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第三章
2.村を出る
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王都の父さまの家に帰るにあたり、父さまがシャナーンのクロニクス公爵家の次男で、魔術師としての仕事をしていた事を初めて知った。
そして、母様が王女様だった事、今の王様の妹だった事を知った。話が大きすぎて、まったくピンとこない。
母さまの絵姿が王都の家にも、お城にもあるので、向こうに帰ったら見る事が出来ると言われた。
そして、王都の家は、叔母様が、私たちが帰ったらすぐに住めるようにしてくれている事。
父さまが、実家の公爵家に返してしまった使用人も、戻してある事を教えられた。
でも、私は知らない人達がたくさんいる場所に住むのは不安だった。
王都に帰る日を決めると、当日の朝、こちらの家にある物は、父さまがパッパと自分の持つ魔力で出来た収納の空間に入れてしまい、父さまがこの家に来た時のように、ほとんど何もない状態になった。
家の中は、本当にガランとしてしまった。
「全部片づけてしまうの?もうここには、帰って来ないの?」
「それは分からない、ただ、片付けるのも出すのもすぐに出来る事だから、いつ帰るのか決まって居ないならば、きちんとに片付けた方が良い。埃が積もるし誰もいなければ掃除も出来ないだろう?」
「・・・うん、そうだね父さま」
薬を作る為の部屋も、棚や家具を残しただけで、そこに何があったのか痕跡すら残さずに、父さまは全てを片してしまった。
裏の納屋のお肉や薬草も全て収納され、そこにかけてあった状態維持の魔術も解かれ、ただの小屋に戻された。
「父さま、でもおじさんお肉がないと困るんじゃないの?」
私は、父さまと私が居なくなった後のアバルドおじさんが、心配になった。
「アバルドは一緒に王都に行くので大丈夫だ」
「本当?おじさん一緒に来てくれるの?」
私はとても嬉しくなって、ぴょんぴょん飛び上がった。
「ああ、一緒に王都の屋敷に来る。それよりも、村の子供にジャムを渡すのだろう?ネズミが付いて行くから、行っておいで」
父さまが私の髪を撫でて促す。
「はい、じゃあ行って来ます」
父さまに言われて、ジャムを持ってサンディと家を出た。サンディはリュックに瓶が割れない様に布で包んで大きなジャム瓶を二つ背負っていた。私は一つ背負っている。
「ねえ、サンディ、本当に重くない?」
「じうう!」
「そっか、ありがとう」
「じう」
その後、父さまは、おじさんの荷物を収納して、私が村の子供達とお別れを済ませたら、王都に帰ろうと言っていた。一度に王都に還るのではなく、魔法陣を使って何回かに分けて場所を移動して帰ると言われた。
それは、長い距離を移動するため、慣れない私とアバルドおじさんが心配だからだと聞いた。父さま一人なら、多分ひとっ飛びできるのかもしれない。父さまって何でも出来てすごい。
私は村の中を、てくてくサンディと歩いた。
少し大きくなってからは、毎日の様に二人で村の中を動き回ったものだ。
その辺りに生える、野良生(のらば)えのココイモの大きな葉っぱを傘にして、夏の雨のけむる中もサンディと歩いて遊んだ。
ココイモの大きな葉っぱは、水をはじいて大きな銀の水の玉を作るので、面白くってずっと落ちて来る雨粒をコロコロ転がして、サンディと遊んでいたら、父さまが心配して、身体を拭く布を二人分持って迎えに来た事がある。
魔法で、私とサンディのびしょ濡れの身体の水分を飛ばしたら、父さまに布で包まれて抱き上げられて家に強制送還された。
サンディも同じように、布を渡され、ついでに私のせいで父さまに怒られていた。
そして、やっぱり翌日は熱を出した、けれどもそれも、温かい幸せなここの想い出だ。
まず一番遠いギリアおばさんの家に行くことにした。
ギリアおばさんは、女の人だけど猟師だ。
