Magical Science

天網 慶

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第2話 聖戦の狼煙

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「この中の1人に当たりをつける。そして犯人が現れるまでそいつをひたすら尾行する。」

 ワットたちが目をつけたのは、A区に住むトムという男だった。ワットとキャシーは身隠しの魔法を使ってひたすらトムを尾行し続けた。しかし、いくら待っても怪しい人物は現れず、とうとう3日が過ぎた。

「もうこいつじゃないんじゃないの?」キャシーがため息交じりにそうつぶやいた瞬間、

「すみません。あなたがトム・ホークスさんですね。」黒いローブを身にまとったいかにも怪しい人がトムに話しかけた。場所はちょうど人気の少ない裏道。(今しかない)ワットはそう心に思い、怪しい人物に詰め寄った。

「あなたは何者ですか?」ワットは語気を強めて怪しい人物に話しかけた。

「あなたこそ何者ですか?」途中、トムが割って入って来た。

「私は近日多発している行方不明事件の対策チームのメンバーで、魔法省のワトソンという者です。そしてこちらはパートナーのミラー。あなたにお話しを伺ってもよいですか?」ワットは怪しい人物に問いかけた。すると途端、怪しい人物は逆方向に走り出した。(逃がすか!)そう思い、ワットも数秒遅れて走り出した。

「対策チームってどういうことですか?」と訝しむトムにキャシーは事の顛末を話してから、ワットを追いかけた。

 (これ以上逃がしてたまるか!)ワットは攻撃魔法を怪しい人物に放ち、怪しい人物はうずくまるようにその場に倒れこんだ。

 この世界では、6種類の魔法がある。「攻撃魔法」「防御魔法」「浮遊魔法」「魔法操術」「幻影魔法」の5つの基本魔法と、上記のどれにも当てはまらない「特殊魔法」だ。基本魔法は誰でも生まれた時から使うことができ、「特殊魔法」はそれを使える才能がないと使うことができない。

 攻撃魔法によりうずくまる怪しい人物に対し、ワットは問いかけた。

「お前は何者だ!ニコラス・テッセウスという人物を知っているか!」

怪しい人物は苦しそうにローブを脱いでゆっくり答えた。

「私が何者なのかは教えん。そしてお前が言う人物も知らない。だが私の名前は教えてやる。私の名前は、パペット・チカマツだ。」そう言ってチカマツは、小型の人形を取り出し魔法を唱えた。

「魔法操術:曽根崎合戦」

魔法と同時に人形がまるで生きた人間のように動きはじめた。

「これは、魔法操術!」ワットに追いついたキャシーがそう叫んだ。

「私は人形操術のプロだ。これで数の利はなくなったぞ!」チカマツはそう言って、人形を攻撃させた。

「防御魔法:プロテスト」キャシーがとっさに防御魔法を展開し、人形の攻撃を防ぐ。

「私魔法で実践は初めてなんだけど。」キャシーが魔法を放ちながらつぶやく。

チカマツはさらに攻撃魔法を繰り出す。ワットも攻撃魔法を繰り出し、チカマツの攻撃を相殺する。

チカマツは攻撃魔法を続けて繰り出す。チカマツの人形も攻撃の手を止まない。

「あんたの得意魔法なんだっけ?私は学校の魔法決闘の授業では攻撃魔法が得意だったんだけど…」キャシーが人形の攻撃を防御しながら言う。

「俺が得意なのは幻影魔法だ。だが俺の幻影魔法は1人にしかかけられない。」

「なら、まずアイツにかけてよ。その隙に私が攻撃して倒すから。」

「わかった。」そういってワットは高く飛び上がり、チカマツの攻撃を避けた。そして間髪入れずに

「幻影魔法:ナイトメア」

 そういってチカマツに幻術をかけた。ナイトメアは、相手に幻術を見せることにより動きを止める術である。

 瞬間、次に動いたのはキャシーだった。彼女も人形の直線的な攻撃をかわし、咄嗟にチカマツに向けて魔法を放った。

「攻撃魔法:ボンバーダ」

チカマツの体が爆発する。(やったか?)ワットがそう思ったのも束の間

「攻撃魔法:出世影清」

チカマツの攻撃魔法がキャシーに当たる。キャシーは衝撃で後方に大きく吹っ飛んだ。

「キャシー!」ワットが叫ぶのと同時に人形がワットに襲いかかる。(なぜヤツに攻撃魔法が効いていない?ヤツは確かに幻術にかかっていたはず…)人形の攻撃をかわしながら、ワットは考える。

「おそらくその人形も魔法を使えるのよ」キャシーがよろめきながら言う。

「大丈夫か?キャシー」ワットが駆け寄り、さらに続ける。

「人形が魔法を使えるって!?」

「おそらくその人形がチカマツの幻術を解いて、すぐにチカマツが防御魔法を唱えたのよ。」

「ご名答。鋭い嬢ちゃんだな。」チカマツが笑みを浮かべる。

「俺の魔法操術は、自身の魔力を半分人形に移し、動かす能力だ。だから人形でも魔法が使えるんだよ。」

魔力とは魔法を放つのに使う力のこと、運動するときに体力を消費するようなものである。

「俺に作戦がある。少し耳を貸せ。」ワットはキャシーに耳打ちをする。

「本当にそんなことできるの!?」

「やらなきゃ俺たちが負けるだけだ。俺を信じろ。」

「わかったわよ。」そういってキャシーは攻撃魔法を繰り出す。人形がチカマツを防御する。

「まずはお前からだ小娘!」そう言ってチカマツはキャシーに攻撃魔法を繰り出す。が、すんでのところで防御をする。

「幻影魔法:ナイトメアサーカス」

途端、ワットが魔法を繰り出す。人形とチカマツの動きが止まった。『ナイトメアサーカス』これは先に放った魔法の上位魔法である。『ナイトメア』が相手1人を封じる魔法なのに対し、『ナイトメアサーカス』は複数人の動きを封じる魔法である。ワットはこの魔法を使えなかったが、土壇場で覚醒させた。

