母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋

文字の大きさ
上 下
13 / 46
第二章

3.ずぶ濡れの男

しおりを挟む
 翌日、午前中に百家くんとバスで一緒に行く事になっていたので、またおじいちゃんに道の駅まで送ってもらった。

 家には、図書館で勉強すると言って出てきた。

 朝は道の駅のお店は9:30から開いているのでパン屋さんも開いていて、例のお兄さんがいた。

 バスに乗る人や、道の駅の近くに住んでいる人はパンを買いに来るので、お兄さんは忙しそうだった。

 黒いマスクに、黄色いバンタナ、鯖いろの髪。ひょろーっとしていて背が高い。遠目からでも直ぐに誰だか分かる。

 そしてとても精彩を欠いた存在・・・私が言うなって感じはあるけど。お兄さんの髪の色の様に、白くて抜け落ちた青・・・。どうして、こんなに風に感じて、胸が痛いような感じがするのかな?


 昨日の出来事を思い出す。なんかほっておけないっていうか、気になる存在だ。

 元気がないなあ。

 元気だせよ。なんて思う。

 そんな立場でもないから言わないけど。

 でも、直ぐに乗るつもりのバスが来たので乗り込んだ。

「よお、こっち」

 今日は10人位は乗客がいる。

 後ろから二番目の席から百家くんに声をかけられて、仕方ないので隣に座る。

「おはよう」

「おはよ」

 今日も安定のイケメンぶりだ。朝日が透き通るような明るい瞳に入り込み、吸い込まれそうだ。

 昨日に続き、おこがましくも隣に座る事をお許しください。と彼のファン達に心の中で十字を切る。

 もし、クラスの女子なんかに知られたらと思うとゾっとする。何を言われるか分かったもんじゃない。

 ぞぞーっ。

「そう言えばさ、端宝は携帯持ってる?」

「ああ、一応、連絡用に持っていなさいって言われて持ってるよ」

 そうなのだ。お母さんが契約して来てくれて、夏休み前に渡された。受験も控えているので行き帰りの時間も不安定だ。車で迎えにきてもらったりするのに持っていないと不便だからという理由で。

 ホントに、これがあるから、お祖父ちゃんとも連絡が直ぐとれて、便利だ。

 お祖父ちゃんも携帯を持っている。

「便利な世の中になったもんじゃのお、年よりも携帯を持つのが普通になっとるけ、すごいのお」

 って、言ってた。結構、便利につかってるらしい。シルバーの仕事のやりとりなんかも携帯なのだ。

 私の携帯は、二つに折るタイプで、水色のメタリックなカラーと、コロンとしたフォルムが可愛い。とても気に入っている。

「端宝の番号とアドレス登録させて」

「えーっ」

「嫌がんなよ、栄えある女子一号だ」

 彼が取り出した二つ折りの携帯は黒だった。カッコイイけど、黒は手の痕が付き安いので面倒だ。

「へー意外~」

「お前なあ、俺は面倒くさいの嫌いなんだよ。お前みたいにサバサバした奴がいい」

「はあ?何言ってんだか、勝手な事ばかり。冗談でもそんな事、絶~っ対に、外で言わないでよ、怖いわ」

 こんな話を学校の女子にでも聞かれたら、袋叩きに遇う。ぞぞーっ。

「なんだよ、その反応。心底失礼な奴だな」

 そんな事言いながらも、顔が嬉しそうだ。マゾか?

「あ、今、お前、また失礼な事考えただろ、目に蔑みの色が浮かんだ」

「・・・」

 どんな色だ?しかし、人の心が読めるんだろうか?きおつけよ。


 その後、お互いに電話番号とアドレスを入力した。

 ついに、私の携帯にお祖父ちゃんと、お母さんと、塾、以外の電話番号が追加される事になった。

 感慨深い・・・。

 
「そう言えば尾根山くん、一階で両親と一緒に寝たら幽霊は大丈夫だったのかな?」

「いや、出たそうだ。朝、電話あったんだ。一階の座敷に川の字になって三人で寝てたそうなんだけど、両親が寝ても眠れなかったらしい。そしたらまたカリカリ音が聞こえてきたらしくて、何か寒くなったなと思ったら、顔の上に雫が落ちてきたんだそうだ。目をあけたら目が空洞で身体が水浸しの男が頭の上に立っていたって。それで、大騒ぎさ、遂に親も、尾根山の頭の様子を心配しはじめたらしくてさあ、暫く祖父母の所に泊まったらどうかって言われたそうだ。」

「・・・目を開けたら立っていたっていうのは、嫌だなあ。そりゃ怖い。で、今度も立っていた場所は水に濡れてたのかな?」

「ああ、水で畳が濡れていたそうだ。それを両親に言っても、お前が水をこぼしたんじゃないのか?って言うしまつらしい」

「そうか~。まあ人って、自分が理解できないモノは信じようとしないから・・・そうなんだろうね」

「そうだな。朝、父親が仕事に出た後、母親もパートに出るらしいんだ。怖いからJRの駅で待ってるってさ、それで、今夜は俺の所に泊めてくれって言われた」

「うーん、そりゃなんとかしたいけど・・・。でもさあ、今までそんな事なかったのに、とつぜん憑かれるって何だろう?やっぱ、現地を見てみるしかなさそう」

「そうだろ、何か手を打つにしても、相手が何なのかわからなきゃ難しいんだよな」

「手を打つってどういう風に?」

「札だよ。うちは神社だし、そういうのあるの知らない?」

「ああ、そういうのね。少しなら知ってる。霊符ってやつでしょ。有名なので、『鎮宅七十二霊符』とかさ」

「・・・お前、物知りだな。そうだよ、その霊符」

「物知りっていうか、そっちは趣味の方かな。興味あるから。そうか、じゃあ本物を見る機会があるんだ・・・」

「何、わくわくした目で俺を見てるんだ。お前、でかい目が落ちそうだぞ」

「私、百家くんと知り合いになれて良かった」

「・・・そこは、友達って言えよ」


 『鎮宅七十二霊符』とは古来中国皇帝に最高の守護符として尊ばれたそうだ。

 日本では、人生に関係する七十二の災いを鎮める霊符とされ、小松神社に江戸時代の版木が伝わっているらしい。





 



 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...