ぼーっとしたパラルのお母さんで、女手一つで猟師をしてパラルを育てている。
おばさんの、だんなさんも魔力持ちで猟師だったが、昔、村の男達とシシ猟に出た時にシシの牙で、脚の大きな血管を破られて血がいっぱい出て亡くなったそうだ。
おばさんも魔力持ちで、猟師の娘で猟をして育ったそうだ。
結婚してパラルが生まれてからは猟師を止めていたが、だんなさんが亡くなってから、子供を育てる為に復帰したのだ。
パラルはボーっとしているけど、魔力持ちなので、大きくなったら猟師になるかもしれないと思う。
ギリアおばさんの家にはおばさんしか居なかったので、餞別のジャムを渡して別れを伝えた。
「じゃあ、いつ帰って来れるか分からないんだね?」
「うん、そう、だから一応挨拶しとくね。いままでありがとう、おばさん」
「ニコちゃんもありがとう、パラルはいっつもニコちゃんの事ばかり家で話していたんだよ」
「パラルが?」
「そうだよ、ニコちゃんがかわいい、かわいいってばかりだったよ」
「えーっうそ、そんな事一度も言われたこと無かったけどなあ。ありがとうおばさん、パラルによろしくね!」
ちょっと恥ずかしくなって、顔が真っ赤になった。
「ああ、元気でねニコちゃん、また戻って来てくれたら嬉しいんだけどね」
「うん、おばさんありがとう、じゃあね」
私は手を振っておばさんちを後にした。
次は、ウィキの家だ。ゴーチおじさんは猟に出ていて居なかった。
ウィキも居なかった。たぶんいつものように、ジャニスとパラルと何処かで遊んでいるのだろう。
おばさんは家の外で鶏の羽を毟っていた。今夜の夕食だろうと思われる。
毟っているのは黄山鳥だった。黄色の羽の指し色が美しい、癖の無い美味しい鳥で、売れば高値がするらしい。
黄山鳥はこの時期、脂が乗ってとてもおいしい。山のごちそうだ。横眼で見ながら味を思い出し唾を飲み込んだ。
私は食いしん坊だから、黄山鳥を、大きな重い鉄のオーブン鍋でアバルドおじさんが根菜と一緒に蒸し焼きにしてくれた時の事を思い出す。重い蓋をおじさんが開けると、脂がジュウジュウ音をたてていて香ばしい香りが部屋に満ちた。
良い所を取り分けてくれた肉をフォークで刺して熱々に、はふはふっと噛みついた。濃い黄山鳥の肉の味と、肉の繊維が筋をなして千切れ、中から出る蒸気と、カリッとした皮と。皮と肉の間の、プルンとした食感の甘いようなじゅわりとした脂の、おいしい情景をすぐに思い出した。
山鳥の猟では、足元の枝を踏んで音をさせてしまい警戒心の強い山鳥に逃げられた。
「あーあ、残念でした」
とアバルドおじさんに言われて悔しかったなあ。
それから、ウィキの家のおばさんにジャムを渡し、別れの挨拶をして、次のジブルガおじさんの家に行った。
やはり、そこでもジャニスは居なくて、ジブルガの家のおばさんに別れの挨拶をしてジャムを渡すと、おばさんは目を細めて優しく笑った。
「ニコちゃん、元気でね。あのね、昔、ニコちゃんのお父さんの作った薬で、ジャニスが助けて貰った事があるの。今でもとても感謝していると伝えてね」
村の中心に近い、広く開けた場所を九年前位にみんなで綺麗にして、共同作業所を作った。臭いのキツくない綺麗な脂を作るようになり、おかげですこしずつ村が豊になって来ているのも、父さまのおかげで、村の皆がとても感謝しているとおばさんは言っていた。
「うん、ちゃんと伝えるよおばさん!おばさんも元気でね」
私は大きく手を振り、もう一度よく村を見回してから、家に向きをかえた。
「サンディ、父さまの所へ帰ろう!競争だよ」
私が走り出すと、サンディが四足歩行になり、飛んで行ったので、ヒイヒイ言いながら追いかける。
「ちうちうっ!」
得意満面で家の前で腰に手を当て立っているサンディを見て大笑いした。
「アハハハハ、サンディすごーい」
「ぢう?じう?」
サンディが家の扉の前にあった、空のジャムの瓶を拾い上げた。瓶の下には葉っぱが敷いてあった。
どうしてこんな所にジャムの瓶があるのだろう?
