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1.プロローグ
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「お前の様な醜い心根の女はいらない。私はマリーンを娶る」
婚約者だった、第二王子のディーノ殿下は、私にそう仰った。
私は可笑しくて、可笑しくて仕方なかった。心底、馬鹿馬鹿しくて涙が零れた。
可笑しくて堪らないのに、どうしてこんなに涙が出るのだろう。
「そうやって、皆、私を裏切るのです。最初に望んだのは私では無いのに、与えておいて、今度は間違いだったと仰るのですね」
「煩い、お前の様な性悪は死ぬまで牢獄で暮らせばよい。二度と太陽の下には出られぬ様にしてやる」
―――――誰も私に触ることは許さない。もう誰にも私の心に触れさせはしない。
神がいないのだから、魔王に願う。
私の悲しみを毒に変えて、草も木も生えない国に変われ・・・。
そうして、私の身体は黒い塵と崩れ、毒となり国を覆いつくした―――――。
―――――『可哀そうなシタンの願い』より―――――
その日は天が抜けたような大雨が、風と混じり、ついには横殴りになって降り始めた。
学校帰りの私は横断歩道を渡る時に、傘を風で取られないようにしっかりと顔の前に突き出して渡り始めた。
その時、とつぜんのクラクションの音や、目の前に迫る大型トラックの銀色のバンパーが目に入ると同時に全てが暗転した。
雨が降る・・・。
しとしとと。
そぼ降る雨は、少女の涙のようだった。
どうしてそんなに泣いているのだろう?
泣いて、泣いて、悲しんで、
後から、後から、透明な涙が流れて落ちる・・・
『誰も私を愛してくれない』
少女の呟きが雨音に消える。
ああ、雨が降っているのだ。
熱を出したその日も、***の事など気にせずに彼女以外の家族は夜会へと出かけて行った。
後妻とその連れ子の姉。そして父と兄。いつもの事だ。
今日だけの話ではない。
いつも***はいらない人間だった。
ずっと、父と兄には、私を産んだせいで、母は亡くなったと言われ続けた。
幼い頃から、父も兄もそれを理由に私を責めた。
私が生まれて来てごめんなさい。
ずっとそう謝り続けて来た。
悲しい、苦しい、誰か助けて。
そうやって泣いている***を慰めてあげたくても、彼女の中にいる私はどうしようかと躊躇っていた。
悲しくないよ、私がいる。大丈夫だよ。一人じゃない。ついに、声をかけた。
いつから彼女の中にいたのか、覚えていない、もしかすると最初からだったのか?
やっと、私は彼女に話しかけた。
『だあれ?誰なの?』
私・・・?私は***。
『違うよ、それは私』
と、彼女が言った。
そう、私は、あなた。
あなたは、私。
私の、この世界での名前は、シタン。
―――――シタン。
確かに、そうだった。
その時、私は彼女と完全に融合したのだ。
そして、頭の中に入って来たその名や、彼女の身内達の名前が、私のよく知る悲しいファンタジー小説の登場人物と同じだという事に気付いたのだ。
『可哀そうなシタンの願い』
何も報われる事なく、最後には自分の国を悲しみの毒で覆い、破滅させる主人公。
読後感が重い。嫌な気分になるファンタジー・・・。
けれどもその話は、ずっと心の中に残った。
そして自分に起ったこの現象。
これが、物語によくある異世界転生って奴なのか?と思った。
シタンは悪役令嬢と言っても、その背景があまりにも可哀そうで、周りの登場人物に腹が立ったものだ。
なんとかしてあげたくても、本の中では、彼女が救われる事はなかった。
でも、この世界が本の中と同じ作りならば、これから起こる事を回避する手立てを私が考える事が出来るはずだ。
と、そう思った。
大丈夫、シタンの事はシタンが守るから。
婚約者だった、第二王子のディーノ殿下は、私にそう仰った。
私は可笑しくて、可笑しくて仕方なかった。心底、馬鹿馬鹿しくて涙が零れた。
可笑しくて堪らないのに、どうしてこんなに涙が出るのだろう。
「そうやって、皆、私を裏切るのです。最初に望んだのは私では無いのに、与えておいて、今度は間違いだったと仰るのですね」
「煩い、お前の様な性悪は死ぬまで牢獄で暮らせばよい。二度と太陽の下には出られぬ様にしてやる」
―――――誰も私に触ることは許さない。もう誰にも私の心に触れさせはしない。
神がいないのだから、魔王に願う。
私の悲しみを毒に変えて、草も木も生えない国に変われ・・・。
そうして、私の身体は黒い塵と崩れ、毒となり国を覆いつくした―――――。
―――――『可哀そうなシタンの願い』より―――――
その日は天が抜けたような大雨が、風と混じり、ついには横殴りになって降り始めた。
学校帰りの私は横断歩道を渡る時に、傘を風で取られないようにしっかりと顔の前に突き出して渡り始めた。
その時、とつぜんのクラクションの音や、目の前に迫る大型トラックの銀色のバンパーが目に入ると同時に全てが暗転した。
雨が降る・・・。
しとしとと。
そぼ降る雨は、少女の涙のようだった。
どうしてそんなに泣いているのだろう?
泣いて、泣いて、悲しんで、
後から、後から、透明な涙が流れて落ちる・・・
『誰も私を愛してくれない』
少女の呟きが雨音に消える。
ああ、雨が降っているのだ。
熱を出したその日も、***の事など気にせずに彼女以外の家族は夜会へと出かけて行った。
後妻とその連れ子の姉。そして父と兄。いつもの事だ。
今日だけの話ではない。
いつも***はいらない人間だった。
ずっと、父と兄には、私を産んだせいで、母は亡くなったと言われ続けた。
幼い頃から、父も兄もそれを理由に私を責めた。
私が生まれて来てごめんなさい。
ずっとそう謝り続けて来た。
悲しい、苦しい、誰か助けて。
そうやって泣いている***を慰めてあげたくても、彼女の中にいる私はどうしようかと躊躇っていた。
悲しくないよ、私がいる。大丈夫だよ。一人じゃない。ついに、声をかけた。
いつから彼女の中にいたのか、覚えていない、もしかすると最初からだったのか?
やっと、私は彼女に話しかけた。
『だあれ?誰なの?』
私・・・?私は***。
『違うよ、それは私』
と、彼女が言った。
そう、私は、あなた。
あなたは、私。
私の、この世界での名前は、シタン。
―――――シタン。
確かに、そうだった。
その時、私は彼女と完全に融合したのだ。
そして、頭の中に入って来たその名や、彼女の身内達の名前が、私のよく知る悲しいファンタジー小説の登場人物と同じだという事に気付いたのだ。
『可哀そうなシタンの願い』
何も報われる事なく、最後には自分の国を悲しみの毒で覆い、破滅させる主人公。
読後感が重い。嫌な気分になるファンタジー・・・。
けれどもその話は、ずっと心の中に残った。
そして自分に起ったこの現象。
これが、物語によくある異世界転生って奴なのか?と思った。
シタンは悪役令嬢と言っても、その背景があまりにも可哀そうで、周りの登場人物に腹が立ったものだ。
なんとかしてあげたくても、本の中では、彼女が救われる事はなかった。
でも、この世界が本の中と同じ作りならば、これから起こる事を回避する手立てを私が考える事が出来るはずだ。
と、そう思った。
大丈夫、シタンの事はシタンが守るから。
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