〇匹は産まれるのだと物の本に書かれている。

 本当に悍しい話だ。

 そんな連中が何故にヒトを駆逐が出来ないのか? それは連中は産まれた後に母親となったヒト種族を、自らの腹を満たすべく喰らってしまうから。

 ゴブリンやオークなどは壊れようがどうしようが、使える限りは使って産ませる訳だけど、G型インセクトマンは喰ってしまう。

 故に殖え難い。

 不幸中の幸いとも云えない救い様の無い話だが……

「ハァッ!」

 斬り裂かれるゴブリン。

「これで最後かな?」

 ゴブリンは正直に云うと旨味が少ない魔物であり、精々が討伐証明部位を切り取る程度。

 着ているのはボロ服で、手にしているのは棍棒。

 仮にゴブリンソルジャーなら錆が入ったボロ槍で、メイジやシャーマンであればボロい木の杖やカッカラ程度だ。

 薪にしても使えないともなれば、そんな代物が売れる訳も無い。

 碌に宝物を集める訳でもない、剥ぎ取れるのは討伐証明部位のみでしかなく、ドロップアイテムも牙とか爪とかショボいモノ。

 尚、ドロップアイテムとは剥ぎ取りとは別に消えたら落とすアイテムであり、その部位は魔素が濃密だから使えるらしい。

 まあ、ユートはそのドロップアイテムに恵まれた事は無かったけど。

「さて、そろそろ戻るか」

 森から出たユートは駆けてアーメット村へと戻り、家の近くまで来たら何故か村の少年──らしい誰かが息を切らしてやって来た。

「ユ、ユート! 大変だ! すぐに来てくれ!」

「えっと、誰?」

 訊ねたら、ステーン! とずっこけてしまう少年であったと云う。



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