19 / 46
第三章
2、男が早死にする家
しおりを挟む
アルバイトが終わっての迎えにお祖父ちゃんが来てくれた。今日は日曜日で道の駅のイベントがあったので夕方まで仕事をした。
いつも帰り道に軽トラの中でお祖父ちゃんと色んな話をしながら帰る。道の駅のイベントで残った川魚の塩焼きをもらったといって、新聞紙の包みを見せるとお祖父ちゃんは笑った。
「そりゃあ楽しみじゃ、ビール飲むのに丁度肴が欲しかった所よ」
「うん、帰りにもらったの。まだ温かいよ」
本当は衛生上の問題も有るから大っぴらには言えないけどね。
そう言えば、お祖父ちゃんは月に一回整体に行っている。今日はその帰りに迎えに来てくれた。
中国気功の整体の先生はとても腕が良いんだそうだ。
本人の日々の身体の動きの癖なども有って施術で身体の歪みを治してもらっても、ひと月経つとまた身体が歪んで肩こりや腰痛が出るとお祖父ちゃんは言う。それでも整体に行くと身体が楽になるので毎月の楽しみの様子だ。
「先生は色んな事を知っとるし、話好きじゃけえよう喋るんよ。それで、今日はまた不思議な話をしよったわ」
「不思議な話?」
「先生の家の話での。先生は今70歳くらいらしいんじゃが、何でもその家の男が早死にする家じゃったらしい」
「早死にって?その先生は大丈夫なわけ?」
「おお、そうらしい」
「そんな話があるんだ?先生には兄弟とかは居なかったの?」
すごく興味を惹かれたので、もう少し突っこんで聞いてみる。
「先生は一人っ子じゃったから、叔母さんが男の早死にをえらい心配して色んな専門の所を探したらしいで。先生の父親が42歳で亡くなったんじゃと。で、その父親には弟と妹が1人づつおったが、弟も五年後に同じ42歳で亡くなったそうでの、残った妹いうんが、その叔母さんじゃったわけなんよ」
「ええ、怖いね。どうして亡くなったの?病気?」
「聞いたら不慮の事故いう奴での、本人にはどうしようも無い怖い死に方じゃったわ」
運転しながらお祖父ちゃんは一人でうんうん頷いている。
「どんな?怖いから早く言ってよ、お祖父ちゃん」
「先生のお父さんは、仕事で他県に用事があって、高速道路を会社の車で走っとったら... ...」
お祖父ちゃんは、そこで言葉を止める。
「もうっ、お祖父ちゃん、そこでためるのやめてよ」
「はっはっは、いやの、ホンマ怖いんじゃけの」
「もーっ、じゅうぶん怖いから!」
「それで、運転しとったんは同僚で、先生のお父さんは助手席に乗っとったらしい」
「助手席に、それで?」
何となくもしかすると、例えば同僚がスピード出しすぎて事故ったとかかも知れないと思った。
「追越車線のカーブで、鉄板積んだ大型車両が追い越し車線を通って、その時に助手席のお父さんが亡くなったそうじゃ」
「は?鉄板が落ちてきたの?」
「いいや、カーブで積んどった鉄板がズレてはみ出したそうじゃ。横を通る時になんちゅうんか、ぶうんとトラックの動きが膨らんで、はみ出した鉄板が会社の車の助手席のドアや座席、お父さんの腹を割いてしまったんじゃと。即死だっただろういうことじゃ」
「……そんな事、あるんだ」
ゾッとする様な話だ。つまり、その先生のお母さんは子供を抱えて一人になったのだ。どれだけ大変だっただろうか。
「まあ、その後は大騒ぎだったらしいがのー。それに、お父さんの弟さんいうのも、やっぱり同じ42歳で鉄板事故に遭って亡くなっとるいうんじゃけ怖いわ」
「ええー!、本当に?」
「建設現場で、鉄板が落ちて来て亡くなったそうじゃ。先生は鉄板事故繋がりで不思議じゃろ言うて笑っとったが、まあ普通じゃあないよのー」
偶然では絶対有り得ない様な話だ。でもこういう訳の分からない因縁めいた話は、だいたいが大元の原因が分からないことの方が多いと思う。
「そんな事が起こるんだ。怖いね… …でも、整体の先生は早死にを回避出来たんだよね」
「そうそう、叔母さんが色んなところを探して、聞いてまわったらそういう専門の人に、こうした方が良いから
そのようにやりなさい、言われたらしい」
「どんな事をしたら、大丈夫になったの?」
「どうやら先生のひいお祖父さんいうんが、婿養子に来たらしいの。それから男が早死にしとる」
