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第四章

2.狂竜の言い伝え

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  アバルドおじさんが、間抜けな声を出していたが、 その後、直ぐに白い髪の男の人は、もう一人現れた知らない人に、とても怒られて連れて行かれた。

 「貴方、何処で油売ってるんですか、いいご身分ですね。許可も取らずに勝手にお客人に逢いに行く等、無作法すぎます。ああ、お客人、管理不行き届きで、突然申し訳ございませんでした」

 腰からきっちりと傾け頭を下げたその人は、 ひょろっと背が高く濃い金茶の短髪の人だった。武官なのだろう、腰に剣を下げている。

 そして白い髪の男の人の首根っこを掴んだ。

「あっ、こら、やめろ、引っ張るな!」

   そして力づくで引っ張って行かれた。ひょろっとしていても力持ちらしい。

「・・何だよ、ありゃ」

   アバルドおじさんは、ポリポリ頭を掻いて呆気に取られている。

 「驚かせてしまい大変申し訳ございませんでした。先程突然いらっしゃったのは、この国の第3王子のサイファール殿下で御座います」

   女官の人が慌ててそう言った。

 『はあ?第3王子様…ねえ、ありゃ結構な魔力持ちだな、まあジェイには遠く及ばんが、ヒヤッとしちまった』


 部屋の振り分け等が終わり、その後は父さま達は明日からの部隊の合同演習の打ち合わせの為、参加者全員で会議が行われるとの事だった。

 私とアバルドおじさんとサンディとでせっかくなので沙羅の寝殿とその周りを囲う広大な園庭などを散策する事にした。

 父さまには、皇宮の敷地から出ない様にと言われている。

 行っても良い場所、いけない場所が皇宮内にはあるので、その為に案内役の女官が付いているとの事だったので、行きたい場所は女官に連れて行って貰えば良いと言われた。

 あとは好きなように過ごしていて良いとも言われたので、そうする事にした。

 私はこちらに来ることがあれば、色々知りたい事もあったので、それを自分でも調べてみたいと思っていた。

 父さま達が出掛ける前に、ゼルドラ側から寄越された女官は二人、一人は銀の髪で、青い瞳のゼネシア、もう一人は濃い金髪に金の瞳のファルーカと言う女官だった。

 父さまはその女官二人に、

「では、よろしく頼む」

 と言って仕事に出て行った。

「お嬢様、お庭に出られますか?それとも何処か行きたい場所はありますか?」
 
 ゼネシアに言われ、私は首を傾げて少し考え、アバルドおじさんとサンディを見た。

「おじさんは、ニコが行きたい所に行くぞ、サンディもそうだろう?」

「ちうっ」

「じゃあ、・・・あのね、わたし、昔の狂い竜のことを知りたいけど、どうしたらいいの?」

 すると、ゼネシアが驚いた顔をして急いで言った。

「あの、・・・何をお知りになりないのでございますか?あまり縁起の良い話ではないので、この国の者はあまりその話をしたがりません。私達の知っているお話でしたら、言い伝え程度でしかありませんが、お話できますが・・・」

 女官のゼネシアがそう言った。

「ほんとう?じゃあ、それでよいから、お話を聞きたいです」

「では、こちらで、お茶をご用意いたしましょうね」

 二人は、沙羅の寝殿にある客間でお茶を淹れてくれた。

 アバルドおじさんと、サンディは黙っておいしくお茶を頂いている。


「お嬢様は狂竜のどのようなお話がお聞きになりたいのでしょうか?」

「あのね、狂竜はうまれかわった番の人に殺されたのでしょう?」

「はい、そう言い伝えられております」

「そのあと、狂竜はお墓が造られて葬られたの?」

「ああ、そうでございますね。確か封印を施されて埋められたそうです」

「それは何処にあるの?」

「言い伝えでは『魔の密林』のもっと奥にある、今では『魔境』と呼ばれる場所があるのですが、狂竜はそこに埋められたと言われています」

「そうなんだ。じゃあやっぱり本当にあった話なんだね。お墓があるのならその時の事が詳しく残されているのかなって思ったんだけど、行ったりするのは出来ないんだね。当時、竜人国は動いてくれなかったの?」

「言い伝えによれば、狂竜の討伐依頼を竜人国に出したのに動かなかったと言われてます。番を素直に渡さなかった獣人が悪いと申したらしいのです」

 やはり、獣人国でも、みんな竜人が嫌いらしく、竜人の話は禁句と言いつつも、結構しゃべってくれた。

「それで、お墓が有る場所はどうして魔境と呼ばれているの?」

「狂竜の血が密林にしたたり、その辺り一帯に異変が起こり、魔力が拡散されるのだそうです。今でも迷い込むと出て来られないと言われています。竜を鎮めるための石の寺院が建てられていたそうですが、今では密林に飲み込まれ場所も定かではありません」

