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その後…

大人になった僕たち

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「そろそろ起きないと集合時間に遅れるわよ!」僕は嫁の大声で目が覚めた。
 僕と瞳は大学に進学し、社会人として3年働いてから結婚した。今は27歳で、2歳の子どもが一人いる。今日は僕の実家に帰省することになっている。僕の両親も早く孫に会いたがっている。僕は眠い体を無理やり起こし、嫁のいるリビングに向かった。リビングにはパンを焼いたいい匂いが漂っていた。僕は席に着くなり、「いただきます!」と言って朝食を食べ始めた。嫁も朝食を食べ始める。
 僕たちは朝食を食べ終わり、準備をしてから車で実家に向かった。久々に会う親だが、僕は少々気が重かった。
 ちょうど昼頃、実家に到着すると、わざわざお母さんが外に出てきて出迎えてくれた。僕はお母さんと他愛もない話をしながら、家の中に入った。リビングではお母さんがお昼ご飯を用意してくれていた。久しぶりのお母さんの手料理。僕はワクワクしながら席に着いた。するとリビングのドアが開く。僕は一瞬ドキッとした。
「なんだ来てたのか、しゅうた。」 
 声の主は兄だ。兄はあの事件で警察に捕まり高校を退学していた。それ以来自分の部屋に引きこもっている。いまだに兄が何を考えているのか分からない。
「あ、ああ。兄さんは元気?」僕はたどたどしく答えた。あの事件以来、兄は僕をいじめてこなくなったが、逆にそれが怖い。
 特に何が起こるわけでもなく、食事が終わった。兄は自室に戻り、僕たちは世間話に花を咲かせた。今日は夜ご飯もお母さん家で食べることになったので、お母さんが買い物に行き、嫁も「手伝います」と言って一緒に出掛けた。
僕は父さんと将棋を楽しんでいた。父さんは強く、なかなか勝てなかった。僕は真剣に勝負にのめりこんでいたため、いつの間にかあっという間に時間が過ぎ、気づいたら母さんたちが帰ってきていた。
「あれ、光利ひかりは?」嫁が言う。光利は僕たちの子どもである。
「そこにいるだろ。」僕は将棋盤から目を離さずに言った。
「いないから言ってるのよ!」嫁が怒鳴る。
 僕たちは家じゅうを探した。その結果光利はどこにもいなかった。兄とともに。

 僕は急いで兄を探しに出た。兄の携帯に電話をしても何の音沙汰もない。僕は兄の行先に心当たりがあった。高校生の頃、僕が兄とケンカをし、兄が捕まった倉庫。倉庫に到着し、僕は中に入った。
「お前はいいよな…。赤ん坊ってのは無限の可能性を秘めている…。俺と違ってな…。」兄が光利に向かって話しかけていた。
「光利をどうするつもりだ!」僕は兄に怒鳴る。
「来たか、しゅうた。ここは懐かしいな…。お前が人生を逆転し、俺が人生のどん底に落ちた場所だ…。」兄は虚空を見ている。そして続けた。
「お前、警察呼んでないだろ。俺はお前の子どもを誘拐したんだぞ、なぜだ?」
「だって、僕は兄さんを信じてるから。確かに昔はひどいことされたけど、兄さんは今でも酷いことをするような人じゃない。」僕は兄さんの目を見て言った。
「お前は本当に馬鹿だな…。」兄の目から涙が流れた。
「俺、高卒認定試験に合格したからよ。大学に行くことにしたんだ。だから今度実家出るからさ、姪と一緒にこれを見たくてよ。」そう言って兄は海に面している側の扉を開けた。
 するとそこには綺麗な夕日が広がっていた。
「小さいころに良いもん見とくと教育にいいって言うだろ。光利には俺みたいになって欲しくないから…。」すると光利が兄に向かってキャッキャッと笑った。
「俺なんてろくでもないやつなのに、なんでこんな幸せそうなんだ…。」兄は再び泣いていた。
 僕はしばらく光利と兄と一緒に夕日を見ていた。そして3人で実家に帰った。

「ちょっと、あんた私の娘に何をしてるの?」嫁が兄に怒鳴る。
「違うんだ、瞳。光利のために遊びに連れてってくれたんだよ。僕が聞いてないだけだった。」僕がそう言うと、嫁は「もう!」と言って笑った。そして父さんと母さん、兄さんも笑った。
 夜ご飯は5人で世間話をしながら食べた。今まで兄さんとは溝を感じてたけど、今日でその溝が解消された気がする…。僕は澄んだ顔で家に帰った。
「珍しくあんた1人で解決したのね。」嫁が皮肉を言う。
「僕も大人なんだから1人で解決できるよ。」僕は笑って答える。光利も笑っていた。
 僕たちは笑顔で岐路に着いた。
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