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第四章
8.竜人の王子
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池を覗き込んでため息をついた。
父さまが心配。
父さまの所へ行きたい。
でも、自分には何も出来ない。
待っているしかない。
水の中の金銀や赤、黒、三色など、餌をたいそう貰っているのか、随分と福々と肥えて大きな鯉ばかりが群れて大群となり、覗き込んでいる私の近くにやって来た。
ぱく、ぱくと口を開けて浮かんでくる。
「・・・」
鯉にあげる餌でも、貰ってこようかと思っていると、自分の背後で人の気配がして、あっと思った時には、覆いかぶさるように、父さまやアバルドおじさんよりも大きな者に後ろから、抱きすくめられていた。
子供の私が、そうされると男にかくれて見えなくなる。
「・・番の姫よ、我と来るのだ」
腹に響くような、聞き覚えのある男の声と、美しく煌めく長い金の髪がカーテンの様に顔の前に垂れ下がる。
小さなこの体を難なくクルリと向きを変えさせて、男は私を自分の方に向ける。
やはり、どう見ても、男は竜人のハルマン皇太子に見える。
私は前世では、こんなに近くから、まともに見た事は無かったと思う。とても彼を恐れていたので。
恐怖よりも、驚きが勝ち、ただ相手を見やる。何て綺麗なのだろう。流れる黄金の髪は溜息が出る程美しい。
相手が自分をふんわりと抱き込み、威圧をしてこなかったせいもあるのだろう。
蒼天の様な深く蒼い瞳は、黒い縦に割れた瞳孔がドクリ、ドクリと収縮して私を見ているのまでわかる。
瞳の虹彩までもが、ハッキリと識別出来る様な至近距離だった。
その周囲を金色の眩い睫毛が取り囲んでいる。
あまりに近すぎて、その瞳に吸い込まれそうだ。
「なん・・で、ここに、いる・・の?」
自分に今起こっている事が信じられない。
切羽詰まった状況だと言うのに、少しふうわりと甘い香りがするような気がする。
これは、やっぱり、幻でも、気のせいでも、見間違えでもない様だった。
どうして竜人国の城の地下で封印されているはずのこの人が、私の所にいるのだろうか?
「お前を連れに来た」
「えっ・・・」
「私と一緒に、行くのだ」
立ち上がり、そのまま私の両脇に手を入れ、私の顔の位置を自分の顔の位置までもち上げる。
ぶらーんとぶらさがっている感じだった。
でも、何処かに連れて行かれると思うと級に恐ろしくなった。
父さまと離れるのは絶対いやだったからだ。
「やだ、降ろして、降ろしてよ!行かない」
突然、私がジタバタ動き回っても、首を横に少し傾けて、ぶら下げて観察するように、じっと私を見ている。
「もう、間違えて殺したりしない、そっと触る。傷をつけたりしない」
「やだ。わたし、父さまのところに行く、父さまの‥」
「だめだ、他は全部いらない。お前だけでいい事にした。だからお前は私と来るのだ」
男の眼が私の瞳を覗き込み脳の中を覗かれた様な気がした。
なんか、ものすごく勝手な事を、この人が今言った気がする。
「ふぁ・・」
グルグルと頭の中が回っているような気がした。私は知らなかったが、それは酩酊した時の様な状態になっていたのだ。
「大丈夫だ、眠れ」
眠っちゃだめだ。だめ、父さまの所に行かなければならない。
「だ・・め・」
いう事を聞いてなるものかと、落ちて行こうとする意識をとどめようと頑張ったが、抵抗虚しく深い場所に落ちて行く。
私を抱きしめ優しく背を撫でるのは、父さまではないのだろうか・・
似ているけど、私が顔を預けている肩には美しい金の髪がある。
冷たいけど柔らかい何かが、私の頬に押し当てられた気がした。
