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7.銀目竜を欲しがる者たち

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 飛竜を預けていた竜舎を訪れると、私の飛竜ジャーノンはとても元気そうだったが、数日竜舎に預けたままだった為、彼はスネていた。

「ジャーノン待たせてごめんね、でもあんたの好きなボトスの肉をお土産に買って来たよ」

「グルグローッ」

 彼は喜んで長い首を上下させた。

 王都の精肉店で彼の好物の魔物の肉を買って来た。森の家の周囲では狩れば容易に手に入れる事が出来るボトスという魔物の肉は、王都では容易く手に入らない。人が好んで食べる程美味だけど、こちらにはあまりいないようだ。

 包を開くとジャーノンは首を下ろし私の身体にそっと頭をつける。

「よしよし、いい子ね」

 その頭をひたひたと撫でてやると喉をゴロゴロと鳴らした。買ってきたお肉は二口で食べてしまう。

「すいません、お嬢さん、ちょっといいですか?」

 そうしていると、奥の方から声をかけられた。

「ああ、竜舎の方ですね。丁寧にお世話して頂いていたようで、ありがとうございました」

 声をかけてきたのはこの竜舎で働いている人で、来た時も飛竜の世話の事で話をした覚えがある人だった。

「いえ、とても賢くて良い竜だったので、世話も楽に出来ました」

「そうですか、あの、何でしょう?」

「それがですね、お嬢さんも王都にいらっしゃったので、竜騎士団の話を見たり聞いたりされたのではないかと思うのですが・・・」

「竜騎士団・・・そういえば、こちらに到着した翌日に魔物退治に国境へ向かわれていましたね」

「ええ、そうなんです。この頃頻繁に魔物が出没するようになったので、竜騎士団の働きが不可欠なんです。うちも竜騎士団の竜を預かったりすることもあるので、竜騎士団の援助も受けていまして・・・」

「はい?」

「あの・・・竜騎士団が銀目竜を欲しがって探しているのです。魔物は、その、銀目竜が苦手なので。銀目竜を持つ者が現れた場合連絡しなくてはならないようになっていまして・・・」

 なるほど・・・王都では着いた時に、銀目竜を欲した男に絡まれたけど、こちらは竜騎士団の強制的なお願いとやらか・・・。

 一気に気分がダダ下がりだ。

「この竜は大切な竜なのです。手放す気はありません」

「おっしゃることはよく分かります。お嬢さんが大切にされているのも私共は承知しているのです。ですが、王都には竜騎士団はなくてはならない存在ですので・・・。本当に申し訳ないのですが、竜騎士団の担当者と話し合いの場を設けさせて頂きたいと思うのですが・・・」

「話合いをしても手放す気はありませんので、無駄だと思います」

 竜舎の人は本当に申し訳なさそうに眉を下げてお願いしてくるのだが、こちらとしても頷くわけにはいかない。

「申し訳ないが、竜騎士団のザルトリウスという者だ。銀目竜の持ち主というのはそなたか?」

 突然話に入ってきたのは、体格の良い騎士服を着た男だった。カツカツと踵を鳴らして歩いて来た。

 面倒臭い事になった、そう思った。どちらにしても私は大切なジャーノンを手放す気はない。しかもこういった話方をするということは面倒くさそうな相手だと思う。圧倒的に自分の方が立場が強いと認識している者の高圧的な口調だと思った。つまり、いやな感じというやつ。

「はい、ジュジュと申します」

 仕方がないので、被っていたローブを下ろし、男を見上げた。

「ハッ?、フィルシャンテ嬢・・・貴方が?どうして・・・」

 聞き覚えのある名を口にした男は、私の顔を凝視している。いや、ジュジュって言いましたけど?と心の中で呟く。

 男は、かなりの上背で身体にも厚みがある。顔は整っていて冷たい印象だが、甘いはちみつ色の瞳と後ろに一つに括って背に垂らした波打つ金髪が印象的だった。

「貴女は竜には乗れないと聞いているが本当は乗れるのか?銀目竜は貴女の竜なのか?」

「まず、私はフィルシャンテ嬢ではない。そしてこの竜は私の竜。私の母は『棘草の魔女』であり、彼女が与えてくれた竜を手放す気はない。―――何人たりとも魔女の物を奪う事は出来ない」

 最後の一文は有名な一文で、魔女の物に手を出して無事でいるものはいないと言われている。

 口調を変えて私は言い分を述べた。まったく魔女らしい話方だ。

 

「・・・・・・」

 私の言葉にザルトリウスという男はしばし沈黙した。

 



 
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