勇者召喚された魔王様は王太子に攻略されそうです〜喚ばれた先は多夫多妻のトンデモない異世界でした〜

のりのりの

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第53章

異世界の蜂蜜は複雑です(4)

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「リニー様あああああっっ」

 視界がどんどんぼやけていくなか、灰色のツナギを着た若者が、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。

 若者は手に小瓶を握っている。

「リニー様!」

 驚異的なスピードで駆け寄った若者は、オレとフレドリックくんの姿を見て、悲痛な叫び声をあげる。

「ああっ。遅かったか!」
「テッド様! 蜂蜜を口にされた勇者様とフレドリック様が……。どういうことですか? この蜂蜜は……まさか……毒なのですか?」

 リニー少年の声が遠くで聞こえる。

「いや……ど、毒ではありません。毒ではありませんが……。本日、お渡しする約束だったライラックの蜜は、こちらになります」
「じゃ、じゃあ……この蜂蜜は?」

 騎士が持っていた蜂蜜の瓶を奪い取ると、リニー少年はテッドと呼んだ若者につきつける。

「そ、それは……研究用に集めた肉食花の蜜です」
「え……肉食花の蜜!」
「なんだと! 大変だ!」

 リニー少年とドリアが慌てる。
 蜂蜜を調べていた騎士も、唖然とした顔で二個ある蜂蜜の小瓶を見比べている。

「げ、解毒薬はあるのか?」
「その……。これは毒ではないので……。それも含めて、研究しようと集められた蜜です」
「どうして、そんな危険極まりないモノが、茶会にでてくるのだ!」

 ドリアの悲鳴が庭中に響き渡った。

「王太子殿下、申し訳ございません。わたくしの助手が間違えてリニー様に渡してしまったようです」

 その場で跪き、テッドが深々と頭を下げる。

「そんな…………。わたくしも事前に舐めて確認しましたが、なんともなかったのに……。どういうことですかっ!」

 リニー少年の言葉に、テッドは少し考えた後、

「それは、リニー様が、オコチャ……いえ、成人前だからでしょうか? それとも、直接舐めるのと、お茶に入れて摂取した違いでしょうか?」

 研究者らしい返答に、リニー少年は沈黙する。

「おい、こんな危険なモノをよく採取して、研究しようと思ったよな! というか、肉食花の好物は蜜蜂だと聞いていたが? 肉食花は蜜蜂を食べるのだろ? どうやって蜜を採取したのだ!」
「あ……養蜂スキルがレベルアップし、使役しておりました蜜蜂も進化しまして、なんと、肉食花の蜜が採取可能となったのです」

 テッドの説明に、ドリアは開いたままになっていた口を閉じる。

 そうか……。

 肉食花に近づく蜜蜂は、今まで肉食花に捕食されて、蜂蜜を集めることができなかった。
 ところが、オレが蜂蜜好きだったために、養蜂ブームに火が着いて、養蜂家と蜜蜂のレベルがあがったんだな。

 その結果、蜜蜂たちは肉食花の攻撃をかいくぐって肉食花の蜜を集めることができるようになったらしい。

「おい。あきらかにふたりの様子がおかしい。その……結論からいうと……ふたりは発情しているぞ!」
「まあ、なにしろ肉食花の蜜ですから。そうなっても不思議ではないかと」
「この症状はすぐに治まるのか? どうなのだ?」
「いえ、ですから、それをこれから研究していこうかと思っていた次第でして……」
「まずいではないか! オマエでは話にならん! 誰か! 庭師団長をここに呼べ! おまえは、ここに残って、医師に事情を説明しろ!」

 慌ただしく人が交錯するなか、医師やマルクトさん、治癒の魔法が秀でているという者が、ぞくぞくとオレたちの元へとかけつける。

 頬を上気させて潤んだ瞳のオレや、血まみれで喘いでいるフレドリックくんに、医師とマルクトさんは一瞬、言葉を失ったまま立ち尽くす。
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