「攻撃魔法:ボンバーダ」

 間髪入れずにキャシーが攻撃魔法を繰り出す。今度こそ人形は粉々に爆散した。(もう1発)キャシーが魔力を込めたところ、「待て!」ワットがそれを止める。

「何よ」キャシーは訝しむ。

「俺たちの目的はヤツを倒すことじゃない。ヤツから情報を得ることだ。俺の幻影魔法でヤツに情報を吐き出させる。」

「幻影魔法:スピットアウト」

「お前はニコを知っているか?お前はどこの組織に所属している?」

チカマツがプツプツとと喋りだす。

「ニコ…という…人物は…知らない。そして私は…『リベレイションズ』という組織に…所属している。」

「リベレイションズ!?」「聞いたことがないな。」ワットとキャシーは首をかしげる。

「お前たちの目的は何だ?」さらにワットが問いかける。

「我々の目的…は…自由と解放…。」

「自由?解放?ますます分かんねぇ。じゃあリベレイションズの本拠地はどこにある。」

「リベ…レイションズの…本拠地は…」チカマツがそう言いかけた途端、「ブチッ!!」チカマツは舌を噛み切った。

「な…!?」ワットとキャシーは目を見開く。

「我々は…目的のためなら…この命も厭わない。お前たちのようなヤツには…決して負けない。」そういって、チカマツは息を引き取った。

「どういうこと?チカマツはあんたの幻影魔法を解いたの?」キャシーが尋ねる。

「いや、俺の『スピットアウト』は敵に情報を喋らせるために、わずかだが意識も残しとくんだ。そのわずかな意識でチカマツは舌を…。普通はそれでも自分の思い通りに体を動かせないはずなんだが…。チカマツのリベレイションズへの覚悟は相当なものだな…。」

「これからどうするの?」

「いったん俺の家に帰ろう。ここまでの状況を整理したい…。」そういって2人はワットの家へと飛び立った。



ーーワット宅ーー

「大丈夫か?」ワットはそう言いながら、冷たい水をキャシーに渡す。

「ええ、でも、人が死ぬのは初めて見たからちょっとショックで…。」

「無理はするなよ。」そういってワットはキャシーの様子を見る。キャシーは青ざめていて、少し震えていた。無理もない。この世界では、学校で魔法から身を守るために生徒同士で「決闘」をする授業があるのだが、そこでは当然人は死なない。大けがをすることも滅多にない。(当分の間はキャシーのそばにいてやるか…)ワットはそう思い、キャシーの横に座り、今日の出来事を報告書にまとめている。

「あんたは平気なの?」キャシーが静かに問いかける。

「平気なわけないだろ。俺だって人が死ぬのは初めてみるんだ。しかも原因は俺にある…。でもここで止まるわけにはいかないだろ。ニコを、俺たちの仲間を助けるために。」

「あんたはいつも前向きでいいわね。私はいつも物事を悲観的に考えるから…。」そう言うキャシーだが、突然ワットが話を遮り、キャシーの目を見て話し始めた。

「俺はお前がそばにいてくれるから平気でいられる。お前まで行方不明になってたら、多分俺は何もできなかったと思う。だから今日は一緒に来てくれてありがとう。」

「な、何?あんたがお礼を言うなんて珍しいじゃない?」

「それだけ俺も取り乱してるってことだよ。」

「でも、少し気分が晴れた。ありがと。」そう言ってキャシーは冷たい水を飲み始めた。

「で、これからどうすんの?」キャシーはいつもの調子でワットに尋ねる。

「とりあえず敵の組織の名前は分かった。俺は明日魔法省に行って、詳しい情報がないか探してくるよ。」

「あ、それと…」ワットが続ける。

「お前、今日俺ん家泊まれよ。」

思わぬ発言にキャシーは思わず叫ぶ。

「はぁ!?」

「な、何言ってんの?いい年した男女が一夜を同じ屋根の下で過ごすなんて…」

「お前こそ何言ってんだよ。今日は敵と接触したんだぞ。お前だってヤツらに狙われるかもしれねぇ。」

「そ、それはそうだけど…。あ、あんた手とか出さないでね…」

「お前バカか?そんなことするわけねぇだろ。」

こうして2人は床に就いた。



ーーリベレイションズ本部ーー

「シーザー様。チカマツが死亡しました。」とある女が言う。

「そうか…。相手は誰だ。」シーザーと呼ばれる男は冷たい視線を女に送る。

「詳しくは分かりませんが、おそらく魔法省の者かと。」

「また奴らか。待っていろ魔法省のバカども。命に代えてもお前らは俺が止める。」そう言ったシーザーの目には闇が垣間見える…。



ーー???ーー

「ロバート・ワトソンがついに奴らと接触した。ワトソンと奴らは絶対に関わらせてはならん。お前のやるべきことは分かっているな?アイン。」

「もちろんです。陛下。」

ーTo be continuedー
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