母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋

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第一章

4.お祖父ちゃんと、私

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 お祖父ちゃんの軽トラに乗せてもらって買い物に行くのは、鄙びた町だけど農協や郵便局もある。
あとは、個人商店の何でも屋さんのお店なんかもある。お爺ちゃん先生のやっている内科医院や、他には美容院とか散髪屋さんもあるのだ。

 距離的に言えば、お祖父ちゃんの家から徒歩では行く気がしないが、小学校と中学校も複式学級だがこっちにあって、母は子供の頃、毎日歩いて通っていたらしい。すごい。

 いつもこっちで買い物等をしているお祖父ちゃんは、私を軽トラに乗せてちょくちょく買い物に連れて行ってくれた。一応小さいガソリンスタンドも近くにある。

 その店から遠目に見ても、お寺よりも遥かに大きいお屋敷があった。手前には大きな川が流れていて、橋を渡らないと屋敷には行くことが出来ない様だ。

「お祖父ちゃん、あの山の方にそびえ立つ大きい屋敷は誰の家なの?」

 軽トラの助手席に乗って、高台に見える大きな武家屋敷みたいな家を指差す。

「ああ・・・あれは昔はこの辺一帯の農地を全部持って居た庄屋屋敷だな。東神様(とうじんさま)っちゅーて皆いうとる。まあ、戦後の農地改革で農地はほぼ小作人に取られてしもうたが、山林もようけ(沢山)もっとられたけ、それを切り売りされて、生活には困らんかったらしいがな」

「とうじんさま?」

「東に神さんで東神(とうじん)っちゅー苗字なんじゃな。昔の庄屋様の家なんじゃ」

「ふうん。すごいよね、あれ、長屋門っていう奴だよね」

「ああん?なんじゃそれ」

「長屋門だよ、あの家の門。門自体が屋根の付いた長い建物でしょ、昔はあそこに使用人が住んでたらしいよ。映画の八つ墓村に出て来る屋敷なんかがそうだよ」

 お祖父ちゃんはうんうんうなずいた。
 昨夜、木曜ロードショーで、一緒に再放送の映画を見たのだ。二人で掘りごたつに入って一階の居間で観たのだ。怖い場面になると、お祖父ちゃんはこたつ布団を目の下まで引き上げてビクビクしていた。

 その掘りごたつは本当に炭を入れて温めるタイプの奴だ。こたつの中に潜って一酸化炭素中毒にならないように気を付けないといけないと母に言われた。

『炭をいこす』と言って炭に火を付けるのは、それ専用の小さい片手鍋の様な形の、底に穴の空いた容器に炭を入れて、ガス台で炙って炭に火を付ける様だ。七輪の中で火をいこす事もあるみたい。

「ああ、八つ墓村か、そうそう、こないだテレビで映画見た時、なんか東神さまの屋敷に似てるおもーたわ」

 元々、長屋門(ながやもん)って言うのは、武家屋敷の120メートルくらいに及ぶ長い門の事で、下男等の住居が一緒に造られていて、武家にしか許されていなかった物が、近代になり、庄屋や名家と呼ばれる家には作ることを赦されたんだとか、本か何かで読んだことが有る。

 まあ、一般庶民には、無用の長物である。

「うん、似てる似てる」

 私は、相槌を打った。

「タナカの婆さんのフライヤー買って帰ろか?」

 お祖父ちゃんたら、突然思い出した様にそう言った。農協の横にあるタナカと言うなんでも売ってる個人店では、お婆ちゃんが揚げ物を店の中で揚げていた。これが美味しいのだ。

「私は、牛肉コロッケが良いよ、お祖父ちゃん」
 何かもう、直ぐにでも食べたくなって来た。外はカリカリ、サクサクで、中は玉ねぎとたっぷりの合挽きミンチを炒めて、マッシュしたジャガイモと和えてある。塩胡椒が効いていて齧ると旨味が広がり、アツアツのハフハフはこたえられない美味しさだ。

「よおし、じいちゃんに任せろ」

 お祖父ちゃんは、夕飯の分以外に、オヤツ用のコロッケを買ってくれた。私はそのアツアツのコロッケをハフハフ齧りながら帰った。

「タナカのお婆ちゃん、いい仕事してるよ」

「そーじゃろ、あそこの揚げ物は旨いからのー」

 お祖父ちゃんは上機嫌だ。この様に、お祖父ちゃんと私は、結構な仲良しだった。

「そういやあ、麻美が生まれた年に、東神さまのとこの坊ちゃんが亡くなってのお、大騒ぎになった事があったのお」

「坊ちゃん?」

「男の子二人おって、上の子じゃったかの?家の前の川で兄弟が遊んどって、兄の方が流されたんじゃわ」

「それは・・・可哀想だね」

 そういうのって、残った方にも心に傷が残ると思う。

「そうそう、よう覚えとるわ、麻美の生まれた日の話じゃけえの」

「えーっ」

 そういう話はどっちかと言うと、聞きたくない類の話だよ。と思った。

「やっぱのお、お盆に水の近くで遊ばすんは、ようない(良く無い)言うけのお。皆んな近所のもんはそう言いおったのお」

「ふーん」

 まあ、お盆時期の水難については色々と謂れが有るので、昔から言われている事には気をつけた方が良いのだろう。

「そういうんもあってじゃろ、下の坊は、流行りのアレらしいで」

「アレって何?」

「えーと、ヒキニク?ヒキニー・・・」

「ヒキニート?」

「おお、それよの」

 お祖父ちゃんはスッキリした顔で、前を見て、ウンウン頷いている。お祖父ちゃんの偉い所は、運転中よそ見をしない事だ。

「そうなんだ。それは、しんどそうな話だね」

「ええ若いもんが、いけんよの」

「まあ、人にはそれぞれ事情ってやつがあるからね」

「なんぼ家が大きゅうても、住んどるモンが不幸じゃいけんわの」

「うん、そうだね」

 その家の話も、私にははっきり言って関係ない話なので、適当に返事をしたくらいで、あまり心に残りもしない話だったのだが、後日、色々と私に関わってくる事になるとは思いもしていなかった。

 

 

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