サンディから瓶を受け取り中を見ると、綺麗な透明な石のような物が入っている。
「綺麗…」
瓶の中には、綺麗な透明な所の多い、大きめの親指大の、折れた水晶柱が幾つか入っていた。
村の近くにある沢では、運が良ければ水晶が見つかる。水に潜ると小さい川の中の石に混ざって、光を反射する水晶屑が見つかるのだ。
毎年、夏には男の子達が水晶を探して沢の深い所で潜って探していたのを知っていた。
瓶の下にあった葉っぱを拾う。
この葉っぱは触るとリンゴジャムみたいな甘い匂いのする葉っぱだ。
私の手の平位の大きさだ。
葉には、ひっかき傷のような文字があり、小枝を使って描いたのか、『ニコ、げ ん き で な』と読めた。
村の人達は、週に一回、アバルドおじさんの時間のある時に、文字を習っていた。
これは、ウィキの字だろうか?ジャニスならもっと綺麗にかく気がする。
大切に胸に抱いて家に入り、葉っぱは持って行く荷物の日記帳に挟んだ。
この瓶の中にはキラキラした楽しい緑の村の思い出がたくさん詰まっているような気がした。
小さなリュックに詰めて背負う。
「ニコ、別れは良いか?出発するぞ」
居間として使っていた場所は、ガランと広く感じる。
父さまとおじさんが立つ、その床に大きな白く輝く魔法陣が現れた。
父さまが私に手を差し出す。
すぐにその手を取り、父さまに引き寄せられる。
サンディは私に付いて魔法陣に踏み込んだ。
ぐるりと世界が回り、自分が何処にいるのか分からなくなった。
けれど父さまの身体の温もりを感じて安心する。
フッと空気が変わり、目を開けると目の前には知らない街の景色があった。
「こりゃあ、たまげたな、もう『ガブラメルドの街』か」
おじさんの声がして、見上げるとキョロキョロと街を見回している。
ちゃんと横にサンディが居たので安心した。
私たちが飛んで現れた場所は、建物の影で、人気の無い場所だった。
「ニコ、気分は悪くないか?」
父さまに抱き上げられて、視線を合わせる。
私の方が視線が高くなり、父さまが私を心配そうに見上げている。
「大丈夫。悪くないよ」
「そうか、良かった。一度に跳ぶのは心配だったのでまずはガブラメルドに立ち寄る事にした。ニコが赤ん坊の時は心配だったから、もっと何度かに分けたのだ。体調をみて、明日はどうするか考えよう」
「うん、どこも何ともない」
「よし、大きくなったな」
父さまの嬉しそうな視線がこそばゆかった。
「宿はどうする?ここならおススメがあるぞ」
アバルドおじさんがおススメの宿のある方向を顎でしゃくった。
「では、連れて行ってくれ」
父さまがおじさんを促した。
「よおし、獣もオッケだからな、安心しろ、ネズミ」
「じうじう」
「部屋をとったら街を見て見るか?ここは結構大きな街だから、ニコはびっくりすると思うぞ、王都はもっと大きいけどな」
「うん、見て見たい」
「じゃあ、取り合えず宿に、行こうか」
もの慣れたおじさんについて、私たちはとりあえず宿へ行くことにした。
そして、母様が王女様だった事、今の王様の妹だった事を知った。話が大きすぎて、まったくピンとこない。
母さまの絵姿が王都の家にも、お城にもあるので、向こうに帰ったら見る事が出来ると言われた。
そして、王都の家は、叔母様が、私たちが帰ったらすぐに住めるようにしてくれている事。
父さまが、実家の公爵家に返してしまった使用人も、戻してある事を教えられた。
でも、私は知らない人達がたくさんいる場所に住むのは不安だった。
王都に帰る日を決めると、当日の朝、こちらの家にある物は、父さまがパッパと自分の持つ魔力で出来た収納の空間に入れてしまい、父さまがこの家に来た時のように、ほとんど何もない状態になった。
家の中は、本当にガランとしてしまった。
「全部片づけてしまうの?もうここには、帰って来ないの?」
「それは分からない、ただ、片付けるのも出すのもすぐに出来る事だから、いつ帰るのか決まって居ないならば、きちんとに片付けた方が良い。埃が積もるし誰もいなければ掃除も出来ないだろう?」
「・・・うん、そうだね父さま」
薬を作る為の部屋も、棚や家具を残しただけで、そこに何があったのか痕跡すら残さずに、父さまは全てを片してしまった。
裏の納屋のお肉や薬草も全て収納され、そこにかけてあった状態維持の魔術も解かれ、ただの小屋に戻された。
「父さま、でもおじさんお肉がないと困るんじゃないの?」
私は、父さまと私が居なくなった後のアバルドおじさんが、心配になった。
「アバルドは一緒に王都に行くので大丈夫だ」
