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中等部

【忘却の彼方】

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 そこは暗い部屋だった。

『ごめんなさいっごめんなさいにぃさんごめんなさい』

 僕は何度も何度も謝り続けた。
全身が痛くて苦しい。

『これはね、遊びなんだよ』

 そう言ってまた顔を殴られる。

『あいつらと遊ぶのがいけないんだよ』

『ごめんなさいごめんなさいっこういちにぃさん』

 兄さんは僕の前髪を掴んで、楽しそうに笑う。

『俺のかわいい玩具。誰にも渡さない』

『ごめっんなさいごめんなさい』

(ひかりにぃさんたすけてっ)

 その時、扉が開いた。
僕はひかり兄さんがいつもみたいに助けに来てくれたと、思っていた。

『今、どんな感情だ?』

 義務的に聞かれた質問に兄さんが笑って答える。

『楽しい』

『ふむ。では32番はどうだ?』

 施設の人の質問に僕は『苦しい』、と答えたかった。

『あそんでくれて…う、うれしいです』

『ふむ。29番、程々に遊びなさい』

『はーい』

 父さんと母さんに捨てられた僕は、もうここ以外に居場所がない。
だから捨てられないように良い子でいなくちゃ。

『良い子だね、夜』

 兄さんはそう言って僕の頭を撫でる。

『夜に何をしている』

 施設の人が閉めた扉が再び開いた。

『っひかりにぃさん!』

 僕はひかり兄さんの姿を確認して、涙を流した。

『光一、夜を虐めるのは辞めろ』

『虐め?何いってんの?遊んでただけだよ?』

 兄さんが不機嫌そうな顔をする。
僕はその様子にただ怯えるしかなかった。

『夜』

 その様子に気がついたのか、ひかり兄さんが優しく僕の名前を呼ぶ。

『大丈夫』

『ひかり、にぃさん』

 僕は安堵してまた涙を流した。

『っ夜は俺のだぞ!』

『お前のではない。
お前は知っているだろう?お前がここに入れられた理由を。』

『うるさい!なんで俺がお前らに合わせないといけないんだ!俺は楽しい事をしているだけだ!!勝手に決めたルールで俺の楽しい事を奪うな!!』

 兄さんはそう言ってひかり兄さんに殴りかかった。

『だからお前はここから出れないんだ』

 ひかり兄さんはそう言って兄さんの腕を掴み、背負投をした。

『お前なんかが俺達に近づくな!夜に関わんな!!お前は俺達の敵だ!!』

『…お前に仲間はいない。そのままだとお前は一生一人だ』

『うるさいうるさい!!』

 兄さんは何度も怒鳴って、部屋から出ていった。

『夜』

『ひかりにぃさんっいたい。いたいよ』

 僕はひかり兄さんに手を伸ばす。
そうするとひかり兄さんは優しく抱きしめてくれた。

『ごめん、遅れてごめんな。痛かったな。ごめんな』

 そう言ってひかり兄さんは僕を抱えて部屋から出してくれた。

莉園りえん様!夜は無事ですか!?』

『今手当する』

『ッ!何て酷い…俺、光一をぶっ飛ばして来ます!』

『それより、手当の道具を持ってきてくれ』

『わかりました!』

 きりえ兄さんが僕の頭を泣きそうな顔で撫でてくれたあと、どこかへ行ってしまった。

『夜、あと少しでここから出られるからな』

 ひかり兄さんがそう言って微笑んでくれる。

 僕は温かい気持ちになって、笑った。

『ありがとう、ひかり兄さん』

 




△▲△▲










 温かい白い空間にいた僕を黒い霧が包む。

(やめてっ!たすけてったすけて光兄さんっ!!)

 僕は何度も光兄さんの名前を呼ぶ。

 そんな時だった。

『こうすれば夜の中で俺は生き続ける』

 黒い霧が口の中に入ってきて、僕は苦しくて上に何度も手を伸ばす。

(早く来てっ光兄さん!苦しい、苦しいよ!!)

『俺を忘れないで、夜。俺の大切な玩具。お前だけが俺を救ってくれる。
…これでいつも一緒だ。いままでみたいに。』

 誰かの声がする。
その声はとても悲しそうだった。

(苦しい。助けて光兄さん)

 そう思った瞬間、僕は黒い霧から開放された。

だけど、なぜか次に僕の顔に誰かの血が付いた。
その血を見た瞬間、僕は悲鳴をあげながら叫んだ。

『あ、あああぁぁぁぁ!!!!ひかりにぃさんっ!!!!』

(嫌だ嫌だ嫌だ!!どうして光兄さんがこんなめに合わないといけないんだ!!)

(違う…僕の性だ。僕が光兄さんに助けを求めた性だ。)

(嫌だ嫌だ嫌だ。忘れたい。こんな記憶全て忘れたいっ!!忘れたい忘れたい忘れたい!!!)

 僕はそう強く望んだ。

『わす、れな、いでっよ、る』

 だけど誰かが僕の腕を掴む。
首が切れた、人間だった。

 その人間が僕を抱きしめる。

(忘れないからっもう僕を虐めないで…)

 複数の黒い手が僕を掴む。
僕は苦しくて過呼吸を起こした。

(僕を自由にして)

 あのゲームの様に、あの男の子の様に、自由に生きたい。
愛されなくても構わないから、自由に、みんなを守れる力を持った人間に

僕はなりたい。

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