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17.棘草の森の、魔女の二人の娘

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 棘草の森の家で、魔女の二人の娘は仲良く小さな台所に立っていた。

「ちょっとフィル、目玉焼きを焼き過ぎて硬くしないでよ」

「私は硬いのも好きよ。いやならあんたがずっと食事当番しなさいよ」

「そんなのいやよ、あんたのはちょっと硬すぎなのよ、それにベーコンだってカリカリを通り過ぎてカチカチじゃない」

「あら、私は平気よ。ねえ、それより朝ごはん頂いたら後で川に釣りにいかない?晩御飯はヤマメーを串に刺して炭火で焼いたのが食べたいわ」

「ええっ、私は肉がいいから魔物を狩る方がいい」

「それより、新鮮なお野菜を取って来てくれないかしら?」

「ちょっと、聞きなさいよあんた、」

「クエーッ、クエーッ」

 バサバサとヨーイが飛び回り、どうやら喧嘩はやめろと言っているようだ。

「お茶をどうぞ」

 ヴィードが美しい所作で愛想よく綺麗な微笑みを浮かべて、紅茶と茶菓子を私達に勧めてくれた。

「やっぱりヴィードが淹れてくれるお茶が一番おいしいですわね」

「何が『ですわね』なんだか、ほんっとあんたって順応が早いよね」

「まあ、ありがとうございます」

「褒めてないから」

「ヴィードは本当に素晴らしいわ、後でメンテナンスして差し上げましょう」

「ありがとうございます。マスターフィル」

 フィルはさすがに母の血を受け継ぎ、自動人形のメンテナンスも直ぐに上手く出来るようになり安心だ。


 森に戻る前にアド・ファルルカの城にも立ち寄り二人で挨拶をした。フィルの姿を見たファルルカはなんとも幸せそうに彼女を見つめて微笑んだ。

「私はいつも二人の幸せを願っているよ、何かあれば頼ってくれれば嬉しい」

 そう言って見送ってくれた。

 最初は竜に二人で乗っていたが、箒にフィルが上手に乗れるようになってからは、彼女は一人で箒に乗って飛び回った。

 バラスの塩湖の底にも寄った。アガダルおばさんに挨拶がてら王都の土産を持って行ったのだ。

「なんだい、ゼフレールの娘が増えてるじゃないか、賑やかな事だねえ、ああ、そうだこれを持ってお帰り」

 おばさんは私の大好きな焦げたアップルパイを『二人でお食べ』と言って沢山持たせてくれた。

 

 王都では、フィルシャンテの代わりにヴィートレッドとダンスを踊り、お客に挨拶をしなければならなかった。

 概ねヴィートレッドが上手くやってくれたが、何度も彼の足を踏んづけたし、覚える気もないので誰の名前も顔も印象に残らなかった。

 ほとぼりが冷めた頃に婚約は解消してくれて良いと彼に伝えたが、なぜだかヴィートレッドは返事をしなかった。

 伯爵家の両親には棘草の森に戻る事を伝えた。全くもって社交界に出る予定はない。とりあえず成人の祝いのパーティーという山は越えたので後のことは両親に任せて、早くフィルに棘草の森を見せたかったのだ。

 いつかまた会う約束をして、棘草の森へと還る。私の幸せの原点へ。


 




 世界中の誰よりも一番愛しています。

 どこにいても何をしていても、

 いつだってほんの少しの何かで、

 あなたが多くの幸せを感じられることを

 心から祈っています。



 ――――幸せをありがとう、お母さん。



 


 


 

 

 



 



 
 
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