時空の逆行狂詩曲 -この歪んだ世界に最悪の死を-

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02回 二十歳にて死ね

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 俺の人生は終わらない。

 理由も原因も何もかもが分からないが、俺は十七歳のあの日、あの場所、あの瞬間に全てを思い出し気を失い、わその丁度一年後にこの病室で十八歳の夏を迎え続ける。
 そして、記憶を取り戻した俺は二十歳を迎えるその日に必ず死に、また記憶を失っては同じ十七年を繰り返し、十八歳の夏に目覚め帰ってくる。

 つまり俺は、何の因果か終わらない十七年と空白の一年、そして残された二年の月日を、ただ延々と繰り返し続けているのだ。

 初めはこの不可解な現象に、自分が選ばれた人間なんじゃないかと、もしかすると何かを変えられる、変える為の能力なんじゃないかと思い、嬉々としてこの三年を過ごしていた。

 しかし、現実はそう簡単なものでもなかった。

 多くの人生を歩み、数えきれない程多くのものに手も出してきた。
 ただそれで得た知識は多少残ろうが、この無限に等しいループの流れから抜け出せない以上、その経験による賜物は、数十、数百と時を繰り返す内に全て失われてしまう。

  俺自身の意思を無視して強制的に続く、何も変わらない十六年のおかげで、最低限の知識はあるが、ただそれだけ。
 結局のところ俺は、何か特別な力を持つ訳でもないそこらに居る普通の十七歳である。

 そもそも、限られた三年間では何もできない。
 いや、例え行動を起こし何かを変えられたところで、結局終わって巡る俺の行動には、意味がないと言うべきだろう。

 当然ながら自身の身に起きている現象を他者に説明することも無駄。
 予知のごとく未来の出来事を的中させて信じさせようが、結局は何かしらの理由を付けて世間はそれを信じない。

 であれば、すべきことはこのループ現象を解明し、本来あるべき生を取り戻すことであると、そう考えたのだが、何千と試したところでそれも無駄だった。
 
 自死による検証も不可能。二十歳になるまでは、何をしようが最終的には助かってしまう。
 世界中の研究機関に問い合わせても当然のことながら無対応、稀に変人気質の学者に対応されることはあるものの、この話を最後まで聞き、信じようとする者はいない。
 オカルト集団への接触なんかも、想像が付くだろうが全くの無駄骨でしかない。
 SNSなんかで発信しても無意味、冷やかしてくる者はいても、俺以外でループに巻き込まれているような人間の存在は確認できない。

 結局何をやっても無意味な行動にすぎず、嫌味な何かに嘲笑われるかのようにさえ感じる。

 だから俺は、諦めていたのに……

 
---


「与作、お前なんで……?」

 理解が追いつかない。
 あの日に死ぬはずの与作が今、俺の目の前にいる。

「一成、ごめん」
「え、あぁ……」

 開口一番の謝罪に対して、頭の整理が追いつかないまま返事をする。

「あのとき俺が無理に連れ出さなきゃ、こんなことにはならなかったんだ。本当にごめん……」
「いや別にそれはいいけど……」

 それ以上言葉が出てこない。

 混乱と、どこか異様な不快感に襲われながら、やっとの思いで言葉を捻り出し、怪訝《けげん》な様子を最大限隠すようにしながら、違和感の根源である与作に目を向ける。

「そんなことより、お前の目が覚めてよかったよ!」

 そんな俺に違和感を感じたのか、言葉を続けようとしたその途端、急に明るく振る舞い肩に手をかけて言ってくる与作。

「病院だから静かにしろって…… それで、お前は一人で来たのか?」
「いや、一成の母さんも直ぐ来るぞ」

 それにつられて、俺もほんの少しだけいつもの調子に戻って言葉を返す。

「そうか……」

 また意外にも、母さんはこれまでのループと同じように時間通り来るらしい。
 であれば与作が生きている以外に大きな違いはない、ということなのか?

 ともあれ、色々と自分の頭で考えたところで分からないことだらけの現状、まずは与作から情報を引き出すべきだろう。

「一成、あんた目が覚めたの!」

 そんな考えをさえぎるように、扉の方から与作以上の大声が鳴り響き

「あ、母さん」

「……」
「母さん……?」

 与作と俺との間に割って来た母さんに抱きしめられた。

「良かった……」

 その言葉に力はなく、身体も震えている。

「…………」

 そんな実の母の弱々しい姿を見ても何も感じないことに自身の歪みを感じながらも、俺は母を抱きしめ返した。


---


「ちょっとトイレ行ってくる」
「まだ目が覚めたばかりなんだから、ちゃんと気をつけて行くのよ」
「流石に俺が付いて行こうか?」
「分かってるし、別に来なくていいよ」

 小一時間程、医師に軽く容体を診てもらい、その後は二人から俺の意識がなかった時の話を聞いていたのだが、聞く限りでは与作が生きている以外に大きな違いはないように感じる。

「んだよ、せっかく俺がこう言ってやってるってのに、可愛くない奴だな」
「はいはい、勝手に言ってろ」

 そんな風に言って俺は廊下へと向かう。
 ずっと同じことの繰り返しだったとは言え、こんなやり取りができる与作は、俺にとって間違いなく大切な親友だ。

 与作が生きていることに対する違和感、そんなものは直ぐに嬉しさへと変わり、情報収集とは関係のないことも話し込んでしまった。
 普段なら無限にも感じられるこの長い二年の中で、久々に楽しいと思うことができたし、今二人から得られる重要な情報も特にないようなので、まずは何もなくとも良しとしよう。
 
「あっ」
「すみません」

 考えながら廊下をぼんやり歩いていると、誰かにぶつかってしまった。

 それはどこか、浮世離れした雰囲気を感じさせる白髪の女の人。

 綺麗な人だが、初めて見…… た……?

「こちらこそ、前を見てなくてごめんなさいね」

 そう初めて・・・病院ここに居るはずがない異分子に俺は出会ったのだ。
 与作が生きていることといい、連続して起こる異常に咄嗟に反応することができず、彼女は隣を通り過ぎてしまう。

「お友達、生きてて良かったね」
「……っ!」

 すれ違いざまに耳元でささやかれたその声に急いで振り向いたが、そこには誰もいなかった。
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