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3.侍女のメリー
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シタンの押し込められている屋敷の離れは伯爵家の敷地の片隅にあった。
母屋の屋敷とは離れた場所にあり、背の高い樹木で仕切られて、人の目に入らない様な造りだった。
ここに寄越される使用人は、シタンの母親の侍女だったメリーだけで、他には誰もいなかった。
メリーは、屋敷の維持と最低限のシタンの身の回りの世話をする為に寄越されていた。
このメリーは、シタンの母リリアノが実家から婚家に連れて来た侍女だったが、シタンのせいで奥様のリリアノが亡くなり、その後、後妻のエレンが入って来た事で、立場が微妙になっている。
実際、主人に嫌われているシタンの面倒を押し付けられた。左遷もいいところだ。
だからメリーは腹を立てた。
本来ならば、伯爵夫人の一番の侍女として、この屋敷の侍女を従える立場だったのにだ。
その鬱憤はシタンに向かい、週に二度、教師が来た時だけ母屋の屋敷で教育を受けるシタンの身なりは整えるものの、他には世話と言える程の事はしていない。
教えなければならない礼儀作法すら教えなかった為、シタンはダメな頭の悪い子供だと教師には思われていた。
メリーは、普段は誰もここに来ない事をよく分かっていて、シタンには食べ物さえまともに与えていなかった。
自分の気に入らない事をシタンがすれば、容赦なく鞭で叩く。
それも、人の目につかない服に隠れる場所を狙って叩くような女だった。
一日の中で何度も叩かれ、身体中傷が付いている。どうでも良い事で怒りシタンを打つのは日課になっている。
シタンは今までこのメリーが怖くてしかたがなかった。
けれどメリーが居なくては誰も自分に構ってくれない。
幼いシタンはメリーが居ないと生きて行けない。だから黙って我慢するしかなかった。
「ちょっと、お嬢様、さっさと顔を洗って朝食を食べてください」
朝食というのは、古くて硬い、パンと水だけだった。
もたもたしていれば、また鞭で打たれるのだ。
この離れを維持するためのお金は、家令から渡されていたが、メリーはその殆ど自分の物にしていた。
母屋に行く時だけ、シタンの見た目を整える物を用意した。それすらも、全て安物だ。
主人の命令で、必要以上に構ってはならないと言われている為、誰もシタンに関わろうとしなかったのが幸いしている。不興を買えば追い出されてしまうからだ。
それを良い事に、メリーはやりたい放題だった。
「いいですか、私の言う事を聞かなかったら、食事は抜きですからね」
この上食べ物すら貰えなかったら、シタンは飢え死にする。
さっさと硬いパンを水に漬けこんで柔らかくして、口に押し込んだ。
ちょっと、カビてるけど、気にしていられない。
「あと、雑巾がけして下さい。手が届かない所は椅子を持って行ってするんですよ。埃が残っていたら、鞭で打ちますからね」
「はい・・・」
この離れも、幼いシタンが一日中掃除しているのだ。
メリーは買い物だと言って、ほとんどを街で過ごし、カフェでお茶をしたりしているのだ。
その事を、私は小説を読んでよく知っていた。
どう考えても、まずは、この悲惨な状態をなんとかしないといけない。
食事の後、穴が開いて汚れた服に着替え、ブリキのバケツに水を入れて引きずって来て、雑巾がけを始めると、メリーはいそいそと支度して出掛けて行った。
離れの掃除は、今までのシタンがするのとは違う。
七歳でも高校生の知恵で、知識を持つ自分が掃除をすれば違った。
届かない所には棒に雑巾を巻き付けたり、雑巾絞りも棒に巻き付けてしっかり絞るとか、いろいろ端折ってさっさと済ませた。
色々考えてみたけど、まず、敵の情報を得なければならない。
今までシタンは離れから自分で出たことが無く、小説の知識だけでは、屋敷の情報が乏しすぎる。
これから偵察をして、知らなければならない事が多くある。探検の気分だ。
