ブルーセーバーズ

天網 慶

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ブルーセーバーズ第1幕

九条編1話 融合

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 俺の名前は九条慶太くじょう けいた。俺のことを一言で言うと「天才」である。大学在学中の21歳で会社「九条コーポレーション」を設立してから数多くの発明品を排出している。俺が発明家を志したのには理由がある。あれは俺が5歳の時、テレビで宇宙に飛び立つ人間を見たからだ。その日はどのニュースでもどの新聞でも、ロケット発射のニュースしか取り扱っていなかった。何しろ人類初の宇宙進出である。私はこのニュースを見て、いつか自分で作ったロケットで宇宙に行くことが夢になった。その後俺は必至で勉強して先の会社を設立。会社は1年で上場、たっぷりお金も稼いで人生順風満帆である。

 そして俺は女の子が大好きだ。俺の金目当てで近づいてくる女の子を毎日とっかえひっかえして遊んでる。今日会う女の子は名前なんだっけ?そんなことを送迎の車の中で考えながら、デートの待ち合わせ場所に向かう。目的地に到着し、車を降りようとすると運転手に話しかけられる。

「社長、クオーツをお忘れです。」

「おっと、そうだった。」俺はクオーツを手に取り、装着した。

 「クオーツ」とは俺が開発した腕時計型の自律思考AIである。腕に装着することで、俺の生体データをスキャンし、あらゆる不調を教えてくれる。また発明のアイデアも一緒に考えてくれるし、女の子への口説き文句も考えてくれるし、とにかくなんでもできる。そして自律思考型なので、時々クオーツの方から話しかけてきたりもする。すなわち俺の相棒である。

「では社長、私はこれで。くれぐれも性病にはお気を付けください。」運転手はそう言って車を発進させた。

 あの無礼な運転手も私の2人目の相棒である。2人目と言ったら彼女は起こりそうだが…。彼女の名前は「鐘子美鈴かねこみれい」。この世で唯一俺の思い通りにならない女性である。そんな強気な彼女に惹かれて俺は彼女を秘書にしたのだが、まったくこんな無礼だったとは、彼女を雇用したことは失敗だったようだ。

「もう~。遅いよ、慶太!」そんなことを考えていると、女の子が遠くから手を振って叫んできた。

 こんな街中で叫ぶなんてまったく。見た目だけはタイプなので今日の遊び相手に選んだが、リピートはなしだな。そう思いながら、俺は彼女をエスコートし、夜の街に消えて言った。



ー九条コーポレーション社長室ー

「よう、慶太。ノックしたのに反応しろよ。寝不足か?」

 私が社長室で考え事をしていると、急に誰かが入って来た。その者の顔を見ると、声の主は「伊藤幸成いとうゆきなり」だった。彼は学生時代からの俺の親友。基本異性しか関わらない俺の唯一の同性の友達である。

「悪い、気づかなかった。ちょっと考え事してて。」俺は決まりの悪そうに返した。

「お前が考え事なんて珍しいな。何考えてたんだ?」

「ちょっと新規事業についてな。そろそろ軍事産業に手を出していいんじゃないかって…。」

「おいおいヤバいことはすんなよ。」

「分かってるよ。それよりお前は何の用だよ?」

「ああ、前にお前が提案した発明品が完成したってよ。後で開発局に顔だしてくれや。」

「分かった、今から行く。」

 俺はそう言って社長室を後にした。



ー商品開発局ー

 ここは九条コーポレーションの商品開発局。俺が出したアイデアを実現させるラボである。基本的には俺がじかに雇った優秀な研究者が俺の構想を元に研究するのだが、俺が直々に研究する場合もある。

「まったく遅いわよ、慶太。」

 そう言って俺に話しかけてきたのは「堀部風花ほりべふうか」。俺が大学時代にスカウトした同年齢の研究者である。彼女も俺に引けを取らない天才で、俺の友達の1人である。

「ついに完成したんだって?」俺がわくわくして返事をする。

「ええ、名付けて『コンバインマシーン』。2つの無機物を1つに結合する奇跡の発明よ。」

「無機物!?おいおい、俺が言ったのは動物と動物だろ。例えば馬と鳥を結合させてユニコーンにするとか。」

「まあ、それも試したんだけどね。あんまり成功率が良くなくて。まあ無機物なら100%成功するわ。」

「それじゃダメなんだよ。とりあえず俺も改良してみるから、それよこせ。あと発表は見送れよ。」俺はそう言ってため息交じりに開発局を後にした。



ー社長室ー

 社長室に戻ると、そこには美鈴がいた。

「社長、これは何ですか?」

「勝手に見るなよ。今度軍の人にプレゼン予定の物だ。まだ構想段階だけどな。人を超人に出来たら、絶対世界中の軍関係者からオファーが来て丸儲けだろ?」

「何か実現に問題でも?」

「ああ、人と機械を融合させれば超人にはなるわけだけど、その良い動力源が見つからなくてな。そんなことよりそろそろ帰るぞ。送ってくれ。」そう言って俺は帰路に着いた。



ー九条邸ー

 俺は家に着くとさっそくコンバインマシーンの改良に取り掛かった。クオーツと一緒に試行錯誤したのだが、ラットを使った実験ではどうしても成功率が5割程度になってしまう。なんやかんや作業をしていると、急に邸内にサイレンが鳴り響く。

