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4.呪いの指輪
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「フィル、なぜ君はこんな場所にいるんだ?それに・・・まさかの買い食い?君が?それになんて恰好をしている?」
彼は私を頭の先から足の先までじっくりと見て眉間に皺を寄せた。彼の目の前には薄汚れた動きやすいパンツにやっぱり汚れた皮のブーツを履いて、上着には薄汚れたローブを着た私がいるはずだ。
対するヴィードのそっくりさんは、シンプルだが袖口や上着の裾に控えめながら銀糸金糸の刺繍が刺された質のよさそうな生地の紺の上品なフロックコートを身に着けていた。パンツやインナーも同色の逸品という感じでいかにもな貴族様という感じだった。
私は目を白黒させていたが、よく考えてみてもこんな所にヴィードがいるわけない。森の家で行ってきますと彼に言って出てきたのだから。
それにヴィードは自動人形だとはいえ私にはいつも優しく微笑んでくれていた。こんな不機嫌な顔をしたことはない。逆に新鮮ともいえる程だ。
「・・・ヴィード?じゃないよね?」
「何を言ってるんだ、私はヴィートレッド。ヴィードだ間違いない」
「えっ?、いや、あの・・・」
私のヴィーはこんなに感情的には話さない。これは別物、そう、人間だ。それにしたって名前まで同じなんて、どういう事なのか?偶然の一致にしてはおかしすぎる。
まさか、もしかして母はこの人をモデルにヴィードを作ったとか?そんな妙な考えが頭をよぎる。
「君が家を飛び出して行ったとブラノア家から連絡がありあちこち探していたんだ。護衛も連れずに貴族の女性がこんな所に居るべきではないだろう?どうしていつも君は・・・」
「ちょっ、待って待って、待ってくれない?まず貴方はひと間違いをしてると思う」
私は彼の前に両手を突き出してそう言った。
「まったく、何をおかしなことを言うんだ。君は僕を知っているじゃないか。それに姿かたちがこんなに同じ人間がそういるわけがない。頭がどうかしてしまったのか?」
これは困った。私が私であるという証明はどうやってすればいいのか?つまり、私そっくりな別人がいるという事だ。そのそっくりさんがここに現れてくれたら万事解決するんだけど・・・。
「ん?君・・・どうしたんだ?魔力の気配がいつもと違う?それに・・・」
なんだろう、この人勝手になんか悩みはじめた。顎に右手を当てて考え込んでいる。
「君、ちょっと手を握ってもいいか?本当に違う人なのか確認したいことが出来た」
「えっ、ちょっと待って、噴水で手を洗うから」
イカ焼きを食べて手に付いたタレを舐めていた所にこの人がやって来たのでそのままだ。そんなネチネチの手を出せるわけがない。私は慌てて噴水で手を洗う。水が煌めいて噴水から吹き上がり涼しい風が流れた。
濡れたままの手を差し出すと嫌そうな顔をしてポケットからハンカチを取り出し渡してくれた。
「手を拭きたまえ。ハンカチは返さなくて良いから」
「どうも・・・」
「うーん、君、話をしてみるとやはりどうも変だ。魔力の気配も違うし、容姿は同じに見えるのに・・・」
なんだ、やっと分かってくれたのかとうんうんと頷く。
「で、手は出さなきゃダメなの?」
「ああ、ちょっと僕の手に重ねて置いてくれないか?」
彼は両手を上に向けて私の前に差し出した。
素直にその上に両手を乗せる。スウッと何かが身体を通り抜けるような感覚がする。
「わっ、何?」
「へえ、君、確かに別人だ。彼女じゃない。・・・それにしても・・・」
彼は私の左手の中指をちらりと見た。青い石の嵌った指輪だ。
「なに?」
「それ、呪いがかかってるけど、君分かってないのか?」
「こっ、これはお守りよ。呪いのアイテムじゃないわ!」
私は驚いて両手を引いた。今度はこの人、とんでもない事を言い始めた。
「私はこれでも呪術を扱う家の出だ。間違うはずもない。君、大丈夫なのか?そんな強い呪いの魔具を身に着けていて平気なのか?」
「なっ、これは母がお守りにって作ってくれた指輪なの。そんなはずないもの・・・」
――――――― まるで呪いのようだ......