「婿養子だとなんかあるの?」
「あるんらしい。自分の家の方の先祖に報告いうか、そういうんを全くせずにひいお祖父さんは嫁さんの家に来たらしいけな。まあ、報告いうんは墓参りで挨拶する程度でも良かったんじゃろうが、そういう手順を全く踏まずに婿養子に入ったそうな。専門の人が言うにはそれはまず絶対駄目なんじゃと。障りの強さは御先祖様にもよるらしいがのー」
お祖父ちゃんは、「まあ、知らんけど」とか言いながら続けた。
「ふーん、そうなんだ」
つまりは、先祖からの霊障って事なのか。それにしては恐ろしい障りだ。気づかせる為にあり得ないような事を起こせるなんて・・・。
「なんか代を跨ぐと障りが酷くなるらしいわ。それで、そのひいお祖父さんの実家の墓を探しての、家族を連れて挨拶に行って、声に出してひいお祖父さんの不義理を謝って、これから自分は毎年お墓参りに来ますから、どうか許して下さいと心から言うんが大事なんじゃと」
「それで、先生はそれからそうしてるんだ?」
「そうらしい。まあ、お陰様で、実際お父さんと叔父さんの歳を越しても元気にしとる、って先生は言うとった」
「実際に叔母さんのいう事を信じて行動した先生もすごいね。それにしても当人だけじゃなくて無関係の子孫に障りが出るっていうのは怖いなあ」
「障りじゃ祟りじゃいうたらそんなもんじゃろ。まあ、そんな話は置いといてもう家に着くし、早よ夕飯にしょーや。わしゃ腹が減ったのぉ」
「うん」
私は、お祖父ちゃんとお母さんと今から美味しいご飯を一緒に食べる方に意識を向けて、重い気持ちを追いやった。信じる信じないは自由だけど、こう言う話を聞くと心が重くなるものだ。
「ああ、じゃけど先生が言うには、御先祖様は子孫の幸せを祈るもんなんじゃと。それは間違いない、言うとった」
いつも帰り道に軽トラの中でお祖父ちゃんと色んな話をしながら帰る。道の駅のイベントで残った川魚の塩焼きをもらったといって、新聞紙の包みを見せるとお祖父ちゃんは笑った。
「そりゃあ楽しみじゃ、ビール飲むのに丁度肴が欲しかった所よ」
「うん、帰りにもらったの。まだ温かいよ」
本当は衛生上の問題も有るから大っぴらには言えないけどね。
そう言えば、お祖父ちゃんは月に一回整体に行っている。今日はその帰りに迎えに来てくれた。
中国気功の整体の先生はとても腕が良いんだそうだ。
本人の日々の身体の動きの癖なども有って施術で身体の歪みを治してもらっても、ひと月経つとまた身体が歪んで肩こりや腰痛が出るとお祖父ちゃんは言う。それでも整体に行くと身体が楽になるので毎月の楽しみの様子だ。
「先生は色んな事を知っとるし、話好きじゃけえよう喋るんよ。それで、今日はまた不思議な話をしよったわ」
「不思議な話?」
「先生の家の話での。先生は今70歳くらいらしいんじゃが、何でもその家の男が早死にする家じゃったらしい」
「早死にって?その先生は大丈夫なわけ?」
「おお、そうらしい」
「そんな話があるんだ?先生には兄弟とかは居なかったの?」
すごく興味を惹かれたので、もう少し突っこんで聞いてみる。
「先生は一人っ子じゃったから、叔母さんが男の早死にをえらい心配して色んな専門の所を探したらしいで。先生の父親が42歳で亡くなったんじゃと。で、その父親には弟と妹が1人づつおったが、弟も五年後に同じ42歳で亡くなったそうでの、残った妹いうんが、その叔母さんじゃったわけなんよ」
「ええ、怖いね。どうして亡くなったの?病気?」
「聞いたら不慮の事故いう奴での、本人にはどうしようも無い怖い死に方じゃったわ」
運転しながらお祖父ちゃんは一人でうんうん頷いている。
「どんな?怖いから早く言ってよ、お祖父ちゃん」
「先生のお父さんは、仕事で他県に用事があって、高速道路を会社の車で走っとったら... ...」
お祖父ちゃんは、そこで言葉を止める。
「もうっ、お祖父ちゃん、そこでためるのやめてよ」
「はっはっは、いやの、ホンマ怖いんじゃけの」
「もーっ、じゅうぶん怖いから!」
「それで、運転しとったんは同僚で、先生のお父さんは助手席に乗っとったらしい」
「助手席に、それで?」
