例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間

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留木原 夜という人間

【甘い物は苦くなる ①】

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「るい、をはな、せ…」

ロキ様がルイ・カロアスに手を伸ばす。

「離さない」

そう言った皇子はロキ様にを刺した。






 ロキ様が神殿へ向かう馬車で体調を崩され、私は持っていた睡眠薬をロキ様に吸わせた。
 これは本来暗殺者の捕虜に使われる低質の物である。
 使いたくはなかったが…ロキ様の状態は以前見たルイ・カロアスの状態と酷似していた為、使用してしまった。
 
お叱りは後で、沢山受けよう。
公爵様が邸に戻るように指示をする。
彼はどんな時も焦る事はない。例えロキ様が死のうと、彼はいつも通り笑っているだろう。

「よ、ほ…し」

強制的に眠らされたロキ様は悪い夢でも見ているのか、酷く魘されている。

私は心配になりロキ様の手を握る。

(貴方に何かあったら…私は…)

どうなってしまうのだろうか?

私は誰にも必要とされていない人間だ。
血族に疎まれ、使用人に存在を無視された…誰にも愛されない価値のない人間だ。

だがロキ様に出会ってから私は私を好きになれた。
ロキ様が私の名を呼ぶ度に、私は必要とされていると安堵できた。

でも、ロキ様が、消えてしまったら?

考えただけでも恐ろしい。
私は依存と例えられても良いほどにロキ様を必要としている。

「ほらー早くロキくん運んでー護衛を任せている筈なのにー判断が遅いんだよー何の為に公爵邸に居るのかー分からないのー?だから低位貴族は嫌いなんだーでもー君はー違うと思って連れてきたのにーやっぱり変わらないみたいだねーまぁ使えなくてもー公爵邸に仕えさせてあげるけどー」

公爵様が何か言っているが、私はロキ様を抱えて馬車を降りた。
強化魔法を使っているので、私でも運べる。

公爵様は溜め息をつき、医者の手配をしていた。

***

「恐らく神の干渉ですな」

「神ー?神様って本当にー居たんだー?でも何で神が私達の息子に干渉するのかなー?
まさかー寄付金が少なかったからー嫌がらせー?うわぁーいずれの理由でもー迷惑だなぁー私もー嫌がらせでー神殿の来期の予算ー減額させてやろー」

「ワタシも神殿所属の医者ですが?」

「それがー?君はだと思っているよー
でー、ロキくんはどうしたらー治るのー?
早くしてくれないとー私イラついてー時……分……いいやー、秒の単位で予算減らすよー?」

長い白髭を撫でる医者が苦笑している。
公爵様は以前も神殿の予算を削減した事がある。
あの年は神官達のご飯が質素過ぎたのを覚えている。

確かロキが亡くなられて、神官達が蘇生できないと…言って……

いや、それは夢の方か。
ロキ様は生きている。だがいつの間にそんな夢を見たのだろう?

「神の意志が分かるまで手を加えるのは危険です。
精神魔法が扱える方がいれば、まだ良かったのですが…」

そう言って医者は公爵様を見る。
公爵様はスクエア公爵の血の影響が強く、特殊魔法以外使えないのだ。
だが公爵様はその特殊魔法を口外しないし、使用しない。
なのでこのタイミングで医者が公爵様を見る理由を私は知らない。

「嫌味、上手くなったねー」

様のおかげです」

「…ここは任せるよー」

公爵様に休みはない。
公爵家の管理を自身で行い、そして領地の管理、更に皇城の財政管理も行っているらしい。
どれも最終判断や結果の確認だけらしいのだが、公爵様は不正がないか何度も確認してから書類を通す。

恐らく公爵様は人を信用していない…信用できない人間だ。

私も一時あったが、ロキ様に出会い変われた。

公爵様はいつも通りの笑顔を保ったまま部屋から退出した。

「イジメ過ぎましたね…泣かせてしまいました…」

医者が何か言ったので顔を向けたが、何くわぬ顔でロキ様を再診察していた。

「よ、る…あ、し…て」

「この、度々出てくる名前(?)は誰でしょうか?」

「分かりません。私はその方を知りません」

ヨルとは、誰だろうか?
私はここ最近のロキ様の行動を考える。

ヨル…ヨル…ヨルカギ…ヨルカギ?

過激R20同性恋愛作家ヨルカギ・ヨルア?

まさか、ロキ様は、彼をお慕いしているのか?
た、確かにここ最近彼の作品を好んでいたのは知っていたが…め、面識はなかったはずだ。

どうしたのだ?

私はヨルカギ・ヨルアと面識がある。
ロキ様に言われて買い付けをしていた事でファンと勘違いした本屋がサイン会という物を開いた時に私の話をヨルカギ・ヨルアにしたらしい。

気になったらしいヨルカギ・ヨルアは本屋を介して私に直接本を渡しに来た。

『あひゃ~イケメンだイケメン!ヒヤッホウ!ウホウホ!あれでしょ?攻めかと思ったら受けだと思ったら攻め的なやつでしょ!***を****で****に*****を****して****を*****したあと受けを***に浸けて****したあと****を着けて****して、そのあと****して、さらに!*****で*****を嗜む的な変態ですよね!!分かる!!この変態紳士め!!ヤってヤってヤりまくりか!!』

初対面で貴族に無礼を働く平民を、私は初めて見たので印象的だった。

そして私は変態紳士ではない。

ロキ様は…"アレ"を慕って……。

…私だけは最後までロキ様の想いを応援しよう。

もしかしたら違う可能性もある…はずですよね、ロキ様?

「…だ、れ…だ?」

「起きましたか?スクエア様」

「ロキ様」

ロキ様が目を覚まされた事で私は先程までの考えを中止する。
ロキは虚ろな瞳で私達を見ると一言。

「よるは…どこだ…あいさ…なくては…」

愛さなくては?ロキ様は愛する事を強要されているのか?

「ヨルという方を、どうするつもりで?」

医者が冷静に聞く。
そして、ロキ様はそれに笑って答える。
子供のように、無邪気に、当たり前の事のように。

「おかして、ころして、にんぎょうにするんだ!」

おかず?ころす?にんぎょう?

犯す、殺す、人形…か?

私はゾッとした。

目の前にいるのは、優しいロキ様の見目をした、だ。

「貴方は誰ですか…?」

私はつい、そう口にしていた。

ロキ様の何も映さない虚ろな赤い瞳が向けられる。

「れ、ろ、いい?ろ、う?しゅ、す?くく?」

まるで壊れたラジオの様に、途切れ途切れで喋るロキ様に私は無意識に剣に手を置いた。

「止めなさい。貴方の主でしょう?」

「ッ!?」

医者が私の剣に手を置く。
私は医者のおかげで剣から手を離した。 

(今、止められていなかったら)

そう思うと体が震えてしまう。

(これは怖い…のか?ロキ様を失う事が怖いのか?)

ならばなぜ再び剣に手を伸ばそうとするのだろうか?

『失礼な事を言いますが、副委員長…無理に笑わなくて良いですよ』

「るるる、いれ、い、い?しゅ?れ??」

なぜ、生かしてはいけないと、思ってしまうのだ…?

なぜ、こんなにも殺意が沸く?

ロキ様は私の主で、必要としてくれた方なのにっ…!


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