勇者召喚された魔王様は王太子に攻略されそうです〜喚ばれた先は多夫多妻のトンデモない異世界でした〜

のりのりの

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第35章

異世界の神託はハチャメチャです(5)

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 聖女様の片方の肩に手がかかり、聖女様の上体は後ろへとゆっくり引き倒れていった。

 そして、その勢いのまま、身体が半回転し、なんと、聖女様は空中を舞いながら、後方へと投げ捨てられていたのである。

 軽々と……。

 まるで、木の葉が舞うように……。

 ゴミのようにポイと……。

(これで、ヒトが空を舞うのは三回目か?)

 でも、いいのか?

 あんなのでも、聖女様だぞ。

 聖女様が宙に投げ出されていいものだろうか?

 いや、王太子殿下ですら宙に投げ飛ばされる世界だ。

 これはアリなんだろう。うん。そうだ。そうにちがいないよ。

 寝台の天蓋、寝室の天井にぶつからないよう絶妙に高さを調整されて放り投げられた聖女様は、そのまま続いて入ってきた人物の手によって難なく受け止められていた。

 見事な連携プレイ。

 ナイスキャッチだ。

 なにかの催しか、大道芸レベルだ。
 オレの身体がこんな臨戦態勢な状態になってなかったら、拍手していたところだね。

「勇者様! ご無事ですか!」

 寝台の上にのりあげたフレドリックくんは手を差し伸べ、オレが起き上がるのを手助けしてくれる。

 そして、流れるような動作で己のマントを外すと、オレを優しく包み込んでくれた。

 寝室の別の場所では、フレドリックくんの父親である騎士団長サンが、息子と同じように、自分のマントを外して、聖女様にかけていた。

「フレドリックくん! と……騎士団長サン!」
「お父様! どうしてここに!」

 オレの声と聖女様の声が重なる。

 聖女様の言葉に驚くよりも先に、騎士団長サンが動く。

 聖女様をひきずりながら寝台の側、いや、オレの側まで歩み寄ると、騎士団長サンは聖女様の頭をむんずっとつかみ、その場に勢いをつけて跪く。
 頭を鷲掴みにされた聖女様も同様に、床の上に跪いていた。

「勇者様! 申し訳ございませんっっっ」

 ゴツン、と派手な音をたてて、同時にふたつの額が床の上にぶつかったよ。

 気づけば、オレの隣にいたフレドリックくんも、ふたりの後ろに移動して、一緒になって跪いている。

「ゆ、勇者様! 申し訳ございません! この度は、我が愚息の無礼、ひらに……ひらにご容赦を願いますっ」

 もう一度、床にゴリゴリと額をこすりつける。

 横で聖女様が「お父様! 痛い! 痛い!」と叫び声をあげているが、聖女様のお父様――騎士団長サン――は容赦がなかった。

「ちょ、ちょっと……騎士団長サン……落ち着いて。顔をあげて……」

 落ち着いてほしいのは、聖女様の魔法で無駄に高められたオレの性欲なんだが……っていうか、なんで、フレドリックくんもあっち側にいるんだよ?

 くらんくらんなオレを、しっかりがっちり支えていてくれないかな。

 フレドリックくんを眺めるオレの恨めしげな視線と、騎士団長サンの伺うような視線がばっちっとぶつかる。

 勘違いした騎士団長サンが、もう一度、これでもかというくらい頭を下げる。

 ゴチン、ゴチンと、時間差で額が床にぶつかる音と、聖女様の「ひゃいん」とかいう、潰れた声が聞こえた。

「勇者様には、ご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。勇者様を襲おうなど……分をわきまえないこの愚行。全ては、父親であるわたくしの不徳のいたすところ……ま、まことに申し訳ございません」

 う――ん。

 騎士団長サンの申し訳ございませんコールが、頭の中をぐるぐると回転しはじめたよ。

「なんで騎士団長サンがあやまるのさ?」

 どうして、フレドリックくんが一緒になって、頭を下げなきゃいけないんだ?

 わからない、と、オレはゆっくりと首を傾ける。
 マントからフレドリックくんの匂いがしたような気がして、なんだか気分がフワフワしてきた。

「ここに控える聖女……いえ、ライトナルは、わたくしの愚息でございます。末っ子ということで、みながみな甘やかして育て……また『ハラミバラ』であるとわかれば、神殿からも聖女候補としてチヤホヤされ、もうろくした前大神官長はいいように丸め込まれ、聖女となった今では、なにを勘違いしたのかワガママ仕放題……」

 そこまで一気にまくしたてると、騎士団長サンは口を閉じる。
 興奮しているのか、焦っているのか、騎士団長サンはぜぇぜぇと肩で大きく息をしている。
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