「本当?おじさん一緒に来てくれるの?」
私はとても嬉しくなって、ぴょんぴょん飛び上がった。
「ああ、一緒に王都の屋敷に来る。それよりも、村の子供にジャムを渡すのだろう?ネズミが付いて行くから、行っておいで」
父さまが私の髪を撫でて促す。
「はい、じゃあ行って来ます」
父さまに言われて、ジャムを持ってサンディと家を出た。サンディはリュックに瓶が割れない様に布で包んで大きなジャム瓶を二つ背負っていた。私は一つ背負っている。
「ねえ、サンディ、本当に重くない?」
「じうう!」
「そっか、ありがとう」
「じう」
その後、父さまは、おじさんの荷物を収納して、私が村の子供達とお別れを済ませたら、王都に帰ろうと言っていた。一度に王都に還るのではなく、魔法陣を使って何回かに分けて場所を移動して帰ると言われた。
それは、長い距離を移動するため、慣れない私とアバルドおじさんが心配だからだと聞いた。父さま一人なら、多分ひとっ飛びできるのかもしれない。父さまって何でも出来てすごい。
私は村の中を、てくてくサンディと歩いた。
少し大きくなってからは、毎日の様に二人で村の中を動き回ったものだ。
その辺りに生える、野良生(のらば)えのココイモの大きな葉っぱを傘にして、夏の雨のけむる中もサンディと歩いて遊んだ。
ココイモの大きな葉っぱは、水をはじいて大きな銀の水の玉を作るので、面白くってずっと落ちて来る雨粒をコロコロ転がして、サンディと遊んでいたら、父さまが心配して、身体を拭く布を二人分持って迎えに来た事がある。
魔法で、私とサンディのびしょ濡れの身体の水分を飛ばしたら、父さまに布で包まれて抱き上げられて家に強制送還された。
サンディも同じように、布を渡され、ついでに私のせいで父さまに怒られていた。
そして、やっぱり翌日は熱を出した、けれどもそれも、温かい幸せなここの想い出だ。
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ギリアおばさんは、女の人だけど猟師だ。
ぼーっとしたパラルのお母さんで、女手一つで猟師をしてパラルを育てている。
おばさんの、だんなさんも魔力持ちで猟師だったが、昔、村の男達とシシ猟に出た時にシシの牙で、脚の大きな血管を破られて血がいっぱい出て亡くなったそうだ。
おばさんも魔力持ちで、猟師の娘で猟をして育ったそうだ。
結婚してパラルが生まれてからは猟師を止めていたが、だんなさんが亡くなってから、子供を育てる為に復帰したのだ。
パラルはボーっとしているけど、魔力持ちなので、大きくなったら猟師になるかもしれないと思う。
ギリアおばさんの家にはおばさんしか居なかったので、餞別のジャムを渡して別れを伝えた。
「じゃあ、いつ帰って来れるか分からないんだね?」
「うん、そう、だから一応挨拶しとくね。いままでありがとう、おばさん」
「ニコちゃんもありがとう、パラルはいっつもニコちゃんの事ばかり家で話していたんだよ」
「パラルが?」
「そうだよ、ニコちゃんがかわいい、かわいいってばかりだったよ」
「えーっうそ、そんな事一度も言われたこと無かったけどなあ。ありがとうおばさん、パラルによろしくね!」
ちょっと恥ずかしくなって、顔が真っ赤になった。
「ああ、元気でねニコちゃん、また戻って来てくれたら嬉しいんだけどね」
「うん、おばさんありがとう、じゃあね」
私は手を振っておばさんちを後にした。
次は、ウィキの家だ。ゴーチおじさんは猟に出ていて居なかった。
ウィキも居なかった。たぶんいつものように、ジャニスとパラルと何処かで遊んでいるのだろう。
おばさんは家の外で鶏の羽を毟っていた。今夜の夕食だろうと思われる。
毟っているのは黄山鳥だった。黄色の羽の指し色が美しい、癖の無い美味しい鳥で、売れば高値がするらしい。
黄山鳥はこの時期、脂が乗ってとてもおいしい。山のごちそうだ。横眼で見ながら味を思い出し唾を飲み込んだ。
私は食いしん坊だから、黄山鳥を、大きな重い鉄のオーブン鍋でアバルドおじさんが根菜と一緒に蒸し焼きにしてくれた時の事を思い出す。重い蓋をおじさんが開けると、脂がジュウジュウ音をたてていて香ばしい香りが部屋に満ちた。
良い所を取り分けてくれた肉をフォークで刺して熱々に、はふはふっと噛みついた。濃い黄山鳥の肉の味と、肉の繊維が筋をなして千切れ、中から出る蒸気と、カリッとした皮と。皮と肉の間の、プルンとした食感の甘いようなじゅわりとした脂の、おいしい情景をすぐに思い出した。