まずは、あのメリーに、一泡ふかせてやらなければならない。
幼いシタンには、全く不釣り合いな悪い笑みを浮かべて、私は笑った。
母屋の屋敷とは離れた場所にあり、背の高い樹木で仕切られて、人の目に入らない様な造りだった。
ここに寄越される使用人は、シタンの母親の侍女だったメリーだけで、他には誰もいなかった。
メリーは、屋敷の維持と最低限のシタンの身の回りの世話をする為に寄越されていた。
このメリーは、シタンの母リリアノが実家から婚家に連れて来た侍女だったが、シタンのせいで奥様のリリアノが亡くなり、その後、後妻のエレンが入って来た事で、立場が微妙になっている。
実際、主人に嫌われているシタンの面倒を押し付けられた。左遷もいいところだ。
だからメリーは腹を立てた。
本来ならば、伯爵夫人の一番の侍女として、この屋敷の侍女を従える立場だったのにだ。
その鬱憤はシタンに向かい、週に二度、教師が来た時だけ母屋の屋敷で教育を受けるシタンの身なりは整えるものの、他には世話と言える程の事はしていない。
教えなければならない礼儀作法すら教えなかった為、シタンはダメな頭の悪い子供だと教師には思われていた。
メリーは、普段は誰もここに来ない事をよく分かっていて、シタンには食べ物さえまともに与えていなかった。
自分の気に入らない事をシタンがすれば、容赦なく鞭で叩く。
それも、人の目につかない服に隠れる場所を狙って叩くような女だった。
一日の中で何度も叩かれ、身体中傷が付いている。どうでも良い事で怒りシタンを打つのは日課になっている。
シタンは今までこのメリーが怖くてしかたがなかった。
けれどメリーが居なくては誰も自分に構ってくれない。
幼いシタンはメリーが居ないと生きて行けない。だから黙って我慢するしかなかった。
「ちょっと、お嬢様、さっさと顔を洗って朝食を食べてください」
朝食というのは、古くて硬い、パンと水だけだった。
もたもたしていれば、また鞭で打たれるのだ。
この離れを維持するためのお金は、家令から渡されていたが、メリーはその殆ど自分の物にしていた。
母屋に行く時だけ、シタンの見た目を整える物を用意した。それすらも、全て安物だ。
主人の命令で、必要以上に構ってはならないと言われている為、誰もシタンに関わろうとしなかったのが幸いしている。不興を買えば追い出されてしまうからだ。
それを良い事に、メリーはやりたい放題だった。
「いいですか、私の言う事を聞かなかったら、食事は抜きですからね」
この上食べ物すら貰えなかったら、シタンは飢え死にする。
さっさと硬いパンを水に漬けこんで柔らかくして、口に押し込んだ。
ちょっと、カビてるけど、気にしていられない。
「あと、雑巾がけして下さい。手が届かない所は椅子を持って行ってするんですよ。埃が残っていたら、鞭で打ちますからね」
「はい・・・」
この離れも、幼いシタンが一日中掃除しているのだ。
メリーは買い物だと言って、ほとんどを街で過ごし、カフェでお茶をしたりしているのだ。
その事を、私は小説を読んでよく知っていた。
どう考えても、まずは、この悲惨な状態をなんとかしないといけない。
食事の後、穴が開いて汚れた服に着替え、ブリキのバケツに水を入れて引きずって来て、雑巾がけを始めると、メリーはいそいそと支度して出掛けて行った。
離れの掃除は、今までのシタンがするのとは違う。
七歳でも高校生の知恵で、知識を持つ自分が掃除をすれば違った。
届かない所には棒に雑巾を巻き付けたり、雑巾絞りも棒に巻き付けてしっかり絞るとか、いろいろ端折ってさっさと済ませた。
色々考えてみたけど、まず、敵の情報を得なければならない。
今までシタンは離れから自分で出たことが無く、小説の知識だけでは、屋敷の情報が乏しすぎる。
これから偵察をして、知らなければならない事が多くある。探検の気分だ。
まずは、あのメリーに、一泡ふかせてやらなければならない。
幼いシタンには、全く不釣り合いな悪い笑みを浮かべて、私は笑った。
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