何となくもしかすると、例えば同僚がスピード出しすぎて事故ったとかかも知れないと思った。
「追越車線のカーブで、鉄板積んだ大型車両が追い越し車線を通って、その時に助手席のお父さんが亡くなったそうじゃ」
「は?鉄板が落ちてきたの?」
「いいや、カーブで積んどった鉄板がズレてはみ出したそうじゃ。横を通る時になんちゅうんか、ぶうんとトラックの動きが膨らんで、はみ出した鉄板が会社の車の助手席のドアや座席、お父さんの腹を割いてしまったんじゃと。即死だっただろういうことじゃ」
「……そんな事、あるんだ」
ゾッとする様な話だ。つまり、その先生のお母さんは子供を抱えて一人になったのだ。どれだけ大変だっただろうか。
「まあ、その後は大騒ぎだったらしいがのー。それに、お父さんの弟さんいうのも、やっぱり同じ42歳で鉄板事故に遭って亡くなっとるいうんじゃけ怖いわ」
「ええー!、本当に?」
「建設現場で、鉄板が落ちて来て亡くなったそうじゃ。先生は鉄板事故繋がりで不思議じゃろ言うて笑っとったが、まあ普通じゃあないよのー」
偶然では絶対有り得ない様な話だ。でもこういう訳の分からない因縁めいた話は、だいたいが大元の原因が分からないことの方が多いと思う。
「そんな事が起こるんだ。怖いね… …でも、整体の先生は早死にを回避出来たんだよね」
「そうそう、叔母さんが色んなところを探して、聞いてまわったらそういう専門の人に、こうした方が良いから
そのようにやりなさい、言われたらしい」
「どんな事をしたら、大丈夫になったの?」
「どうやら先生のひいお祖父さんいうんが、婿養子に来たらしいの。それから男が早死にしとる」
「婿養子だとなんかあるの?」
「あるんらしい。自分の家の方の先祖に報告いうか、そういうんを全くせずにひいお祖父さんは嫁さんの家に来たらしいけな。まあ、報告いうんは墓参りで挨拶する程度でも良かったんじゃろうが、そういう手順を全く踏まずに婿養子に入ったそうな。専門の人が言うにはそれはまず絶対駄目なんじゃと。障りの強さは御先祖様にもよるらしいがのー」
お祖父ちゃんは、「まあ、知らんけど」とか言いながら続けた。
「ふーん、そうなんだ」
つまりは、先祖からの霊障って事なのか。それにしては恐ろしい障りだ。気づかせる為にあり得ないような事を起こせるなんて・・・。
「なんか代を跨ぐと障りが酷くなるらしいわ。それで、そのひいお祖父さんの実家の墓を探しての、家族を連れて挨拶に行って、声に出してひいお祖父さんの不義理を謝って、これから自分は毎年お墓参りに来ますから、どうか許して下さいと心から言うんが大事なんじゃと」
「それで、先生はそれからそうしてるんだ?」
「そうらしい。まあ、お陰様で、実際お父さんと叔父さんの歳を越しても元気にしとる、って先生は言うとった」
「実際に叔母さんのいう事を信じて行動した先生もすごいね。それにしても当人だけじゃなくて無関係の子孫に障りが出るっていうのは怖いなあ」
「障りじゃ祟りじゃいうたらそんなもんじゃろ。まあ、そんな話は置いといてもう家に着くし、早よ夕飯にしょーや。わしゃ腹が減ったのぉ」
「うん」
私は、お祖父ちゃんとお母さんと今から美味しいご飯を一緒に食べる方に意識を向けて、重い気持ちを追いやった。信じる信じないは自由だけど、こう言う話を聞くと心が重くなるものだ。
「ああ、じゃけど先生が言うには、御先祖様は子孫の幸せを祈るもんなんじゃと。それは間違いない、言うとった」
8
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
海の見える家で……
梨香
キャラ文芸
祖母の突然の死で十五歳まで暮らした港町へ帰った智章は見知らぬ女子高校生と出会う。祖母の死とその女の子は何か関係があるのか? 祖母の死が切っ掛けになり、智章の特殊能力、実父、義理の父、そして奔放な母との関係などが浮き彫りになっていく。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。


少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる