311 / 339
第53章
異世界の蜂蜜は複雑です(8)
しおりを挟む
「フレドリック……くん……オレを……オレを、置いていかない……で」
掠れる声で懇願する。
「大丈夫だ。フレドリック、お前が暴走して、マオを傷つけそうになったら、わたしが身を挺して、お前の暴走を止めてやる。だからこれ以上、マオを悲しませることは言うな」
ドリアもフレドリックくんに向かって言い聞かせる。
「…………」
「返事は?」
「しょうち……いた……しました」
フレドリックくんは、観念したかのように目を閉じる。
その言葉を聞いても、オレはフレドリックくんから離れることができない。
「……仕方がない。副騎士団長が、マオを部屋まで運んでやってくれ。兄弟の方が匂いも近いだろうし、マオも安心できるだろう。フレドリックはわたしが運ぼう」
「わかりました。やってみましょう」
マルクトさんの気配が近づき、オレは身を硬くする。
「勇者様、大丈夫ですよ。フレドリックと離れるのは、心配ですよね? 弟はいつもひとりでなにかを抱え込んで、ひとりで勝手に決めてしまいますから……。心配なら、フレドリックのマントをしっかり握っているとよいですよ」
オレはマルクトさんが差し出したマントの裾を掴むと、フレドリックくんから離れ、マルクトさんに抱きかかえられる。
ドリアがフレドリックくんを抱き上げたのが視界に入った。
マルクトさんの温もりに身を委ねながら、オレは掴んでいたマントの端を必死に手繰り寄せる。
オレの意図を察知したマルクトさんが、さりげなく、フレドリックくんに近づいてくれる。
防音と目眩ましの結界が解かれ、結界の外にいたひとたちの顔に安堵の表情が浮かぶ。
「リニー、先に向かって、寝室の用意を。三日くらいはでられないかもしれない」
「かしこまりました」
リニー少年と、薬瓶を抱えたドリアの侍従が足早に立ち去る。
「庭師団長は養蜂の担当者たちと、急ぎ肉食花の蜂蜜の解毒方法を研究しろ。王室医師団も蜂蜜の解析に協力しろ。あと、後遺症もだ。緊急事態に備えて、医師を一名、隣室に控えさせておけ」
「承知いたしました」
「承知いたしました」
老医師と灰色のツナギを着たひとたちが頭を下げる。
「庭師団長」
「はい」
「今回の件は、後日、改めて問い直す。なので、決して、早まった真似はするなよ?」
「ははっ」
灰色のツナギの集団の中で、ひとり頭を下げたのが、庭師団長なのだろう。
壮年の立派な体格の男性だった。
植物園の園長さんの若かりし頃バージョンといってもさしつかえない。
オレはフレドリックくんのマントを鼻にあてて匂いをくんくんしながら、ドリアのやりとりを見守る。
「いいか、担当者を処分とか、肉食花や蜜蜂を処分などするなよ」
「は……い」
「そんなことをしたら、マオが悲しむからな。絶対に、絶対に、誰も、なにも、処分するんじゃないぞ」
「……お任せくださいませ。責任をもって、対処いたします」
他、宰相サンや騎士団長サンへの報告を指示したりした後、ドリアとマルクトさんはざわついている庭園を後にした。
掠れる声で懇願する。
「大丈夫だ。フレドリック、お前が暴走して、マオを傷つけそうになったら、わたしが身を挺して、お前の暴走を止めてやる。だからこれ以上、マオを悲しませることは言うな」
ドリアもフレドリックくんに向かって言い聞かせる。
「…………」
「返事は?」
「しょうち……いた……しました」
フレドリックくんは、観念したかのように目を閉じる。
その言葉を聞いても、オレはフレドリックくんから離れることができない。
「……仕方がない。副騎士団長が、マオを部屋まで運んでやってくれ。兄弟の方が匂いも近いだろうし、マオも安心できるだろう。フレドリックはわたしが運ぼう」
「わかりました。やってみましょう」
マルクトさんの気配が近づき、オレは身を硬くする。
「勇者様、大丈夫ですよ。フレドリックと離れるのは、心配ですよね? 弟はいつもひとりでなにかを抱え込んで、ひとりで勝手に決めてしまいますから……。心配なら、フレドリックのマントをしっかり握っているとよいですよ」
オレはマルクトさんが差し出したマントの裾を掴むと、フレドリックくんから離れ、マルクトさんに抱きかかえられる。
ドリアがフレドリックくんを抱き上げたのが視界に入った。
マルクトさんの温もりに身を委ねながら、オレは掴んでいたマントの端を必死に手繰り寄せる。
オレの意図を察知したマルクトさんが、さりげなく、フレドリックくんに近づいてくれる。
防音と目眩ましの結界が解かれ、結界の外にいたひとたちの顔に安堵の表情が浮かぶ。
「リニー、先に向かって、寝室の用意を。三日くらいはでられないかもしれない」
「かしこまりました」
リニー少年と、薬瓶を抱えたドリアの侍従が足早に立ち去る。
「庭師団長は養蜂の担当者たちと、急ぎ肉食花の蜂蜜の解毒方法を研究しろ。王室医師団も蜂蜜の解析に協力しろ。あと、後遺症もだ。緊急事態に備えて、医師を一名、隣室に控えさせておけ」
「承知いたしました」
「承知いたしました」
老医師と灰色のツナギを着たひとたちが頭を下げる。
「庭師団長」
「はい」
「今回の件は、後日、改めて問い直す。なので、決して、早まった真似はするなよ?」
「ははっ」
灰色のツナギの集団の中で、ひとり頭を下げたのが、庭師団長なのだろう。
壮年の立派な体格の男性だった。
植物園の園長さんの若かりし頃バージョンといってもさしつかえない。
オレはフレドリックくんのマントを鼻にあてて匂いをくんくんしながら、ドリアのやりとりを見守る。
「いいか、担当者を処分とか、肉食花や蜜蜂を処分などするなよ」
「は……い」
「そんなことをしたら、マオが悲しむからな。絶対に、絶対に、誰も、なにも、処分するんじゃないぞ」
「……お任せくださいませ。責任をもって、対処いたします」
他、宰相サンや騎士団長サンへの報告を指示したりした後、ドリアとマルクトさんはざわついている庭園を後にした。
0
数々の作品あるなか、ご訪問ありがとうございます。
これもなにかの『縁』でございます!
お気に入り、ブクマありがとうございます。
まだの方はぜひ、ポチッとしていただき、更新時もよろしくお願いします。
ポチっで、モチベーションがめっちゃあがります。
↓別のお話もアップしています。そちらも応援よろしくお願いします。↓
転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす
生贄奴隷の成り上がり〜魂の片割れとの巡り合い〜
これもなにかの『縁』でございます!
お気に入り、ブクマありがとうございます。
まだの方はぜひ、ポチッとしていただき、更新時もよろしくお願いします。
ポチっで、モチベーションがめっちゃあがります。
↓別のお話もアップしています。そちらも応援よろしくお願いします。↓
転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす
生贄奴隷の成り上がり〜魂の片割れとの巡り合い〜
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる