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私の宝物

【ーーの教会①】

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「だから無駄だって言ったのにさ!」

 そう言って私の頬を叩いたのは小さな子どもだった。

「誰だ…?それにここはどこだ」

「記憶までなくしてやんの!馬鹿みたい!!こんな男に全て任せた自分もだけどね!」

 教会の長椅子に座っていた私は隣にいた小さな子どもと距離を取る。

「私は皇子だぞ。皇族に手を上げるとは…死にたいのか?」

「死ぬ?今更そんな話?くだらな!前のお前は正義ぶった偽善者だったけど今のお前は何なわけ?」

「…何が言いたい」

 私は話しながらも気がついた。その小さな子どもの顔を私は認識できない。
見ているはずなのに認識できないのだ。

「…今回の運命の犠牲になった人間は沢山いる。救われた人間も。それは僕達全員の罪。僕達全員の功。
このままバットエンドにしていいのか?

…僕に努力は無駄じゃないって証明するんだろ?攻略対象No1の実力を見せろよ」

「さっきから何を言っているんだ?」

「このままだとお前は目覚めないまま殺されるぞ。誰に殺されるかは知らないが」

 私はそこで気が付く。魔力が使えなくなっている事に。

「今回のヒロインは僕みたいに優しくないからな」

「お前は誰だ」

 子供の姿が透けていく。
私はその子供を掴もうと手を伸ばした。

「僕の可愛い犬を頼んだよ、ロイス。僕が信じた希望」

「話をーーーー」

 少し遅かったのか子供は完全に姿を消してしまった。
あの子供は私が会ってきた者達の様に、未来を知る者かも知れなかったのに。

(誰もいないのか?)

 私は周囲を見回した。だがやはり誰もいない。

「そうだ。確かロズワールに…」

 ロズワールに会った後の記憶がない。

「外に出てみるか」

 不思議な力を感じる空間だからか私は体が重く感じた。

「なんだここは」

 教会を守るように張られている結界。そして結界の外は誰かが嗤って待っている。
 黒いモヤが人の形を成したようにできている"それ"は恐らく私にとって害でしかないだろう。

「_____!____!!__!!!」

 そのモヤは私を指差し、何が楽しいのか嘲笑っている。

 私は踵を返し急いで教会の中へ入った。

(あれを見ていると混ざりそうだ)

 私の中で何かが混ざろうとしていた、そんな感覚に眉間を険しくし、更に重くなった体を引きずり長椅子に寝っ転がる。

「何かを忘れている」

 私は教会の壁に飾られている金色の十字架を見た。

「運命…犠牲…罪…攻略対象…ヒロイン…」

 どこかで聞いた事がある気がする。
私は目を瞑り記憶を辿る。

『このゲームだけは見逃して下さい』

 私はその声を思い出し、勢いよく起き上がった。

「今のは…」

 見た事がある制服を着ていた。それに…あの声もどこかで聞いた事がある。

(どこでだ)

 私が思い出そうと再び目を瞑ろうとした時だった。
外から何かが割れる音がしたのは。


 

 



 
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