勇者召喚された魔王様は王太子に攻略されそうです〜喚ばれた先は多夫多妻のトンデモない異世界でした〜

のりのりの

文字の大きさ
上 下
312 / 339
第54章

異世界の……(1)

しおりを挟む
 オレに充てがわれている客間に到着すると、フレドリックくんを抱えたドリアは迷わず、寝室へと向かっていく。

 フレドリックくんのマントを掴んで離そうとしないオレも、マルクトさんによって運ばれる。

 見事な連携。マルクトさんが他人にあわせるのが上手いみたいだ。
 自ら苦労を背負い込むタイプのヒトだね。

 マルクトさんがオレを寝台の上に降ろす。オレをとても丁寧に、大事に扱ってくれているのが、さりげない一挙一動から伝わってくる。

 寝室はいつもどおりキレイに整えられているのだが、いつもとは少しばかり違っていた。
 サイドテーブルの上には青とピンクの瓶がぎっしりと並べられ、ちょっと異様な雰囲気をかもしだしている。
 反対側には洒落たデザインのワゴンが置かれていて、飲み物やら日持ちのする食料などが準備されていた。手でつまむことができて、一口サイズのものばかりだ。

 部屋の窓は分厚い遮光カーテンがしっかりと閉められ、午後の柔らかな光の侵入を阻んでいた。

 薄暗い部屋の隅には、人がひとり余裕で座れるくらいの大きなタライが置かれていたり、その側のワゴンには、タオルや石鹸、バスローブらしきモノがたくさんつみあげられていた。

 ひと目見てわかった。
 これは臨戦態勢というか、長期戦を想定した準備だよ。
 あいかわらずリニー少年はすごい。

「やはり……わたしは……」

 部屋の状態に怖れをなしたのか、ベッドに腰掛けたフレドリックくんが、情けない顔でマルクトさんを見上げる。

「フレッド。勇者様を信じていないのかな?」

 マルクトさんは片膝をつくと、フレドリックくんと目線を合わせる。
 懐からハンカチをとりだして、マルクトさんはフレドリックくんの顔についている返り血を丁寧にぬぐい始めた。
お兄ちゃんが怖がる弟を勇気づけている図だ。

「いえ……そういうわけでは……」
「フレッドの大切な人は、フレッドが思っているほど、弱い人ではないよ。むしろ、だれよりも懐が深く、強靭な御方だ。それは、フレッドが一番よく知っているのではないかい?」

 いや、マルクトさん、そんなにオレをヨイショしないでよ。
 過大評価しすぎだってば!
 ちょっと恥ずかし……くすぐったいよ。

「勇者様を信じなさい。それに、万が一の場合は、王太子殿下が、身を挺してフレッドを止めてくれるそうだ」

 ですよね、とマルクトさんに言われ、話を振られたドリアが慌てて頷く。

「そ、そうだとも! わ、わたしに任せろ! ふたりのことは、わたしが面倒をみるから、だ、ダイジョブだ」

 なんか、最後の方、舌を噛んでなかったか?

 少しばかり不安は残るけど、今日のドリアはちょっとカッコいいかもしれない。

 オレとフレドリックくんのために、ドリアは色々とがんばってくれているんだ。

「王太子殿下、わたくしの大事な弟と勇者様をよろしくお願いします」

 とマルクトさんはさりげなくドリアにプレッシャーを与えてから、優雅に一礼して寝室をでていった。

 部屋の中には三人が残された。

 もう一度、確認する。

 部屋の中には三人。

 もう一度、確認してみる。

 部屋の中には三人……。

「と、とりあえず、まずは、避妊薬だな。……この場合、ふたりとも、両方を服用しておいた方がよいだろう」

 ドリアは「たぶんだけど」と、小さな声でぽそりと呟いた後、オレとフレドリックくんの手に、封を開けた青とピンクの小瓶を握らせる。
 ハラミバラという、わけのわからないスキル持ちのオレを考えてのことだろう。
 ドリアが差し出したピンクの小瓶は、従来の服用するタイプだ。

「マオ、フレドリック……飲めるよな? 薬を飲む理性は、まだ残っているだろうな?」

 瓶を握ったまま動こうとしないオレとフレドリックくんをドリアは訝しげに見つめる。

「早く、飲むんだ」

 再度、ドリアに促され、オレとフレドリックくんは、手にしていた青とピンクの瓶を空にする。

 味は……これから夜の営みを行おうとするヒトが飲むためのものであるからして、気持ちが萎えてしまうような激マズではない。甘い酒のような味がした。

 酒としてだされても、疑うことなく飲んでしまいそうな代物だ。

 それはそれで、別の用途としての使い道がありそうで怖い飲み物だ。

 ドリアは空になった瓶をオレたちから回収すると、部屋の隅にあるゴミ箱へと捨てる。
 こういうところはマメなのが、なんとも微笑ましい。

 その後は、フレドリックくんのマントや鞘を外し、軍靴を脱がせたり、オレの服をくつろがせたりと、忙しく動き回っている。

「ドリア……」
「ん? マオ、どうした?」

 フレドリックくんが脱いだ上着を椅子の背もたれに置きながら、ドリアがオレの声に返事をする。

「ドリアは飲まないのか?」
「なにをだ?」
「避妊薬」
「へ? わたしは、介添だから、飲む必要はない……が……?」

 ドリアの顔がものの見事に固まった。
しおりを挟む
数々の作品あるなか、ご訪問ありがとうございます。
これもなにかの『縁』でございます!
お気に入り、ブクマありがとうございます。
まだの方はぜひ、ポチッとしていただき、更新時もよろしくお願いします。
ポチっで、モチベーションがめっちゃあがります。
↓別のお話もアップしています。そちらも応援よろしくお願いします。↓
転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす
生贄奴隷の成り上がり〜魂の片割れとの巡り合い〜
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...