「慶太様、侵入者です。」

 クオーツがそう教えてくれたが、既に侵入者は俺の背後に忍び寄っていた。そのまま俺はそいつに頭部を殴られ、意識を失ってしまった。



 気づくと椅子に縛られて動けなくなっていた。ここはどこだろうか。しばらくすると覆面を被った男が電話で何かを話しながらやってきた。

「今から慶太の写真を送る。安否に納得したら大人しく1億円用意するんだな。」男はそう言って俺の写真を1枚撮った。どうやら身代金目当ての誘拐のようだ。だが突発的な犯行とは思えない。俺の家を知っていることもそうだし、家に進入してから真っ先に俺のところに来たのは俺の家の構造を知っているということになる。コイツは俺の知り合いか?そう思いながらも、まずは脱出することを考えた。すると男が再びどこかに行った。

 椅子に手足が縛られているが、俺の足は地面についている。俺は椅子ごと無理やり立ち上がり、思いっきりジャンプして椅子から着地した。すると着地の衝撃と俺の体重で椅子がガダンと壊れた。同時にその衝撃が俺の体にもくるが、今は苦しんでいる場合ではない。俺はとりあえず今いる部屋を出た。

 廊下を走っていると、どこからか足音が聞こえてきた。俺は咄嗟に近くの部屋に隠れる。するとそこには偶然クオーツとコンバインマシーンがあった。俺はすぐにクオーツを装着した。

「久しぶりだな、クオーツ!」ようやく会えた相棒に俺は心が躍った。

「お久しぶりです、慶太様。背中が全体的に打撲したようです。念のため病院で精密検査されることをおすすめします。」

 コイツはのんきでいいな。そう思っていると、誰かが部屋に入って来た。私は咄嗟に近くの物陰に隠れた。

「いるのは分かっているぞ!早く出てこい!」そう言って男は発砲した。なんと拳銃を持っていた。

 男は部屋の出口でジッと待っている。このままでは部屋から出られない。かといってまともに戦っては勝ち目がない。このまま隠れてやり過ごすか、隙を見て逃げ出すか。だが敵が拳銃を持っている以上、逃走成功確率も低い。居場所がバレるためクオーツと話すこともできない。

 くそっ!こうなったら一か八かだ!俺はそう考えてコンバインマシーンを取り出した。成功確率は50%以下だが、俺とクオーツが融合して完璧な答えを導くしかない。俺はコンバインマシーンを起動した。俺の脳にクオーツが取り込まれる感覚がする。とても苦しい…。頭が破裂しそうだ…。

 俺は一瞬意識を失ったが、目が覚めるとあたりはとても静かである。何も変わった様子はない。だが頭が冴えわたっているのを感じる。なんでもできるような高揚感を感じた。

 俺はすぐに近くにあったレンガを敵に投げつけた。敵はそれを防ぐ姿勢をとった。俺はその隙に敵目掛けて突進した。敵は俺に銃口を向ける。敵が最初に威嚇射撃をした時の様子を見ていた俺は、敵の癖、打つタイミング、そこから発射される弾がどの角度で飛んでくるかなどすべて計算できた。俺はすぐに姿勢を低くして敵の弾をギリギリで躱す。ギリギリだが絶対当たらないことは計算で分かっていた。そして敵の足を思いっきり払って敵を転倒させた。すぐさま手を踏みつけ銃を離させ、銃を奪った。

 足を1発打つくらいなら正当防衛の範疇だろ。俺はそう考えて、敵の足を打った。これで敵は追ってこれない。俺は無事脱出することができた。すぐに美鈴に現在地を連絡して迎えにこさせ、同時に警察を呼んだ。俺拉致事件はこれで無事解決した。



ー九条コーポレーション社長室ー

「あなたのした行為は正当防錆と認められる余地は十分あるでしょう。ですが容疑者がなぜあなたの家の構造を知っていたかはまだ明らかになっていません。何か進展がありましたらすぐにご連絡します。では。」

「ありがとうございます。双葉先生。」俺はそう言って、俺が雇った弁護士を見送った。

「それにしても今回は災難でしたね。無事で何よりです。」美鈴がドライに言う。

「ああ、警察にもしばらくは用心のため外出は控えろって言われて、しばらく遊べねえな~。」俺は椅子に寄り掛かった。

「なあ美鈴、今度デートしてくれよ。」俺は美鈴に言った。

「私たちはあくまで社長と秘書の関係なので。」そう言ってやんわり断られた。

 こうして遊べなくはなったものの、いつも通りの日常が戻って来た。まだ謎は残っているが。



ーある裏道ー

「はあはあ、撒けたか。」「ああ、誰も追ってこない。」「くそ!せっかく1億円ゲット出来るチャンスだったのに、アジトに行ったらお頭がやられてるなんて、それに変な奴に追われるしよ。」

 彼らは慶太を誘拐した容疑者の仲間である。何者かに追われているようだ。

「おい!ヤツが来たぞ!」「何でここが分かんだよ!お前は何者なんだ!」

「私の名は、ローウィザード!」

ーTo be continued -
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