山鳥の猟では、足元の枝を踏んで音をさせてしまい警戒心の強い山鳥に逃げられた。
「あーあ、残念でした」
とアバルドおじさんに言われて悔しかったなあ。
それから、ウィキの家のおばさんにジャムを渡し、別れの挨拶をして、次のジブルガおじさんの家に行った。
やはり、そこでもジャニスは居なくて、ジブルガの家のおばさんに別れの挨拶をしてジャムを渡すと、おばさんは目を細めて優しく笑った。
「ニコちゃん、元気でね。あのね、昔、ニコちゃんのお父さんの作った薬で、ジャニスが助けて貰った事があるの。今でもとても感謝していると伝えてね」
村の中心に近い、広く開けた場所を九年前位にみんなで綺麗にして、共同作業所を作った。臭いのキツくない綺麗な脂を作るようになり、おかげですこしずつ村が豊になって来ているのも、父さまのおかげで、村の皆がとても感謝しているとおばさんは言っていた。
「うん、ちゃんと伝えるよおばさん!おばさんも元気でね」
私は大きく手を振り、もう一度よく村を見回してから、家に向きをかえた。
「サンディ、父さまの所へ帰ろう!競争だよ」
私が走り出すと、サンディが四足歩行になり、飛んで行ったので、ヒイヒイ言いながら追いかける。
「ちうちうっ!」
得意満面で家の前で腰に手を当て立っているサンディを見て大笑いした。
「アハハハハ、サンディすごーい」
「ぢう?じう?」
サンディが家の扉の前にあった、空のジャムの瓶を拾い上げた。瓶の下には葉っぱが敷いてあった。
どうしてこんな所にジャムの瓶があるのだろう?
サンディから瓶を受け取り中を見ると、綺麗な透明な石のような物が入っている。
「綺麗…」
瓶の中には、綺麗な透明な所の多い、大きめの親指大の、折れた水晶柱が幾つか入っていた。
村の近くにある沢では、運が良ければ水晶が見つかる。水に潜ると小さい川の中の石に混ざって、光を反射する水晶屑が見つかるのだ。
毎年、夏には男の子達が水晶を探して沢の深い所で潜って探していたのを知っていた。
瓶の下にあった葉っぱを拾う。
この葉っぱは触るとリンゴジャムみたいな甘い匂いのする葉っぱだ。
私の手の平位の大きさだ。
葉には、ひっかき傷のような文字があり、小枝を使って描いたのか、『ニコ、げ ん き で な』と読めた。
村の人達は、週に一回、アバルドおじさんの時間のある時に、文字を習っていた。
これは、ウィキの字だろうか?ジャニスならもっと綺麗にかく気がする。
大切に胸に抱いて家に入り、葉っぱは持って行く荷物の日記帳に挟んだ。
この瓶の中にはキラキラした楽しい緑の村の思い出がたくさん詰まっているような気がした。
小さなリュックに詰めて背負う。
「ニコ、別れは良いか?出発するぞ」
居間として使っていた場所は、ガランと広く感じる。
父さまとおじさんが立つ、その床に大きな白く輝く魔法陣が現れた。
父さまが私に手を差し出す。
すぐにその手を取り、父さまに引き寄せられる。
サンディは私に付いて魔法陣に踏み込んだ。
ぐるりと世界が回り、自分が何処にいるのか分からなくなった。
けれど父さまの身体の温もりを感じて安心する。
フッと空気が変わり、目を開けると目の前には知らない街の景色があった。
「こりゃあ、たまげたな、もう『ガブラメルドの街』か」
おじさんの声がして、見上げるとキョロキョロと街を見回している。
ちゃんと横にサンディが居たので安心した。
私たちが飛んで現れた場所は、建物の影で、人気の無い場所だった。
「ニコ、気分は悪くないか?」
父さまに抱き上げられて、視線を合わせる。
私の方が視線が高くなり、父さまが私を心配そうに見上げている。
「大丈夫。悪くないよ」
「そうか、良かった。一度に跳ぶのは心配だったのでまずはガブラメルドに立ち寄る事にした。ニコが赤ん坊の時は心配だったから、もっと何度かに分けたのだ。体調をみて、明日はどうするか考えよう」
「うん、どこも何ともない」
「よし、大きくなったな」
父さまの嬉しそうな視線がこそばゆかった。
「宿はどうする?ここならおススメがあるぞ」
アバルドおじさんがおススメの宿のある方向を顎でしゃくった。
「では、連れて行ってくれ」
父さまがおじさんを促した。
「よおし、獣もオッケだからな、安心しろ、ネズミ」
「じうじう」
「部屋をとったら街を見て見るか?ここは結構大きな街だから、ニコはびっくりすると思うぞ、王都はもっと大きいけどな」
「うん、見て見たい」
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