王子様はいらないので、自分と皆の幸せの為にさっさと家を出て、推しの魔術師様の弟子になる事に決めました。

吉野屋

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24.北の国境

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 北の国境に到着するまでの、行程は細かく決められていた。なるべく野営はしなくて良いように、考えられているので立ち寄る町や村は決まっている。

 そのおかげで街道も成り立つのでお互い様という感じだった。だから、村人などもとても好意的だ。

 皆、騎馬か荷運びの馬車で移動なので、馬の世話もしなくてはならない。自分の乗る馬は自分で世話が必要だ。

 立ち寄る場所では厩があり馬丁がいる所もあるが、自分の乗る馬は行く前から慣らしてあるのだ。愛着も湧く。


 途中、第三王子の部隊とも合流を果たし、そのまま北の国境へと進んだ。

 第三王子は、年齢は私と同じ17才だった。見た目は王族そのものの外見だった。遠くから観察した感じだと、好感の持てる気さくな人となりに見える。

 金髪碧眼の美しく優し気な見た目は、転生してから遠目でしか見た事がない王族の特徴を備えていて、綺羅きらしい雰囲気だった。ん、まあとにかく近づくまいと思った。

 近衛騎士は見目の良い者が回されると聞く。でも、どっちかというと、見目よりも筋肉が目についた。

 実力主義なのかも知れない・・・。


 今、北の国境に居る治癒師はベテランの男性治癒師、ドルトンさんだった。

 治癒師の交代は基本同じ半年と決められているけれど、実際には特殊な仕事なので、例えば戦いによる酷い怪我人を治す為に魔力が枯渇しかけた場合は、城に居る別の治癒師が派遣され、二人がかりで交代で治癒する等、そう言った事はあるらしい。

 今回の様に、初めての経験なので私は遠征部隊の中に混ざり馬で移動しているけど、基本、治癒師は魔法陣で城から移動するので、本当は何日もかけて馬で移動しなくても良い。

 何事も経験なので馬で皆と一緒に移動してみたのだ。

 先輩治癒師達も皆、最初は一緒に馬で移動したそうだ。そうすると、国の様子も分かる。

 実際に戦いになった時、周りの地形や人々の暮らしを知っておかないと、判断が付きにくい事もあるだろう。

 なので、ユーノス様はこの移動には一緒されていないけど、北の国境には後日来られる予定だった。



 最後の宿泊地ケノビル村に到着した時に、村長から魔物の相談があったそうだ。

 北の国境から少し入ったこの村にも魔物が現れるというのは解せないという話だった。

 確かに、国境の傍には魔物の森が有るので、国境付近には多いけど、砦から少し入ったこちらの村まで魔物が入り込むのは不思議だ。たまにならあるかもしれないけど、立て続けらしいのだ。

 ただ、その魔物は弱い種のスライムや歩いて移動する毒赤茸(どくあかだけ)や吐き出す煙を吸い込むと眠ってしまう白煙茸(はくえんだけ)だとかの話だった。

 幸いこういう魔物は対処方法が決まっているので、大ごとにはならなかったが、スライムに襲われた人は、気付くのが遅れたら、窒息死する所だったという話だった。

 茸類は弱いので、松明の火を当てるだけで、死ぬという話だった。

 スライムは鋭い物で核を突いて壊せば死んでしまう。

 でも、茸が歩いているのを見るのは怖いかも・・・。

 こういう話は情報の共有が必要なので、すぐさま皆に知らせられた。

 魔鳥により、北の砦にもすぐさま連絡が入れられた。

 北の国境はバレノス伯爵領で、そこに国からの国境警備隊が派遣されている。

 そのための砦が国の予算で作られ、ちょっとした大所帯だ。固定でそこで働く人もいる。

 バレノス伯爵の私兵とはそれなりにうまくやっているらしい。

 

 私達が、北の砦に到着すると、引継ぎが三日あり、その後王都に帰る部隊は引き払う。

 到着すると、喜んで迎えられた。私は直ぐに医療塔に案内してもらって向かった。

 ドルトンさんとは今までにも仕事を教えてもらったりとお世話になっている。

 彼の好きな菓子を手土産に訪れる。

 声をかけると、隣の部屋から彼の声が聞こえた。

「ああ、シタン来てくれたか!助かった。俺はもう魔力切れだ。頼むわ」

「はっ、ハイ!」

 持っていた荷物を全部床に下し、そこにある消毒液に手を浸し、ふき取ると直ぐに隣接する病室に行った。

 三つあるベッドには重症患者が寝ていて、床には足の踏み場も無い程、何人もの軽傷者が座り込んでいて、看護士に手当を受けていた。

「ここで、魔力量の多いシタンが来てくれたのは神の助けだな・・・」

 ドルトンさんはそう言ったと思ったら、空いている場所に倒れる様に座り込み、気を失うように寝てしまった。

 

 

 
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