北風と共に消えたラッパの音

てぃ

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そんな笑顔を見てしまうと

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「音ってすぐに消えちゃうんだよね」
 ラッパを吹き終えた後、彼女はそう呟いた。何か諦めたような、投げやりな言い方だった。
 それが僕に聞こえるほどの大きさだったから、彼女は楽器を吹き終えるまで本当に僕の存在に気付かなかったのだろう。
 その証拠に、彼女は僕と目を合わせた瞬間、目を丸くして「どうも」と言った。
「あ、どうも」
 僕もそう返すしかなかった。
 この後はどちらも自分から声を出そうとせず、噴水の水音だけが流れている。
「そのトランペット」
 僕がそう言うと、彼女は自分の持っている金色の楽器を見ながら、「これ?」と訊いてきた。
「うん。いい音だと思って」
 僕はその楽器を見つめる。中学の吹奏楽部にもありそうなシンプルな形だ。3本のピストンがあって、ベルも普通のサイズと変わらない。自分で言っておきながら、いい音が出ている理由は彼女の楽器ではなく、彼女本人の音の出し方がいいからだと、改めて気づいた。
「え?嬉しい!ありがとう!」
 少女は満面の笑みでそう言った。
 彼女の音は確かに魅力的で、個性的だった。今までラッパの音色は数多く聞いてきたけど、あんな音は聞いたことがなかった。プロから習って得られる化粧のような取り繕った音ではなくて、彼女らしさを体現した音。そんなふうに僕は思った。
「もしかして、君も音楽をしているの?」
 この人の笑った声も、結構魅力的なのかもしれない。
「うん。まぁね」
「ちょっとまってね!今考えるから」
 どういった探究心なのかは僕にもわからないけど。とりあえず彼女は腕を組んだり顎に手を当てたりして考え始めた。
 うーん、うーんと何度も言う。考えている割には答えを出す感じではなく、むしろ考えていることを楽しんでいるようにも見えた。いや、実際に楽しんでいるのだろう。彼女は考えているうちに笑い出して、
「やっぱりわかんない!」
 と言った。
 そんな笑顔を見てしまうと、つい自分も笑顔になってしまう。音楽と同じように、感情も伝染してしまうのだ。
「まぁそれでもいいけどさ。僕的には当てるところを見てみたいって気持ちもあるかな」
 挑発するような言い方をするのは、僕の人生で初めてかもしれない。
「当ててほしいってことなの?」
「いやいや、当てるのを見てみたいだけ」
 知らない間に、僕と彼女は急激に打ち解けあっていた。
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