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第四章

10.迷宮の宝

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 アスランテが戦う剣のぶつかる音が遠ざかる。胸の奥に感じる淋しさや怖さをこらえて走った。

 あの人と離れたくなかった。心を預ける相手が出来ると、こんなにも人は弱くなる。

 今まで、一人で平気だったことが、急に出来なくなるのだ。

 でも、行けと言ってくれたのは、一人で行けると思ったからだ。その思いを裏切りたくない。

 あの黒い騎士はアスランテが片手間に倒せるような相手では無かった。

 私に、先に行けと言ったのは、ムーランもきっと、あの惹かれる場所に向かっているはずだと思ったからだろう。

 あとから行くと言ったのだ。アスランテは嘘を言わない。

 だから、行く。


 手の中に種を前方へ向けて幾つか投げて、それからもう一つ手の中に握った。

 私が惹かれると感じる方向へ、走る。

 この宮殿の、奥へ奥へと繋がるさらなる奥へと走り抜ける。右へ左へと複雑に通路は絡んでいた。

 身体強化を上げる。何が待っているか分からないけれど。

 ドワーフが隠していた物を相手よりも早く手にしなければいけないと思った。

 いくつもの鉄の扉が、私が近づくと勝手に開いていった。

 自動ドアだ・・・。不思議。まるで誘われているよう。

 

 そして、目の前に特別に大きな鉄の扉が出現した。

 でもそこも同じように、私が近づくと簡単に内側に開いていった。

 

 
「ここは・・・王の間?」

 私がそう思ったのも、大広間の正面奥に、二つの玉座があったからだ。

 赤いビロードのカーテンが、ドレープを作り天井から幾重にも重なるように垂れ下がっている。

 その奥に、玉座が見える。

 青い炎が部屋を照らし出し、まるで別世界の様だ。

 すると、別方向の通路から、爆発を伴う様な大きな音が聞こえた後に、走ってくる足音が聞こえた。

 振り返ると、ムーランだ。

「ムーラン!」

「ココですか、良かった。無事だったのですね、アスランテは?」

「少し前に別れた。敵を倒す為に彼が残ったの」

「そうですか、では後から来ます、安心なさい。向こうの通路は塞ぎましたが、次は何処からやって来るかわからない。先に、ここにある隠された何かを探しましょう」

「うん、あの玉座よりも、もっと奥だと思う」

 前よりも、ずっと近くにその存在を感じる。

 二人で玉座の方に走り寄る。ムーランの白い法衣が焦げていた。だいぶ激しい戦闘があったみたい。

「ムーラン大丈夫?ケガしてない?」

「はい、大丈夫ですよ。貴女もご無事でよかったです」

 うん、いつものムーランだ。元気そう。

 玉座の後ろは壁の前で、槍を交差させて二人の鎧の騎士が立っているだけで、何もない。

「おかしいですねえ、この辺りから何か感じるのですが、何か細工がされているのでしょう。そういうのドワーフは好きですから」

「えーっ、めんどくさっ。早くさがさなきゃ」

 置き物だとかいろいろ触りまくって弄(いじ)ってみたけど、これといって何もなさそうだ。

 よくある、壺の中を覗くとか、やってみたけど何も入ってない。

 やれやれと思って、玉座に手を突いた。

「うわっ!」

 ずるりと身体が傾く。

―――――――ガコン、ギイイイイィィィ―――――――

 玉座がスライドして、それがスイッチだったらしく、後ろの鎧が動きはじめた。

 槍を交差していた鎧の騎士が、槍を下げて正面を向いたのだ。

 すると槍が無くなった壁にボコリと四角く穴が空いて、下から何かがせり上がって来た。

「んー?」

「何でしょう?剣の柄(つか)のようですね」

 大きな水晶のクラスターの中に柄が生えているって感じ。刃が少し見えている。

 なんか日本刀の柄みたい。鍔(つば)もついてて、見れば見る程そっくり・・・。

「これってさあ、この柄が水晶の台座から抜けた人の物ってやつじゃないの?」

「はは、では、私が触ってみましょう」

 今、ムーランが鼻で笑った。

 ムッ、とか、ハッとか言ってるけど、抜けないじゃん。

「こういうのは、やっぱ、笑い取らなきゃね」

 ずずいと前に出て、私が柄を手に持つと、下の水晶の台座ごと掻き消えて、どう見ても日本刀に見えるそれを持って立っていたのだ。

「あれっ」

 ちょっとくらい奮闘してみたかった・・・。めっちゃあっけない。

「なるほど、これは巫女姫の宝(アイテム)だったのですね。通りで成る程、獲物が種では少しチンケだと思っていたのです」

 チンケって言ったよこの人。

「となれば、ドワーフにも大昔に預言者がいたのでしょう」

「これ、私の?」

「手に持ってどうですか?」

「・・・めっちゃ馴染む」

 しっくりくるというのか、この片刃の刀(かたな)は、ベリン国では見る事が無いはずの品だ。

 美しいそりがある。

 日本刀だ。これがここにあるというのなら、確かに私に用意された物だろう。

 私は、まるで、招かれるようにここに来たんだ。

 


 
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