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第四章
4.ビング・ケトル討伐と裏切り
しおりを挟む翌日、朝食後、皇宮の転移門から、『魔の密林』近くの村へ、移動する事になった。
ゼルドラの部隊は第一部隊から第四部隊までそれぞれ20名ずつで、合計80名。
シャナーンの部隊は30名だ。
今回は、ビング・ケトルと呼ばれる小竜の討伐だ。
羽を広げると1.5メートルはあり、黄褐色で体皮は固く鱗はない。
小竜と呼ばれるだけあり、形はワイバーンによく似ている。肉食で気性が荒い。
群れるが、頭が良くない為、役割分担などはなく、ただ群れているだけ。
フン等が臭く村や町に群が来ると討伐隊を出さなければならない。
最近は魔境の側をネグラにしてしまい、手をこまねいている内に増えてしまったのだった。
肉食なので、村に来て家畜を襲ったりする。
しかも数が増えすぎて、餌確保の為に密林の近くの村を襲った。
魔石は固形燃料になる。とてもよく燃えるらしく、一つあれば火を付け灰の中に入れておくと、ひと月は火種になるそうだ。
なので、ビング・ケトルは火に弱い。
だが、火に弱いが密林に火を付ける訳にはいかない。
先日は辺境の村でついに人が襲われる被害が出て、討伐依頼が上がったらしい。
住処は魔の密林と魔境の境らしく、その辺りの注意点を昨日の会議であげられたらしい。
という話を父さまから聞いた。
「ニコはあまり密林に連れて行きたくはないが、ここに置いておいても心配なので連れて行く。アバルドは私が動けない時はニコの護衛を頼むぞ」
「わかった、ネズミと一緒にニコを守るよ」
「ああ、頼む」
皇宮のある首都から『魔の密林』までは、人の足で行けばふた月位かかる場所なのだそうだ。
魔法陣で飛ぶのでその辺は問題がないのだが、出来れば私は街の様子や村の様子も見てみたいと思う。
まあ、それは討伐が済んでから父さまと一緒に行きたいので、終わってから父さまに言おうと思っている。
ゼルドラは獣人の国なので、あまり一般の人用には乗り物は普及していないそうだ。
獣の種類により個体差があるそうだけど、運動能力も高く力も強い。人やエルフに比べると、身体が丈夫で身体能力がかなり高い。
魔力がなくとも移動には時間をあまりとらないのだ。
貴族は完全に人の形をとっているが、獣人化、獣化が出来る。
一方庶民は普段から獣人の姿で、二足歩行だけど、耳や尻尾のある生活しているらしい。
完全な人化も獣化も、魔力が強くないと出来ないのだと聞き驚いた。
つまり、私の世話をしてくれていた皇宮に働く女官はみな貴族で、人化出来る魔力が強い者だと言う事だ。
皇宮で働くのに、必須条件はまず『人化』だそうなので驚いた。
この国の王族は虎一門と呼ばれる。虎の一族だ。
虎の一族は他に宮家と呼ばれる家が4家残っている。
王家直系の雄(オス)の嫁が何の獣の一族であれ、生まれる子供は『虎』になる。
王家の雌(メス)は降嫁して他の獣の嫁になり子を産めば、虎は生まれないそうだ。
分家の雄になると虎が生まれる確率は五分五分だった。
ピング・ケトルの住処は、魔の密林と魔境の境辺りの高い樹の上にある。
今は子育て時期で、餌も必要だし、とても気が立っているのだ。
子育てはちゃんとするが、巣立ちが終えたら他人の関係になる、そう言う種らしい。
今回は討伐と一緒に魔石も回収する、肉は臭くて食えないが、皮も良い革製品の材料になるので頭と足は落として皮も回収するらしい。
一番近くの村の近くにテントを張り、そこを拠点にすることになっている。
今回は、王族の参加は第一王子のサバラント殿下と第三王子のサイファール殿下で、王の名代が第一王子なので、王は参加しないと言う話だった。
第一王子のサバラント殿下は、どちらかと言うと見た目は文官タイプの大人しい感じの虎獣人だ。
濃い金髪にひと房黒い部分の髪を持ち、背まである髪を後ろで一括りにしている。
瞳は濃い金色で縁も瞳孔も黒だ。
今回の部隊は第一部隊から第三部隊までは、第一王子の部隊だと言う話だった。
第二王子は荒事が嫌いな質らしく、武の方には興味ないそうだ。
まず、ラムトム村まで転移門で移転し、拠点としてのテントやキャンプの用意をし、翌日からの討伐になる。
討伐はゼルドラの第一部隊と第四部隊とシャナーンの部隊で最初に赴き、村に第二、第三部隊は残す。