その時、ふと、アガダルおばさんの言葉が蘇った。はっとした。
「いや、それは呪いだ。その指輪は外した方がいい」
彼はそう言い切った。私のヴィーの顔をして・・・。
どういうこと?だってお母さんが作ってくれた指輪よ?私はどうしていいのか分からなくなってしまった。そして噴水の淵にフラフラと腰掛ける。
「大丈夫か?ちょっと飲み物でも買ってこよう」
「あっ、待って、大丈夫よ。飲み物を買って持ってるから」
飲み物を売っている屋台に歩いて行こうとする彼にそう言ってからマジックバッグの中に手を入れて木のコップを取り出した。
「君は・・・何者だ?そのバッグは魔道具だな。わざと普通のバッグに見せてあるが、内側に見える焼き印に見覚えがある・・・。『棘草の魔女』のものだ」
「あなたも『棘草の魔女』を知っているの?」
急に母の異名ともいえるその名を聞いたのでもしかしたら知り合いなのかと思った。
「ん?その言い方では君は知り合いなのか?有名な魔女だから知っている。特に彼女の作った魔道具や自動人形は有名だ」
「そう・・・知り合いなのかと思ったわ。『棘草の魔女』は私の母なの」
「何だって、君が?・・・」
その後、どうやら私の母を魔導士として尊敬していたらしい彼と世間話をすることになったのだった。
彼は私を頭の先から足の先までじっくりと見て眉間に皺を寄せた。彼の目の前には薄汚れた動きやすいパンツにやっぱり汚れた皮のブーツを履いて、上着には薄汚れたローブを着た私がいるはずだ。
対するヴィードのそっくりさんは、シンプルだが袖口や上着の裾に控えめながら銀糸金糸の刺繍が刺された質のよさそうな生地の紺の上品なフロックコートを身に着けていた。パンツやインナーも同色の逸品という感じでいかにもな貴族様という感じだった。
私は目を白黒させていたが、よく考えてみてもこんな所にヴィードがいるわけない。森の家で行ってきますと彼に言って出てきたのだから。
それにヴィードは自動人形だとはいえ私にはいつも優しく微笑んでくれていた。こんな不機嫌な顔をしたことはない。逆に新鮮ともいえる程だ。
「・・・ヴィード?じゃないよね?」
「何を言ってるんだ、私はヴィートレッド。ヴィードだ間違いない」
「えっ?、いや、あの・・・」
私のヴィーはこんなに感情的には話さない。これは別物、そう、人間だ。それにしたって名前まで同じなんて、どういう事なのか?偶然の一致にしてはおかしすぎる。
まさか、もしかして母はこの人をモデルにヴィードを作ったとか?そんな妙な考えが頭をよぎる。
「君が家を飛び出して行ったとブラノア家から連絡がありあちこち探していたんだ。護衛も連れずに貴族の女性がこんな所に居るべきではないだろう?どうしていつも君は・・・」
「ちょっ、待って待って、待ってくれない?まず貴方はひと間違いをしてると思う」
私は彼の前に両手を突き出してそう言った。
「まったく、何をおかしなことを言うんだ。君は僕を知っているじゃないか。それに姿かたちがこんなに同じ人間がそういるわけがない。頭がどうかしてしまったのか?」
これは困った。私が私であるという証明はどうやってすればいいのか?つまり、私そっくりな別人がいるという事だ。そのそっくりさんがここに現れてくれたら万事解決するんだけど・・・。
「ん?君・・・どうしたんだ?魔力の気配がいつもと違う?それに・・・」
なんだろう、この人勝手になんか悩みはじめた。顎に右手を当てて考え込んでいる。
「君、ちょっと手を握ってもいいか?本当に違う人なのか確認したいことが出来た」
「えっ、ちょっと待って、噴水で手を洗うから」
イカ焼きを食べて手に付いたタレを舐めていた所にこの人がやって来たのでそのままだ。そんなネチネチの手を出せるわけがない。私は慌てて噴水で手を洗う。水が煌めいて噴水から吹き上がり涼しい風が流れた。
濡れたままの手を差し出すと嫌そうな顔をしてポケットからハンカチを取り出し渡してくれた。
「手を拭きたまえ。ハンカチは返さなくて良いから」
「どうも・・・」
「うーん、君、話をしてみるとやはりどうも変だ。魔力の気配も違うし、容姿は同じに見えるのに・・・」
なんだ、やっと分かってくれたのかとうんうんと頷く。
「で、手は出さなきゃダメなの?」
「ああ、ちょっと僕の手に重ねて置いてくれないか?」
彼は両手を上に向けて私の前に差し出した。
素直にその上に両手を乗せる。スウッと何かが身体を通り抜けるような感覚がする。
「わっ、何?」
「へえ、君、確かに別人だ。彼女じゃない。・・・それにしても・・・」
彼は私の左手の中指をちらりと見た。青い石の嵌った指輪だ。
「なに?」
「それ、呪いがかかってるけど、君分かってないのか?」
「こっ、これはお守りよ。呪いのアイテムじゃないわ!」
私は驚いて両手を引いた。今度はこの人、とんでもない事を言い始めた。
「私はこれでも呪術を扱う家の出だ。間違うはずもない。君、大丈夫なのか?そんな強い呪いの魔具を身に着けていて平気なのか?」
「なっ、これは母がお守りにって作ってくれた指輪なの。そんなはずないもの・・・」
――――――― まるで呪いのようだ......
その時、ふと、アガダルおばさんの言葉が蘇った。はっとした。
「いや、それは呪いだ。その指輪は外した方がいい」
彼はそう言い切った。私のヴィーの顔をして・・・。
どういうこと?だってお母さんが作ってくれた指輪よ?私はどうしていいのか分からなくなってしまった。そして噴水の淵にフラフラと腰掛ける。
「大丈夫か?ちょっと飲み物でも買ってこよう」
「あっ、待って、大丈夫よ。飲み物を買って持ってるから」
飲み物を売っている屋台に歩いて行こうとする彼にそう言ってからマジックバッグの中に手を入れて木のコップを取り出した。
「君は・・・何者だ?そのバッグは魔道具だな。わざと普通のバッグに見せてあるが、内側に見える焼き印に見覚えがある・・・。『棘草の魔女』のものだ」
「あなたも『棘草の魔女』を知っているの?」
急に母の異名ともいえるその名を聞いたのでもしかしたら知り合いなのかと思った。
「ん?その言い方では君は知り合いなのか?有名な魔女だから知っている。特に彼女の作った魔道具や自動人形は有名だ」
「そう・・・知り合いなのかと思ったわ。『棘草の魔女』は私の母なの」
「何だって、君が?・・・」
その後、どうやら私の母を魔導士として尊敬していたらしい彼と世間話をすることになったのだった。
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