そして、眠りの淵に落ちて行く、私の耳のピアスをそっと抜き取り、池に投げ捨てた。
父さまが心配。
父さまの所へ行きたい。
でも、自分には何も出来ない。
待っているしかない。
水の中の金銀や赤、黒、三色など、餌をたいそう貰っているのか、随分と福々と肥えて大きな鯉ばかりが群れて大群となり、覗き込んでいる私の近くにやって来た。
ぱく、ぱくと口を開けて浮かんでくる。
「・・・」
鯉にあげる餌でも、貰ってこようかと思っていると、自分の背後で人の気配がして、あっと思った時には、覆いかぶさるように、父さまやアバルドおじさんよりも大きな者に後ろから、抱きすくめられていた。
子供の私が、そうされると男にかくれて見えなくなる。
「・・番の姫よ、我と来るのだ」
腹に響くような、聞き覚えのある男の声と、美しく煌めく長い金の髪がカーテンの様に顔の前に垂れ下がる。
小さなこの体を難なくクルリと向きを変えさせて、男は私を自分の方に向ける。
やはり、どう見ても、男は竜人のハルマン皇太子に見える。
私は前世では、こんなに近くから、まともに見た事は無かったと思う。とても彼を恐れていたので。
恐怖よりも、驚きが勝ち、ただ相手を見やる。何て綺麗なのだろう。流れる黄金の髪は溜息が出る程美しい。
相手が自分をふんわりと抱き込み、威圧をしてこなかったせいもあるのだろう。
蒼天の様な深く蒼い瞳は、黒い縦に割れた瞳孔がドクリ、ドクリと収縮して私を見ているのまでわかる。
瞳の虹彩までもが、ハッキリと識別出来る様な至近距離だった。
その周囲を金色の眩い睫毛が取り囲んでいる。
あまりに近すぎて、その瞳に吸い込まれそうだ。
「なん・・で、ここに、いる・・の?」
自分に今起こっている事が信じられない。
切羽詰まった状況だと言うのに、少しふうわりと甘い香りがするような気がする。
これは、やっぱり、幻でも、気のせいでも、見間違えでもない様だった。
どうして竜人国の城の地下で封印されているはずのこの人が、私の所にいるのだろうか?
「お前を連れに来た」
「えっ・・・」
「私と一緒に、行くのだ」
立ち上がり、そのまま私の両脇に手を入れ、私の顔の位置を自分の顔の位置までもち上げる。
ぶらーんとぶらさがっている感じだった。
でも、何処かに連れて行かれると思うと級に恐ろしくなった。
父さまと離れるのは絶対いやだったからだ。
「やだ、降ろして、降ろしてよ!行かない」
突然、私がジタバタ動き回っても、首を横に少し傾けて、ぶら下げて観察するように、じっと私を見ている。
「もう、間違えて殺したりしない、そっと触る。傷をつけたりしない」
「やだ。わたし、父さまのところに行く、父さまの‥」
「だめだ、他は全部いらない。お前だけでいい事にした。だからお前は私と来るのだ」
男の眼が私の瞳を覗き込み脳の中を覗かれた様な気がした。
なんか、ものすごく勝手な事を、この人が今言った気がする。
「ふぁ・・」
グルグルと頭の中が回っているような気がした。私は知らなかったが、それは酩酊した時の様な状態になっていたのだ。
「大丈夫だ、眠れ」
眠っちゃだめだ。だめ、父さまの所に行かなければならない。
「だ・・め・」
いう事を聞いてなるものかと、落ちて行こうとする意識をとどめようと頑張ったが、抵抗虚しく深い場所に落ちて行く。
私を抱きしめ優しく背を撫でるのは、父さまではないのだろうか・・
似ているけど、私が顔を預けている肩には美しい金の髪がある。
冷たいけど柔らかい何かが、私の頬に押し当てられた気がした。
そして、眠りの淵に落ちて行く、私の耳のピアスをそっと抜き取り、池に投げ捨てた。
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