母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋

文字の大きさ
上 下
15 / 46
第二章

5.モトチチ、現れる

しおりを挟む
 結局、尾根山くんは、あの後百家くんの家に泊まり(神社の敷地の並びに立派な住居がある)、霊符を作ってもらったらしい。家用と自分用に作ってもらい。自分用のはお守りに入れて肌身離さずもっているみたい。

 家用の霊符は貼り付ける場所があるらしく、百家くんが次の日に一緒にまた家に行き、貼り付けたそうだ。

 その後、幽霊は出てないらしく、カリカリというラップ音も聞こえないそうだ。

 時々、百家くんからそんなメールが来る。どうでもいいんだけど、『良かったね』とか『そうなんだ』位は返しておいた。

『反応、うっす』とかきてた。


 それにしても、今日は塾が無いので、涼しい内に朝勉強して、お母さんが仕事に行った後、お祖父ちゃんはシルバーで依頼されている公園の管理の仕事の打ち合わせで出て行ったので、一人でお昼を食べていた時の事だ。

 一応、田舎とはいえ空き巣被害や、老人を狙った押し売りなんかが横行しているので、玄関の引き戸にも錠をかけていたのだが、ガタガタいわせて声がする。

「どちら様ですか―?」

「麻美か?お父さんだ!開けてくれ!」

「・・・私には父はおりません」

「何言ってるんだ?お父さんだぞ」

「父は死にました」

「・・・いや、お父さんだから」

 何言ってんだか、縁切ったオジサンと縁を戻すつもりはナイ。どうせ落ちぶれて、生活出来なくなって、お母さんを頼って来たに違いない。面倒事を家に入れるなんて御免だ。

 因みに、父親の実家になんて行った事もない。ココよりももっと田舎の8人兄弟の七番目で、一番上の兄が継いだ家には戻って来るなと言われている関係だと、お母さんから聞いた事がある。

「お父さん、困ってるんだ。ちょっとここに泊めてくれないかな?」

「なんで?」

「何でって・・・お父さんじゃないか?」

「ここは、お母さんの家で、オジサンはもう他人でしょ?いい大人なのに分別ないの?」

「・・・でも、他に頼る所が無いんだ・・・」

「勝手すぎるとおもうよ」

 ズルズルと玄関の曇りガラスの引き戸の前に座り込む様子が見える。あー、駄目だこりゃ。

 こんなお荷物、お母さんに会わせて、いやな思いさせたくない。せっかくシングル生活楽しんでるのに。



 二階に上がって、お祖父ちゃんの携帯に電話した。

「あ?どうした麻美?」

「お祖父ちゃん、家に、元父(もとちち)が来て玄関前に居座っているんだよ。多分、生活できなくなって、ここで寝泊まりしようって魂胆だと思う。私、絶対嫌だから。お母さんにも会わせたくない。なんとかならないかな?」

「・・・ああん?なんじゃと、そんなん祖父ちゃんにまかせろ。ええこと思いついた!麻美はわしが家に帰るまで外に出るなよ、直ぐに帰るけ」

「うん、わかった」

 お祖父ちゃんの頼もしい返事を聞き、待つ事30分。

 お母さんの漬物を食べてお茶を飲んでいると、下のガレージに軽トラが入って来る音がした。

 お祖父ちゃんが。帰って来たようだ。重ねて車の音がしたので、もう一台入ってきたのかも知れない。

 そういえば、モトチチはタクシーに乗って来たのだろうか。足音がしてお祖父ちゃんの声がした。

「あんたあ、何用かの?わしの家になんか用か?」

 座り込んでいた元父が立ち上がり、オタオタしている。お祖父ちゃんの事なんて頭に無かったのだろう。

「あ、あの、ご無沙汰しております。麻美の父です」

 こんな時だけ父だって。笑える。

「じゃけ、なんな?うちの娘は確かにあんたと離婚したが、わしゃあその相手が此処に来るとは聞いてないがの」

「え、あ、すいません・・・」

「麻美も会いたくないゆうとるし、あんたあ、急に来てどうするつもりじゃ?それが当たり前じゃとおもうとるんかの?」

「・・・」

「わしゃあ、ヒモみたいな男はスカンけえな。あんたあ、娘と結婚させて下さいゆうて来た時は、儂になんていうたか覚えとるか?」

「・・・」

「娘さんを大切にしますから一緒にさせて下さい、そういうたんじゃ。ちっとも大切にしゃあせんといてな」

「・・・」

 だんまりだ。本当の事を言われてる。だんまりしか出来ないモトチチは情なさすぎる。

「麻美に泊めてくれいうたらしいが、断る。泊まる所が無いんじゃったら、働くなら寮がある所がある。そこに行きんさい」

「・・・どこに、どこに、行ったらいいですか?」

 なんか、観念したみたいで、初めてまともな言葉をモトチチが発した。

「よっさん、頼んでもええかの?」

「おう、ええで。寝るとこはあるけの。働くなら飯も食わせるしの。丁度、道の駅に野菜持って来とったけ良かったわ」

 ああ、横山のおじさんだ。熊山牧場の。

 野菜も作ってるから、道の駅に少し出してるって言ってた。

 確か、農場の仕事がきつくて、直ぐに人が辞めるから困るって言ってたし。なるほど、お祖父ちゃんナイス。

 根性叩き直してもらえるかもしれないよね。だけどあんなんじゃ、暫くは使い物にならないかもしれないけど。

 牧場はここからまた車で50分位かかる所にある。車がなかったら勝手に出入り出来ない場所だ。

「まあ、落ち着いたら話を聞きに行くが、勝手に孫や娘に会おうなんてマネしたら、警察呼ぶようにいうとくけな。よう考えてくれ」

 こっそり裏口から出て、垣根の隙間から見て見たら、めっちゃ無精ひげ生やして、ゲッソリ痩せて、仙人モードになっていた。別人級。

 なんか、警察に連れて行かれる犯人みたいになってた。

 横山のおじさんの軽トラに乗せられて連れていかれてた。

 サヨウナラ出来ればもう会いたくないです。特にお母さんには会わないで下さい。心からそう願った。

 

 
 

 

 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

よんよんまる

如月芳美
キャラ文芸
東のプリンス・大路詩音。西のウルフ・大神響。 音楽界に燦然と輝く若きピアニストと作曲家。 見た目爽やか王子様(実は負けず嫌い)と、 クールなヴィジュアルの一匹狼(実は超弱気)、 イメージ正反対(中身も正反対)の二人で構成するユニット『よんよんまる』。 だが、これからという時に、二人の前にある男が現われる。 お互いやっと見つけた『欠けたピース』を手放さなければならないのか。 ※作中に登場する団体、ホール、店、コンペなどは、全て架空のものです。 ※音楽モノではありますが、音楽はただのスパイスでしかないので音楽知らない人でも大丈夫です! (医者でもないのに医療モノのドラマを見て理解するのと同じ感覚です)

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...