もしも、村にビング・ケトルが来襲しては困るので戦力を村に残しておくと言う話だった。
翌日、討伐が始まり、第一部隊、第四部隊、シャナーンの部隊と出払い、総指揮の第一王子と、父さまは残っていた。
だいたい二時間が経過した頃だろうか、突然光の矢が打ちあがったのだ。
光の矢とはシャナーン側しか知られていないが、異変を知らせる時の手段だ。
その時、父さまと私とおじさんと、サンディは拠点近くのラムトム村に見学に訪れていた。
それは第一王子のサバラントが、「せっかくなので村も見学してきてください、案内役もお付けします」と申し出て下さったからだった。
討伐自体はそう難しい物ではなく、ただ魔境と呼ばれる魔力の拡散が起こる場所が近くにあるのが難点なだけで、たいした仕事ではない。
だから第一王子の申し出を受けたのだけど、村の暮らしの見学をしている最中、突然の光の矢が上がり驚いた。
異変の知らせだ。
父さまが身をひるがえし、私を見て、それから空を見上げた。
父さまの足元には拘束の魔法陣が現れ突然その地に繋いだように見えた。
アバルドおじさんが私に駆け寄ろうとした時、何かが飛んで来た。
おじさんが伏せるとゼルドラ側の魔術師から放たれた弓矢だった。
振り向くと武装した村人が数十人、そして、第一王子の第二第三部隊が40人程、村の周囲を取り巻いていた。
武装した村人ではなく、おそらく村人の振りをしたゼルドラの武官だったのだろう。
用意周到にこの村の人間を入れ替えたか、村人全てを殺したのか・・
私に向け、つがえられた矢は、射られる前にサンディが噛みつき砕いた。
「ギャッ」
そして鋭い爪で薙ぎ払われ、倒れたまま動かなくなった。
私を挟んで、アバルドおじさんと、サンディが立っている。
「大魔術師様も、流石に拘束の魔法陣を30人の魔術師に重ねられては自由は効かないでしょう?」
第一王子のザバラント殿下は胸の前で腕を組んで、ふんぞり返って立っていた。
「・・・」
「弟のサイファールも邪魔でしてね、今頃はシャナーンの部隊共に魔境側に送られているはずです、貴方も、御令嬢も存在自体が邪魔なのですよ。まだ第二王子も残っていますし、シャナーンの王族が背後につけば私の命取りになりますからね」
「なるほど、だが全てを魔境のせいにして、隠すには無理があるのでは?」
「いいえ、全ては狂竜のせいにしてしまえば良いのです」
「そうか。ならば、そうしよう」
「なにっ?」
ゆったりとした足取りで、父さまは魔法陣から歩いて出た。
「なっ、ど、どうして?」
「私も甘く見られたモノよ、魔境とやらは広い、そなたたちも魔境の奥深くに送ってやろう、楽しんで来い」
キ ―――――――――――― ン――――と言う頭に直接響くような音と共に、蒼い稲妻のような光が地を走り、村から私達を除く邪魔な生き物が居なくなった。
そして、仁王立ちしていたサンディの身体に異変が起きていた。
「サンディ、ありがと、怪我してない?」
サンディはなんだか身体が大きくなり、もうニコよりも大きかった。
「怒りで本性が出かけている、よし、ちゃんとニコを守ったな」
父さまに褒められてサンディは嬉しかったようで、ぎゅるぎゅる言っている。
ニコが見ている目の前で、サンディの姿が変わって行った。
「サンディ?」
「ギュルル?」
サンディの足は太い虎や獅子のようなモノに変わり、上半身は翼を持つ巨大な鷹のような姿になっている。
だが、色は漆黒だった。
それは、父さまの銀のローブや、クロニクスの屋敷や城などにもある紋章と同じ姿だと思い至る。
「グリフォンだ」
「そうだ、本性は漆黒のグリフォン、クロニクスの守護聖獣だ。知識の象徴とも言われている。サンディ、大きさはその位で抑えておけ、邪魔になる」
「へえ、これじゃあネズミって呼べないな、サンディって呼ぶよ」
おじさんはサンディを見上げた。
「ニコ、これから魔境へ飛ばされたシャナーンの部隊の者達を迎えに行かねばならない、アバルドとサンディと一緒に此処で待っているか?」
「父さまと一緒にいく、いってもいい?」
待つのは不安だ、一緒に居たかった。
「おいで」
父さまから伸ばされた手を取る。
私は父さまに抱き上げられた。
足元に魔法陣が展開し、アバルドおじさんとサンディも一緒にシャナーン部隊の居る場所へと飛んだ。
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