「そんなに竜人が竜化したら魔力が強いんだ・・・」

 狂竜の事でなにかしら新しい情報はないものかと思ったのだが、これ以上は無理そうだ。

「そうなのでございます。さあさ、お嬢様、そんな怖いお話は止めにして、美味しいお菓子を頂いてくださいな、それに、こちらの貴族の着る民族衣装を用意しているのですよ。とても綺麗なお衣裳ですから、お召しになって見てください。お嬢様は大変お美しいですから、絶対にお似合いになられます」

 この国の女の人の貴族の着衣は下にパニエのようなふんわりする下着を付け、足首丈で、ウエストの前でリボンを作って留める仕様の絹のスカートを履き、上は前合わせのハイウエストで袖ありの絹のベストの様な形で胸横でリボン結びにする。

 最近では、生地にレースを使ったり、肩回りや、縁にフリルや花飾りをあしらったりと、様々な物がでている。
 
 南国でそれは暑いのだが、大抵貴族の子女は魔力を使い体温を調節できるので問題がないのだ

 庶民はほぼ魔力なしなので、女性の服もひざ丈で袖なしの上下繋がった簡素な仕様の着衣らしい。

 ニコはそんなズルズルした衣裳は裾捌きも大変そうだし、動きが悪くなるので遠慮したかったが、『着て見せたらきっとお父様がお悦びになられますよ』とか言われて、着てみる気になった。

 父さまが笑って褒めてくれたら嬉しいかもしれない。

 それで、あとでその貴族の着る美しい着衣を着せ付けて貰った。

「この、衣裳は、第三王子のサイファール殿下からの送り物にございますよ、サイファール殿下の貴色、特別な青色を使って作られています」

 そういう事は、早めに言って欲しかったと私は思った。

 貴色だとか、王子の色とか言われたら、流石に身に着けて外を歩く訳にはいかない。

 サイファール殿下って、あの白い髪の人だよね…。

「さあ、お嬢様、お庭を散歩致しましょう」

「えっ、ムリ」

「絹の揃いの靴もご用意しておりますよ」

「外には行かない」

「さあさあ、お嬢様まいりましょう」


 今度は強引に肩をぐいぐい押して、外に出そうとして来る。

 さすがに、この辺りでアバルドおじさんもおかしいと思った様だ。

 この女官は第三王子の手の者だと思われる。

 明らかに、サイファール王子が、私と親しい間柄と思わせる様に仕組まれている気がする。

「ちょっと待った。お前達、ニコは大魔術師の娘だという事を分かってるだろうな。安易に誰かと親密な仲だと思わせる様な事を仕組んだりしたら、国交問題だぞ」

「ちっ、違います。これは殿下からの本当に好意からの贈り物なのです」

 そう言われて、女官達は慌てた。

「あんたたちは、下がってくれ、用事があればこちらから言う。ニコの事は俺が任されているから、俺の言う事に従って貰う。下がれ」


 アバルドおじさんは、口調をきつくし、躰から威圧の様に少し魔力を出して見せた。

 私にはおじさんの周りに紅い炎が立ち上がったように見えた。おじさんの炎の魔力はお料理とか猟の時しか見た事なかったので、人を威圧するのに使ったのは初めて見た。

 成る程、あんな風に魔力を使えばいいのかと、勝手に頷く。

「はっはい、申し訳ございません、下がらせて頂きます」
 
 二人の女官は青い顔をして、下がって行った。

「まったく、油断も隙もねえな。こっちも王子が三人もいちゃ、何かと面倒な事があるみたいだな」

「そういうの、こまるね」

「巻き込まれないようにしないといけねえな」

「うん」

 一応、国の情勢も勉強して来たので、おじさんの言っていることは分かるのだ。

 でも、着せ付けてもらった衣裳はとっても可愛い。生地はずっしりと厚みのある絹で、シャナーンでみる布地とは織りが違う。金糸銀糸が織り込まれキラキラと美しい。でもシャナーンの衣裳には向かない生地だなと思った。

「アバルドおじさん。この服、金魚みたいにヒラヒラだね、すごく綺麗」

 ウエストに巻かれた帯は張りのある薄絹を同系色の青で何色にも分けて染められている。それが後ろでリボン結びされ金魚の尾びれの様に動くたびにヒラヒラと泳いでいる。

「ああ、物凄く綺麗だな蝶々にも見えるぞ」

「うふふ」

 おじさんと、サンディが並んでうんうん頷く姿がとても可笑しくて笑ってしまった。

 せっかくなので、父さまに見せてから脱ごうっと。


   
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